Hopf 代数の cocycle 変形 [1] によると Drinfeld の quantum double における構成方法の一手法としてコサイクル変形なるものが提案されて いる。ここではそのコサイクル変形について解説していくことにする。 0.1. コサイクルとは 双代数 A 上の可逆な 2 次形式 σ : A × A → k が次の条件を満たすとき 2-コサイクルという: ∑ σ(x(1) , y(1) )σ(x(2) y(2) , z) = (x),(y) ∑ σ(y(1) , z(1) )σ(x, y(2) z(2) ), (1) (y),(z) σ(x, 1) = ϵ(x) = σ(1, x) (2) 先ほどの可逆というのは σ ∈ Hom(A ⊗ A, k) とみなしたとき ∑ ∑ σ(x(1) , y(1) )σ −1 (x(2) , y(2) ) = ϵ(x)ϵ(y) = (x),(y) σ −1 (x(1) , y(1) )σ(x(2) , y(2) ) (3) (x),(y) が成立することをいう。 群環 k[G] では ∆(x) = x ⊗ x, ϵ(x) = 1 だからコサイクル条件は σ(x, y)σ(xy, z) = σ(yz)σ(x, yz), σ(1, x) = 1 = σ(x, 1) という条件となる。 双代数 A における 2-コサイクル全体を Z 2 (A, k) で表す。σ ∈ Z 2 (A, k) と可逆な線形写像 µ : A → k(µ(1) = 1) に対して σµ : A × A → k を σµ (x, y) = ∑ µ(x(1) )u(y(1) )σ(x(2) , y(2) )u−1 (x(3) y(3) ) (4) (x),(y) で定義すると σ ∈ Z 2 (A, k) となる。ここで µ−1 は µ の逆元である。σ ∼ σµ として Z 2 (A, k) に同値関係が入る。 商集合 H 2 (A, k) = Z 2 (A, k)/ ∼ とし、自明な 2-コサイクル A × A → k, (x, y) 7→ ϵ(x)ϵ(y) を含む同値類を B 2 (A, k) で表し、その要素をコバウンダリと呼ばれている。これらは A × A → k, (x, y) 7→ ∑ µ(x(1) )µ(y(1) )µ−1 (x(2) y(2) ) (5) (x),(y) の形をしている。 σ ∈ Z 2 (A, k) を利用して A の積を変更することにする。これは 3 種類あり ∑ ∑ x⊖y = σ(x(1) , y(1) )x(2) y(2) , x ⊚ y = x(1) y(1) σ −1 (x(2) , y(2) ), (x),(y) x⊛y = (6) (x),(y) ∑ σ(x(1) , y(1) )x(2) y(2) σ −1 (x(3) , y(3) ) (7) (x),(y) これらはどの積も結合律を満たし、単位元は従来の単位元のままで問題なく計算が可能である。以上のことから、 積を上記のものと取り替えても問題ないことがわかる。例えば、 (x ⊖ y) ⊖ z = ( ∑ (x),(y) = ∑ σ(x(1) , y(1) )x(2) y(2) ) ⊖ z = ∑ σ(x(1) , y(1) )σ(x(2) y(2) , z(1) )x(3) y(3) z(2) (x),(y),(z) σ(y(1) , z(1) )σ(x(1) , y(2) z(2) )x(2) y(3) z(3) = (x),(y),(z) ∑ (x),(y) = x ⊖ (y ⊖ z) 1 x ⊖ (σ(y(1) , z(1) )y(2) z(2) ) で結合律を満たすことがわかり、 x⊖1= ∑ σ(x1 , 1)x(2) = (x) ∑ ϵ(x(1) )x(2) = x (x) となって、単位元はもとのままでよいことがわかる。以上の積によって 3 種類の代数 AL = (A, ⊖), AR = (A, ⊚), AR L = (A, ⊛) が得ることができる。AL , AR は片側変形と呼ばれており、AR L は両側変形と呼ばれている。一般的に代数 A が余 R (積) 可換なら AR L = A となり、余可換でない双代数の場合、AL は新しい双代数となる。 0.2. コサイクル変形 AR L 双代数の両側コサイクル変形について、ここでは一般的性質について解説する。A を双代数、σ ∈ Z 2 (A, k) とす R ると、AR L は A の余代数構造をそのまま利用して双代数になる。A が Hopf 代数なら AL も Hopf 代数で対合射は 以下で与えられる: SLR (x) = ∑ σ(x(1) , S(x(2) ))S(x(3) )σ −1 (S(x(4) ), x(5) ) (8) (x) Quantum double の場合の構成方法を見ていこう。A = H cop,∗ ⊗ H なる有限次元 Hopf 代数とすると σ : A × A → k, σ(f ⊗ a, g ⊗ b) = f (1)g(a)ϵ(b) が A の 2-コサイクルとなる。実際に σ(f ⊗ a, ϵ ⊗ 1) = f (1)ϵ(a)ϵ(1) = ϵ∗ (f )ϵ(a) = e ϵ(f ⊗ a) σ(ϵ ⊗ 1, f ⊗ a) = ϵ(1)f (1)ϵ(a) = ϵ∗ (f )ϵ(a) = e ϵ(f ⊗ a) cop,∗ このコサイクル変形 AR , H を部分 Hopf 代数にもち、積の定義から L はH (f ⊗ 1) ⊛ (1 ⊗ a) = (f ⊗ a), (1 ⊗ a) ⊛ (f ⊗ 1) = ∑ σ(1 ⊗ a(1) , f(3) ⊗ 1)(f(2) ⊗ a(2) )σ −1 (1 ⊗ a(3) , f(1) ⊗ 1) (f ),(a) = ∑ f(3) (a(1) )(f(2) ⊗ a(2) )f(1) (S(a(3) )) (f ),(a) となる。これより a⊛f = ∑ f(3) (a(1) )(f(2) ⊛ a(2) )f(1) (S(a(3) )) (f ),(a) なる関係で H cop,∗ , H をマッチさせたものだとわかる。 参考文献 [1] 土井幸雄, 竹内光弘: ホップ代数のコサイクル変形, 数理解析研究所講究録 942 巻 (1996), 29–52 2 (9)
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