(07)ものつくり教育 -Ⅰ 講演番号:1A12 機械工学科3年次における PBL 教育について On Project Based Learning for 3rd Grade Students of Department of Mechanical Engineering ○小池 Masaru KOIKE 勝※1 川田 裕※1 上辻靖智※1 西川 羽賀 俊雄※1 井原 之敏※1 Yutaka KAWATA Yukitoshi IHARA Yasutomo UETSUJI Toshio HAGA 出※1 Izuru NISHIKAWA キーワード:ものづくり教育,PBL 科目 Keywords: Engineering education, Project based learning 1. はじめに 大阪工業大学機械工学科の 3 年次において「エンジ ニアリングプラクティス」 (以下エンプラと略称する) という PBL 科目を通年で開講している。内容はモノづ くりで、前期で設計、資材の調達、後期に製作、運転を する。この科目は当学科の目玉教育と自負しており、 受講した学生や就職先の企業の方々からも高い評価を 頂いている。 当学科では 2 年次から「発展コース」と「実践コー ス」に分かれる。「発展コース」では JABEE の考え方 に基づいたカリキュラムを設定し、「実践コース」で は演習科目に重点を置いたカリキュラム構成としてい る。エンプラは発展コースの必須科目としている。こ のコース分けは 2006 年入学の学生から開始し、3 年次 配当のエンプラは 2008 年度から開講した。 なおこの授業を担当している教員は 14 名であるが、 募集要項により 6 名のみ記載している。 2. 「エンジニアリングプラクティス」の概要 まず教員から 6 種類のテーマを与える。現在のテー マは「電気自動車」、「外来植物駆除装置」、「ホバー クラフト」、「2ストロークエンジンバイク」、「パイ プメンテナンスロボット」、 「スチール缶分離マシン」 である。過去には風車やお掃除ロボットなどもあり、 年度により変わることもある。 テーマの内容は教員がある程度規定しているが、学 生が主体的に企画できることにも配慮している。学生 は前年度までの作品を見ることができ、設計などの記 録も参照できるので、テーマの内容は毎年同じではな く、年々進化させている。そのあたりに工夫が必要と なる。発展コースの学生 100 名前後を 17 の班に分ける ので、1 班 5~6 名となる。それぞれの班で話し合い ※1 大阪工業大学工学部機械工学科 公益社団法人日本工学教育協会 平成 28 年度 工学教育研究講演会講演論文集 テーマを選ぶ。一つのテーマにつき2~3班割当てな ので、希望する班が多いテーマについては抽選となる。 担当教員は班の数配置し、きめ細かい指導をしている。 授業は火曜日の午前 2 コマであるが、午後は学生が 自主的に活動できるように時間割は空けてある。ただ しこの午後の時間に外部講師(本学 OB など)による「製 図指導」が、前期に 6 回設定される。ここでは企業で 活躍している技術者が実践的な指導をされるので、学 生も学ぶところが多い。 毎回の授業で活動したことを各学生が「週間報告書」 として記録し、次週に教員に提出、教員がコメントを 書き、評価して返す。また前期と後期の終了日に「自 己評価書」を作成、教員に提出する。これは社会人基 礎力(後述)の各項目について学生が自己評価するも のである。また製図 PDCA シートには外部講師に指導し てもらった内容を記録する。 期中や期末には学生が進捗状況などについてプレゼ ンテーションを行い、同テーマの他の班の状況を知り、 討議し、全体の進行の軌道修正をする。 前期の最後の授業で完了した設計のプレゼンテーシ ョンを行い、そのパワーポイントの印刷物、図面、計 算書、物品発注書、個人別の週間報告書、自己評価書、 チェックリスト、製図 PDCA シートを決められたところ にファイルする。 後期に入り製作、終盤には作品の動作チェック、設 計変更、改修などを経て、コンペを行う。コンペでは 同じテーマの班どうしが性能を競い合う。例えば電気 自動車では決められたコースを走る速さや、登坂性能、 ブレーキ性能などを競う。最後の授業で 1 年間の活動 内容のプレゼンテーションを行い、これらの結果や報 告書の内容を教員が評価する。評価内容や点数の配分 などについてはフォームを作成し、学生にも開示して いる。 ― 22 ― 最終の授業が終了した後、学生はポスターとポート フォリオ(設計製作などに使った時間の内訳表、指導 教員のコメント)を作成し、A4 用紙の裏表に印刷し、 就職活動に活用する。就職活動の面接でこのエンプラ の内容を話すことは自己アピールとして有効で、更に 前述の印刷物を見せることは大きな説得力になる。 プールを圧力室としたものがあった。これは全体のサ イズが大きく、重くなった割には圧力室の面積が不足 し、浮上性能に難があった。しかし個性的なアイデア を試してみるのも有意義と感じた。 3. テーマの 1 例「ホバークラフト」 一人乗りのホバークラフトを設計製作する。浮く、 走る、曲がる、止まるの機能を備えることが必須。浮 上用のエンジンとファン、推進用のエンジンとプロペ ラは教員が調達して支給する。更に浮上用のエンジン、 ファンの P-Q(圧力―流量)特性のデータも教員が提供 して、学生が設計に用いる。上記以外の材料は 4 万円 以内で学生が調べて注文する。大きくて軽量な機体を 設計することが求められる。スカートの部分は柔軟性 があって、しかも圧力が逃げないような形状を保つこ とに工夫を要する。 図1は 2012 年度の作品のポスターである。この機体 の特徴は、「曲がる」機能のため、推進ユニット(推進 用エンジン+プロペラ)をターンテーブルに搭載し、 その全体の向きを運転席から制御ことにある。なお一 般的な方向舵方式でも曲がることはできる。 個性的なコンセプトでは、図2のように 3 個のビニル 図2.ビニルプールを使用したホバークラフト 4. 「エンジニアリングプラクティス」の意義 この授業の目的は産業界で技術者として活躍できる 能力を養うことで、経済産業省が提唱する「社会人基 礎力」すなわち「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、 「チームで働く力」を育成することにある。このよう な能力は座学や実験だけでは育成できないことは当然 であり、実際は企業に入り、困難なプロジェクトの経 験を通して身についていくものである。企業に入って から「学生時代にもっと勉強しておけば」と感じるも のだが、学生時代はプロジェクトの経験がないから勉 強の意義が感じられない。エンプラはそのギャップを 埋めるもので、モノづくりの経験、それによって座学 や実験のモチベーションアップにつなげる、一石二鳥 をねらうものである 5. おわりに PBL はプロジェクト、すなわち課題を達成する活動 である。モノを設計製作しただけでは道半ばであり、 課題の達成度(性能)をレベルアップし、競い、改良 し、それを繰り返し、勝利することがゴールとなる。 競争と改良の繰り返しから新技術は誕生する。エンプ ラは班どうしの競い合いであるが、その先には、他大 学の、あるいは世界のライバルがいる。大阪工業大学 ではロボット、フォーミュラカー、ソーラーカー、人 力飛行機などのプロジェクトがあり、他の大学と、あ るいは世界の最先端の技術者と競いあう、究極の PBL がある。これらのプロジェクトに対しても現在大学を 挙げて取り組んでいるところである。 図1. ポスター ― 23 ―
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