Economic Indicators 定例経済指標レポート

Market Flash
利上げキャンペーン開始
2016年8月17日(水)
第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 藤代 宏一
TEL 03-5221-4523
【海外経済指標他】
・7月米鉱工業生産は前月比+0.7%と2ヶ月連続の増産。鉱業(+0.7%)、公益(+2.1%)、製造業(+
0.6%)が揃って増産となり、3ヶ月前比年率でみたモメンタムは+1.4%と9ヶ月ぶりにプラス圏に浮上。
前年比では11ヶ月連続のマイナスと、水準は物足りないが、エネルギーセクターが最悪期を脱したとみら
れることに鑑みるとダウンサイドリスクは後退している。ISM製造業景況指数の50回復とも整合的だ。
・7月米住宅着工件数は前月比+2.1%、121.1万件と市場予想(▲0.8%)に反して増加。戸建てが+0.5%、
集合住宅が+5.0%と共に堅調で3ヶ月平均は117.5万件(+1.3%)と緩やかな増加基調にあり、昨年来の
レンジ上限を突破した。他方、同時に発表された着工許可件数は115.2万件と6月から変わらず。3ヶ月平
均でみても伸びが一服しているが、既発表のNAHB住宅市場指数が好調な領域にあることに鑑みると減速は
一時的なものと判断される。
130
米鉱工業生産
(千件)
2300
住宅着工(許可)件数
2100
鉱業
120
1900
1700
110
1500
100
許可
1300
製造業
1100
90
900
80
700
着工
500
70
05 06 07 08 09 10 11
(備考)Thomson Reutersにより作成
12
13
14
15
05 06 07 08 09 10 11 12 13
(備考)Thomson Reutersにより作成 3ヶ月平均
16
14
15
16
・7月米CPIは前月比±0.0%、前年比+0.8%と6月(前年比+1.0%)から減速。前月比ではエネルギー
価格が▲1.6%と5ヶ月ぶりに下落したほか、食料が±0.0%と鈍かった。それらを除いたコア物価は前月
比+0.1%、前年比+2.2%と過去数ヶ月のレンジ内で推移。コア財が前月比▲0.1%と5ヶ月連続でマイナ
スとなる一方、コアサービスが+0.2%の伸びを確保。牽引役の家賃は前年比+3.8%へと伸びを高めた。
コアCPIの底堅さはFEDの利上げを正当化する一因になるとはいえ、FEDが重視しているのはPC
Eデフレータであり、それが2%に近づかない限り利上げは急がないだろう。
・7月英CPIは前月比▲0.1%、前年比+0.6%と過去数ヶ月のレンジ内で推移。食料・エネルギー・アル
コール(▲2.7%→▲2.0%)の下落幅が僅かに縮小した一方、サービス物価(+2.8%→+2.7%)がやや
減速。コア物価は+1.3%へと6月から0.1%pt伸びが縮小。
(前年比、%)
5
米
(%)
CPI
6
英 CPI
5
4
4
コア
3
3
2
1
1
0
0
総合
-1
-1
10
11
12
13
(備考)Thomson Reutersにより作成
コア
2
14
15
16
10
11
12
13
14
(備考)Thomson Reutersにより作成
総合
15
16
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】
・前日の米国株は反落。高値警戒感が燻るなか、FED高官の相次ぐタカ派発言を受け、高配当株を中心に
売り優勢。欧州株も全面安。WTI原油は46.58㌦(+0.84㌦)へと反発。OPECと非加盟国による増産凍結
協議が再開するとの観測が、ここもとの原油相場を支えている。
・前日のG10 通貨はUSDが全面安。USD/JPYは日経平均株が1.6%下落するなどリスクオフ下でJPYが買われ
100割れとなった後、米指標がまずまずの結果になると反発に転じ、その後はダドリーNY連銀総裁の発言を
受けて100前半まで戻した。
・前日の米10年金利は1.575%(+1.7bp)で引け。米債市場はアジア時間のリスクオフのなかで堅調に推移
した後、ダドリー総裁の発言を受けて一気に売り優勢に転じた。欧州債市場は総じて軟調。米債下落に追
随し、ドイツ(▲0.030%、+4.4bp)がプラス圏に接近したほか、イタリア(1.117%、+5.9bp)、スペ
イン(0.981%、+4.4bp)が軟調。リスクオフに脆弱なポルトガル(2.840%、+14.8bp)は大きく売られ、
3ヶ国加重平均の対独スプレッドはワイドニング。英国(0.585%、+5.4bp)も金利上昇。
【国内株式市場・アジアオセアニア経済指標・注目点】
・日本株は欧米株安に追随して下落して寄り付いた後、日銀のETF購入が意識されたこともあってプラス
圏を回復(10:15)。
・昨日、ダドリー・NY連銀総裁は「一段の利上げが適切となる時期が近付いている」、「9月会合での利
上げの可能性はある」と発言。同総裁はイエレン議長に変わってFEDのコンサンサスを市場に伝える役
割を担っており、このことから判断するとFEDは“利上げキャンペーン”を開始したと判断される。ま
た、同総裁は「1.5%という米10年債利回りは、当局の目標に向けて前進しつつあると考えられる環境にお
いてはかなり低い水準だ」として、異例とも言える市場価格の水準論に言及。一向に利上げの織り込みが
進まない債券市場に警鐘を鳴らす意図が読み取れる。更にこの日は中道派の代表格であるロックハート・
アトランタ連銀総裁も「9月利上げの可能性を排除しない」、「今年2回の利上げ、依然として想定可能」
と発言。ダドリー総裁に歩調を合わせる格好で利上げキャンペーンを展開した。
・こうした動きは6・7月FOMCにおける利上げの地均しの意図があった5月から6月にかけてのパターンと
酷似している。当時はBREXIT騒動や5月雇用統計のネガティブ・サプライズ(NFP速報値が僅か3.8万人
増加)によってキャンペーンは終了したが、今回は市場が落ち着きを保つという留保条件付きながら、キ
ャンペーンが継続・強化される公算が大きい。今後は、同じくイエレン議長の代弁役を担うウィリアム
ズ・サンフランシスコ連銀総裁がキャンペーンに加わると予想されるほか、ハト派のエバンス・シカゴ連
銀総裁もこれに同調するとみられる。目先的なビッグイベントとして注目されている8月26日のイエレン
議長のジャクソンホール講演で明確なシグナルが発せられることはないとみられるが、上記FED高官に
よる利上げキャンペーン展開を受けて市場では9月FOMCの利上げ織り込みが進もう。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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