巻 頭 言

経済の進路
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統計の正確性を巡る議論について
このところ、経済統計を巡る議論が活発だ。昨年 10 月、麻生財務大臣が GDP
統計の基礎となる各種統計について、
「
(正確な情勢把握のため)更なる充実に努
めて欲しい」との要望を経済財政諮問会議の場において表明、これを受けて検
討が進められ、今年の 9 月には、内閣府主催による統計に関する研究会(
「より
正確な景気判断のための経済統計の改善に関する研究会」
)の初会合が開催され
た。経済・社会構造の変化への対応、省庁間で重複する統計の調整、ビッグデー
タなど新たな統計手法の活用、などについて今後検討が進められる予定だ。
こうした政府の動きとは別に、今年の 1 月、東大発のベンチャー企業が独自の
物価指数を公表し始めた他、5 月には、日本銀行が個人消費を巡る新しい指標と
して、“ 消費活動指数 ” を公にした。また 7 月には、やはり日銀の職員が、税務デー
タから推計したとして GDP の独自集計値を公表、2014 年度の GDP が内閣府の公
表値(490 兆円)よりも約 30 兆円多く、2.4%のプラス成長(内閣府のデータで
は 0.9%のマイナス成長)だったとの結論を導き注目を集めた。
こうした動きが相次いでいるのは、決して偶然ではあるまい。自民党が政権に
復帰して以降、経済政策として “ アベノミクス ” が導入され、日銀の異次元緩和
も奏功して株価が上昇、企業収益は過去最高を塗り替えるまで勢いを取り戻し
た。失業率も完全雇用を示す水準近くまで低下するなど、政策効果は上がってい
るように見える。しかし、その割に、経済全体の実相を表す GDP 成長率は上下
動を繰り返しており、改善の明確な方向性に欠けたままだ。政府・日銀が一体と
なって目指してきた消費者物価目標(2%)も、未だ達成は見えていない。
政策がそれなりに機能しているはずであるにもかかわらず、数字の改善が捗々
しくないのは統計の側に問題があるからではないのか、との考えが出てきても不
思議ではない状況だ。個人消費を例に取ると、販売側のデータを集めた「商業動
態統計」
(経済産業省)では、消費はまずまず堅調に推移しているはずなのだが、
消費者サイドのデータを集計した「家計調査報告」
(総務省)によれば、消費は
低迷という結果になってしまう。昨年 7 ~ 9 月期の実質 GDP 成長率(年率換算)
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は、一次速報値が 0.8%のマイナスであったにもかかわらず、1 ヵ月後に公表さ
れた二次速報値は、設備投資データの上方修正を主因として 1.0%のプラスと大
きく反転、信頼性の観点から上記の議論に拍車をかけることになった。
これらの統計は、政府の政策判断を左右する重要な指標であり、経済実態を正
確に表すよう不断の改善を重ねることはとても大切なことだ。しかし、こうした
統計の誤差は今に始まったことではないだろう。これまでは、成長率の数字が十
分大きかったため、単に見過ごされてきただけという側面もあるのではないか。
図は、実質 GDP 成長率の推移を過去 60 年間に亘ってトレースしたものだが、四
半期毎の振幅を均した平均値が年々縮小してきている様子が見て取れる。要は高
度成長期で、GDP が 5%、10%の単位で伸びていた時代には、数パーセント程度
の統計の誤差は話題にもならなかった可能性が高い。しかし、今や成長率自体が
1%、2%の幅で上下動する時代だ。数パーセントの誤差といえども、本来プラス
だったはずの成長率がマイナスに転落するほど大きな影響力がある。最近の統計
指標を巡る議論の盛り上がりには、そうした事情もありそうだ。
もっとも、統計の精緻化にはヒトとカネが必要だ。一方で予算には制約がある。
統計の整備はもちろん大事だが、限られた予算の使い道を考えたとき、アベノミ
クスで掲げられている成長戦略にこそ継続的に予算を投入し、実際の成長率を少
しでも押し上げていく方が前向きなようにも思える。統計の精緻化によって仮に
数字が改善したとしても、経済の実態に変化が起きる訳ではないのだから。■
図:実質 GDP 成長率の推移(四半期ベース)
(%)
35
岩戸景気
30
いざなぎ景気
リーマン・ショック
25
20
過去 10 年間の移動平均値
第一次石油ショック
15
10
5
0
-5
-10
-15
1956
60
64
68
72
76
80
84
88
92
96
2000
04
08
12
16 (年)
(注)実質季節調整値(前期比年率)
。1955 年第 3 四半期から 80 年第 1 四半期まで、80 年第 2 四半期
から94 年第 1 四半期まで、94 年第 2 四半期以降ではそれぞれ基準年が異なる。
(資料)内閣府「GDP 統計」
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