「健康科学を楽しく学ぶ」講義概要 第1回(平成 28 年 9 月 13 日)DNA から健康を考える 甲南大学先端生命工学研究所所長 杉本 直己 健康科学の進展とともに、DNA(核酸)がヒトの健康や病気に密接に関係しているこ とがわかってきました。この DNA は、1メートルの 10 億分の1のサイズであるナノメ ートル(極小)の世界で活躍しています。この講義では、この核酸の構造、物性、機能 の基本的特徴を学んだ後、核酸からタンパク質へと生命情報が機能へと変換される仕組 み(セントラルドグマ)について解説します。さらに生命化学の最新の話題をわかりや すく紹介し、極小の世界がいかにメートルサイズのヒトの健康や病気に関わっているの かを考察します。 第2回(平成 28 年 9 月 20 日)アミノ酸が記憶と学習を司る (公財)サントリー生命科学財団 生物有機科学研究所主幹研究員 島本 啓子 グルタミン酸は昆布の旨味成分として有名なアミノ酸ですが、脳内では記憶や学習を 司る神経伝達物質としてはたらいています。それでは、美味しい昆布をたくさん食べれ ば頭が良くなるのでしょうか? スマートドラッグって効き目があるの? 脳細胞は 1 日 10 万個ずつ減るって本当? この講義では、神経伝達物質としてのグルタミン酸のは たらきを中心に、記憶・学習のメカニズムと精神活動に影響を及ぼす体内および体外の 化学物質について解説します。 第3回(平成 28 月 9 日 27 日)天然の化学物質が心と体を整える (公財)サントリー生命科学財団 生物有機科学研究所主幹研究員 島本 啓子 天然物って体に優しそう、化学物質って何だか怖そう、、、というイメージを持ってい ませんか? でも、普段食べている食品の成分も高価な漢方薬の効き目成分も化学物質 の一種なのです。この講義では、天然由来の毒から健康食品に入っている成分まで、天 然物化学の目から、体の調子を整える(あるいは壊す)生理活性物質を紹介します。 第4回(平成 28 年 10 月 4 日)これからの歯周病診断を考える 九州工業大学大学院工学研究科教授 竹中 繁織 歯周病は成人の80%以上が罹患しているといわれ、その発症には口腔内の歯周病原因 菌などの菌叢が複雑に絡んでいるといわれています。特に少子高齢化社会に突き進んで いる日本において歯周病の早期診断は重要となってきています。最近、歯周病は歯を失 うだけでなく糖尿病や心臓疾患などの全身疾患との関連が明らかになってきました。歯 周病原因菌に関連する菌の菌叢、歯周病原因菌に由来する毒素、炎症性サイトカイン等 が複雑に絡んで歯周病が発症するといわれています。この講義では、歯周病診断がこれ までどのように行われているのかについて概説します。また、私どもが九州歯科大学と 共同して開発している歯周病の早期に診断法についても紹介します。 第5回(平成 28 年 10 月 11 日)特別な酵素で癌を診断する 九州工業大学大学院工学研究科教授 竹中 繁織 現在、日本人の2人に1人が癌にかかり、3人に1人が癌で死亡しているといわれていま す。このような状況から癌に関する研究が加速され、現在次々と癌のマーカーとなりう る種々の酵素が発見されています。その中で寿命を支配する遺伝子と言われているテロ メアDNAに作用する酵素であるテロメラーゼは、細胞を不死化して癌に至らせるものと考 えられています。従ってテロメラーゼによるこの暴発を早期に検知できれば癌を未然に 防ぐことも可能になると期待されます。この講義では、テロメラーゼの働きについて概 説すると同時に私どもが九州歯科大学口腔外科や産業医科大学と共同で進めているテロ メラーゼによる癌の早期診断法について紹介します。 第6回(平成 28 年 10 月 18 日)病原体から身体を守る 大阪大学大学院理学研究科教授 深瀬 浩一 様々な病原体から身を守るために、多細胞生物は免疫系を発達させました。脊椎動物 は、自然免疫と獲得免疫という精緻な2重のバリアを有しています。これらの免疫の本 質は自己と非自己の認識であり、身体の中には病原体を検出するためのセンサーが存在 し、それらが病原体由来の分子構造を異物として高度に認識します。一方、免疫系の正 常な発達には、細菌などの微生物の刺激が重要であることが明らかになってきました。 この講義では、自然免疫の働きを中心に、分子レベルでの病原体に対する生体防御機構 について紹介します。 第7回(平成 28 年 10 月 25 日)糖鎖から健康を考える 大阪大学大学院理学研究科教授 深瀬 浩一 我々の身体を形成している細胞は様々な糖鎖に覆われており、細胞の機能の制御に働 いています。インフルエンザウイルスやノロウイルスなど多くのウイルスは細胞表層の 糖鎖を認識して細胞に感染します。ABO 式血液型にも糖鎖が関わっています。ABO 式 血液型反応は、糖鎖抗原と血液型抗体との相互作用に因るものです。なぜこのような血 液型が存在するのかよくわかっていませんでしたが、近年生体防御に関わっていること が明らかにされました。がんは日本人の死亡要因の1位です。近年、がんがどのように して発生するのか、分子レベルで次第に明らかになっています。がん化すると細胞表層 の糖鎖構造が変わることが知られており、がん診断のマーカーとして利用されています。 この講義では、がん関連糖鎖のがんワクチンへの応用を含めて、がんの新しい化学療法、 免疫療法について紹介します。 第8回(平成 28 年 11 月 1 日)日本酒から発酵の世界を知る 白鶴酒造株式会社 山内 隆寛 日本は世界一の長寿大国であり、その要因の1つに健康に良い食生活が挙げられ、欧 米では日本食ブームが起こっています。また、日本国内においても健康意識の高まりと ともに、味噌、醤油、日本酒などの伝統的な発酵食品が見直されています。発酵とは麹 菌や酵母菌、乳酸菌などの微生物の働きによって食品などを製造することです。例えば、 日本酒造りでは米のデンプンを原料とし、麹菌という微生物の酵素によってそのデンプ ンを糖に変換し(糖化)、さらに酵母菌という微生物が糖をアルコールに変換します(発 酵)。この講義では、日本酒の製造工程やそれに関わる微生物の働きを概説します。また、 様々なタイプの日本酒を製造するための微生物の制御についても触れます。 第9回(平成 28 年 11 月 8 日)日本酒の楽しみ方を考える 白鶴酒造株式会社 山内 隆寛 日本酒の主な原料は米のデンプンですが、麹菌や酵母菌の働きによって様々な成分に 変換され、複雑な味わいや香りが生まれます。このため、日本酒は温めても冷やしても 凍らしても楽しむことができます。さらに日本酒やその副産物である酒粕は化粧品とし て昔から利用されていた記録があり、日本酒に含まれる成分は、風味に影響するだけで なく健康面でも有益であることが知られています。この講義では、日本酒や酒粕に含ま れる成分を解説し、日本酒の飲み方や料理との相性について述べるとともに化粧品への 応用についても触れます。さらに、アルコール飲料の体への影響について説明し、健康 を考慮した適正飲酒によって日本酒を楽しむ方法を解説します。 第 10 回(平成 28 年 11 月 15 日)DNA テクノロジーで未来生活を改善する 甲南大学先端生命工学研究所所長 杉本 直己 遺伝子を形成する DNA は、私たちの生命情報の源です。最近、この遺伝子の診断に 関する報道が新聞やテレビで目立つようになってきました。この講義では、遺伝子診断 によってわかる DNA の並び方や構造が遺伝子の機能にどのように影響を及ぼすのかを 解説します。さらに、遺伝子と食品・化粧品・健康・病気などの関係をわかりやすく紹 介し、DNA や遺伝子をよく知ることによって、私たちの未来生活がどのように改善され るのかについて考えます。
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