電磁気学 I

<平成28年度前期>
内容:
8-2. 導体と誘電体(2)
導体と誘電体(2) (2) 誘電体の原子論的記述
電磁気学 I
9. コンデンサーのエネルギー 帯電したコンデンサーに蓄えられているエネルギー,
電界内のエネルギー密度
第10回
10. 誘電体の効果 誘電体を挟んだコンデンサー
(《参考》コンデンサーの構造,コンデンサーの種類)
井上 真澄
11. コンデンサーの充電 電気を貯める装置
8-2. 導体と誘電体(2)
導体と誘電体(2)
分極の種類
・電子分極: 原子を構成する電子雲の原子核に対する相対位置の変化に
基づく
誘電体の原子論的記述
帯電したコンデンサー(電源はつながっていない)の極板間に比誘電率
κ(εrとも書く)の誘電体を挿入 →極板間の電圧は1/κに減少
誘電体内で何が起こっているか考える
誘電体がないときの電界をE0とする
→ 誘電体が存在するときの電界は
E=
E0
κ
(26.22)
・原子分極: イオン結晶内の正および負イオンのように正に帯電した原
子と負に帯電した原子の相対的位置の変化に基づく
(∵ 平行平板コンデンサの極板間電位差 (dは極板間距離))
V = Ed
分子・原子レベルで考える。
電界中に誘電体を置く
・誘電体を構成する原子または分子の中の
正電荷・・・電界方向に変位
・ 〃 負電荷・・・電界と反対方向に変位
→ 誘電体の表面に電荷(片側に正電荷,反対側に負電荷)が現れる
・・・分極
・双極子分極: 有極性分子(永久的な電気双極子モーメントを持つ
分子)の双極子モーメントの配向に基づく
誘導された電荷が電界に与える影響
電荷密度σi, - σiが
誘起された誘電
体内に外部電界
と逆向きの誘導
電界Eiが生じる。
E=
式(26.23)
E = E0 − Ei
E=
(26.23)
∴
σ
= σ −σ i
κ
∴
σi = σ −
平行平板コンデンサーの極板間に誘電体がある場合
外部電界E0と極板上の自由電荷密度σ
σ
の関係・・ E =
0
誘電体内に誘導された電界Ei
と誘電体表面に誘起された電
荷密度σiの関係・・ Ei =
ε0
より
E0 σ
σ σ
=
= E0 − Ei = − i
κ κε0
ε0 ε0
→ 誘電体内の正味の電界の大きさは
E = E0 − Ei
E0
κ
式(26.22)
σ κ −1
=
σ
κ
κ
(26.24)
σi < σ
κ >1
→ なので
σi
ε0
9. コンデンサーのエネルギー
q=Q
q = 0 から まで充電するのに必要な仕事Wは
帯電したコンデンサーに蓄えられているエネルギー
帯電したコンデンサー・・・エネルギーを蓄えている
・導線などで電極間を接続 → 電荷は一方の電極から他方に流れる ・・ 放電
・空気中の放電では火花が飛ぶこともある。
・誤って両電極に触ると人体を通して放電 → 電気ショックを感じる
容量Cのコンデンサーを電池につないで充電することを考える。
・初期は帯電していない(極板間電位差ゼロ)とする。
・充電中の任意の時刻の電荷をq,充電後の電荷をQとする。
充電中のコンデンサに生じている電位差:
q
V=
C
W=
∫0
Q
q
1
dq =
C
C
∫0
Q
q dq =
Q2
2C
これはコンデンサーに蓄えられたポテンシャルエネルギーU
Q = CV を使うと
U=
1
Q2 1
= QV = CV 2
2C 2
2
(26.12)
これはコンデンサーの幾何学的形状に関わらず成立する。
電荷-qを持つ電極から電荷+qを持つ電極へさらにdqの電荷を移動させ
るのに必要な仕事:
dW = V dq =
q
dq
C
[例題26.5](帯電した2つのコンデンサーの再結線)
電界内のエネルギー密度
平行板コンデンサーで考える。
(E:電界の大きさ,A:極板面積,d:極板間距離 とする。)
A
d
V = Ed
C = ε0
容量C1およびC2(ただしC1 > C2)の2つのコンデンサーが同じ電位V0
に充電されているが,反対符号の極性に充電されている。充電したこ
れらのコンデンサーを電池から取り外し,図(a)に示すように結線(接
続)する。次に図(b)に示すように,スイッチS1およびS2を閉じる。
(a) 2つのスイッチを閉じた後の点a, b間の最終電位差を求めよ。
(b) 2つのスイッチを閉じる前後のコンデンサーに蓄えられる全エネル
ギーを求めよ。
と式(26.12) より
1
1 A
1
U = CV 2 = ε0 ( Ed )2 = (ε0 Ad ) E2
2
2 d
2
(26.13)
平行板コンデンサーで電界が占める体積はAd → 単位体積あたりのエネルギーuは
u=
U
1
= ε0 E 2
Ad 2
(26.14)
(b)
<解>
(a) 容量と電荷が分かれば電位
差が求められる。
スイッチを閉じる前のコンデンサーに蓄えられる全エネルギーU1:
1
1
1
U1 = C1V02 + C2V02 = (C1 + C2 )V02
2
2
2
スイッチを閉じた後のコンデンサーに蓄えられる全エネルギーUf:
スイッチを閉じる前: コンデンサーの左側の電
極にある電荷・・・
Q1 = C1V0 および Q2 = −C2V0
C −C 
=  1 2  U1
 C1 + C2 
2
スイッチを閉じた後:
コンデンサーの左側の電極にある全電荷・・・
Q = Q1 + Q2 = C1V0 − C2V0 = (C1 − C2 )V0
2つのコンデンサーの合成容量:
1
1
1
U f = C1V 2 + C2V 2 = (C1 + C2 )V 2
2
2
2
2
2

 C −C  1
1
C −C
2
2
= (C1 + C2 ) 1 2 V0  =  1
 (C1 + C2 )V0
C
+
C
C
+
C
2
2
 1 2   1
2 
C = C1 + C2
U f  C1 − C2 
=

U1  C1 + C2 
初期エネルギーに対する比で表すと
2
コンデンサーにまたがる最終電位差:
V=
Q (C1 − C2 )V0 C1 − C2
=
=
V0
C1 + C2
C1 + C2
C
→ 最終エネルギーは初期エネルギーより小さい
(減少分は電流発生に伴う導線でのエネルギー消費や空中への
電磁波放射となる。)
10. 誘電体の効果
コンデンサー上の電荷Q0は変化しない → 容量が変化
誘電体を挟んだコンデンサー
電荷Q0を持つ平行板コンデンサー
を考える(コンデンサーに電源は
つないでない状態)。
C=
Q0
Q
Q
= 0 = κ 0 = κC0
V V0 / κ
V0
∴ C = κC0
(26.15)
→ 極板間の領域を誘電体(比誘電率κ)で完全に満たすとき,
コンデンサーの容量はκ倍に増大する。
電圧計をつないで極板間の電位差
を見る。
平行板コンデンサ(極板面積A,極板間距離d)の場合,
誘電体なしの容量:
誘電体を入れないとき: 容量C0,極板間電位差V0とすると
Q
V0 = 0
C0
C0 =
ε0 A
d
誘電体を満たしたときの容量: C = κ
ε0 A
d
(26.16)
絶縁耐力
極板間に誘電体(比誘電率κ)を挿入すると電位差は1/κ倍に減少する。
V=
V0
κ
(V < V0 なので κ > 1)
誘電体にかかる電界がある限度以上に強くなると絶縁性を失って
放電する(絶縁破壊)
許容可能な最大の電界・・・誘電体の絶縁耐力 (表26.1参照)
《参考》コンデンサーの構造
《参考》コンデンサーの種類
固定コンデンサー・・誘電体の種類によりいろいろな種類
セラミック・コンデンサー
(高周波特性に優れる)
(a) チューブラーコンデン
サー
(c)電解コンデンサー
(b) 絶縁油を用いた
高電圧コンデンサー
フィルム・コンデンサー
(ポリエステル(マイラ),
ポリプロピレン,他を使用)
マイカ・コンデンサー
(マイカ(雲母)を使用)
(高精度,高安定)
[例題26.7](誘電体挿入前後に蓄えられているエネルギー)
電解コンデンサー
(大容量,極性が決まっている)
アルミ電解
コンデンサ
タンタル電解
コンデンサ
図(a)に示すように,ある平行
板コンデンサーを電池で充電し,
電荷Q0を与える。次にこの電池
を外し,図(b)に示すように極
板間に比誘電率κの板を挿入す
る。この誘電体を挿入する前後
にコンデンサーに蓄えられてい
るエネルギーを求めよ。
可変コンデンサー
バリコン・・・ラジオ,無線機の同調,など
トリマ ・・・水晶発振器の微調整,など
<解>
誘電体がないときのコンデンサーに蓄えられるエネルギーは
2
U0 =
使用上の注意:
Q0
2C0
電池を外して誘電体を挿入した後 → コンデンサー上の電荷は不変 容量はκ倍・・ C = κC0
蓄えられるエネルギーは
2
定格電圧(使用に耐えうる電圧)を守って使用。
2
Q
Q
U
U= 0 = 0 = 0
2C 2κC0 κ
最終エネルギーは初期エネルギ
ーよりも1/κ倍に小さくなる。
[<参考>誘電体をコンデンサーに挿入する際には引き込む力が作用する。]
11. コンデンサーの充電
電気を貯める装置
○電気二重層キャパシタ
一般に,異なる物質を接触させると,電荷の移動により電気二重層と呼
ばれる界面が生じて安定する。この現象を利用したのが電気二重層キャパ
シタ。
○ライデン瓶(1746年)[オランダのライデ
ン大学の名前に因んで命名]
(原理的には現在のコンデンサーと同じ)
電気を貯めるというより,電気を長
く保つための研究から生まれた。
静電気を貯めて実験などに利用でき
るようになった。
最初の実用的コンデンサー。
○コンデンサー
原理
構造
電気二重層は極めて薄い層
・一般的なアルミ電解コンデンサー(µFオーダー)の100万倍以上の静
電容量(Fオーダー)で,1000 F以上の大容量のものもできてきている
・重放電を繰り返しても物質劣化がない(二次電池のように電気化学反
応を利用するものではない)
(ライデン瓶のような)誘電体を電極で挟んだ構造で,小型化や
大容量化した種々の構造のものが作られてきた
電子回路,整流回路から電力系統まで様々なところで使用。
用途:携帯電話・ノートパソコンなどのメモリバックアップ電源,
プリンターやコピー機のウォームアップ電源, 無停電電源装置
電気自動車・ハイブリッド自動車の補助電源, など
まとめ
コンデンサーに蓄えられているエネルギー
Q2 1
1
U=
= QV = CV 2
2C 2
2
(26.12)
電界内のエネルギー密度
1
u = ε0E2
2
(26.14)
極板間に誘電体(誘電率κ)
極板間に誘電体(誘電率 )を挿入したコンデンサーの容量
(26.15)
C = κC0
(C0:元のコンデンサーの容量)
誘電体(誘電率κ)
誘電体(誘電率 )内の電界
E=
E0
κ
(E0:外部磁界)
(26.22)
→ 誘電体の分極
分極の効果
分極
そして・・・
コンデンサーの問題を考える際に重要なこと: コンデンサーの状
態を変えたときに変化しない量は何か
変化しない量は何かをしっかり意識すること。
変化しない量は何か