(様式3) 氏 名 :山田 一雄 論 文 名 : Violation of the Fluctuation

(様式3)
氏
名
:山田
論 文 名
:
区
:
分
一雄
Violation of the Fluctuation-Response Relation for the Langevin
model in the Non-equilibrium Steady State
(非平衡定常状態におけるランジェバンモデルの揺動応答関係の破れ)
甲
論
文
内
容
の
要
旨
粒子流などの巨視的な流れが存在しかつ系の状態が変化しないものは非平衡定常状
態と呼ばれ、その熱力学的性質が盛んに研究されている。特に、非平衡定常状態のラン
ジュバンモデルが詳しく調べられている。ランジュバンモデルは、ランジュバン方程式
によりブラウン粒子の運動を記述する。このモデルの具体例として、水中にコロイド粒
子を浮かべたコロイド分散系などが挙げられる。ランジュバンモデルには2つのモデル
があり、一つはアンダーダンプモデルと呼ばれ、粒子の運動量と位置が時間変化するモ
デルである。もう一つのモデルはオーバーダンプモデルと呼ばれ、運動量の時間変化を
無視し、位置のみを考えるモデルである。
本研究では、この非平衡定常ランジュバンモデルで、「揺動応答関係式の破れ」につ
いての新しい関係式を導出することを目的とする。揺動応答関係式は、摂動を加えた時
の系の応答を平衡のゆらぎと結びつける公式だが、流れが大きい非平衡状態で破れる。
「揺動散逸関係の破れ」は、測定できる物理量しか含まれていないので、実験で測るこ
とができる。この量は平衡状態ではゼロになる非平衡系特有の物理量である。
この目的のために、具体的な系として、以下の二つの系を考えた。一つは非平衡定常
ランジュバンモデルに力学的摂動を加えた系である。この系において、粒子の速度の揺
動応答関係式の破れについての新しい公式を得ることを目標とした。もう一つは、力学
的摂動だけでなく系と接した熱浴の温度を変える事により生じる熱的摂動を加えた系
である。この系において、揺動応答関係式の破れについての新しい関係式を得ることを
目標とした。
まず、力学的摂動が加えられた非平衡定常状態ランジュバン系において Harada-Sasa
公式についての新しい関係式を導出した。Harada-Sasa 公式は、ブラウン粒子の速度
の力学的摂動に対する揺動応答関係式の破れを定常熱流と結びつける。Harada-Sasa
公式には、アンダーダンプ・オーバーダンプモデルの 2 つの場合で異なる表現がある。
我々が導いた公式は、その両方を極限として含んでいる。解析に際し、アンダーダンプ
ランジュバンモデルに対し、粒子の運動量の緩和時定数が系のほかの時定数よりも十分
小さいと仮定した。その時定数について特異摂動法により速度のゆらぎと線形応答の差
を展開することで、新しい公式を得ることができた。この公式は、ある極限でアンダー
ダンプモデルの、別の極限ではオーバーダンプモデルの Harada-Sasa 公式に帰着する。
また、得られた公式から、先行研究で知られていなかった時間領域でも Harada-Sasa
公式が成り立っていることが分かった。さらに、この手法を場のランジュバン系にも適
用し、場のオーバーダンプモデルにおける Harada-Sasa 公式の新しい表現を導出する
ことができた。
次に、力学的摂動と熱的摂動を同時に加えた非平衡定常ランジュバンモデルにおける
関係式を導出した。注目する物理量は、各摂動に対する粒子の速度と熱流の揺動応答関
係式の破れである。系が非平衡定常状態にあるとき、熱的摂動に対する速度についての
揺動と応答の差と、力学的摂動に対する熱流についての揺動と応答の差が等しくなるこ
とが分かった。この関係は一般に相反関係と呼ばれ、平衡状態の場合、熱的摂動に対す
る速度の線形応答関数と、力学的摂動に対する熱流の線形応答関数との間でこの関係が
成り立っている。非平衡定常状態では線形応答関数の代わりに揺動と応答の差について
相反関係が成立することが分かった。導出には Furutsu-Novikov-Donsker 公式及び新
たに導いた拡張 Furutsu-Novikov-Donsker 公式を用いた。
以上により、本研究の成果として 2 つの新しい関係式を得ることができた。それぞれ
の関係式に含まれる物理量はすべて実験的に観測でき、実験系で検証できる。また、今
後の展望として、これらの関係式を、ランジュバン系よりも一般的なハミルトン系など
へ拡張できるかを調べていきたい。