法人税における繰越欠損金制度

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営相
~改正に伴い改めて整理しておきたい~
談
2016.8.1
法人税における繰越欠損金制度
米澤潤平
相談部 東京相談室
平成27年度および28年度の税制改正による法人税率引き下げに伴う課税ベース拡大の
一環として、繰越欠損金制度についても大改正が行われました。
今回は、繰越欠損金制度の概要を改めて整理し、平成27年度および28年度税制改正の重
要論点である中小法人等以外の法人に対する控除限度額の引き下げや繰越期間の延長
のほか、実務上、多大の影響があると思われる新設法人の特例などを解説します。
1. 欠損金の繰越控除
[1]概要・適用要件
法人税法上、青色申告を行っている法人(注)が、
「欠損金」(損金が益金を超える場合の超過部分
で税務上の赤字額のこと)を有することとなった場合は、その欠損金を翌事業年度以後一定期間繰り
越し、翌事業年度以後の所得金額の計算上、損金算入(繰り越した欠損金を所得金額から控除)する
。
ことができます(図)
この制度を一般に「青色欠損金の繰越控除」といい、翌事業年度以降に繰り越す欠損金を「繰越欠
損金」といいます。欠損金の繰越控除は、住民税や事業税においても同様の取り扱いがされますが、
本稿では法人税の規定について説明します。なお、この制度の適用を受けるには、欠損金の生じた事
業年度において青色申告書を提出し、かつ、その後も連続して確定申告書を提出しており、欠損金の
生じた事業年度に係る帳簿書類を保存していることが要件となります。
注:本稿では株式会社を前提として説明。
■繰越欠損金のイメージ
(欠損金控除後)
所得金額
(欠損金控除前)
所得金額
繰越欠損金
1
× 法人税率 = 法人税額
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[2]控除限度額
繰越欠損金を有する法人において、欠損金発生事業年度の翌事業年度以後の欠損金の繰越控除にあ
たっては、平成 27 年度税制改正により、次ページ以降で解説する「中小法人等の特例」
(第2項)や、
「新設法人の特例」
(第3項)などの適用がある場合を除き、各事業年度の所得金額に、下記の控除限
度割合を乗じた金額が控除限度額とされることとなりました。
事業年度
控除限度割合
平成 24 年4月1日~平成 27 年3月 31 日開始事業年度
80%
平成 27 年4月1日~平成 29 年3月 31 日開始事業年度
65%
平成 29 年4月1日以後開始事業年度
50%
繰越期間
9年間
10 年間
その後、平成 28 年度税制改正により、控除限度割合などについて以下のような見直しが行われ、
現在は下表が適用されます。
事業年度
控除限度割合
平成 27 年4月1日~平成 28 年3月 31 日開始事業年度
65%
平成 28 年4月1日~平成 29 年3月 31 日開始事業年度
60%
平成 29 年4月1日~平成 30 年3月 31 日開始事業年度
55%
平成 30 年4月1日以後開始事業年度
50%
繰越期間
9年間
10 年間
控除限度額について、
「中小法人等の特例」(第2項)や、
「新設法人の特例」
(第3項)を踏まえた
適用関係をまとめると、下表のようになります。
資本金1億円以下
大法人(注1)による
完全支配関係(注2)なし
100%控除可能
(中小法人等 )
大法人による
完全支配関係 あり
資本金1億円超
100%控除可能
(新設法人 )
65%等制限あり
65%等制限あり
注1:資本金5億円以上の法人等。
注2:一の者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係(当事者間の完全支配の関係)、
または一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係。簡単にいえば、100%の持株関
係ということになる。
[3]繰越期間
繰越欠損金の繰越期間は、欠損金が発生した翌事業年度以後、9年間とされています(すでに控除
(損金算入)された部分と繰戻し還付の計算の基礎とされた部分は除く)
。
繰越欠損金は、その残高のうち最も古い事業年度に生じたものから順次控除されていき、繰越期間
内に控除しきれなかった繰越欠損金は切り捨てられることになります。繰越欠損金の発生事業年度ご
との残高は、法人税の確定申告書「別表7(1)
」において確認できます。
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なお、平成 27 年度税制改正により、平成 29 年4月1日以後開始する事業年度において発生した繰
越欠損金については、
9年間だった繰越期間が 10 年間に延長されることとされました。
これに関連し、
前回繰越期間が7年から9年に延長された平成 23 年 12 月の税制改正では、改正法の施行日前に発生
した一定の繰越欠損金についても延長後の繰越期間が適用されていましたが、平成 27 年度税制改正で
はこのような取り扱いはありません。
ただし、平成 28 年度税制改正により、平成 30 年4月1日以後開始事業年度に発生した繰越欠損金
については、繰越期間を 10 年間に延長する措置を適用するよう見直しが行われています。
2. 中小法人等の特例
「中小法人等」とは、各事業年度末において資本金の額が1億円以下であり、かつ、次に掲げる法
人に該当しない法人等のことをいいます。
・一の大法人による完全支配関係がある法人
・完全支配関係がある複数の大法人に発行済株式等の全部を保有されている法人
中小法人等には、法人税法上さまざまな特例・優遇規定が設けられており、欠損金の繰越控除制度
においても特例が設けられています。欠損金の繰越控除制度における中小法人等の特例とは、前項1
-[2]において説明した控除限度額について「65%の制限」がないことです。言い換えれば、繰越
欠損金を繰越控除適用前の所得金額の 100%相当額まで控除できるということです。
「中小法人等以外の法人」と「中小法人等」の控除限度額等について、以下に計算例を示して比較
を行います。なお、事業年度は平成 27 年4月1日~平成 28 年3月 31 日開始事業年度であるものとし
ます。
■例1:<繰越欠損金の残高 200・欠損金の繰越控除適用までの所得金額 240>の場合
中小法人等以外の法人
中小法人等
200 > 240×65%=156 156
200 < 240×100%=240 200
欠損金の繰越控除適用後の所得金額
240-156=84
240-200=40
繰越控除後の繰越欠損金残高
200-156=44
200-200=0
繰越限度額【下線が限度額】
■例2:<繰越欠損金の残高 200・欠損金の繰越控除適用までの所得金額 400>の場合
繰越限度額【下線が限度額】
欠損金の繰越控除適用後の所得金額
繰越控除後の繰越欠損金残高
中小法人等以外の法人
中小法人等
200 < 400×65%=260 200
200 < 400×100%=400 200
400-200=200
400-200=200
200-200=0
200-200=0
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■例3:<繰越欠損金の残高 500・欠損金の繰越控除適用までの所得金額 400>の場合
中小法人等以外の法人
中小法人等
500 > 400×65%=260 260
500 > 400×100%=400 400
欠損金の繰越控除適用後の所得金額
400-260=140
400-400=0
繰越控除後の繰越欠損金残高
500-260=240
500-400=100
繰越限度額【下線が限度額】
3. 新設法人の特例
平成27年度税制改正では、「新設法人」については、前項「中小法人等の特例」と同様に、繰越欠損金
を繰越控除適用前の所得金額の100%相当額まで控除できる旨の改正が行われました。
ここでいう新設法人とは、当該事業年度が設立日から同日以後7年を経過する日までの期間内の日が属
する事業年度(適用事業年度)に該当する法人のことをいいます。すなわち、法人の設立から7年間は、
繰越欠損金を繰越控除適用前の所得金額の100%相当額まで控除できるということです。
なお、この特例は平成27年4月1日以後開始する事業年度分の法人税について適用されますが、同日前
に設立されている法人についても適用があります。
この新設法人の特例は、対象となる法人自身について資本金の額に関する要件はありませんが、対象と
なる法人が中小法人等に該当する場合や、大法人による完全支配関係がある法人である場合などは、その
法人は新設法人から除かれるものとされています。また、新設法人に該当する場合でも、適用事業年度中
にその法人が上場等した場合は、上場等の日以後に終了する事業年度についてこの特例は適用されないも
のとされています。
下表は、3月31日が決算日(事業年度末)の会社について、設立日、資本金、株主(設立日から不動)
――のそれぞれが4つのケースの場合に、新設法人の特例が平成27年度決算(平成28年3月31日)におい
て適用されるかどうかを検討した結果です。
ケース1
ケース2
ケース3
ケース4
設立日
平成27年10月1日
平成24年6月1日
平成20年2月1日
平成27年8月1日
資本金
2億円
2億円
2,000万円
8,000万円
株主
社長およびその親族
適用
あり
平成35年3月31日ま
でが適用事業年度
備考
社長およびその資産管
社長およびその親族
理会社(資本金3億円)
あり
なし
上場企業A社
(資本金5億円)
なし
平成32年3月31日ま 設立後7年を経過し 大法人による完全支
でが適用事業年度
ているため対象外。 配関係があるため適
ただし、中小法人等 用対象外
に該当するため、結
果的に100%控除可
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4. 税効果会計との関係
これまで見てきたように、繰越欠損金は将来の所得金額を減額させる効果(≒将来の法人税額を軽減
させる効果)を有しており、これは、税効果会計における「将来減算一時差異」(注)と同様の性格と
考えられるため、繰越欠損金は将来減算一時差異に準ずるものとして税効果会計の適用対象となります。
そのため、会計上は、期末における繰越欠損金の残高のうち回収可能性がある部分(簡単にいえば、
翌期以降の一定期間内に活用(繰越控除)することが見込まれる金額)について、これに係る「繰延税
金資産」を計上する必要があります。
そして、資産計上された繰越欠損金に係る繰延税金資産は、所得金額が発生し欠損金の繰越控除が行
われた場合に取崩します。また、繰延税金資産の回収可能性がないと判断された場合などにおいても取
崩しを行うことになります。
繰越欠損金に係る繰延税金資産を計上または取崩しを行う際には、その相手勘定として「法人税等調
整額」が損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」の下に計上されることになります。
注:一時差異(会計と税務の資産・負債の残高の差異)のうち、差異の解消時に所得金額を減額させる効果を有するもの。
内容は2016年8月1日時点の情報に基づいて作成されたものです。
本情報は、法律、会計、税務などの一般的な説明です。個別具体的な法律上、会計上、税務上等の判断や対策などについては専門家
(弁護士、公認会計士、税理士など)にご相談ください。また、本情報の全部または一部を無断で複写・複製(コピー)することは著作権法
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みずほ総合研究所 相談部東京相談室 03-3591-7077 / 大阪相談室 06-6226-1701
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