論 博士論文題 目 文 内 容 の 要 旨 キ ラル配位子 を有するユー ロピウム錯体 の合成 と 配位構造 に関連 した円偏光発光特性の評価 氏 名 原田 聖 ( 論文内容の要 旨) 分子構造 に不斉構造 を有す る発光性キ ラル分子 は、発光 中の左右 の円偏光発 CPL) を示す。特 にキ ラル配位子 を有する希土類錯 光強度差 を生 じる円偏光発光 ( 体 は、磁気双極子遷移許容帯 において大きな 円偏光強度差 (gcpL)を示す。キ ラル 希土類錯体 の CPL特性は理論的及び実験的に多 くの報告が行われているが 、gcpL と配位構造 との関連性 を実験的に議論 した報告例 は少な く、キ ラル希土類錯体 の gcpL を向上させ る分子設計の具体的な提案 は報告 されていなか った′ 。本博士 論文では、キ ラル Eu( Ⅰ Ⅰ Ⅰ ) 錯体の gcpL の支配因子 として結晶場の寄与 を考慮する ため、gcpL を配位構造及び発光特性 と関連 させて評価 した。本論文の第 1章は緒 言 として、研究背景及び関連する内外 の研究成果 と課題 を明 らかに し、研究 目 的及び本論文の構成 について概説 した。第 2 章では、励起状態か らの分子振動 経 由の無放射遷移の抑制による発光量子収率増大 と CPL を同時に達成する目的 Ⅰ Ⅰ Ⅰ ) 錯体 を合成 し、発光量子収率 53%及び cpLの掛 師 こ成功 した。 この結 で Eu( 果によ り、キ ラル Eu( Ⅰ Ⅰ Ⅰ ) 錯体 の強発光化 に伴 う CPL強度増大が示唆された。第 3章では、大きな gcpL を示すカ ンファー誘導体 Df a ca m と p-0 配位子 を組み合 I I I ) 錯体 を合成 した。 この Eu( I I I ) 錯体 の gcpL を発光特性及び単結晶 X わせた Eu( 線構造解析 と関連 させて考察 した結果、大きな gcpL と非対称な配位構造 に起 因 する電気双極子遷移 の許容化が同時に達成 され うる可能性を見出 した。第 4 章 では、低対称な配位構造 による電気双極子遷移 の許容化 に基づ く gcpL 向上を検 討 し、Df a cam とキ ラルな窒素三座配位子 Py box を組み合わせた 9配位 Eu( Ⅰ Ⅰ Ⅰ ) 錯体 を合成 した。 この Eu( Ⅰ Ⅰ Ⅰ ) Pybox錯体が単核 Eu( Ⅰ Ⅰ Ⅰ ) 錯体 の中では最 も大きな gcpL を示す ことを見出 し、 この大きな gcpL を Eu( Ⅰ Ⅰ Ⅰ ) 周 りの結晶場の寄与 を具体 的に見積 もり議論するとともに、発光強度 と gcpL との関連性 を実験的に初めて 見出 した。また単結晶 X 線構造解析 に基づいた s ha peme as ur e計算 によ り、Py box 配位子 のキ ラル構造変化 に伴 う配位構造の対称性変化 と gcpL 変化 を見出 した。 第 5章は結論 として、本論文の総括及び今後 の展望が述べ られている0 ( 論文審査結果の要 旨) キ ラル配位子 を有する希土類錯体は磁気双極子遷移 に起 因した高い CPL特性、 具体的には大きな左右 の円偏光発光強度差( gc p L) を示す ことか ら、キ ラル分子認 識能 を示す分子性発光材料や 円偏光放射 を利用 した新規発光材料への応用が期 待 されている。 このよ うにキ ラル希土類錯体 は大きな gcpL に基づ く高い CPL特 性 を示す一方 、gcpL と配位構造 との関連性や配位構造 と密接 に関連す る発光性 と の関連性 について は十分な検討が行われて いなか った。 こうした背景のもと、 Ⅰ Ⅰ Ⅰ ) 錯体 を合成 し、CPL 特性 と 本論文 申請者はキ ラル配位子 を有する複数の Eu( I I I ) 錯体 にお ける円偏光発光性ゐ増 分子構造や結晶構造 との関連性 を検討 し、Eu( 強の可能性 を検討 した。さ らに従来か ら報告 されている強発光性 Eu( Ⅰ Ⅰ Ⅰ ) 錯体の 設計指針で ある振動構造 を制御 した配位子 を系統的に導入す ることによ り、高 強度発光 とgcpL増強の両立 を目指 した Eu( I I I ) 錯体の開発 を行 った。 検討の結果、 分子振動 によって誘起 され る無放射遷移 を抑制す る効果 を有す る配位子 を用 い たキ ラル Eu( Ⅰ Ⅰ Ⅰ ) 錯体 を合成 し、強発光性 を有 し、なおかつ CPL活性な Eu( Ⅰ Ⅰ Ⅰ ) 錯 体 を実現 した。また、有機配位子 にキ ラルなカ ンファー誘導体 を使用 した 8配 位 Eu( I I I ) 錯体 を合成 し、大きな gcpL が電気双極子遷移の許容化の下で達成され うる可能性 を見出 した。また単結晶 Ⅹ 線構造解析 に基づ く考察 によ り、電気双 極子遷移が非対称な配位構造 に起 因することを示 した。 さ らに配位構造の対称 Ⅰ Ⅰ Ⅰ ) 錯体 を合成 した。その結果、 この 9配位 Eu( Ⅰ Ⅰ Ⅰ ) 性変化 に着 目し、9配位 Eu( 錯体 において 1 . 0という非常に大きな gcpL を見出す とともに、 この gcpL 向上を 0は単核 Eu( I I I ) 錯体 と 結晶場パ ラメータを具体的に見積 もり説明 した。gcpL-1. してはこれまでで最大の値である。また 円偏光放射速度定数 を Eu( Ⅰ Ⅰ Ⅰ ) 錯体 にお Ⅰ Ⅰ Ⅰ ) 錯体が高い円偏光放射性 を有することを見出 し いて初めて導出 し、9配位 Eu( た。以上、本論文ではキ ラル Eu( I I I ) 錯体 の合成 と CPL特性、特 に gcpL と発光性 や配位構造 に関す る系統的な研究 を通 じ、配位構造制御や結晶場の制御 による gcpL 向上に成功 している。本論文の知見 は円偏光発光 を利用 した希土類錯体の応 用展 開に重要で ある一方、結晶場理論や配位化学な ど希土類 の基礎科学 に貢献 しうる。 よって審査委員一同は本論文が博士( 工学) の学位論文 として価値あるも のと認めた。
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