基礎ミクロ経済学(2016 年度) 教授 清水大昌 第 16 回 2016 年 9 月 28 日 [email protected] http://www-cc.gakushuin.ac.jp/˜20060015/lecture/intromicro2016.html 後期もよろしくお願いいたします。 今週の質問のコーナー • 企業が生産する際の「効率」ってどのように測れるの? • 今回:供給曲線、生産関数、規模の経済 今日の概要 • 前期に学んだ需要・消費者サイドの話を供給・生産者サイドにある程度応用できる。 • 需要量 ⇒ 供給量、 需要曲線 ⇒ 供給曲線、 需要変化の要因 ⇒ 供給変化の要因、 需要の価格弾力性 ⇒ 供給の価格弾力性 • 生産関数を使って、生産要素から産出量を求めていく。 • 費用関数を使って、産出量からそれを作るのに必要な費用を求める。 需要量 ⇒ 供給量、 需要曲線 ⇒ 供給曲線 • 需要量: ある価格の下で、消費者が財 (サービス) をどれだけ需要するかという数量 • 供給量: ある価格の下で、企業が財をどれだけ供給するかという数量 • 需要曲線 (関数): 財の価格とその需要量の関係を図に描いたもの。 • 供給曲線 (関数): 財の価格とその供給量の関係を図に描いたもの。 • 縦軸が価格、横軸が供給量。通常は右上がり。価格が上がると、供給量は増える。 • 例えば S = 100p のように表せる。 • 需要曲線と同じく、市場全体の供給曲線は、各生産者の供給量の合計。(横に足す。) 需要変化の要因 ⇒ 供給変化の要因 • 需要関数:X = D(p, p∗ , y, ...), p はその財の価格、p∗ はその財以外の価格、y はその市場での 所得水準、などなど。 • 供給関数:X = S(p, r, w, p∗ , ...), r は材料の価格、w は一般的賃金水準、p∗ はライバル製品の 価格、などなど。 1 • 供給曲線は縦軸に財の価格、横軸に供給量。それらが内生変数。他の変数は外生変数。 • 外生変数の変化: 供給の変化。グラフが動く。 内生変数 (価格) の変化: 供給量の変化。グラフはそのまま。グラフに沿って点が動く。 需要の価格弾力性 ⇒ 供給の価格弾力性 • 需要の価格弾力性=− (需要量の変化率) / (価格の変化率) • 供給の価格弾力性= (供給量の変化率) / (価格の変化率) • 財の価格が 1% 上昇したときに、供給量が何 % 増加するかを表す。マイナスは付けない。 • 図 16 − 1 を参照。 • 供給の価格弾力性が低い: 価格が変化しても供給量があまり変わらない。 例: 土地、手作りの工芸品、農作物 • 供給の価格弾力性が高い: 価格が変化したら供給量がかなり変わる。 例: ファッション性の高い衣類、大量生産できる商品 • 弾力性が 0: 「世界に二つしかないダイアモンドをいくらで売りますか」 • 弾力性が無限大: 「 1000 円札をいくらで売りますか」 x2 −x1 変化前の価格 x2 − x1 p1 x1 供給の価格弾力性 = p2 −p · = (供給の価格に対する傾き) · > 0. = 1 p2 − p1 x1 変化前の供給量 p1 • S = 10p − 100 の供給曲線で、p1 = 30 から p2 = 20 へ変化するときの供給の価格弾力性は? その逆への変化の場合は? 生産者と費用、生産関数 • 生産者:財サービスを生産、供給する主体(人・法人)。 • 会社とも言うが、経済学では「企業」。 • 生産するためには費用が掛かる。費用が安いほうが「競争的」といわれる。(次回) • 企業とは、生産要素(資本、労働、土地、原材料、管理能力)などを、製品に作り上げる工場 のようなもの。生産されたものを生産物と呼ぶ。 • 生産要素の投入量と生産物との関係を表したものが生産関数である。 • 労働を L (Labor)、生産量を Y とおくと、生産関数は Y = F (L) となる。F というものが関数。 いろいろな形を取りうる。しかし、右上がりになっているはず。生産要素の消費量を上げれば、 生産量も増やせる。F を使って、企業の生産技術を表している。 • 普通は産出される財は 1 種類ではない。(羊から、羊毛、皮、肉が取れる。石油の精製をすると 軽油と重油が生産される。このようなことを結合生産と呼ぶ。)しかし、以下では単純化のため 1 種類とする。 2 S 字型の生産関数 • 右上がりの生産関数。しかし、どのような形? • 現実に良く見られる生産関数の例として、図 16 − 2 のような形をしているものがある。これを S 字型の生産関数と呼ぶ。 • りんごの生産を考えよう。単純化のために生産要素は労働力だけとする。労働力の投入量は何 時間働いたかで測るとしましょう。 • 労働力の投入量が少ない場合には、生産関数の傾きが緩やか。つまり、投入量を増やしても生 産量が増えにくい。少し経つと傾きが急になる。つまり、投入量を増やしたら生産量が急激に 増える。また少し経つと傾きがまた緩やかになる。 • りんごの生産にはいろいろな作業が必要なので、労働時間が少ないと産出量も少ないでしょう。 それらの作業が出来るぐらいの労働時間を費やすと、ある程度の収穫を得られるようになり、追 加の (限界的な) 作業でそれなりに収穫が伸びるでしょう。しかしある程度作業をしてしまうと もう生産効率を上げるために出来ることがあまりないので、労働力を増やしても収穫量を増や すのが難しくなります。 • このような関係を S 字型生産関数は表している。 • 実際にどの水準の労働力を投入すればよいか (最適生産要素投入水準) については、これから考 えていく。 規模の経済:生産関数 • 生産関数に「伸び」があるのは上で説明した。その伸び方により以下の 3 つに分類できる。図 16 − 3 を参照。 • ここで注意してほしいのは、全ての生産要素を同じ割合で増やして行くこと。例えば、労働時 間、機械、土地を全て 2 倍にする。 • ケース1では、(すべての) 生産要素の投入を増やしていくと、比例的に (一定の傾きで) 産出量 (生産量)も増えていく。これを規模に対して収穫一定と呼ぶ。例はタクシーなど、機械と人間 がペアになっている場合。 • ケース2では (すべての) 生産要素の投入を x 倍したとき (x > 1)、生産量は x 倍より大きくな る。これを規模に対して収穫逓増と呼ぶ。また規模の経済ともいう。例としては、製造業で生 産規模が増大すると大型で効率の良い機械が使えるような場合。鉄鋼、化学工場や石油化学コ ンビナート。 • ケース3では (すべての) 生産要素の投入を x 倍したとき (x > 1)、生産量は x 倍ほど大きくな らない。これを規模に対して収穫逓減と呼ぶ。また規模の不経済ともいう。例:土地の量を変え られないとした場合の農業。社員と工場の機械は変えられても経営者の管理能力を変えられな いとした場合の一般企業。様々な質の労働者が居る場合。 3 • 応用例として、農業を考えよう。例えばもし土地の量などが外生的に決まっている場合には土 地は増やせないのでその部分が足を引っ張り収穫逓減になりうる。土地の量まで同じように x 倍できれば農業も収穫一定 (または逓増) になると考えられる。(実際は土地が広いほど収穫逓 増になると考えられる。) • ここまでの議論に対し、一つの生産要素のみを増やす考え方は次回。 規模の経済:総費用曲線 • 前の節では生産関数を見たが、今度は総費用曲線を見る。 • 総費用曲線ではある生産量の生産を達成するためにはどのくらいの費用が掛かるかを扱う。当 然グラフの軸が変わってくるので注意。 • 投入量を増やせば、総費用も増える。 • 前では、生産要素の投入を 2 倍にしたら、生産量は何倍になるか、というような話。生産要素 が 2 倍になれば、総費用も 2 倍になる。よって、今度は(ちょっと逆になるが、)生産量を 2 倍 にするためには総費用は何倍になってしまうか?という問題。 • 図 16 − 4: 同じく 3 つの可能性。 • ケース1は比例的に増える場合。規模に対して収穫一定。 • ケース2では、生産量を増やしても、総費用は比例的に上げる必要がない。よって、規模に対 して収穫逓増。 • ケース3では、生産量をふやしたら、総費用の伸びはもっと激しい。よって、規模に対して収 穫逓減。 • 軸の取り方が逆になっているので、曲がり方が逆になっています。 • 軸が何にあたるかによってグラフが変わります。つまり軸の重要性が分かるでしょう。 まとめと次回 • 生産者の行動の分析。消費者理論と似ている部分が多い。 • 生産関数を使って、生産要素の投入量と生産物の産出量との関係を見る。 • 生産量を増やすと効率的になるときは「規模に対して収穫逓増」(規模の経済)、非効率的にな るときには「規模に対して収穫逓減」(規模の不経済) となる。 • 質問コーナー:今回の授業では「効率」は規模に対しての収穫で表現しました。次回もう一つ の考え方をご紹介します。 • 次回: 費用関数といろいろな費用について。 4
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