2016 年度

2016 年度
一橋大 世界史
■概要
(1)出題・解答の形式
大 問3題構成で,例年大問1題につき合計 400 字の論述問題が課される。
出題地域は,欧米史2題・アジア史1題となっている。例年はⅠで中世ヨーロッパ史,Ⅱで 18~20
世紀の欧米史,Ⅲで 19~20 世紀のアジア史を扱うことが多い。
(2)分量/難易度の変化(昨年度比)
分量 : 変化なし / 難易度の変化 : 変化なし
(3)特記事項
・Ⅰの論述問題で紀元前の出来事が取り上げられるのは大変稀である。
・Ⅲの論述問題は,10 年ぶりに 400 字×1問となった 2015 年度に引き続き,400 字×1問であった。
■各問の分析
大問
(120 分)
出題形式・テーマ
問題の内容・分析
難易度
聖トマスとアリストテレスの「都市国家」論を通して,彼らが念頭
に置いた中世都市と古代ギリシアのポリスの歴史的実態を比較す
聖トマス(トマス=アクィ る。一橋大世界史ではほとんど前例のない古代ギリシアへの言及が
Ⅰ
ナス)とアリストテレス 求められたので面食らった受験生も多かっただろうが,解答に必要
の「都市国家」論の相違
となる知識は標準的なもので事足りる。史料文の中で解答の軸とな
(400 字)
る両者の考え方の相違点がまとめられているので,具体的な事例を
標準
挙げつつ説得力のある文章にまとめる文章構成力・表現力が必要で
あった。
ベルリンの2つの聖堂の建設をめぐる宗教的・政治的背景について
説明する。リード文から,いつ,どのような人々がプロイセンに流
プロイセンの発展の宗教 入したのかという点を読み解き,さらに,これらの人口流入の背景
Ⅱ
的・政治的背景
となった出来事や,当時のプロイセンの状況および政治・宗教政策
(400 字)
を想起する。フランス大聖堂の建設の背景については想起しやすい
標準
一方,聖ヘートヴィヒ聖堂の建設の背景となる出来事については,
地理的な知識も必要であり,歴史的考察力が求められた。
取り掛かりやすい朝鮮半島の情勢に字数を割きすぎて,中国・台湾
Ⅲ
第二次世界大戦後の朝鮮 への影響についての記述が疎かにならないように,あらかじめ字数
情勢と朝鮮戦争の中国・ 配分を想定した上でバランスのよい解答を書くようにしたい。説得
台湾への影響
力のある解答に仕上げるには,やや細かい知識が必要となる。冷戦
(400 字)
下の東西陣営の動向を念頭に置いて解答をまとめていくとよいが,
標準
要求から外れた内容まで盛り込みすぎないように注意してほしい。
※ 難易度は一橋大受験生を母集団とする基準で判定しています。
■合否の分かれ目
例年に比べると取り組みやすい出題。完成度の高い解答の作成を意識しよう。
2016 年度は,一見取り組みにくそうだが,例年に比べて解答の道筋を立てやすく,盛り込むべき事項も
思い出しやすい出題であったといえる。細部まで気を配った完成度の高い解答の作成をめざしたい。
Ⅰ・Ⅱのような教科書とは異なる切り口から問われたときに,限られた試験時間内で持っている知識と
問題の要求を結びつけて考察を深めることができるかがポイントである。3題とも,解答に必要な知識は
教科書から大きく逸脱することはなかったので,まずリード文・史料文で示されているヒントを的確に読
み取り,論述する対象・テーマをしっかりと見出すことができるかどうかが,第一の関門となっただろう。
■一橋大世界史に求められる力
⇒高校世界史の範疇を超える難解な問題も頻出。本質を捉え,臨機応変に対応する力がポイント。
要求① 「知識力」…教科書全範囲の基礎知識に加え,頻出分野は細かい知識も必要。
中世ヨーロッパ史,近・現代の欧米史,近・現代のアジア史は頻出分野であり,教科書レベルの知識を
さらに掘り下げた内容が問われることも多い。教科書の脚注,資料集,用語集,参考書などを読み込んで,
様々な情報をストックしておく必要がある。
要求② 「読解力」…問題文,資・史料,指定語句を隅々まで読み,解答の糸口を探す。
一橋大世界史は,
「どの時代・地域の,どの分野の内容を,どういった視点でまとめるか」がはっきりと
示されないタイプの出題が多い。問題文を読み込み,要求を正確に把握する力が求められている。解答す
べきテーマの方向性をしっかりと定めないままに書き始めると,まったく的外れかつ論旨の通らない解答
になってしまうので,注意が必要である。
要求③ 「表現力」…題意を読み取り,適切に思考した結果を,制限字数内で示す。
①②で触れたように,一橋大世界史は,特定の歴史事象についての一般的な知識だけを問うのではなく,
掘り下げた知識や,世界史に対する深い考察を求める傾向にある。歴史用語の羅列に頼らず,自分が考察
した結果を採点者に明確に伝えるために,文章表現に熟達している必要がある。解答すべきテーマに比し
て制限字数がやや長いことがあるが,そういった際の内容の膨らませ方も重要である。
■一橋大世界史攻略のために
基礎力の完成
まずは,要求①「知識力」の養成を。遅くとも受験生の夏までに,全時代の概略と,教科書の太字語句の
意味を押さえることを目標にしよう。語句はただ覚えただけでは力にならない。既習範囲は問題演習に取り
組んで,自分が理解したはずの知識が,本当に得点につながる力になり得ているかを確認しながら学習を進
めよう。また,並行して論述対策にも着手し,
「知識を文章でまとめる」ことにも慣れていってほしい。
読解力の養成→表現力へつなげる
一橋大世界史攻略のためには,上述のように,既習範囲はなるべく早くから論述問題に取り組み,本番
まで定期的に問題演習を行う習慣をつけてほしい。要求②「読解力」を身につけるためには,問題文を丁
寧に読むことが重要である。何となく知っていることを羅列するのではなく,問題文中の時代・地域の指
定,
「意義」
「背景」
「経緯」
「変化」
「特徴」などといった問いかけに対して,最も適した解答が提示できて
いるか,常に意識しながら解答を作成しよう。草稿メモをノートに記録しておくと,復習の際に自分の考
え方のどこに不足があったのかを確認しやすく,
「読解力」の養成に有効である。
本番での勝負強さを身につける
一橋大世界史では,高校世界史の範疇を超えるような難問が出題されることがある。資料文や問題文を
熟読して解答につながるヒントを発見したり,問題文と手持ちの知識を統合して新たな歴史的観点から考
察したりするなど,入試本番で難問に冷静に対処できる勝負強さが合否を分けるポイントになる。そのた
めには,時間配分の感覚をしっかりと身につける必要がある。センター試験終了後は,一橋大入試と同じ
分量・構成の問題セットを時間を計って解き,要求①「知識力」
・②「読解力」を土台とした③「表現力」
に磨きをかけつつ,制限時間内で,自分の実力を最大限に発揮するシミュレーションを繰り返しておこう。