本株ファンドマネージャーの視点

2016年9⽉12⽇
⽇本株ファンドマネージャーの視点
『本当のアクティブファンドを選ぶ⽅法 〜当たりくじを発掘できるマネージャーを探そう!〜』
※このレポートでは、⽇本株ファンドマネージャーが注⽬しているトピックなどを毎週お届けします。
株式ポートフォリオを分析、管理するツールとして⽇本株を運⽤する機関投資家の多くが採⽤しているのが、
マルチファクターモデルのMSCI社のバーラ⽇本株式モデルです。ポートフォリオの投資収益を分析する際、
CAPM(資本資産価格モデル)は市場全体の動きとβに依存するシングルファクターモデルですが、多くの
ファクターを⽤いることで説明⼒を上げようとするのがマルチファクターモデルです。
【当モデルにおけるファクター】
ボラティリティ
時価総額
順・逆張り
β
レジデュアルボラティリティ
サイズ
サイズ非線形
流動性
プロスペクト
長期リバーサル
短期リバーサル
モーメンタム
インダストリーモーメンタム
はJPE3からJPE4で新たに採用されたもの。
バリュー
成長性
マクロ経済
クオリティ
益利回り
バリュー
センチメント
グロース
海外経済感応度
マクロ感応度
日経225採用指標
財務レバレッジ
マネジメント
利益クオリティ
※MSCI社資料をもとに大和住銀投信投資顧問が作成
バーラ⽇本株式モデルに採⽤されるファクターにはスタイルファクター、インダストリーファクター、マー
ケットファクターがありますが、私が特に重視しているのが、上表のスタイルファクターです。
バーラ⽇本株式モデル(JPE4)は、2013年に公開されました。今回の変更では重要な変更が⾏われていま
す。前バージョンのJPE3では⾒えづらかったマネージャーのリスクとリターンの源泉を捉えるために、上
記のように多くの新ファクターが採⽤されました。これにより決定係数が上昇し、ファクターによりポート
フォリオの透明性と説明⼒を向上させることができました。
このJPE4の中で私の運⽤者としての感性にもっとも響いたのが、「プロスペクト」ファクターです。この
ファクターはバーラ社の資料によると、宝くじのような株価の動きを捉えるものだそうです。具体的には以
下のデータを使ってファクターエクスポージャーやリターンを計算します。
・過去5年(60か⽉)の⽉次リターン歪度
・過去1か⽉の最⼤⽇次リターン
この配分の仕⽅はブラックボックスでバーラ社のノウハウですが、個別銘柄で歪度(わいど)を計算してみ
ると、プロスペクトファクターと⽅向性が⼀致しているため、歪度の影響度の⽅が⾼いと思われます。歪度
は統計学の⾔葉で、分布がどれくらい⾮対称なのか分布のゆがみ具合を表します。これを具体的な銘柄で⾒
てみます。図1は8⽉末時点から60か⽉分の⽉次リターンを横軸、縦軸に回数をとってグラフにしたもので
す。これを⾒ると分布の⼭が左にあり、右側に⻑い裾野を持っているのがわかります。
なぜか突然、⽉次リターンが+0.5(50%)上昇することがある⼀⽅、アベノミクス以降の上昇相場を考え
るとたいていの⽉はその他のTOPIX銘柄と⽐べてさえないパフォーマンスであったため、ゼロ近辺に⼤きな
⼭があります。任天堂のこの図の歪度は1.32と計算され、正の歪度を持つことがわかります。
歪度の数字が⼤きい場合、このように通常は冴えませんがたまに⼤きなプラス収益をあげたことを意味し、
めったに当たらないが当たると⼤きな収益となる宝くじに例えて、「宝くじ効果」と呼びます。
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■当資料は情報提供を⽬的として⼤和住銀投信投資顧問が作成したものであ
り、特定の投資信託・⽣命保険・株式・債券等の売買を推奨・勧誘するもの
ではありません。■当資料は各種の信頼できると考えられる情報源から作成
しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。■当
資料に記載されている今後の⾒通し・コメントは、作成⽇現在におけるレ
ポート作成者の判断に基づくものであり、事前の予告なしに将来変更される
場合があります。■当資料内の運⽤実績等に関するグラフ、数値等は過去の
ものであり、将来の運⽤成果等を約束するものではありません。■当資料内
のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。
大和住銀投信投資顧問株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第353号
加入協会 一般社団法人投資信託協会 一般社団法人日本投資顧問業協会
2016年9⽉12⽇
この任天堂のプロスペクトファクターのエクスポージャー(その銘柄のファクターリスクへのさらされ具
合)は、-2.13とバーラモデルで計算されていました。エクスポージャーはゼロの時ベンチマークに中⽴なこ
とを意味し-0.50を超えると相当⼩さな値といえます。バーラのプロスペクトファクターは歪度の符号にマイ
ナスをかけるため、正の歪度(右に裾野が⻑いこの任天堂のような⽉次パフォーマンス)のファクターエク
スポージャーはマイナスとなります。
(図1)
任天堂の株は先週20%近く急騰しました。上記のプ
ロスペクトのファクターエクスポージャーは急騰前
にシステムからとったもので、まさにバーラが事前
に⽰した宝くじが⼤当たりくじになったのです。実
は同じ週に爆騰したDeNAも-1.02となっていたなど
各銘柄のプロスペクトファクター数値をじっと⾒る
と、私のような他のファンドマネージャーと異なる
タイムホライズンと銘柄評価に注⼒するファンドマ
ネージャーにはお宝だらけです。ただ普通のアク
ティブマネージャー、例えば今年前半の内需株の上
昇モメンタムについていく⼈にはお宝は⾒えないと
思います。順張り系の発想の⼈は⽉次リターンの分
布が、任天堂と反対に右側に⾼い⼭を持つ銘柄を好
みます。そのような銘柄のプロスペクトファクター
はプラスとなり、ポートフォリオ全体の特性もゼロ
からプラスになります。
任天堂のような当たりくじを⽬のあたりにすると、プロスペクトファクターがマイナスのものばかりを持て
ば良さそうな気がするかもしれません。ここで重要なのは、ただ宝くじ銘柄を買っていればよいわけではな
いことです。宝くじはアップサイドポテンシャルの⼤きい銘柄候補であるだけで、そこから本物(当たりく
じ)を⾒つけなくてはなりません。ここで難しいのは多くの投資家が良いと思っている情報は既に株価に織
り込まれていることです。例えば予想が⼀番簡単な直近業績の⽅向性などは、ある程度株価に織り込まれて
いますし、緩やかにパフォーマンスに反映されています。
単なる宝くじを当たりくじに変えるのが、ボトムアップリサーチを⾏うアクティブファンドマネージャーで
す。ところがアクティブマネージャーにも2種類います。四半期の業績モメンタムや短期カタリストを判断す
るためにアナリストの意⾒や会社とミーティングを持つ短期志向のマネージャーと、短期業績より中⻑期の
会社の変化や市場のイノベーションを予想するために企業とミーティングを持つ中⻑期指向のマネージャー
です。当然当たりくじを発掘しようとしているのは、中⻑期指向のファンドマネージャーです。私の感覚で
いうと、7⽉、8⽉、9⽉に⼤きくアンダーパフォームしているマネージャーはバリュエーションより、株価
と業績モメンタムに注⼒するマネージャーで、前者のマネージャーといえます。
ただファクターリターンをみると以下のとおり⻑期ではややプラスとなります。この点を何⼈かの専⾨家と
議論しましたが、銘柄の値動きのうちマーケットの動きと関係ない部分である個別銘柄リターン(スペシ
フィックリターン)との関係を考える必要があります。当たりくじとなった場合直観的にもわかる通り、そ
の成果はスペシフィックリターンとなって現れます。
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■当資料は情報提供を目的として大和住銀投信投資顧問が作成したものであ
り、特定の投資信託・生命保険・株式・債券等の売買を推奨・勧誘するものでは
ありません。■当資料は各種の信頼できると考えられる情報源から作成してお
りますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。■当資料に記
載されている今後の見通し・コメントは、資料作成時点におけるレポート作成者
の判断に基づくもので、事前の予告なしに将来変更される場合があります。■
当資料内の運用実績等に関するグラフ、数値等は過去のものであり、将来の
運用成果等を約束するものではありません。■当資料内のいかなる内容も、将
来の市場環境の変動等を保証するものではありません。
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金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第353号
加入協会 一般社団法人投資信託協会 一般社団法人日本投資顧問業協会
2016年9⽉12⽇
実はファクター特性を反映する単回帰で計算すると、プロスペクトのファクターリターンはマイナスとなり、
プロスペクトファクター⾃体のネガティブエクスポージャーをとることもファンドにポジティブといえます。
またバーラによる重回帰のプロスペクトファクターの1995年以降の年率平均リターンは1%台であり、詳し
く⾒るとITバブルの1999年と2008年のリーマンショック前後、アベノミクスの2013年に⼤きく上昇した以
外はフラットなファクターです。直近では2014年-1.15%、2015年+1.40%、2016年-0.18%とこのファ
クターは単純にポジティブエクスポージャーをとればアウトパフォームできるわけではないといえます。そ
の裏に秘められている⼤きなスペシフィックリターンをとるためにあるファクターなのです。(ファクター
リターンはMSCI社データをもとに当社作成)
プロスペクトが⾃然体にネガティブなエクスポージャーになり、かつ5年といった⻑期間で安定した超過収益
を稼げるファンドは、当たりくじを発掘できる能⼒が⾼いといえます。集中投資や個性の強い投信などでは
個別銘柄リターンが⼤きすぎて意味が薄れますが、プロスペクトファクターの⽰唆するファンド特性と、そ
のファンドの⻑期のベンチマークに対する超過収益は、個別銘柄選択を標榜するアクティブファンドマネー
ジャー能⼒の評価への、新しい⼀つのメルクマールといえると思います。
⼈⼯知能での運⽤が注⽬されていますが、このファクターは中⻑期の将来予想を意識した地道なリサーチ情
報をインプットしないとワークしないため、AI運⽤では直接再現するのは不可能です。バーラモデルのJPE
4で新た採⽤されたセンチメントファクターはアナリストという概念を⼊れた点で斬新なファクターです。
アナリストのレーティングや業績情報の変更を反映するファクターですが、これは「変更」という事実に基
づくファクターのため、AIでも⼈間以上の精度とスピードを持って計測が可能です。AIで再現できないプロ
スペクトファクターはまさにアクティブファンドマネージャーの存在意義を⽰しているファクターなのです。
ところで私のポートフォリオはというと、当たりくじかわかりませんが誰よりも宝くじはいっぱい⼊ってい
ます!
株式運⽤部
永⽥ 芳樹
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