前回置換を定義し,基本的な用語を説明した.また最後に,任意の置換は有限個の互換の積で表 である.これを使って (3.1) を具体的に書くと,定義 3.1.1 の されることを見た. det A = a11 a22 a33 + a21 a32 a13 + a31 a12 a23 ここで注意すべきことは,同じ置換を互換の積で表す方法はたくさんあり,その表示に現れる互 − a31 a22 a13 − a21 a12 a33 − a11 a32 a23 換の個数も一定ではない点である.しかし次が成り立つ. に一致する.n = 1, 2 のときも同様. 定理 3.2.2 置換 σ を互換の積で表すとき,互換の個数の偶奇は σ によって決まり,互換の積とし ての表示によらない. これにより,置換 σ が k 個の互換の積で表されるなら,(−1)k は互換の積としての表示法に依存 3.4 行列式の性質 せず,σ によって一通りに決まる.これを σ の符号 (signature) といい,sgnσ と表す. ここでは行列式の基本的な性質を見ていこう.まずは転置行列の行列式である. 命題 3.2.3 (置換の符号の性質) 定理 3.4.1 (転置行列の行列式) 転置によって行列式の値は不変である:det(t A) = det A. sgn 1n = 1 sgn(i, j) = −1 sgn(στ ) = (sgnσ)(sgnτ ) 特に sgn(σ(i, j)) = −sgnσ 次に多重線型性と交代性と呼ばれる性質を紹介する. sgn(σ −1 ) = sgnσ 定理 3.4.2 (行列式の多重線型性と交代性) 行列式 det(a1 , . . . , an ) は次を満たす. (D1) 行列式は各列について加法的である: 3.3 一般次数の行列式の定義 det(a1 , . . . , aj + a′j , . . . an ) = det(a1 , . . . , aj , . . . , an ) + det(a1 , . . . , a′j , . . . , an ) 以上を踏まえて一般次数の行列式を次のように定義する. (D2) ある列をスカラー k 倍すると,行列式も k 倍となる: 定義 3.3.1 n 次正方行列 ( A = a1 の行列式 (determinant) を a2 ∑ ··· ) an a11 . = .. an1 ··· .. . ··· det(a1 , . . . , kaj , . . . , an ) = k det(a1 , . . . , aj , . . . , an ) a1n .. . ann sgnσ aσ(1),1 aσ(2),2 · · · aσ(n),n (D3) 二つの列を交換すると,行列式は −1 倍となる: i ↓ j i ↓ ↓ j ↓ det(a1 , . . . , ai , . . . , aj , . . . , an ) = − det(a1 , . . . , aj , . . . , ai , . . . , an ) (D4) 単位行列の行列式は 1 である: det En = det(e1 , . . . , en ) = 1 (3.1) これらの幾何的な解釈は次の通り. σ∈Sn a 11 · · · a1n . .. .. で定め,det A, |A|, det(a1 , a2 , . . . , an ), .. . . 等で表す. an1 · · · ann ∑ なお,(3.1) の σ∈Sn は,σ が 1 から n の置換を一わたり動くときの和を表す. (D1) det(a1 + a′1 , a2 , a3 ) = det(a1 , a2 , a3 ) + det(a′1 , a2 , a3 ) a′1 a′1 a1 + a′1 注 3.3.2 n = 1, 2, 3 のとき,これは前回定義 3.1.1 で定義したものと同じである.例えば n = 3 体積不変 ⇐⇒ a1 a1 a3 のとき,3 次対称群の元とその符号を全て書き下すと { ( ) ( ) } 1 2 3 1 2 3 S3 = 13 , , , (1, 2), (2, 3), (1, 3) , 2 3 1 3 1 2 ( ) ( ) 1 2 3 1 2 3 sgn13 = sgn = sgn = 1, sgn(1, 2) = sgn(2, 3) = sgn(1, 3) = −1 2 3 1 3 1 2 a2 21 a2 a3 (D2) det(ka1 , a2 , a3 ) = k det(a1 , a2 , a3 ) a3 a2 一辺を k 倍すると、体積も k 倍になる a1 ka1 (D3) det(a2 , a1 , a3 ) = − det(a1 , a2 , a3 ) a3 (D4) det(e1 , e2 , e3 ) = 1 e3 a2 e2 a1 a1 , a2 , a3 が右手系ならば a2 , a1 , a3 は左手系をなす 体積 1 e1 これを見れば,かなり無理のある観察をもとに,(3.1) という式で天下り的に定義した行列式が, 符号付き体積の性質を持っていることがわかるであろう. 22
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