高耐酸化性及び抵抗温度係数が 可変な金属珪化物薄膜抵抗体 同志社大学 理工学部 電子学科 教授 吉門進三 1 •本技術により、酸化性雰囲気においても80 0℃程度まで長時間使用可能な薄膜発熱体の 製造が可能になる。 •本技術に付随して抵抗の温度係数を極めて広 い温度範囲においてマンガニンに匹敵する程 度まで小さくすることが可能である。 •温度係数が極めて小さい超精密抵抗素子を製 造することが可能である。 2 研究背景 抵抗発熱体は様々な分野で用いられている 超高温での使用 精密な温度制御 あらゆる雰囲気中での化学的な 安定性(酸化,還元,腐食等) 電気炉 拡散炉 真空蒸着装置 CVD装置 など すべての要件を満たす発熱材料はない 使用条件,各発熱体の特性を考慮して選択 3 研究の特徴 抵抗発熱体 薄膜化 薄膜発熱体 多くの利点が付加される ☆希少元素を材料とする場合でも少量の使用量 ☆発熱部の体積が小さいため昇降温が非常に高速 ☆発熱部の体積が小さいため省エネルギー ☆任意の発熱部を作製可能 ☆対象物表面に直接発熱部を作製するため高効率,精密な温度制御性 これまで真空中を使用条件として研究がなされてきた 本研究では大気中最大500℃程度を使用条件とした 4 新技術の基となる研究成果・技術 ケイ化モリブデン(MoSi2) ・良好な導電性 ・Bulk状で1800℃まで使用可能な発熱体が実用化されている ケイ化タングステン(WSi2) ・良好な導電性 ・充填率の高い正方晶系の結晶構造を持つ 優れた化学安定性 耐酸化性能においても MoSi2より優れていると思われる 正方晶炭化カルシウム構造 比較的安価,供給が安定なMoSi2に何らかの工夫を加えWSi2以上 の耐酸化性能を持たせることが目標 5 新技術の基となる研究成果・技術 Mo,Wは酸化され易い 大気中400℃程度では Siは殆ど酸化されることはない 先代の研究結果より 酸化反応に対してはSi 含有量が影響 Mo3Si Mo5Si3 弱 MoSi2 強 MoSi2あるいはWSi2にSiを添加 6 新技術の基となる研究成果・技術 (a)ヒーター構成 (b)基板上の薄膜 (c)熱負荷付き発熱体 7 新技術の基となる研究成果・技術 MoSi2 Mo:Si=1:2.2 Mo:Si=1:2.3 Mo:Si=1:2.6 Mo:Si=1:2.8 Mo:Si=1:3.0 Mo:Si=1:3.1 Mo:Si=1:3.2 1.15 standardized resistance 1.10 1.05 抵抗の温度依存性 大気中において定電圧を印加 それぞれの配合比について50∼350℃ までの温度係数を測定 MoSi2単体では正の温 度係数を持っている 1.00 正の温度係数を持つMoSi2に負の温度係 数を持つSiを添加 0.95 その配合比により温度係数を正の値,ほぼ 0,負の値にすることが可能であり,自在に 変化させることができる 0.90 50 100 150 200 250 temperature[°C] 300 350 8 新技術の基となる研究成果・技術 抵抗の温度係数 Mo:Si=1:2.2 温度係数:約-3.56x10-6 1/ºC temperature coefficient 200 0 at 常温∼200℃ -200 既存の製品との比較 標準抵抗器:マンガニン -400 温度係数:2.5x10-5 1/ºC at 0∼10℃ ほぼ0 1/ºC at 15∼30℃ -6 -600x10 2.0 2.2 2.4 2.6 2.8 3.0 composition ratio of Si to Mo 3.2 負 at 30℃∼ 配合比を調節すれば広い範囲で温度係数を0に近づけることが可能 9 新技術の基となる研究成果・技術 長時間耐久性:MoSi3.2vsMoSi2 抵抗値の経時変化 は非常に緩やか 6 450 400 Temperature[°C] resistance[Ω] 5 4 temperature(MoSi2) temperature(MoSi3.2) resistance(MoSi2) resistance(MoSi3.2) 350 改善後 300 3 抵抗値のばらつきはあ るものの,抵抗値の増 加は飽和している 発熱部となる薄膜は酸 化雰囲気中460℃を超 える高温下においても 耐えうる耐酸化性能を 有している 他の配合比でも耐酸化 性能が向上する傾向 WSi2にSiを添加した場 合も耐酸化性能が向上 する傾向 250 2 0 200 400 600 times[hour] 800 10 単一(不純物を含まない)金属の抵抗率 金属の導電率は結晶格子の周期性からのずれに依存 ずれる要因・・・・・・・ 格子原子の熱振動 ⎛ 3π ⎞ m * ni ⎛ 2 ⎞ T ⎟⎟ = ⎜⎜ ⎜ εF ⎟ τ ⎝ 4hk B ⎠ MnΘ D ⎝ 3 ⎠ Θ D Ex m* ρ= = 2 j e nτ 1 2 ⎛ m * ⎞⎛ 3π ⎞ m * ni ⎛ 2 ⎞ T ⎟⎟ ρ = ⎜ 2 ⎟⎜⎜ ⎜ εF ⎟ ⎝ e n ⎠⎝ 4hk B ⎠ MnΘ D ⎝ 3 ⎠ Θ D 2 11 合金(固溶体)の温度係数 金属の導電率は結晶格子の周期性からのずれに依存 ずれる要因・・・・・・・ 1)異種原子,原子空孔,イオン等による格子不整 2)格子原子の熱振動 1 電子とフォノンの衝突緩和時間τ 合金の抵抗率ρ τ = 1 τ1 + 1 τ2 ρ = ρ1 + ρ 2 = ρ1 + aT 1 dρ a a α= = = (常温あるいは273Κの抵抗率で規格化) ρ 0 dT ρ 0 ρ1 + aT0 合金の温度係数α 格子不整による抵抗率が大きい 温度係数が小さくなる 標準抵抗には主に合金が使われる 12 新技術の基となる研究成果・技術 characteristics of time-voltage characteristics of time-electric power 400 18V∼36Vまでの直流電圧を印加 室温から400℃までの到達時間 350 300 approach times[sec] 発熱体の応答性 400Wの投入電力で 約70sec 薄膜化の利点の一つ である昇降温の高速 性が示された。 熱負荷の到達時間を 測定しているので発 熱体自体の到達時間 はさらに短縮される。 250 200 150 100 20 100 25 voltage[V] 150 200 30 250 300 electric power[W] 35 350 400 大電力投入可能! 13 発明の名称 出願番号 公開番号 登録番号 発明者 出願人 : 発熱体及びその製造法 : 特願2007-76570 : 特開2008-243460 : 吉門進三、佐藤雅志 : 同志社大学 14 従来技術とその問題点 既に実用化されているものには、金属薄膜によ る薄膜抵抗体があり,特殊な製品で抵抗の温度 係数が±2ppm/℃の製品が存在するが、 ● 多くの製品の温度係数は±10ppm/℃以上 ● コストが高い ● 広い温度範囲で抵抗の温度係数が大きくな る等の問題がある。 15 新技術の特徴・従来技術との比較 温度係数が極めて小さい 固定抵抗器の抵抗体に応用 16 新技術の特徴・従来技術との比較 • 高耐酸化性を有する珪化物薄膜発熱体は本技 術により始めて実現される。 • 基本材料に添加する元素の量のみで抵抗の温 度係数を正負変化可能 • 極めて直線性に優れた抵抗−温度特性が得ら れる。広い温度範囲で抵抗率の温度係数を原 理的にゼロすることが可能である技術であり、 他に類似の技術は存在しないと考えられる。 • 基板への高付着性および高硬度薄膜 17 想定される用途 • 本技術の特徴を生かすためには、高精度・低コストの固定 抵抗器製造に適用することで抵抗の温度が小さいのメリッ トが大きいと考えられる。 • 上記以外に、本来の用途である抵抗発熱体として利用さ れる。高真空雰囲気で1300℃以上,大気中で800℃ま で使用可能。センサ等の熱的バイアスとして利用できる。 • また、抵抗の温度特性が極めて高い直線性を有するため に温度センサに利用できる。 • 発熱温度の応答性に優れているために,ナノインプリント 用の熱源としての利用が考えられる。 18 想定される業界 • 利用者・対象 固定抵抗器製造メーカー センサ製造メーカ • 市場規模 未定 19 実用化に向けた課題 • 現在、固定抵抗器に応用する場合,抵抗体材質, 基板材質,電極材質については確定。使用温度 範囲も従来のものより広い。課題としては,各種 抵抗値を広い範囲で設定する技術が確立してい ない。 • 今後、抵抗体薄膜の微細加工について実験デー タを取得し、高精度固定抵抗器に適用していく場 合の条件設定を行っていく。 • 実用化に向けて、相対抵抗値や相対抵抗温度係 数を小さくする技術を確立する必要もある。 20 企業への期待 • 未解決の広い範囲で抵抗値を設定するための薄 膜抵抗体の微細加工については、ドライあるいは ウエットエッチングプロセス技術により克服できる と考えている。 • 上記エッチングプロセスおよび抵抗値のトリミング 技術を持つ、企業との共同研究を希望。 • また、各種センサを開発中の企業、薄膜抵抗体を 用いた加熱技術分野への展開を考えている企業 には、本技術の導入が有効と思われる。 21 本技術に関する知的財産権 • • • • 発明の名称 出願番号 出願人 発明者 :薄膜発熱体及びその製造法 :特願2007−79725 :学校法人同志社 :吉門進三、佐藤雅志 22 産学連携の経歴(任意) • 2001年-2006年 JST知的クラスタ創成 23 お問い合わせ先 同志社大学 コーディネーター 平尾 正三 TEL 0774ー65ー6223 FAX 0774−65−6773 e-mail [email protected] 24
© Copyright 2024 ExpyDoc