CD 治療における 抗 TNF 製剤の使用意義

猿
田
雅
之
ン︶など免疫調節薬にて寛解維持を行うが、
CD 治療における
抗TNF製剤の使用意義
要約
る。
﹂で使用するかは、病型や経過、
﹁ Top-down
予後不良因子の有無で判断する。
抗
﹂で使用するか、
• TNF製剤を﹁ Step-up
再燃する際には抗TNF製剤の導入を検討す
ク
• ローン病︵CD︶は、現在のところ完治さ
せる治療法がないため、病勢をコントロール
して寛解導入し、長期間寛解維持をして生活
の質を高めることが大切である。
抗
• TNF製剤により粘膜治癒が可能となり、
臨床的寛解に加え粘膜治癒を達成した﹁完全
﹁小腸・大腸型﹂
﹁大腸型﹂に分類し、病型から
クローン病︵CD︶の病型
﹂と、それを長期間継続
寛解
Deep remission
する﹁長期間完全寛解
Sustained deep remis- CDは、多彩な病変を呈する疾患であるため、
﹂という新しい概念が治療目標である。
治療方針決定のために病態や病型の評価が重要
sion
である。具体的には、病変範囲から﹁小腸型﹂
−
ス
• テロイドで寛解導入後は、AZA︵アザチ
オプリン︶や6 MP︵6 メルカプトプリ
−
102
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IBD 領域
は﹁炎症型﹂
﹁瘻孔形成型﹂
﹁狭窄型﹂
﹁穿通型﹂
長期に保つことを﹁長期間完全寛解
の決定を行う。腸管合併症には、狭窄・瘻孔・
軽症∼中等症
1.
寛解導入療法
CD治療の基本方針
Sustained
に分類し、さらに病勢から﹁軽症﹂
﹁中等症﹂
﹂として最終治療目標に設定され
deep remission
ている。
﹁重症﹂
﹁劇症﹂に分類し、さらに﹁腸管あるい
穿孔・癒着などがあり、最終的に外科手術を要
は腸管外の合併症﹂の有無を加味し、治療方針
することが多いため、内科治療にて同合併症に
−
療目標とされる。しかし、近年の抗TNF製剤
間寛解維持をして生活の質を高めることが、治
﹂
︱﹁粘膜治癒﹂と﹁完全寛解
Deep remission
現時点ではCDを完治させる治療法がないた
め、病勢をコントロールして寛解導入し、長期
MP︵6 メルカプトプリン︶を使用し離脱
疫調節薬AZA︵アザチオプリン︶もしくは6
ド離脱が困難と判断すれば、チオプリン系の免
では、ステロイド投与の適応となる。ステロイ
少、貧血、腹痛などの強い症状を認める重症例
的寛解と粘膜治癒を達成した状態を﹁完全寛
を試みる。ステロイドによる寛解導入が不成功
解
であった場合や、寛解維持が困難な場合には、
1)
﹂と呼び、さらにこの状況を
Deep remission
−
軽症∼中等症の治療に抵抗する症例や、体重減
る際には、経腸栄養療法の併用が有効である。
の登場により、臨床的寛解だけでなく、内視鏡
中心に治療を行うが、中等症で小腸病変を有す
−
的粘膜治癒も達成することが可能となり、臨床
CD治療の目標とは?
軽症∼中等症では、5 ASA︵5 アミノ
陥らないように治療していくことが大切である。
サリチル酸︶製剤やサラゾスルファピリジンを
1)
(1021)
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−
抗TNF製剤︵インフリキシマブ レミケード、 ドを中止して寛解維持を試みるが、困難である
場合AZAや6 MPなど免疫調節薬を使用す
る。ステロイドに寛解維持効果はなく、くれぐ
CDにおける抗TNF製剤の使用意義
有効性を維持することが可能である。
功した場合には、そのまま寛解維持に使用でき、
らない。一方で、抗TNF製剤で寛解導入に成
れも寛解維持目的に使用することがあってはな
−
アダリムマブ ヒュミラ︶を考慮する。
重症∼劇症
®
々に減量し離脱を試みる。ステロイド減量中に
再燃する際には、AZAや6 MPなど免疫調
節薬を併用する。ステロイドの効果が不十分の
場合には、メトロニダゾールやシプロフロキサ
NF α を代表とするサイトカインを過剰発現
することで病態形成することが示されている。
そのため、TNF α を抑制することで、マク
剤インフリキシマブが登場して以来、高い寛解
定されている。実際、2002年に抗TNF製
も抑制して、CDの慢性炎症を改善させると想
ロファージを制御し、さらに接着因子の発現を
−
シンなど抗菌薬を併用するか、血球成分除去療
法の併用を行うが、ステロイド抵抗性と判断し
た際には、抗TNF製剤の投与を行う。
2.
寛解維持療法
腸内細菌などの刺激により、病的に活性化しT
CDの病因論は確定していないが、近年、自
∼2週間程度で行い、有効であった場合には徐
然免疫系のマクロファージの一部が食事抗原や
ステロイドの静脈投与を行うが、効果判定は1
感染症の有無を確認する。感染症がなければ、
うえ完全中心静脈栄養として、膿瘍形成などの
事摂取により増悪することが多いため、絶食の
重症∼劇症では、全身管理が必要な状態であ
ることが多く、入院での加療を基本とする。食
®
ステロイドで寛解導入した際には、ステロイ
−
−
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2)
ら治療成績は飛躍的に上昇し、CDの治療史を
導入率に加え、寛解維持にも使用できることか
術リスクが高まり、生活の質が落ちることが予
予後不良因子を多く伴う症例では、将来的な手
﹂とされている。
変えた﹁ Miracle medicine
現在、本邦で使用可能なものは、キメラ型抗
体のインフリキシマブと、完全ヒト型抗体のア
高い寛解導入率が得られ、長期寛解維持も達成
以内の早期から抗TNF製剤を開始したほうが
﹂がよいのかな
がよいのか﹁ Top-down therapy
ど、まだまだ議論中である。
﹂
その導入法に関して、後述する﹁ Step-up therapy
しやすいことからも早期導入が推奨されるが、
推奨されている。さらに、CDの診断より2年
測されることから、抗TNF製剤の早期導入が
ダリムマブの2剤のみである。いずれの薬剤も
︶を可
CDに有効で、完全寛解︵ deep remission
能にしたことから、今まで腹痛・下痢などによ
り強いられてきた食事制限や旅行や外出などの
行動制限から解放され、生活の質は改善してい
る。
トップダウン療法︵
︶と
Top-down
therapy
抗TNF製剤の良い適応は、中等症∼重症あ
︶
︵図︶
ステップアップ療法︵ Step-up therapy
るいは劇症のステロイド抵抗性あるいは依存性
CDの抗TNF製剤加療には、
﹁ Top-down therCDであり、軽症の段階からは使用するべきで
﹂と﹁
﹂と呼ばれる2つの概
はない。ただし、CDの病態において、
﹁小腸
apy
Step-up
therapy
﹂は、基準薬5
念が存在する。
﹁ Step-up therapy
時にすでに内外瘻や狭窄がある﹂
﹁上部消化管
深い縦走潰瘍﹂
﹁肛門周囲の重篤な病変﹂
﹁診断
F製剤にと、徐々に治療強化するものを指す。
ばステロイド、それでも有効でなければ抗TN
ASA製剤から治療を開始し、抵抗性であれ
に多発する縦走潰瘍﹂
﹁大腸であっても広範で
病変を有する﹂
﹁若年発症﹂や﹁喫煙﹂などの
−
(1023)
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2)
トップダウン療法(Top-down therapy)とステップアップ療法(Stepup therapy/Conventional Step-up と Accelerated Step-up)
ᢠTNF-ǂᢠయ ± ච␿ㄪ⠇⸆
ᢠTNF-ǂᢠయ
± ච␿ㄪ⠇⸆
ࢫࢸࣟ࢖ࢻ +
ච␿ㄪ⠇⸆
Top-down
Accelerated Step-up
Conventional Step-up
(筆者作成)
近年、﹁ Step-up therapy
﹂をさらに﹁ Conventional
﹂と﹁ Accelerated Step-up therapy
﹂
Step-up therapy
に分け、後者は5 ASA製剤からではなくス
用するべきではないと注意喚起されている。
も非常に高価であることから、全てに安易に使
の基準も確定しておらず、さらに医療資源的に
ラインの治療薬であり、また同薬剤の治療終了
性がある。現在のところ、抗TNF製剤は最終
で十分対応できる症例では過剰治療となる可能
﹂ではどのような症例にもす
﹁ Top-down therapy
ぐに抗TNF製剤が使用されるため、従来治療
それぞれに良好な治療成績があるが、一方で
﹂では炎
短所もあり、例えば﹁ Step-up therapy
症の制御が遅れ重症化・重篤化する危険があり、
﹂と呼ぶ。
で治療するものを﹁ Top-down therapy
を制御する目的で、診断早期から抗TNF製剤
う概念である。一方、治療開始後速やかに炎症
であればすぐに抗TNF製剤に切り替えるとい
テロイドと免疫調節薬を最初に投与し、抵抗性
−
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ᢠTNF-ǂᢠయ or
ච␿ㄪ⠇⸆
ᢠTNF-ǂ
ᢠయ
± ච␿ㄪ⠇⸆
ࢫࢸࣟ࢖ࢻ
ࢫࢸࣟ࢖ࢻ
+ ච␿ㄪ⠇⸆
5-ASA〇๣㸭ᢠ⳦๣࡞࡝
体であり、本年発表された本邦で実施された多
抗TNF製剤の長期使用では約3割の症例で
効果減弱が認められる。インフリキシマブの検
られず、抗TNF製剤単独でも十分に治療でき
施設共同研究﹁ DIAMOND study
﹂において、免
疫調節薬の併用による上乗せ効果は有意に認め
効果減弱や併用療法に対する考え方
討において、同薬剤にはマウス蛋白質が含まれ
最後に
ることが結論づけられている。
抗体であり、自己抗体の出現や効果減弱はやや
少ないとされるが、それでも自己抗体出現例や
中に効果が減弱した場合の倍量投与が追加承認
2016年6月よりアダリムマブも、維持療法
休薬や中止の可否、およびその基準について検
解が得られるようになった。今後は、同薬剤の
なタイミングに関して討議がなされ、一定の見
効果が得られ、さらに薬剤に対する抗体の出現
︵東京慈恵会医科大学
内科学講座
消化器・肝臓内科
主任教授︶
また、インフリキシマブを用いた SONIC study 討を進める必要がある。
において、免疫調節薬を併用することで、相乗
され、対策が取れるようになった。
不十分症例は存在し問題となっていた。そこで、 く向上している。同薬剤の正しい使用法、適切
勢の制御が可能となり、患者の生活の質は著し
CDは未だに完治し得ない難治性の進行性の
されている。一方のアダリムマブは完全ヒト型
疾患であるが、抗TNF製剤の登場により、病
中に効果が減弱した場合の倍量投与が追加承認
されることが原因の一つと想定され、維持療法
ていることから、薬剤に対する自己抗体が産生
4)
文献
日本消化器病学会編 クローン病診療ガイドライン、
(1025)
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107
も抑えられることから、基本併用療法が推奨さ
れている。一方のアダリムマブは完全ヒト型抗
1)
3)
南江堂、東京︵2010︶
Shook RL : Miracle Medicines : Seven Lifesaving
Drugs and the People Who Created Them. Portofolio
(2007)
Colombel JF, et al : Infliximab, azathioprine, or
combination therapy for Crohn’s disease. N Engl J
Med, 362 (15), 1383-1395 (2010)
Matsumoto T, et al : Comparison of adalimumab
monotherapy and a combination with azathioprine for
patients with Crohn’s disease. A prospective,
multicenter, open-labeled clinical trial (DIAMOND
study). J Crohns Colitis (2016) (in press)
108
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(1026)
2)
3)
4)