No.11, pp21-22

前回置換を定義し,基本的な用語を説明した.また最後に,任意の置換は有限個の互換の積で表
である.これを使って (3.1) を具体的に書くと,定義 3.1.1 の
されることを見た.
det A = a11 a22 a33 + a21 a32 a13 + a31 a12 a23
ここで注意すべきことは,同じ置換を互換の積で表す方法はたくさんあり,その表示に現れる互
− a31 a22 a13 − a21 a12 a33 − a11 a32 a23
換の個数も一定ではない点である.しかし次が成り立つ.
に一致する.n = 1, 2 のときも同様.
定理 3.2.2 置換 σ を互換の積で表すとき,互換の個数の偶奇は σ によって決まり,互換の積とし
ての表示によらない.
これにより,置換 σ が k 個の互換の積で表されるなら,(−1)k は互換の積としての表示法に依存
3.4
行列式の性質
せず,σ によって一通りに決まる.これを σ の符号 (signature) といい,sgnσ と表す.
ここでは行列式の基本的な性質を見ていこう.まずは転置行列の行列式である.
命題 3.2.3 (置換の符号の性質)
定理 3.4.1 (転置行列の行列式) 転置によって行列式の値は不変である:det(t A) = det A.
sgn 1n = 1
sgn(i, j) = −1
sgn(στ ) = (sgnσ)(sgnτ )
特に sgn(σ(i, j)) = −sgnσ
次に多重線型性と交代性と呼ばれる性質を紹介する.
sgn(σ −1 ) = sgnσ
定理 3.4.2 (行列式の多重線型性と交代性) 行列式 det(a1 , . . . , an ) は次を満たす.
(D1) 行列式は各列について加法的である:
3.3
一般次数の行列式の定義
det(a1 , . . . , aj + a′j , . . . an )
= det(a1 , . . . , aj , . . . , an ) + det(a1 , . . . , a′j , . . . , an )
以上を踏まえて一般次数の行列式を次のように定義する.
(D2) ある列をスカラー k 倍すると,行列式も k 倍となる:
定義 3.3.1 n 次正方行列

(
A = a1
の行列式 (determinant) を
a2
∑
···
)
an
a11
 .

=  ..
an1
···
..
.
···
det(a1 , . . . , kaj , . . . , an ) = k det(a1 , . . . , aj , . . . , an )

a1n
.. 

. 
ann
sgnσ aσ(1),1 aσ(2),2 · · · aσ(n),n
(D3) 二つの列を交換すると,行列式は −1 倍となる:
i
↓
j
i
↓
↓
j
↓
det(a1 , . . . , ai , . . . , aj , . . . , an ) = − det(a1 , . . . , aj , . . . , ai , . . . , an )
(D4) 単位行列の行列式は 1 である:
det En = det(e1 , . . . , en ) = 1
(3.1)
これらの幾何的な解釈は次の通り.
σ∈Sn
a
11 · · · a1n .
.. ..
で定め,det A, |A|, det(a1 , a2 , . . . , an ), ..
.
. 等で表す.
an1 · · · ann ∑
なお,(3.1) の σ∈Sn は,σ が 1 から n の置換を一わたり動くときの和を表す.
(D1) det(a1 + a′1 , a2 , a3 ) = det(a1 , a2 , a3 ) + det(a′1 , a2 , a3 )
a′1
a′1
a1 + a′1
注 3.3.2 n = 1, 2, 3 のとき,これは前回定義 3.1.1 で定義したものと同じである.例えば n = 3
体積不変
⇐⇒
a1
a1
a3
のとき,3 次対称群の元とその符号を全て書き下すと
{ (
) (
)
}
1 2 3
1 2 3
S3 = 13 ,
,
, (1, 2), (2, 3), (1, 3) ,
2 3 1
3 1 2
(
)
(
)
1 2 3
1 2 3
sgn13 = sgn
= sgn
= 1, sgn(1, 2) = sgn(2, 3) = sgn(1, 3) = −1
2 3 1
3 1 2
a2
21
a2
a3
(D2) det(ka1 , a2 , a3 ) = k det(a1 , a2 , a3 )
a3
a2
一辺を k 倍すると、体積も k 倍になる
a1
ka1
(D3) det(a2 , a1 , a3 ) = − det(a1 , a2 , a3 )
a3
(D4) det(e1 , e2 , e3 ) = 1
e3
a2
e2
a1
a1 , a2 , a3 が右手系ならば
a2 , a1 , a3 は左手系をなす
体積 1
e1
これを見れば,かなり無理のある観察をもとに,(3.1) という式で天下り的に定義した行列式が,
符号付き体積の性質を持っていることがわかるであろう.
22