少人数制家族介護教室の取り組み 家族の介護力をアセスメ

16-第19-R17-7 一般演題
9月16日(金) 11:00~12:00 第19会場 リーガロイヤルホテル W2F ペリドット
在宅支援と地域連携(17) [座長]瀧波 信之(介護老人保健施設アロフェンテ彦根)
第1群:101 入所
第2群:204 工夫・新たな取り組み
第3群:R3386 在宅支援と地域連携 ボランティアとのかかわり
少人数制家族介護教室の取り組み
家族の介護力をアセスメントし、個別ニーズに対応する
介護老人保健施設 さかい幸朋苑
倉光 桂吾
介護老人保健施設さかい幸朋苑では平成27年度より少人数制の介護教室を開催している。家族の介護力をアセスメントするこ
とを重要視し、それぞれの個別ニーズに対応してきた取り組みの効果と今後の展望を報告する。
はじめに
介護老人保健施設には地域包括ケアの中核施設となることが期待されている。これは「施設から在宅へ」という国の方向性の
中、多職種が揃う老健は施設としてだけではなく、在宅介護の拠点にもなることができるからである。
在宅介護は家族の介護力がとても重要で、家族の介護力向上のために、全国で様々な介護教室が行われている。しかし、一般的
に介護教室というものは大人数が対象で、基本的な知識を一方的に発信していることも多い。
介護は十人十色、その人その人に合ったケアが求められる。大人数対象の介護教室で、果たしてどこまで家族の介護力向上が期
待できるのだろうか。
介護老人保健施設さかい幸朋苑では平成27年度より、家族の介護力向上に特化した少人数制の家族介護教室を開催している。取
り組みを通しての効果と今後の展望を報告する。
介護教室概要
対象:自宅退居予定の入居者家族(15名前後)
定員:3名
時間:60分
頻度:1~2ヶ月に1回目的:家族の介護力を向上させ退居後の事故や病気を減らす。家族の介護負担軽減。参加者:医師、看護
師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、介護士、相談員、管理栄養士、歯科衛生士の中から入居者の状況に合わせて選定
内容:前半30分は具体的な介助方法の解説・相互体験。後半30分はそれぞれの家族に分かれて、多職種を交えての介護相談会
家族の介護力をアセスメントする
この介護教室のキーワードとなるのが、「家族介護力のアセスメント」である。ここで言う介護力とは介護の知識や自宅環境・
家庭環境はもちろんのこと、介護技術力に最も注目している。具体的に、ベッドからの起き上がり、立ち上がり、排泄、食事等
の際、家族がどのようなやり方で介助をしているのか、である。
アセスメントの方法は、まず事前にアンケートを配布し、自宅での介護についてどのようなところに負担を感じているのかを記
入してもらった。そして、それを基に介護教室前半のプログラムを作成し、後半の介護相談会での聞き取りを行った。
介護教室実施内容(一部抜粋)
・自宅で転ぶことがあるが、起こすのが大変。力づくだと腰は痛いし、本人も痛がる。
→イスとベッド又は2つのイスを使って楽に座れる方法を伝達し、相互体験も実施。
・ベッド臥床時の体位変換が大変。
→本人の膝を伸ばしたまま体位変換していた。膝を立ててもらうことで楽に体位変換できることを伝達し、相互体験も実施。
・ベッド起き上がりの際本人の上半身に力が入りすぎて介助が上手くできない。
→ベッドのギャッジアップを利用すると楽になることを見てもらいながら説明した。
・総胆管結石の既往があり、油を使わない食事のメニューに困っている。
→管理栄養士が独自のメニュー本を作成。
効果
受講された全ての家族が、とても勉強になった、個別なので分かり易かったなどと感想を話された。教わったことを実際にやっ
てみて、今まで苦労していたことが楽にできるようになったと話される方もおられた。また、入院なく安定したリピート利用が
継続できているケースもある。
今後の展望と課題
家族の介護力をさらに向上させるために、継続的な介護教室の取り組みを計画している。今回の介護教室の後半30分に行った介
護相談で、さらに細かいアセスメントがとれた。そのアセスメントを活かしていく為には、一度受講された家族に繰り返し受講
してもらう必要がある。つまり、今回の介護相談を含めたものを第一期とし、第二期、第三期と、より具体的に個別性を出した
体験型の介護教室を行う事で更なる効果が期待できる。また、入居者も一緒に受講してもらい、家族が実際に入居者に介助して
いるところに多職種で助言していくということも計画しており、高い効果が得られると考えている。
課題としては、開催頻度が少ないことが挙げられる。少人数制の為、多くの家族に受講してもらうには回数を増やすしかない。
考察
今回の取り組みで、家族の介護力向上には家族の介護力のアセスメントが不可欠だということが分かった。そして、その結果か
ら導かれた個別ニーズに対応していくことが、最も介護力向上に効果があると考えられる。
家族の介護力が向上すれば、自宅復帰後の生活が安定する。自宅での転倒や誤嚥性肺炎等を予防できれば、入院も減るかもしれ
ない。そうなれば、住み慣れた地域での生活が継続でき、老健のリピーターはリピート利用が安定する。リピート利用が安定す
ることは回転率・在宅復帰率につながり、加算算定への好影響が出てくる可能性もある。また、介護力が原因で自宅への復帰を
少し諦めている家族に、介護教室の受講でその気持ちが変わり自宅へ復帰するということができれば、これほど喜ばしいことは
ない。
まとめ
地域に目を向けてみると在宅介護をしている方々は比べものにならないくらい多い。そのほとんどが介護に様々な負担を抱えて
いることだろう。地域の介護力を上げるということは、その方々の個別なニーズに、老健だけでなく多種多様な事業所が包括的
に対応していくということではないだろうか。
以前デイサービスに勤務していた頃、朝の迎えに伺った時に「主人をベッドから起こせなくて困ってます。」という奥様がおら
れた。私が起き上がり介助を行うと、「そうやってやるんですね、すごい。」と感激されたことがあった。とても熱心な奥様
で、出来る限り自宅での生活を続けたいと希望されていた。
将来的に施設入居を希望される家族は多い。しかしその理由が「本人には申し訳ないけれど家ではもうみれない」であり、「で
きる限り家でみたい」のであれば、その家族の気持ちを尊重し、「諦めなくてもいいんだ」と思ってもらうことこそが、私たち
がこれまで培ってきたノウハウを地域に伝えることの目標であり、社会福祉法人に与えられた使命ではないだろうか。