低温排熱で発電するための 新規な蒸気サイクル 東京大学 生産技術研究所 教授 鹿園直毅 1 従来技術とその問題点 工場排熱や地熱等の低温排熱から発電する方 法には,熱電変換やバイナリーサイクル(オーガ ニックランキンサイクル)発電等の技術があるが, • 熱源が低温のため,理論出力が小さく,出力 あたりのコストが高い • 本体コストに加えて,設置コスト(配管施工等) が高い 等の問題があり、広く利用されるまでには至って いない 2 与えられた排熱からの発電出力を最大化 = 熱源温度が環境温度になるまで仕事を回収 温度 T 熱源(排熱,地熱等) 初期温度 1atm 加熱器 ポンプ 環境温度 T0 膨張機 理論的に取り出せる 最大の仕事 (エクセルギー) 冷却器 エントロピー S 可能な限り高温熱源に近い温度で熱を受け取り, 熱源が環境温度になるまで仕事を取り尽くす 温度-エントロピー(T-S)線図で略三角形を構成するサイクルが理想 ⇒ トリラテラル(Trilateral )サイクル 3 新技術の特徴・従来技術との比較 • 与えられた熱源に対して,最大限出力を増やすことが可 能な新規な蒸気サイクル(トリラテラルサイクル)を開発中 • 通常の蒸気サイクルは気相単相での膨張だが,トリラテ ラルサイクルは気液二相膨張.新規に気液二相膨張機 を開発することで,トリラテラルサイクルが実現可能であ ることを実証した • 本技術の適用により,同一熱源のエネルギーから数 10%発電量を増加させることができる(=設置も含めた トータルコストの数10%削減が期待される) • 新規なレシプロ膨張機は,高効率・高信頼性というレシプ ロ式の長所を維持しつつ,課題であった振動を抑制でき る.本技術は,圧縮機にも転用可能 4 気液二相膨張の可視化 水 エタノール 5 気液二相膨張時の断熱効率および損失の測定結果 作動流体:水 100 断熱効率 断熱効率 80 Efficiencies and losses (%) Efficiencies and losses (%) 100 作動流体:エタノール 60 熱容量損失 40 非平衡損失 20 0 80 60 非平衡損失 熱容量損失 40 20 0 40 140 インジェクション損失 240 340 vp,max (mm/s) 440 40 140 240 340 vp,max (mm/s) 440 インジェクション損失 ピストン速度の増加に伴い,断熱効率が増加 ピストン速度小:熱容量損失が支配的 ピストン速度大:非平衡損失が支配的.ただし,速度増加に伴い減少傾向 6 サイクル実証装置 Power source Main Heater Subheater (Condenser) Flow meter トリラテラルサイクル:R134a 熱源冷凍サイクル: R410A 熱源容量:約4 kW P1 T1 温度差:約60K Expander System Sub-condenser P4 T4 R410A Cycle Compressor Pump P3 T3 Generator Generator Expansion valve Sight glass Liquid receiver Filter (Evaporator) Condenser Torque meter 2 Phase Expander Torque meter Expansion valve Electric load P2 T2 Buffer Tank 7 想定される用途 • 本技術は,工場排熱(排気熱,温排水熱), コージェネ排熱等への適用が考えられる • 上記以外に,地熱(温泉含む),バイオマス熱, 太陽熱等の再生可能エネルギー熱への適用 が考えられる.これらは太陽光や風力のような 出力変動が無く安定しているため,今後の再生 可能エネルギーの更なる導入拡大に貢献でき ると期待される • また,今回の膨張機に採用した無振動レシプロ 機構は,一般の圧縮機(空気,冷媒等)にも転 用可能である 8 圧縮機・膨張機の種類 内燃機関 ターボ レシプロ 空気︵ ガス︶ 圧縮機 1000kW 効率最優先 レシプロ ロータリー スクロール 冷凍空調用圧縮機 1kW 10kW 100kW レシプロ ロータリー スクロール 1kW 10kW スクリュー ※高圧はレシプロ 1000kW スクリュー 100kW ターボ ターボ 効率 +低騒音 +低振動 1000kW 9 実用化に向けた課題 • 現在,気液二相膨張によるサイクルが実際に 機能することを確認済み.ただし,シール部か らの漏れや,加工組立誤差による異音発生等 の課題が未解決である(既存技術で対策可能) • 今後,実条件に近い条件での二相膨張サイク ルについて実験データを取得し,排熱発電に実 際に適用する際の課題を抽出する • 実用化に向けて,既存の量産製品(圧縮機や 冷凍サイクル)の技術を転用できる開発体制を 確立する必要がある 10 企業への期待 • 低コスト化を実現するためには,既存の量産 圧縮機技術の転用が不可欠 • 圧縮機(空気,冷媒)の設計・製造技術を持つ 企業との共同研究を希望 • また,冷凍機・空調機を開発中の企業,中低 温熱利用分野への展開を考えている企業に は,本技術の導入が有効と思われる 11 産学連携の経歴 • 1994∼2002 ㈱日立製作所 機械研究所 • 常時6∼8社程度と共同研究を実施中 • NEDO,JST(A-STEP)事業等で,企業と共同 実施プロジェクトも多数実績あり 12 お問い合わせ先 科学技術振興機構 環境エネルギー研究開発推進部 TEL 03−3512 − 3543 FAX 03−3512 − 3533 e-mail alca@jst.go.jp 13
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