マイナス金利深掘り ヒントは貸出態度 藤代 宏一

Market Flash
マイナス金利深掘り
ヒントは貸出態度
2016年9月26日(月)
第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 藤代 宏一
TEL 03-5221-4523
【海外経済指標他】
・9月米PMI(Markit)は51.4と8月から0.6pt軟化して市場予想(52.0)を下回った。内訳は、生産(53.8
→52.3)、新規受注(52.7→51.0)が揃って低下し、雇用(50.5→52.5)、購買数量(49.0→49.5)の上
昇を打ち消した。その他では、ヘッドライン構成項目外の新規輸出受注(53.2→49.8)が50を割り込むな
ど、景気先行指標に黄色信号。ISMに近づけたベースでも50.9と8月から0.5pt軟化しており、既発表の
連銀サーベイの軟化傾向と整合的。ISMは9月に一段と水準を切り下げる可能性がある(8月は49.4)。
・9月ユーロ圏総合PMIは52.6と8月から0.3pt軟化。もっとも、景気先行指標として有用な新規受注が
52.6へと0.4pt改善したほか、雇用(52.0→51.9)、受注残(50.9→50.8)もまずまずの水準を維持してお
り、内容は悪くない。産業別では製造業PMIが52.6へと0.9pt改善した反面、サービス業が52.1へと
0.7pt軟化。
PMI・ISM
60
65
ユーロ圏PMI
サービス
PMI
60
55
55
50
50
製造業
45
45
40
ISM
40
35
35
30
30
08
09
10
11
12
13
(備考)Thomson Reutersにより作成
14
15
07
08
09
10
11
12
(備考)Thomson Reutersにより作成
16
13
14
15
16
【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】
・前日の米国株は反落。原油価格の下落が嫌気されるなか、新規の買い材料に乏しく利益確定売りが優勢。
WTI原油は44.48㌦(▲1.84㌦)で引け。
・前日のG10通貨は原油価格の下落を受けて資源国通貨が軟調だった反面、マイナス金利通貨は相対的に堅
調。日銀会合、FOMCを通過して動意に乏しいなか、USD/JPYは101近傍で一進一退。
・前日の米10年金利は1.618%(±0.0bp)で引け。新規の材料に乏しいなか、売り買い交錯。他方、欧州債
市場は大半の国が小幅に金利上昇。ドイツ(▲0.082%、+1.4bp)、イタリア(1.214%、+2.5bp)、ス
ペイン(0.967%、+4.8bp)、ポルトガル(3.377%、+0.7bp)が揃って金利上昇となり、3ヶ国加重平
均の対独スプレッドは僅かにワイドニング。
【国内株式市場・アジアオセアニア経済指標・注目点】
・日本株は、欧米株安に追随して安寄り後、もみ合い(10:00)。
・日銀の政策スタンスは「量」から「金利」へのシフトが一層明確になった。今後、長国買入を主軸とする
マネタリーベースの拡大はまず見込まれず、追加緩和の焦点はマイナス金利深掘りの有無になろう。筆者
はこれまでと同様、日銀が行き過ぎた金利低下に配慮するとの見方を維持しており、現時点ではマイナス
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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金利の深掘りを予想していないが、一方で日銀がマイナス金利の深掘り余地があることを強調しているこ
ともあり、それを予想する市場関係者は相当数存在する。
・日銀は総括的検証で「追加緩和の手段としては(中略)①短期政策金利の引き下げと②長期金利操作目標
の引き下げを行う」としてマイナス金利の深掘り余地があることを強調した一方、「貸出金利の低下は金
融機関の利鞘を縮小させることで実現しているため、さらなる金利低下に伴う貸出金利への波及について
は、金融機関の貸出運営方針にも依存する」としていた。要するに、日銀は貸出金利低下が銀行収益圧迫
を通じて、貸出態度悪化に繋がることを強く懸念しているのだろう。
・そうした背景を踏まえると、マイナス金利深掘りの有無を判断する上で、企業金融関連のデータが重要と
なる。目先的には10月1日発表の日銀短観(9月調査)で①金融機関の貸出判断DI、②企業の資金繰り
判断DI、③借入金利水準判断DIを注視したい。全規模全産業でみた場合、これらはマイナス金利導入
前後で何れも改善基調にあるが、日銀が総括的検証でマイナス金利深掘りの「コスト」に言及したことを
踏まえると、今後これら指数が低下した場合、マイナス金利の深掘りは難しくなる。また関連データとし
て、月次ベースの「中小企業月次景況観測」(商工中金)にも注意を払いたい。このサーベイでは、中小
企業の資金繰り判断DIが調査されており、タイムリーに資金需要者の調達環境が把握できる。
30
25
20
15
10
5
0
-5
-10
-15
-20
-25
資金繰り・貸出態度(日銀短観)
貸出態度判断
借入金利水準(日銀短観)
80
60
40
20
0
-20
-40
資金繰り判断
-60
借入金利水準
-80
-100
90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12
(備考)Thomson Reutersにより作成 全規模・全産業
2
100
14
16
90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12
(備考)Thomson Reutersにより作成 全規模・全産業
14
16
資金繰り判断(中小企業景況判断・商工中金)
0
-2
-4
-6
-8
-10
-12
10
11
12
13
14
15
16
(備考)Thomson Reutersにより作成 太線:3ヶ月平均
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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