[博士論文本文の要約] 地産地消による持続可能な農業の展開に関する研究

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Title
【博士論文本文の要約】 地産地消による持続可能な農業の展開に関
する研究
Author(s)
青木, 美紗
Citation
奈良女子大学博士論文, 博士(学術), 博課 乙第161号, 平成27年11月
26日学位授与
Issue Date
2017-11-26
Description
博士論文本文はやむを得ない事由により非公開。 【内容の要旨及び
審査の結果の要旨】 http://hdl.handle.net/10935/4299
URL
http://hdl.handle.net/10935/4300
Textversion
none
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博士学位論文要約
地産地消による持続可能な農業の展開に関する研究
―大阪府東大阪市「ファームマイレージ2運動」を事例に―
2015 年 11 月
青木 美紗
経済のグローバル化が加速する中,食料生産・消費において食の安全,環境問題,農村コ
ミュニティの崩壊,地域社会の疲弊などの様々な問題が生じたことにより,環境・経済・社
会の三側面において持続可能な農業を目指す動きが世界各国で見られるようになってきた.
持続的な食料供給を実現するためには,経済的競争力をつけるために農業の大規模化を図
るという方向性に加えて,地域経済や地域の環境維持に貢献する小規模農業を,食の安全だ
けでなく地域の経済や文化,環境なども視野に入れながら支える仕組みの構築が重要であ
ると考えられる.そこで本論文では,農産物直売所や朝市を中心に,地域内で生産された食
の安全や環境に配慮した認証農産物を活用し,地域の消費者に農業や農地に関する情報を
提供しながら,地域内消費を拡大させている大阪府東大阪市の「ファームマイレージ 2 運動」
に着目した.そして,その仕組みの成立過程,消費者の特性および生産者への影響という三
つの視点から考察することによって,食の安全を確保する取組みと食と農をつなぐ取組み
を融合し,食の安全・健康・環境・地域経済を考慮した持続可能な農業を展開するための要
素を追究することを全体の課題とした.
第 1 章では,わが国における地産地消の展開と現状について考察し,持続可能な農業の推
進策の一つとして導入されてきた食の安全や環境に配慮した認証制度について,国レベル
の施策と地方自治体レベルでの取組みについて分析した.その結果,地産地消は生産者と消
費者をつなげ地域経済の活性化に寄与していること,また農産物認証制度は食の安全の確
保や農産物の地域ブランド化に一定の効果があることがわかった.しかし,地産地消と農産
物認証制度が,食の安全の確保,環境負荷の軽減,農業・農村地域の活性化という共通の目
的を有しながらも,両者がうまく連結されずに実践されてきたことによって,食の安全や環
境に配慮した地域農業を地域で支える仕組みへと深化させるに至っていないことが明らか
となった.
第 2 章では,大阪府における食の安全および環境に配慮した農産物の認証制度である「大
阪エコ農産物認証制度」の制度内容と経過状況および課題について,資料と先行研究そして
市町村の取組み内容から考察した.その結果,以下の三点が明らかになった.一点目は,流
通業者や消費者の「大阪エコ農産物」に対する認知度が低く,また,購入意志はあっても購
入していないのが実情であり,流通・消費の拡大には至っていないということである.二点
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目は,生産者が認証を取得する動機として,青果物の付加価値化や販売額の増大など,認証
農産物を販売することで得られる経済的メリットを挙げている割合が高いことである.そ
して三点目は,認証件数,認証申請者数,作付面積やそれらの推移が,市町村毎に大きく異
なるということである.
第 3 章では,本論文が研究対象とする大阪府東大阪市の概要を述べた後,東大阪市におけ
る認証農産物を活用した「ファームマイレージ 2 運動」について,活動概要,成立過程およ
び認証農産物生産と販売の変化について考察した.その結果,取組み内容の特徴としては,
先進事例として着目されていた滋賀県や大阪府内の他市における取組みとの共通点と相違
点があることが明らかとなった.共通点としては,行政と農協,あるいは生産者が,認証農
産物の生産をどのような方針で推進していくのかについて,意思統一を図っていたことで
ある.また相違点としては,東大阪市以外の取組みでは,行政による直接支払制度や生産技
術支援,農協による流通業者との交渉といった,生産面と流通面の支援に重点がおかれてい
たが,東大阪市の取組みでは,市内産認証農産物の購入特典を設けることで消費者に重点を
置き,さらに生産者が公平に参加できる環境が整備されていることが明らかとなった.
第 4 章では,
「ファームマイレージ 2 運動」において,一定の購入金額に対する割引と地
域の農地を守ったことに対する感謝状の贈呈という二点を含む購入特典を利用している消
費者を対象にアンケート調査を実施し,消費者の市内産認証農産物に対する購入動機と実
際の購買行動を分析した.分析の結果,購入特典をより多く利用する消費者は,比較的世帯
所得が低い世帯に属する食の安全を重視した消費者であり,直売所の利用頻度も高く,消費
青果物のほとんどを直売所で購入している消費者であることが明らかとなった.また,
「大
阪エコ農産物」に対する消費者の認知度は,活動開始後に高まっており,一部には農地に関
心を寄せる消費者も現れていることが示された.これにより,地域農業や認証農産物に対す
る関心を高めながら,食の安全や環境に配慮した地場産認証農産物を購入できる環境が整
えられたことが示された.
第 5 章では,
「ファームマイレージ 2 運動」の主な活動拠点となっている JA グリーン大阪
の農産物直売所に着目し,同直売所の 2007 年から 2011 年の POS(販売時点情報管理:Point
of sale system)データを分析することによって,直売所に出荷する市内生産者の販売動向
の変化を明らかにした.認証農産物の販売に関しては,比較的販売総額の大きい生産者が生
産に早くから取り組んでおり,活動開始から 1 年後の 2010 年以降は販売総額の多い層と比
較的低い層において増加し,多様な生産者が取組み始めていることが明らかとなった.また,
販売総額と認証農産物販売額の相関が運動開始後に強くなっており,認証農産物の販売額
が大きい生産者は販売総額も大きく積極的に認証農産物の生産に取り組んでいることが示
された.
第 6 章では,
「ファームマイレージ 2 運動」による認証農産物生産の普及過程を明らかに
するために,生産者への質問票調査を実施し,生産面積の変化,出荷先の変化,生産動機に
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ついて,Everett M. Rogers が 1962 年に “Diffusion of Innovations”で提唱したイノベ
ーター理論を援用し分析を行った.その結果,「ファームマイレージ 2 運動」が開始される
前から有利販売を期待して認証農産物生産に着手していた生産者が,2009 年以降,農産物
直売所を中心に認証農産物の販売が増加したことによって作付け品目や栽培面積を拡大し
ていることが明らかとなった.さらに新規で認証農産物生産に取組む生産者が増加し作付
面積も拡大したことで,東大阪市内の認証農産物生産が普及したことが示された.
終章では,序章から第 6 章までの内容をふまえ,東大阪市における「ファームマイレージ
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運動」は,食の安全の確保,環境負荷の軽減,農業・農村地域の活性化という共通の目的
を有する地産地消と認証農産物制度を融合し,地域で地域農業を支える仕組みであること
を提示した.そして,関係機関が意思統一を図り役割分担を明確化するとともに,生産者お
よび消費者の潜在的ニーズの把握を行った上で,地場産認証農産物を介した地域内消費と
地域内生産の継続的な循環を構築することが地産地消による持続可能な農業の展開には重
要な要素であると結論付けた.また,本研究を深化するための課題についても述べた.貿易
の自由化がますます進められようとしている今日,地域内で経済を循環させる仕組みを構
築することが経済のグローバル化の中で地域社会を維持する一手法であり,本研究が取り
上げた事例や分析結果は他の取組みにおいても応用できると考えられる.
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