EU Trends 朝令暮改のBOE 発表日:2016年9月16日(金) ~追加利下げを急ぐ理由は見当たらない~ 第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 田中 理 03-5221-4527 ◇ 英国民投票後の景気を下支えするため8月に緩和策を決定したBOEは、今回追加緩和を見送った。 緩和決定後の金融市場の反応が想定以上で、足許の景気指標も予想外に底堅い。政策委員の多数意見 や市場コンセンサスは11月会合での追加利下げを見込んでいるが、筆者は決め手不足で年内は利下げ 見送りと予想する。ただ、8月に開始した国債買入れ策は来年1月中に終了期限を迎えるため、11月 や12月の会合で買い入れ延長が示唆される可能性が高い。 ◇ 近く開始予定の社債買い入れ策の詳細が発表され、外国法人でも英国内で重要な経済活動を行う会社 が発行する投資適格のポンド建て社債が対象となることや、業種別ウェイトに基づいて購入すること が発表された。 英イングランド銀行(BOE)は15・16日の金融政策委員会(MPC)で、①8月に史上最低水準に引 き下げた政策金利を0.25%で据え置くこと、②8月に再開した向こう6ヶ月で600億ポンドの国債買い入れ を継続すること、③9月に開始予定の18ヶ月で100億ポンドの社債買い入れを続けることを、全会一致で決 定した。 同時に発表された声明文や議事要旨によれば、BOEは8月の緩和パッケージが、短期・長期金利の低 下、社債スプレッドの縮小、社債発行の増加、株価の上昇など、想定以上の効果を発揮していると評価。 足許で金利がやや反転しているものの、これは最近発表された英国の経済データが全般に予想以上に強か ったことや、他国の金利上昇の裁定が働いたことによるものと判断している。また、国民投票後の各種マ インド統計の急激な落ち込みは予期せぬ投票結果への過剰反応であり、その後のリバウンドが想定通りと しながらも、足許の経済指標の多くが、8月の物価レポートで示したBOEの経済見通しよりも幾分強い ことを認めた。その結果、2016年後半の景気減速は8月の見通しと比べて小幅なものにとどまるとの判断 を示した。国民投票後の景気見通しの全体像は8月の見通し策定時と比べて大きく変わっていないが、今 後の経済指標などを精査し、次回11月の物価レポートで再評価する方針を示した。そして、11月の見通し アップデート時に8月の見通しと全体像が大きく変わらないのであれば、年内のMPCで政策金利を“事 実上の下限”に向け一段と引き下げることを、多くの政策委員が支持していると明らかにした。事実上の 下限とは「ゼロ%に近いがそれを上回る水準」と説明しており、0.10%や0.05%程度と考えられる。 このように政策委員の多数意見は今のところ年内の追加利下げ方針を維持しており、市場参加者のコン センサスも11月3日のMPCでの追加緩和予想を堅持しているようだ。ただ、11月3日までに入手可能な 経済指標は、見通しの前提数字のカットオフ日を考えれば1ヶ月分の月次指標と7-9月期のGDP速報値と 言ったところ。11月下旬に予定される秋の予算演説で財政面からも景気をサポートする方針が示される可 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 1 能性が高く、筆者は11月3日の段階で追加緩和を決定するには材料不足との見方を強めている。但し、8 月に開始した国債の買い入れ策は6ヶ月間を予定しており、来年1月中には終了期限を迎える(その後も 再投資は継続する)。これまで1ヶ月に1回の頻度で開かれたMPCは、関連法の成立に伴い、今後は1.5 ヶ月に1回の頻度(年間8回)に変更される。今後のMPCの開催日程を確認しておくと、年内は11月3 日(物価レポート発表)と12月15日、来年は2月2日(物価レポート発表)、3月16日、5月11日(物価 レポート発表)、6月15日・・・。来年2月2日のMPCを待っていては、国債の新規買い入れが停止さ れるとの観測から、金融環境が引き締め方向に傾く可能性があり、年内のMPCで何らかの買い入れ延長 方針が示されよう。他方、社債買い入れ策は2018年3月までを予定しており、決定を急ぐ必要はない。さ らなる緩和強化が必要になった場合、筆者は①15~20bpsの追加利下げ、②社債の買い入れ強化、③国債の 買い入れ強化の順に決定されると考えている。 なお、BOEは9月12日に社債買い入れプログラムの詳細を発表している。買い入れ対象は、投資適格 級のポンド建ての非金融社債で、英国内の経済活動に重要な貢献をしている企業が発行したもの。「英国 経済への重要な貢献をしている企業」とは、英国法人のほか、外国法人であっても、英国内で多くの労働 者を雇ったり、本部機能を置くところ、多くの売上を計上し、多くの顧客を抱え、多くの事業拠点を構え る企業などが含まれ、こうした諸要素を考慮し、BOEのリスク管理部門が判断する。購入対象となる社 債のリストはBOEのウェブサイト上で公表されており、今後1ヶ月毎に更新される。現在、適格社債の 簿価総額が約1,100億ポンド、時価総額が約1,500億ポンドで、このうち100億ポンドを18ヶ月間で購入する。 また、適格社債の業種別ウェイトに基づいて購入する方針で、業種毎の購入実績や最新の業種別ウェイト も1ヶ月毎に公表する(表)。単月では業種別ウェイト通りの購入になるとは限らないと説明している。 (表)BOEの社債買い入れプログラムの業種別シェア 業種 簿価総額 (億ポンド) 電力 耐久消費財 鉱業・運輸 通信 非耐久消費財 水道 ガス エネルギー 不動産 シェア (%) 270 170 160 140 130 90 80 40 20 1,100 24.5 15.5 14.5 12.7 11.8 8.2 7.3 3.6 1.8 100.0 出所:BOE資料より第一生命経済研究所が作成 以上 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2
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