法学部140回講演会 2016年6月3日 平和と政治との関係―「立憲平和主義」を中心にして― 専修大学 名誉教授 隅野 隆徳 2015 年は第二次世界大戦終結後 70 年を経て、日本では安倍晋三政権の下で、自衛隊に 関する集団的自衛権行使を限定的に容認する「安全保障関連法(実質的には戦争法) 」が国 民のはげしい批判の中で強行成立され、日米同盟関係を世界的規模で強化しようとして、憲 法論上して重大な問題を提起することになった。その根拠には 2014 年 7 月 1 日の安倍内閣 閣議決定により 60 年間自民党内閥の下でも憲法9条により許されないとされてきた自衛隊 の集団的自衛権行使を容認し、法的安定性を崩し、立憲主義(constitutionalism)に反する という基本的問題が存在する。 それは同時に自衛隊が戦闘行為に巻き込まれ、 「殺さない、殺されない」として保持して きた「個人の尊厳」を侵害する危険性をもつことになり、基本的人権の尊重という憲法の根 本原則を脅かすことになる。ここに安倍政権による国政の運営に注目し批判の眼を向けて いた多くの市民が、若者も母親も勤労者も主権者として街頭に出て、集会に参加し、デモ行 進で声をあげるようになった。市民による政治参加が国会周辺のみならず、全国各地で繰り 広げられ、それは規模においても、これまでの日本に見られないことである。 そこには立憲主義と平和主義の深い結びつきがあるし「平和的生存権」 「立憲平和主義」 。 安倍政権は「積極的平和主義」といって、実際には軍事大国化を目指し、軍事を重視する姿 勢が見られる。それに対しては国際的にも国内的にも批判が強い。その根底には 憲法 9 条がある。明治以来の日本の近代化の中でアジア諸国民に対する侵略や植民地化の 深い反省の上に到達した結論である。安倍政権による憲法9条改定の姿勢に対する国民の 対応が鋭く問われている。
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