招待論文 - ieice

招待論文
大容量無線通信の実現に向けた非線形 MU-MIMO の伝送性能評価
矢野
一人† a)
塚本
悟司†
薗部
聡司†∗
侯
前田
隆宏†
伴
弘司†∗∗∗
宇野
雅博†∗∗∗∗
小林
亜飛†∗∗
聖†∗∗∗∗∗
Performance Evaluation of Nonlinear Multiuser MIMO Transmission for
High-Capacity Wireless Communication
Kazuto YANO†a) , Satoshi TSUKAMOTO† , Satoshi SONOBE†∗ , Yafei HOU†∗∗ ,
Takahiro MAEDA† , Hiroshi BAN†∗∗∗ , Masahiro UNO†∗∗∗∗ ,
and Kiyoshi KOBAYASHI†∗∗∗∗∗
あらまし 見通し伝搬路のような伝搬路相関の高い環境における大容量伝送実現に向けて,非線形マルチユー
ザ MIMO (multiple-input multiple-output)伝送が注目されている.本論文では非線形プリコーディングの一
種であるベクトル摂動(vector perturbation : VP)に着目し,その信号処理方法と特徴を概説する.次に,屋
内外伝搬路を想定した計算機シミュレーションにより下りリンク MU-MIMO 伝送で VP を効果的に機能させる
ための制約条件を明らかにする.そして,3GPP Release 10(LTE-Advanced)の物理フォーマットをベースに
した実験システムの試作と屋外伝送実験を通じて VP に基づく非線形 MU-MIMO の実現可能性と実環境での有
効性を示すとともに,実用化に向けた課題を述べる.
キーワード マルチユーザ MIMO,非線形プリコーディング,vector perturbation,MMSE,下りリンク伝
送,屋外伝送実験
1. ま え が き
より,単位周波数当りの伝送容量を飛躍的に高める.
近年,ユーザ数の増加やスマートフォンの普及等に
よって,シングルユーザ MIMO(single user MIMO :
MIMO 伝送は同時に伝送を行う通信相手の数に
伴い無線通信システムのトラヒック量が爆発的に増加
SU-MIMO)伝送とマルチユーザ MIMO(multi-user
している [1], [2].この傾向は今後益々加速すると予想
MIMO : MU-MIMO)伝送 [4], [5] とに分類される.
されており,無線通信システムのトラヒック収容能力
前者は単一の受信機に向けてデータストリームを伝送
の著しい改善は急務である.無線通信システムの面
し,後者は複数の受信機に向けて同時に異なるデータ
的周波数利用効率の改善手法の一つに,multi-input
ストリームを伝送する.MIMO 伝送においては基本的
multi-output(MIMO)伝送 [3] がある.MIMO 伝送
に,相互干渉を回避しつつ同時伝送可能な最大のデー
では送信側と受信側に複数のアンテナを設け,複数の
タストリーム数は送信アンテナ数と受信アンテナ数の
データストリームを空間的に重畳して伝送する.その
小さい方に等しいという制約(注 1)がある [3].近年,セ
際,送信側あるいは受信側の少なくとも一方において
ルラシステムでは,基地局(base station : BS)に搭
データストリーム間の干渉を抑圧する処理を行う事に
載可能なアンテナ素子数が増加しているのに対し,各
†
移動端末(user equipment : UE)が有するアンテナ
(株)国際電気通信基礎技術研究所,京都府
Advanced Telecommunications Research Institute Inter-
素子数は大きさの制約から少数に止まる.このため,
national, Kyoto-fu, 619–0288 Japan
セルラシステムで同時伝送可能なデータストリーム数
∗
現在,株式会社モバイルテクノ開発事業部
∗∗
現在,奈良先端科学技術大学院大学
∗∗∗
現在,高エネルギー加速器研究機構
∗∗∗∗
現在,ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
∗∗∗∗∗
現在,株式会社フジクラ
a) E-mail: [email protected]
548
電子情報通信学会論文誌
(注 1)
:近年,この制約を打破するために受信側で非線形演算等を用いて
信号分離を行い,受信アンテナ数よりも多くのデータストリームを同時
伝送する過負荷 MIMO に関する検討が行われている.過負荷 MIMO
については,例えば文献 [6], [7] 等を参照されたい.
c 一般社団法人電子情報通信学会 2016
B Vol. J99–B No. 8 pp. 548–563 招待論文/大容量無線通信の実現に向けた非線形 MU-MIMO の伝送性能評価
を高めるためには,MU-MIMO 伝送は重要な技術で
ストが多大であることや,フィードバック情報量の削
ある.
減と性能劣化との間でトレードオフが存在することが,
MIMO 伝送は既に移動通信(セルラ)システムや
実用化に解決すべき問題とされてきた.
無線 LAN 等,様々な無線通信の標準規格に採用され
筆者らは非線形プリコーディングの一種であるベク
ている.例えば,移動通信システムの国際標準の一つ
トル摂動(vector perturbation : VP)[21]∼[25] に着
である 3GPP(The Third Generation Partnership
目し,3GPP Release 10 への適用を想定した検討を
Project)の規格では,2006 年に策定された Release 7
実施した.具体的には,計算機シミュレーションを通
(High Speed Packet Access Plus : HSPA+)におい
じて伝搬路推定値の複数サブキャリア間共用や量子化
て送信機,受信機共に 2 素子のアンテナを有する,す
ビット幅,及び UE の移動が伝送性能に与える影響
なわち 2 × 2 構成の SU-MIMO 伝送がサポートされる
を評価し,VP が効果的に機能するための制約条件を
ようになった.2008 年に策定された Release 8(Long
明らかにした.これに加え,市販の移動通信システム
Term Evolution : LTE)では下りリンク MIMO が
の信号処理モジュールを用いた無線装置の試作による
4 × 4 構成まで拡張されるとともに,MU-MIMO がサ
VP の実現可能性検証と,屋外伝送実験を通じた実環
ポートされるようになり [8],2011 年に策定完了した
境での VP の有効性確認を行った.本論文ではこれ
Release 10(LTE-Advanced)では下りリンクと上り
らについて述べるとともに,VP に基づく非線形プリ
リンクの多重データストリーム(レイヤ)数が 8 と 4
コーディングの実用化に向けた課題について述べる.
にそれぞれ拡張されている [1].そして,2020 年頃の
以下,2. では線形プリコーディングと非線形プリ
実現に向けて議論中の第 5 世代移動通信システムでは,
コーディングを概説し,VP に基づく下りリンク MU-
より多数のアンテナ素子を利用した massive MIMO
MIMO 伝送について説明する.3. では 3GPP Release
伝送 [9], [10] により,高周波数帯における利得確保,並
10 への適用を想定した計算機シミュレーション結果
びに同時伝送データストリーム数の更なる向上を実現
を示す.4. では筆者らが試作した実験システムを概説
することが期待されている [11].
し,屋外見通し環境における伝送実験結果について述
MIMO 伝送の性能改善は多重データ数の増加の他,
送受信信号処理アルゴリズムの改良によっても実現可
能である.下りリンク MU-MIMO では各 UE は独立
べる.最後に,5. にて結論を述べる.
2. MU-MIMO 伝送
に受信信号処理を行うため,UE 間の干渉は基本的
2. 1 線形プリコーディングの概要
に送信側で事前に除去する必要がある [5].このため,
線形プリコーディング手法としては,コードブック
BS 側で各データストリームの送信シンボルに対して
に基づくプリコーディング [12] や空間フィルタリン
干渉を除去するための複素重み(送信重み)を乗じる
グ [4], [13] が挙げられる.前者は事前に送信重みのリ
プリコーディング処理を行いストリーム分離を実現す
ストを作成し,各送受信アンテナ間の伝搬路値(伝搬
る.比較的簡易なプリコーディング手法としては,各
路行列)に応じて使用する送信重みを選択する.FDD
送受信アンテナ間の伝搬路値に応じてアンテナ重みを
(frequency division duplex)システムにおいても使
選択あるいは生成し,これを送信シンボルに乗じて送
用する送信重みのインデックスのみをフィードバック
信する線形プリコーディング [4], [12], [13] が挙げられ
すれば良いため,少ないフィードバック情報量で実現
る.これは各受信アンテナ間の伝搬路相関が比較的低
可能である.ただし,使用可能な重みが限定される
い場合には高い伝送性能が得られるが,伝搬路相関が
ため,高い干渉除去効果を得るには使用可能な送信
高くなるにつれて伝送性能が劣化することが知られて
重みに適合するよう,同時伝送を行う UE の適切な
いる [14].
選択が必要である.一方,後者は伝搬路行列を用い
この問題を克服する手段の一つとして,送信信号処
て zero-forcing(ZF)規範や minimum mean square
理に非線形演算を用いる非線形プリコーディング [15]∼
error(MMSE)規範に基づき送信重みを生成し,こ
[25] が注目を集めている.こちらは送信側で非線形演
れを送信シンボルに乗じて送信することで,各データ
算を適用して送信信号の振幅を制限することにより,
ストリーム間の干渉除去を実現する.したがって,空
送信電力効率を改善して伝送容量を改善する手法であ
間フィルタリングはコードブックプリコーディングと
る.ただし,線形プリコーディングと比較して演算コ
比較して高い干渉除去性能が得られるが,伝搬路行列
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電子情報通信学会論文誌 2016/8 Vol. J99–B No. 8
信重みを生成する.したがって,d 番目のデータスト
リームは 1 番目から (d − 1) 番目までのデータスト
リームからのデータストリーム間干渉を受ける.そこ
で,発生するデータストリーム間干渉成分を事前に送
信信号から減じ,データストリーム間干渉を除去する.
その際,干渉抑圧後の信号の実部と虚部の双方に適切
なサイズで modulo 演算を施すことで,送信信号の振
図 1 伝搬路相関とビームフォーミング利得の関係
Fig. 1 Relation between spatial correlation and
beamforming gain.
幅を一定範囲内に制限して電力効率を改善する.送信
側で行った modulo 演算の影響は,受信側では受信振
幅の変位となって現れる.そこで,受信側ではチャネ
ルの等化処理を行った後に modulo 処理を行い,送信
を送信側で必要とするためフィードバック情報量は多
側 modulo 演算の影響を除去する.なお,THP はス
くなる.
トリーム番号の小さいものほど得られるダイバーシチ
線形プリコーディングは各データストリームに対し
次数が大きくなるため,各データストリーム間の伝送
て異なる空間ビームを形成し,これらを重畳して伝
品質が異なる [18], [26].このため,UE 間の公平性を
送することに相当する.図 1 に伝搬路相関とビーム
確保するにはスケジューリングや適応送信電力制御が
フォーミング利得の関係を示す.受信側のアンテナ素
必要となる.
子間の伝搬路相関が高い場合,データストリーム間干
一方,VP は送信シンボルベクトルの実部と虚部に
渉を抑えるべくビームの中心から大きくずれた方向で
離散的なオフセットベクトル(摂動ベクトル)を加え
送信を行うため,ビームフォーミング利得が小さくな
ることにより,送信重みを乗じた後の振幅を最小化す
る.利得減少を補償するには送信重みのノルム(すな
る手法である.摂動ベクトルは THP と同様,受信側
わち重みの絶対値)を大きくする必要があるが,実際
でチャネルの等化処理を行った後に modulo 処理を行
には送信機の総送信電力には限りがある.このため,
うことにより,摂動ベクトルの値にかかわらず除去可
利得補償を行うと送信時の電力効率が劣化し,達成可
能である.VP は摂動ベクトルの探索が必要であるた
能な sum-rate が低下する [14].アクティブな UE が
め THP と比較して演算量が大きいものの,THP よ
多数存在する場合には伝搬路相関が低い UE の組を選
りも良好な伝送特性が得られる [27].また,ZF 規範
択することでこの問題を回避できるが,小セル環境で
や MMSE 規範に基づく送信重みを使用可能であり,
は UE 数が比較的少ないため,伝搬路相関が小さくな
その場合は各データストリームで同一の特性が得られ
る UE の組が必ずしも得られない.そのため,小セル
る [18], [26].このため,VP は高い伝送品質と UE 間
化で期待される高い伝送速度が得られない懸念がある.
の公平性の双方を実現し得る方式である.
2. 2 非線形プリコーディングの概要
上記問題を克服する手段の一つが非線形プリコー
筆者らは小セル環境での伝送品質改善と UE 間公
平性の双方の実現に向けて,VP を用いた下りリンク
ディングである.これは,線形プリコーディングを
MU-MIMO 伝送の検討を行った.以下,空間フィル
適用した送信信号に modulo 演算やオフセットベク
タリング並びに VP の詳細について述べる.
ト ル の 選 択 的 加 算 等 の 非 線 形 演 算 を 行って 送 信 信
2. 3 下りリンク MU-MIMO のシステムモデル
号の平均ノルムを抑え,送信時の電力効率を向上
本論文では OFDM(orthogonal frequency division
させることで伝送容量を改善する手法である.代
multiplexing)ベースの下りリンク MU-MIMO 伝送
表的な手法としては Tomlinson-Harashima precod-
を想定する.BS と各 UE のアンテナ素子数はそれぞれ
ing(THP)[5], [15]∼[20] や VP [5], [21]∼[25] が挙げ
Nt 及び Nr とする.K 台の UE に対して同時に伝送
られる.
を行うものとし,各 UE に対してはそれぞれ Nr デー
THP は伝搬路行列の LQ 分解に基づき,最初のデー
タストリームを同時に伝送する.なお,Nt = KNr が
タストリームにはフルダイバーシチを得る送信重みを
成り立つとする.したがって,送信データストリーム
生成し,第 d データストリームに対しては第 d − 1 番
数 Nd が Nt に等しい,すなわちフルランクの伝送を
目までのデータストリームへの与干渉を抑圧する送
行う.
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招待論文/大容量無線通信の実現に向けた非線形 MU-MIMO の伝送性能評価
図 2 空間フィルタリングと VP の送受信ブロック図
Fig. 2 Block diagrams of spatial filtering and VP.
図 3 VP で用いる拡大信号点配置の例(QPSK の場合)
Fig. 3 Example of extended symbol mapping for VP
with QPSK modulation.
以下,単一のサブキャリアに着目して説明を行う.
∗
T
H
本論文において (·) ,(·) 並びに (·) は複素共役,転
置,並びに複素共役転置をそれぞれ表す.また,j は
虚数単位,E [·] と · はそれぞれアンサンブル平均
2
受信信号 y = (y1 , y2 , . . . , yKNr )
y = Hz + n
は次式で与える.
(3)
(4)
の平均 2 乗ユークリッドノルム γSF が大きくなるほ
ど,実質的な送信振幅は小さくなることが分かる.こ
(1)
ここで,z = (z1 , z2 , . . . , zNt )T はプリコーディング後
の送信信号ベクトル,H はサイズが (KNr × Nt ) の伝
搬路行列,n = (n1 , n2 , . . . , nKNr )T は加法性白色ガ
ウス雑音(additive white Gaussian noise(AWGN))
をそれぞれ表す.
れは,実効的な平均 SNR を大きくするには γSF を小
さくする必要があることを意味している.
2. 4. 2 Vector Perturbation(VP)
図 2 下に VP 適用時の送受信ブロック図を示す.VP
は DPC(dirty-paper coding)のコンセプトを用いて
γSF を低減する手法である [21].具体的には γSF を低
減するために,摂動ベクトル(perturbation vector)
2. 4 プリコーディング方式
と呼ばれるオフセットベクトルを送信シンボルベクト
2. 4. 1 空間フィルタリング
図 2 上に空間フィルタリング適用時の送受信ブロッ
ク図を示す.空間フィルタリングでは送信シンボルベ
クトル x = (x1 , x2 , . . . , xNd )T に送信重み行列 W を
乗じて送信する.本論文では空間フィルタリングの送
信重み生成規範として MMSE 規範を用いる.MMSE
規範に基づく送信重み行列 W は以下で与えられる [5].
−1
H
H
Nt
W = H̃
I
H̃ H̃ +
γ0
γSF
P
Wx
γSF
= E W x2
ここで P は平均送信電力を表す.式 (3) から,W x
並びに 2 乗ユークリッドノルムを表す.
T
z=
(2)
ここで,H̃ は伝搬路フィードバック等の手法により送信
側が取得した伝搬路行列,I はサイズが (KNr × KNr )
の単位行列,γ0 はプリコーディングを適用せずに各送
信アンテナから等電力で信号を送信した場合の受信側
ルに加算して送信する.受信側では付加された摂動ベ
クトルが不明であるため,摂動ベクトルは付加情報な
しに受信側で除去できる必要がある.そこで VP は図
3 に示すように,通常の一次変調信号点を IQ 平面上
に一定間隔 τ で繰り返した信号点配置(以下,これを
拡大信号点配置と呼ぶ)となるように,摂動ベクトル
の取り得る値を離散的にする.そして,電力正規化前
の送信信号の平均 2 乗ユークリッドノルムが最小とな
るように,各データストリーム対して送信シンボル xi
に対応する 1 点をそれぞれ選択する.これらは
l̃ = arg min E W (x + τ l)2
(5)
li = ai + jbi
(6)
l
(以下,こ
における平均 SNR(signal-to-noise ratio)
として式 (5) を満たす l を探索する処理である.ここ
れを平均 SNR と呼ぶ)をそれぞれ表す.空間フィル
で,l(l = (l1 , . . . , lNd )T )は摂動ベクトルであり,そ
タリング適用時の送信信号ベクトル z は次式で与えら
の各要素 ai ,bi は整数値である.この結果,電力正規
れる [3].
化を行う前の,送信信号の平均 2 乗ユークリッドノル
551
電子情報通信学会論文誌 2016/8 Vol. J99–B No. 8
ムは次式で表される.
γVP
シンボル復調を行う.
2 = E W x + τ l̃ (7)
本論文では文献 [21] と同様に,拡大信号点配置におけ
る最小信号点距離が元の信号点配置におけるそれと同
一となるよう τ を設定する.以上より,VP 使用時の
送信信号ベクトルは次式で表される.
z=
P
W x + τ l̃
γVP
3. 計算機シミュレーションによる線形及び
非線形 MU-MIMO の伝送性能評価
3. 1 空間フィルタリングと VP の基本性能とサブ
バンド幅の影響
本節では空間フィルタリングと VP の基本性能を計
算機シミュレーションにより評価する.表 1 に計算機
シミュレーション諸元を示す.アンテナ素子数は BS
(8)
が 8,各 UE が 2 とし,BS から見た方角がそれぞれ
45 度づつ異なる 4 台の UE に対してそれぞれ 2 デー
理想的な摂動ベクトルは sphere encoder と呼ばれる
タストリームを同時伝送する.したがって,総同時送
手法により求められる [21].ただし,sphere encoder
信データストリーム数は 8 である.誤り訂正符号には
は実質的に全探索と同等の処理であるため演算量が大
下記の生成行列 G(D) を有する再帰的組織畳込み符号
きく,また摂動ベクトルの探索範囲を一意に定めるこ
器に基づく Turbo 符号を用い,Turbo インタリーバ
とができない.これは処理遅延の上限が変動すること
にはブロックインタリーバを,また通信路インタリー
を意味しており,システム運用の観点からは問題とな
バにはランダムインタリーバをそれぞれ用いる.
る.そこで,本論文では VP の装置化を念頭に,摂動
ベクトル探索にかかる処理遅延を少なくかつ一定量に
抑えるために各要素 ai ,bi の探索範囲を −T から T
1 + D + D3
G(D) = 1,
1 + D2 + D3
(12)
また,復号アルゴリズムには soft-output Viterbi al-
の間に制限する.
受信側では図 3 に示すように,受信信号の各要素
gorithm(SOVA)[28] をそれぞれ用いる.使用する
に対して modulo 演算を適用することで摂動ベクト
MCS(modulation and coding scheme)は表 1 に示
ルの影響を除去する.第 i データストリームに対する
す 3 種類の変調方式と符号化率(R)の組合せとした.
modulo 演算は次式で表される.
∗
ĝi yi τ (1+j)
τ (1+j)
ỹi =
+
mod τ −
(9)
|ĝi |
2
2
ここで,ĝi は第 i データストリームの第 i 受信アンテ
ナにおけるプリコーディングを考慮した実効的な伝搬
路(以下,これを実効伝搬路と呼ぶ)に関する伝搬路
推定値を表す.受信側における拡大信号点配置の格子
サイズ τ は H W ≈ I の関係から
τ =
P
τ
γVP
(10)
となることが想定される [21].しかしながら,受信側で
は γVP が未知であるため,格子サイズを何らかの方法に
より推定する必要がある.一般的には
P/γVP ≈ |ĝi |
であることが期待されるため,本論文では次式より τ の推定値 τˆ を得ている.
τˆ = |ĝi | τ
(11)
最後に,摂動ベクトル除去後の受信信号 ỹi を用いて
552
表 1 基本性能評価におけるシミュレーション諸元
Table 1 Simulation settings for fundamental evaluation.
Sampling rate
FFT size
Length of cyclic prefix
Number of subcarriers
Subcarrier separation
Number of antennas
Number of UEs
Direction of UEs
Channel coding
MCS
30.72 Msamples/s
2048 points
4.7 μs
1200
15 kHz
8 (BS), 2 (UE)
4
±22.5 deg., ±67.5 deg.
Turbo code
16QAM (R = 1/2, 3/4)
64QAM (R = 3/4)
Codeword length
4797 (16QAM, R = 1/2)
3597 (16QAM, R = 3/4)
5397 (64QAM, R = 3/4)
Channel decoding
SOVA [28] (6 iterations)
Channel model
WINNER II A1, B1 [29]
Array configuration
Uniform linear array
Antenna spacing
1 λ (BS), 0.5 λ (UE)
Center frequency
3.36 GHz
Spatial filtering
MMSE
SNR estimation
Perfect
CSI
Known
Perturbation vector search QRDM-E [24] (T, M ) = (3, 7)
Modulo boundary
Known
招待論文/大容量無線通信の実現に向けた非線形 MU-MIMO の伝送性能評価
なお,各 UE の平均 SNR は等しいとし,全てのデー
タストリームで同一の MCS を使用するとした.
アレーアンテナ形状は BS,UE 共に等間隔直線状
アレー(uniform linear array : ULA)とし,素子間
隔は BS 側が 1 波長,UE 側が 0.5 波長とした.また,
伝搬路モデルは WINNER II A1(indoor office)及
び B1(typical urban micro cell)[29] を使用し,伝
搬路は静的とした.シミュレーションパラメータの信
号サブキャリア数や FFT(fast Fourier transform)
サイズ数等は信号帯域幅が 20 MHz の 3GPP Release
10 下りリンクを念頭に設定した.ユーザ間及びユー
ザ内のストリーム分離は送信側の空間フィルタリング
のみにより行い,受信側では特段のストリーム分離処
理は行わない.送信重みは MMSE 規範で生成し,重
み生成に必要な伝搬路値(channel state information
: CSI)や SNR,並びに VP 適用時の受信側 modulo
サイズは理想的に推定されるとした.なお,SNR の
算出に際して雑音は UE 受信機における熱雑音による
ものとし,その電力値を既知とした.
VP 処理における最適摂動ベクトルの探索には QRdecomposition with M-algorithm encoder(QRDME)アルゴリズム [24] を用いる.その際,摂動ベクト
ルの各要素 li の絶対値の最大値 T は 3,生き残り候補
数 M は 7 とした.
3. 1. 1 各サブキャリアにおけるパラメータが既知
図 4 WINNER II A1 伝搬路における平均 SNR 対周波
数利用効率(上:LOS 伝搬路,下:NLOS 伝搬路)
Fig. 4 Spectrum efficiency versus average SNR over
WINNER II A1 channel.
の場合の特性
まず,各サブキャリアにおける伝搬路値や SNR,並
3. 1. 2 サブバンド化を行った場合の特性
びに VP 適用時の受信側 modulo サイズが既知の場
3GPP Release 10 のフレームフォーマットでは参
合における,WINNER II A1 伝搬路の平均 SNR 対
照信号が周波数領域で離散的に設けられているため,
周波数利用効率特性を図 4 に示す.また,WINNER
得られる伝搬路推定値も周波数領域で離散的となる.
II B1 伝搬路の平均 SNR 対周波数利用効率特性を図
また,FDD システムではプリコーディングのために,
5 に示す.両伝搬路とも,VP は MMSE 重みに基づ
受信側で推定した伝搬路値を送信側にフィードバック
く空間フィルタリング(図中の「MMSE」)と比較し
する必要があり,実システムでは伝搬路フィードバッ
て,同一周波数利用効率の達成に必要な所要 SNR を
ク情報量を小さく抑える必要がある.そこで,本項で
大幅に低減できることが分かる.これは,各 UE にお
はサブキャリアを複数束ねたサブバンドを設定し,サ
ける受信アンテナ間隔が小さくフェージング相関が高
ブバンド内で共通の伝搬路値を用いた場合の性能を
い状況において,空間フィルタリングによりストリー
評価する.サブバンド幅(SBW)を 12 サブキャリア
ム分離を行おうとすると γSF が著しく大きくなるのに
(180 kHz)及び 24 サブキャリア(360 kHz)とし,サ
対し,VP はこれを大幅に低減できるためである.ま
ブバンド中央における伝搬路行列を用いてプリコー
た,所要 SNR の低減量は見通し外(non-line-of-sight
ディングを行った場合における WINNER II A1 伝搬
: NLOS)伝搬路より見通し内(line-of-sight : LOS)
路及び B1 伝搬路の平均 SNR 対周波数利用効率特性
伝搬路の方が大きく,また A1 伝搬路よりも B1 伝搬
を図 6 及び図 7 にそれぞれ示す.サブバンド化を行う
路の方が大きい.これは,伝搬路相関が高いほど VP
事により,高 SNR 領域において周波数利用効率が頭
の適用効果が高いことを意味している.
打ちになっていることが分かる.これは,サブバンド
553
電子情報通信学会論文誌 2016/8 Vol. J99–B No. 8
図 5 WINNER II B1 伝搬路における平均 SNR 対周波
数利用効率(上:LOS 伝搬路,下:NLOS 伝搬路)
Fig. 5 Spectrum efficiency versus average SNR over
WINNER II B1 channel.
図6
サブバンド化を行った場合の WINNER II A1 伝搬
路における平均 SNR 対周波数利用効率(上:LOS
伝搬路,下:NLOS 伝搬路)
Fig. 6 Spectrum efficiency versus average SNR over
WINNER II A1 channel with subband.
内で発生する伝搬路値の周波数変動の大きさが受信機
で発生する熱雑音の大きさと比較して無視できなくな
り,サブバンド内で共通の伝搬路推定値を用いてプリ
(1 − |ρ|) はサブバンド内の両端における伝搬路変動の
コーディング等の処理を行うと実効的な SNR が制限
2 乗誤差におおむね相当すると考えられる.
そこで,評価に用いた 4 種類の伝搬路モデルについて,
されるためである.
文献 [30] では,伝搬路の root mean square(RMS)
RMS 遅延分散の値,各サブバンド幅を B(|ρ|) として
遅延分散 σDS と,伝搬路の周波数相関の大きさが |ρ|
与える |ρ| の値,並びに η = (−10 log10 (1 − |ρ|)) [dB]
を超えるコヒーレンス帯域幅 B(|ρ|) との間の関係が
(おおむねサブバンド化を行った際の実効的な SNR の
上限に相当すると考えられる値)を表 2 に示す.サブ
次式で示されている.
バンド化適用時(図 6 及び図 7)において達成されて
B(|ρ|) ≥
arccos(|ρ|)
2πσDS
(13)
いる周波数利用効率の上限は,サブバンド化非適用時
(図 4 及び図 5)においておおむね平均 SNR が η dB
h(f ) を周波数 f における伝搬路値とすると,異なる
付近の値となっている.結果として,VP を用いた場
二つの周波数 f 及び f の間の伝搬路の周波数相関
合は 12 サブキャリア程度のサブバンド化であれば,
ρ(f − f ) は次式で示される.
64QAM・R=3/4 においてほぼエラーフリーでの伝送
E [h∗ (f )h(f )]
ρ(f − f ) = E [h(f )2 ] E [h(f )2 ]
に必要となる実効的 SNR が達成可能であることが分
(14)
このことから,|ρ| がある程度大きい場合においては,
554
かる.一方,MMSE で同一の周波数利用効率を達成
するには 30 数 dB 以上の実効的 SNR が必要である
が,これは 12 サブキャリア程度のサブバンド化でも
招待論文/大容量無線通信の実現に向けた非線形 MU-MIMO の伝送性能評価
図 8 シミュレーションエリア
Fig. 8 Simulation area.
図 7 サブバンド化を行った場合の WINNER II B1 伝搬
路における平均 SNR 対周波数利用効率(上:LOS
伝搬路,下:NLOS 伝搬路)
Fig. 7 Spectrum efficiency versus average SNR over
WINNER II B1 channel with subband.
図 9 仮定したサブフレームフォーマット
Fig. 9 Assumed subframe format.
これは MMSE 重みの生成に際して雑音分散は UE 受
信機における熱雑音電力値に設定し,その電力値を既
表2
各伝搬路モデルにおける RMS 遅延分散の平均値と
サブバンド幅を最小コヒーレンス帯域幅とする伝搬
路の周波数相関値
Table 2 Average RMS delay spread in the assumed
channel model and channel correlation in
the frequency domain at which minimal coherence bandwidth becomes the assumed
subband width.
Channel
model
A1 LOS
A1 NLOS
B1 LOS
B1 NLOS
Delay
spread
[ns]
38.0
25.1
36.3
75.8
|ρ|
SBW
= 12
0.9990
0.9995
0.9991
0.9963
SBW
= 24
0.9963
0.9983
0.9966
0.9853
η [dB]
SBW SBW
= 12 = 24
30.3
24.3
33.9
27.9
30.7
24.7
24.3
18.3
知としたため,周波数選択性伝搬路においてサブバン
ド化を適用することにより発生する伝搬路推定誤差
に起因する,実効的な雑音分散の増加が考慮されてお
らず,最適な MMSE 重みが生成されていないためで
ある.
3. 2 ランダム UE 配置における性能評価
前節では各 UE の SNR と間隔を均一にして評価し
たが,実際には UE 位置にばらつきが生じる.そこで,
本節では扇型エリア内に UE をランダムに配置した場
合を想定した評価を行う.図 8 にシミュレーションエ
リアと UE 配置のイメージを示す.シミュレーション
エリアは扇型とし,その内部に UE 4 台を一様ランダ
達成が難しくなる.以上から,VP を適用することに
ムに配置する.BS は扇型エリアの要の位置に配置さ
よりサブバンド化に対する制約をある程度緩和できる
れ,アレーアンテナのブロードサイドが扇型エリアの
と考えられる.
なお,サブバンド化適用時は高 SNR 領域で SNR の
増加に対して周波数利用効率が劣化しており,サブバ
ンド幅が大きいほど性能劣化が著しいことが分かる.
中央方向を向くものとする.一方,各 UE におけるア
レーアンテナの向きは 360 度一様ランダムとする.
信号フォーマットは図 9 に示すように,信号帯域
幅が 20 MHz の 3GPP Release 10 下りリンクサブフ
555
電子情報通信学会論文誌 2016/8 Vol. J99–B No. 8
表 3 ランダム UE 配置シミュレーション諸元(基本値)
Table 3 Basic simulation settings with random UE
location.
から見た UE の角度範囲は ±60 度以内とした.
伝送路符号化には 3GPP Release 10 と同様の符号
Channel model
WINNER II A1 LOS [29]
化器構成 [33] に基づく Turbo 符号を用い,復号処理
Range of UE’s distance
[3 m, 100 m]
には繰り返し回数が 6 回の Max Log-MAP 復号を用
Range of UE’s angle
[-60 deg., 60 deg.]
Number of antennas
8 (BS), 2 (UE)
Array configuration
Uniform linear array
ののうち,表 3 に示す 6 種類を用い,adaptive mod-
Antenna spacing
1λ (BS), 0.5λ (UE)
ulation and coding(AMC)が理想的に機能すると
Number of UEs
4
Number of data streams
8
Center frequency
3.36 GHz
Number of subcarrier
1200
Subcarrier separation
いる.MCS は 3GPP Release 10 [34] で規定されたも
仮定して平均 sum-rate を算出した.なお,本論文で
は式 (2) に基づき空間フィルタリングの送信 MMSE
15 kHz
重みを生成している.この場合,空間フィルタリング
Channel coding
Turbo code [33]
及びこれと同一の送信重みを用いる VP は平均受信
Channel decoding
Max Log-MAP (6 iterations)
Used MCSs [34]
QPSK, R=0.34
(MCS Index : 3)
QPSK, R=0.73
(MCS Index : 7)
16QAM, R=0.47
(MCS Index : 10)
16QAM, R=0.76
(MCS Index : 14)
64QAM, R=0.60
(MCS Index : 17)
64QAM, R=0.73
(MCS Index : 19)
AMC
Perfect
SINR(signal-to-interference-plus-noise ratio)が各
データストリーム間で揃うように動作する.すなわち,
各データストリームは同程度の伝送性能となることが
期待される.そこで,以降の評価では両方式とも全て
のデータストリームで同一の MCS を使用するとした.
サブバンド幅は 24 サブキャリアとし,伝搬路推定処
理とプリコーディング処理はサブバンド単位で実施し
た.送信重みは MMSE 規範により生成し,受信側で
もデータストリーム間干渉を抑圧するための MMSE
受信 [35] を行う.プリコーディングに用いる伝搬路推
Spatial filtering weight
MMSE weight
Perturbation vector search
QRDM-E (T, M ) = (3, 32)
定値は CSI-RS の過去 5 サブフレームにわたる同相平
Thermal noise variance
Known
Transmission power
26 dBm
均により得る.また,MMSE 受信及び modulo 格子
Channel feedback
No quantization error
サイズの設定に用いる実効伝搬路推定値は,各データ
Channel feedback delay
7 subframes (7 ms)
ストリームにて送信される DM-RS を単一サブフレー
Channel feedback interval
2 subframes
UE velocity
0 km/h
ム内で同相平均することにより得る.なお,MMSE
重みの生成に際して雑音分散は UE 受信機における熱
雑音電力値に設定し,その電力値を既知とした.
レーム(subframe : SF)フォーマット [31] に若干の
以下,特に断りのない限り UE は静止状態とし,BS
変更を加えたものとする.これは次節にて述べる実
の総送信電力は 26 dBm とする.伝搬路フィードバッ
験システムに実装したものと同一である.なお,本
ク遅延は試作した実験システムに合わせて 7 サブフ
評価においては伝搬路行列の推定に用いる channel
レーム(7 ms)とした.また,各サブバンドにおける
state infomation reference signal(CSI-RS),並び
伝搬路値(8 送信アンテナ × 2 受信アンテナ = 16 個
に実効伝搬路行列の推定に用いる demodulation RS
の複素数)は 2 サブフレームに分けてフィードバック
(DM-RS)は共に毎サブフレーム送信されるものとす
される.これは,実験システムにおいてフィードバッ
る.VP の摂動ベクトル加算はデータシンボルのみを
ク情報を 16QAM を用いて上りリンクで伝送した場合
対象とし,参照信号である cell-specific RS(CRS),
に相当する.ただし,量子化誤差は考慮しない.
CSI-RS,DM-RS,及び extra RS(EX-RS)には適
用しない.また,DM-RS については文献 [32] と同様
に,データシンボルと同じ送信重みを乗算する.
本節における基本パラメータ諸元を表 3 に示す.伝
3. 2. 1 送信電力に対する平均 sum-rate 特性
図 10 に送信電力を 6,16,26 並びに 36 dBm とし
た場合における,VP と MMSE の平均 sum-rate 特
性を示す.SNR の増加に伴い各方式の平均 sum-rate
搬路モデルは WINNER II A1 LOS とし,UE 距離は
特性は改善し,特に VP の特性改善が著しい.一方,
最小で 3 m,最大で 100 m とした.これは WINNER
MMSE は送信電力が 36 dBm の場合に平均 sum-rate
II A1 LOS モデルの適用範囲に相当する.また,BS
が劣化している.これは MMSE 重みの生成に際して
556
招待論文/大容量無線通信の実現に向けた非線形 MU-MIMO の伝送性能評価
図 10 異なる送信電力に対する平均 sum-rate 特性
Fig. 10 Average sum-rate performance versus transmission power.
図 11
異なる伝搬路フィードバックビット幅に対する平均
sum-rate 特性
Fig. 11 Average sum-rate performance versus feedback bit width of channel information.
雑音分散は UE 受信機における熱雑音電力値に設定し,
その電力値を既知としたため,周波数選択性伝搬路で
のサブバンド化適用により発生する伝搬路推定誤差に
起因する実効的な雑音分散の増加が考慮されておらず,
送受信で最適な MMSE 重みが生成されていないため
と考えられる.結果として,VP,MMSE 共に送信電
力が 26 dBm 程度で達成可能な平均 sum-rate がおお
むね飽和しており,その状況において VP は MMSE
と比較して約 1.6 倍程度の平均 sum-rate が得られて
いる.
3. 2. 2 伝搬路フィードバックビット幅制限の影響
伝搬路フィードバック情報量と伝送性能との間には
Fig. 12
図 12 最小 2 乗法に基づく伝搬路予測
CSI prediction based on least square method.
トレードオフが存在する.そこで,本項ではフィー
ドバックする伝搬路推定値のビット幅を制限した場合
の性能評価を行う.各 UE はフィードバックするプリ
コーディング前伝搬路値(推定値)の実部と虚部をそ
れぞれ一定のビット幅で量子化する.その際,同一サ
ブフレーム内にてフィードバックされる全伝搬路値の
実部・虚部の中で最大の振幅となる値を算出し,その
値に基づきフィードバック値の正規化を行う.
フィードバック値の実部・虚部ビット幅対平均 sun-
rate 特性を図 11 に示す.VP はフィードバック値の
実部・虚部ビット幅が 7 ビット以下になると,大幅に
平均 sum-rate が劣化している.したがって,VP の
効果を遜色なく引き出すには実部・虚部共に 8 ビット
相当の量子化レベルに相当する伝搬路フィードバック
で,本項では UE が低速移動する場合の性能,並びに
最小 2 乗法に基づく伝搬路予測 [36] の適用効果を評
価する.図 12 に伝搬路予測のイメージ図を示す.UE
はフィードバック間隔(K サブフレーム)ごとに伝
搬路予測を行い,その結果を BS にフィードバックす
る.その際のフィードバック遅延は Dfb サブフレー
ムとする.具体的には,UE は K サブフレームごと
にその時点での最新 L サブフレームの伝搬路推定値
(ĥ(t − L + 1), ĥ(t − L + 2), . . . , ĥ(t)) に対して最小 2
乗法を適用し,その結果を用いた一次外挿補間により
(Dfb + K) サブフレーム先の伝搬路値 h̃(t + Dfb + K)
を予測する.すなわち,h̃(t + Dfb + K) は以下より求
められる.
が必要となることが分かる.
3. 2. 3 時変伝搬路の影響
h̃(t+Dfb +K) = â(t)(t+Dfb +K) + b̂(t)
(15)
UE が移動すると伝搬路推定時点と信号送信時点と
で伝搬路が異なるため,伝送性能が劣化する.そこ
557
電子情報通信学会論文誌 2016/8 Vol. J99–B No. 8
図 13
伝搬路予測に使用した伝搬路スナップショット数に
対する平均 sum-rate 特性
Fig. 13 Average sum-rate performance versus the
number of channel estimates used for channel
prediction.
â(t), b̂(t) =
arg min
a(t),b(t)
0
図 14
時変伝搬路における MMSE に対する VP の sumrate 改善度の CDF
Fig. 14 CDF of sum-rate improvement brought by
VP over time-variant channel.
伝搬路予測に使用した伝搬路スナップショット数は 20,
3 km/h の場合は伝搬路予測に使用した伝搬路スナッ
|a(t)(t+m)+b(t)− ĥ(t+m)|
2
m=(−L+1)
(16)
プショット数を 5 とした.伝搬路予測を行わない場合,
UE 移動速度が 1 km/h の場合で約 10 %,3 km/h の
場合は約 60 %の確率で VP の性能が MMSE から劣
化している.これは,大きなプリコーディング誤差が
そして,これを BS に間欠的にフィードバックする.BS
存在すると摂動ベクトルの付加に起因してストリーム
ではフィードバックされた伝搬路予測値 h̃(t+Dfb +K)
間干渉が増大することを意味している.一方,伝搬路
をサブフレーム単位で線形補間し,その結果を用いて
予測を適用すると VP は MMSE よりもおおむね性能
送信重みを生成する.
が改善することが分かる.以上から,VP を適用した
伝搬路予測に使用した伝搬路スナップショット数に対
する平均 sum-rate 特性を図 13 に示す.なお,横軸の
「0」は伝搬路予測を適用しない場合を示す.伝搬路予
測を適用しない場合には平均 sum-rate が大幅に劣化
しており,劣化度は MMSE よりも VP の方が大きい.
一方,伝搬路予測適用時は平均 sum-rate の劣化が大
幅に抑えられており,UE 移動速度が 1 km/h では過
MU-MIMO 伝送においては低速移動時においても伝
搬路予測の適用が不可欠であることが分かる.
4. 実験システムの試作と屋外見通し環境
における MU-MIMO 伝送実験
4. 1 試作した実験システム
VP に基づく非線形 MU-MIMO 伝送の実現可能性
去 20 個の伝搬路推定値を予測に用いることで MMSE,
と実環境での有効性検証に向けて,3GPP Release 10
VP 共に静止時からの劣化は 5 %以内に抑えられてい
の物理フォーマットをベースにした実験システムを試
る.また,UE 移動速度が 3 km/h においても過去 5
作した.実験システム [37] の外観を図 15 に,諸元を表
個の伝搬路推定値から予測を行うことで,MMSE で
4 にそれぞれ示す.実験システムは 8 素子線形アレー
約 30 %,VP で約 40 %の劣化に抑えられている.こ
アンテナを有する 1 台の BS と 2 素子アレーアンテナ
れは UE 移動速度が 1 km/h で伝搬路予測を適用しな
を有する 4 台の UE より構成される.各局はアンテナ
い場合の劣化度に比べて小さい.結果として,UE の
数と同数の RF モジュールを実装した RF ユニットと,
移動速度が 1 km/h,あるいは移動速度が 3 km/h で
信号処理モジュールや LAN インタフェースを有する
伝搬路予測を適用した場合は,VP は MMSE に対し
信号処理ユニットからなる.各局の信号処理ユニット
て著しい平均 sum-rate 改善が得られている.
はアンテナ素子数と同数の CommAgility 社製信号処
MMSE に対する VP の sum-rate 改善度の CDF
理モジュール AMC-3C87F3-GPS により構成されて
(cumulative distribution function)を図 14 にそれ
いる.これは,主要部品として 3 コアを内部に有する
ぞれ示す.ここでは,UE 移動速度が 1 km/h の場合は
DSP(TMS320TCI6487,動作周波数 1 GHz)3 個と
558
招待論文/大容量無線通信の実現に向けた非線形 MU-MIMO の伝送性能評価
Fig. 15
Table 4
図 15 試作した BS と UE の外観
Developed BS and UE of the experimental
system.
表 4 実験システム諸元
Configuration of the experimental system.
図 16 サブバンドとリソースマッピング
Fig. 16 Subband structure and resource mapping.
BS
Baseband
RF
Antenna
Sampling rate
FFT size
# of subcarriers
Cyclic prefix length
# of operatable UEs
Modulation scheme
Tx center frequency
Tx power (MAX)
Signal bandwidth
# of elements
Height
UE
30.72 MHz
2048
1200
4.7 μs
4
—
QPSK,16QAM,64QAM
3.36 GHz 3.26 GHz
4W
1W
20 MHz
8
2
1 to 4 m 1 to 3 m
図 17
Fig. 17
FPGA(Virtex-5
TM
LX110T-2)1 個を有する.
ATR グラウンドでの伝送実験における無線機配置
Location of radio equipment for the experimental evaluation in ATR ground.
フレームフォーマットは 3. 2 におけるシミュレー
ションと同様のものを上下リンク共に実装した.ただ
は最小で 7 ms である.なお,受信タイミング同期は
し,多元接続は性能評価対象の下りリンクでは MU-
各サブフレームの第 2 OFDM シンボルに Zadoff-Chu
MIMO-OFDM を,伝搬路値フィードバックのため
系列より構成される extra RS(EX-RS)の相互相関
の上りリンクでは OFDMA(orthogonal frequnecy
受信によるピークサーチ結果に基づき行われる.その
division multiple access)をそれぞれ用いる.本実験
他の処理については 3. 2 のシミュレーションと同等の
システムでは VP をリアルタイム動作させるため,図
ものを実装している.
16 に示すように 24 サブキャリア幅(最後の 4 サブバ
4. 2 伝送実験結果
ンドのみ 12 サブキャリア幅)のサブバンドを構成し,
試作した実験システムを用い,図 17 に示すように
全信号帯域中の 1/4 のサブバンドのみをデータ伝送に
無線機近隣に建物が存在しない環境(ATR グラウン
使用する.したがって,実効的なデータ伝送帯域幅は
ド)と,図 18 に示すように近隣に建物が存在する環
5 MHz(300 サブキャリア)である.周波数ダイバーシ
境(ATR ビル傍)の双方において屋外伝送実験を実
チ効果を確保するため,4 サブバンドおきに使用する.
施した.4 台の UE はそれぞれ BS から 30 m の距離に
プリコーディングに用いる伝搬路値は,CSI-RS か
設置し,BS から見た隣接 UE の間隔は 45 度とした.
ら推定した伝搬路値の I,Q 各成分に対して 8 ビット
表 5 に実験諸元を示す.BS 側アレーアンテナは送
量子化を行った後に,上りリンクのデータチャネルを
信側周波数(3.36 GHz)における 8 素子半波長間隔
利用して BS へフィードバックする.同様に,MMSE
ULA とし,アンテナ素子はモノポールアンテナある
重み生成に必要な雑音分散値も CSI-RS から推定し,
いはパッチアンテナ,使用偏波は垂直偏波(V 偏波)
フィードバックする.このときのフィードバック遅延
とした.一方,UE 側では各データストリームの受信
559
電子情報通信学会論文誌 2016/8 Vol. J99–B No. 8
図 20
図 18 ATR ビル傍での伝送実験における無線機配置
Fig. 18 Location of radio equipment for the experimental evaluation beside ATR building.
Table 5
ATR グラウンドにおける実験結果(BS アンテナ
素子:パッチアンテナ)
Fig. 20 Experimental result in ATR ground. (BS’s
antenna element : patch antenna)
表 5 伝送実験における実験諸元
Configurations of experimental evaluation.
BS–UE distance
Angular sep. between UEs
BS’s antenna element
US’s antenna element
BS’s array configuration
UE’s array configuration
Antenna height
Tx power
MCS for CSI feedback
30 m
45 deg.
Monopole antenna (2.1 dBi)
or patch antenna (8 dBi)
(polarization : vertical)
Monopole antenna
(polarization : ±45 deg.)
8-element ULA
(half a wavelength sep.)
2-element cross antenna
3 m (BS), 1.8 m (UE)
Max. 15 dBm / element
16QAM, R = 0.77
図 21
ATR ビル傍における実験結果(BS アンテナ素子:
モノポールアンテナ)
Fig. 21 Experimental result beside ATR building.
(BS’s antenna element : monopole antenna)
図 22
図 19
ATR グラウンドにおける実験結果(BS アンテナ
素子:モノポールアンテナ)
Fig. 19 Experimental result in ATR ground. (BS’s
antenna element : monopole antenna)
表 6 各伝送実験における平均 SNR
Table 6 Average SNR in each experiment.
Location
ATR ground
Beside ATR building
BS’s antenna Monopole Patch Monopole
Patch
UE 1
20.1 dB
21.1 dB
26.4 dB
23.5 dB
UE 2
21.8 dB
21.5 dB
24.9 dB
24.5 dB
UE 3
21.6 dB
22.5 dB
26.3 dB
25.9 dB
UE 4
19.9 dB
20.5 dB
23.7 dB
21.8 dB
ATR ビル傍における実験結果(BS アンテナ素子:
パッチアンテナ)
Fig. 22 Experimental result beside ATR building.
(BS’s antenna element : patch antenna)
とした.
ATR グラウンドにおいて,BS 側アレーアンテナ
にモノポールアンテナを用いた場合の使用 MCS 対ス
ループット特性を図 19 に,パッチアンテナを用いた場
合の特性を図 20 にそれぞれ示す.また,ATR ビル傍
において,BS 側アレーアンテナにモノポールアンテ
ナを用いた場合の使用 MCS 対スループット特性を図
21 に,パッチアンテナを用いた場合の特性を図 22 に
それぞれ示す.加えて,これらの実験における各 UE
電力を確保しつつも偏波ダイバーシチ効果を得るため,
の平均 SNR を表 6 に示す.
UE 側アレーアンテナは地面に対して ±45 度の偏波を
ATR グラウンド(図 19 及び図 20)の場合,いずれ
受信するようモノポールアンテナ 2 素子のクロス配置
の BS 側アレーアンテナ構成においても,MMSE 重み
560
招待論文/大容量無線通信の実現に向けた非線形 MU-MIMO の伝送性能評価
を用いた空間フィルタリングは MCS Index 6(QPSK,
におけるスループット改善を実証した.
R = 0.63)において最良のスループットが得られてい
一方で,VP を効果的に機能させるには伝搬路フィー
る.一方,VP は MCS Index 12(16QAM, R = 0.59)
ドバックに際して 8 ビット以上の量子化が必要なこと,
において最良のスループットを示し,MMSE 空間フィ
周波数選択性の大きな伝搬路におけるサブバンド化の
ルタリングと比較してモノポールアンテナ使用時で
適用や,数 km/h 程度の低速 UE 移動でも伝送性能が
1.67 倍,パッチアンテナ使用時で 1.92 倍に改善してい
大幅に劣化することを確認した.このうち,UE 移動
る.また,モノポールアンテナ使用時と比較してパッ
による伝送性能劣化は伝搬路予測の適用により軽減可
チアンテナ使用時の方が高いスループットを示す傾向
能である.また,実環境では伝搬路変動に起因して同
にある.このことから,周辺に構造物が存在しない環
期タイミングの変動が発生する可能性がある.この場
境においては利得の高いアンテナを使用することによ
合,周波数領域における伝搬路が急速に変動して見え
る SNR 改善が,スループット向上に寄与すると考え
るため,UE 移動時にも高い伝送性能を得るには様々
られる.
な工夫が必要であると考えられる.また,本論文では
ATR ビル傍(図 21 及び図 22)の場合,VP 適用
説明を割愛したが,MMSE 規範で送信重みを生成す
によりモノポールアンテナ使用時で 1.83 倍,パッチ
ると受信側で無視できない程度の modulo サイズの推
アンテナ使用時で 1.66 倍にスループットが改善して
定誤差の発生が確認された.この詳細と対策手法につ
いる.また,変調方式として QPSK(MCS Index が
いては文献 [38] を参照されたい.
3∼8)ないし 16QAM(MCS Index が 10∼15)を使
謝辞
本研究は総務省の研究委託「非線形マルチ
用した場合は,パッチアンテナ使用時よりもモノポー
ユーザ MIMO 技術の研究開発」により実施したもの
ルアンテナ使用時の方が高いスループットを示す傾向
である.VP の装置実装について様々な助言を頂いた株
にある.これは,水平面内で無指向性であるモノポー
式会社モバイルテクノ 加藤俊雄氏に深く謝意を表す.
文
ルアンテナを使用すると周辺の構造物による反射波を
受信するため,指向性を有するパッチアンテナ使用時
中村武宏,ベンジャブール
[2]
発展と将来無線技術の展望,
” 信学技報,RCS2011-334,
March 2012.
梅比良正弘,“ワイヤレスネットワークにおける周波数利
と比較して SNR が向上するとともに空間相関が低く
なり,チャネル容量が改善するためと考えられる.た
だし,モノポールアンテナ使用時とパッチアンテナ使
用時のいずれにおいても,ATR ビル傍での実験ではグ
ラウンドでの実験と比較して高い SNR が得られてい
るにもかかわらず,達成スループットは ATR ビル傍の
用の展望,
” 信学技報,RCS2012-109, Aug. 2012.
大鐘武雄,小川恭孝,わかりやすい MIMO システム技術,
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外のいずれの伝搬路においても空間フィルタリングと
比較して同一周波数利用効率達成に必要な SNR を低
減できるポテンシャルを有することを確認した.また,
市販の移動通信システムの信号処理モジュールを用い
た 3GPP Release 10 物理フォーマットに基づくリア
ルタイム処理が可能な無線装置を試作して屋外環境に
おける伝送実験を実施し,VP の実現可能性と実環境
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侯
亜飛
(正員)
平 11 中国安徽工程大・工・電子卒.平
19 高知工科大大学院博士後期課程了.平
19 龍谷大博士研究員.平 22(株)国際電気
通信基礎技術研究所入社.平 26 奈良先端
科学技術大学院大学特任助教.現在,同助
教.OFDM,空間多重,MIMO 伝送,信
号処理技術の研究に従事.博士(工学),理学博士.IEEE シ
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矢野一人,薗部聡司,侯 亜飛,塚本悟司,宇野雅博,小
林 聖,“Vector perturbation におけるストリーム間干
前田 隆宏
大阪府立淀川工業高等学校電気科卒.主
に携帯電話及び基地局の無線部ハードウェ
ア回路設計及びハードウェア検証に従事.
平成 23 より(株)国際電気通信基礎技術
研究所にて無線通信技術の実証実験に従事.
渉を考慮した modulo 格子サイズ設定に関する一検討,
”
信学技報,RCS2012-225, Dec. 2012.
(平成 27 年 12 月 4 日受付,28 年 2 月 16 日再受付)
伴
弘司
(正員)
昭 57 東工大・工・高分子卒.昭 59 同
矢野
一人
(正員:シニア会員)
平 12 京大・工・電気電子卒.平 17 同
大学院博士後期課程了.平 16 日本学術振
興会特別研究員.平 18(株)国際電気通
信基礎技術研究所入社.以来,空間多重,
MIMO 伝送,周波数共用技術等の研究に
従事.現在,同社主任研究員.博士(情報
学).平 18 年度学術奨励賞受賞.IEEE 会員.
塚本
悟司
(正員)
平 3 電機大・工 2 部・電子卒.民間企業
を経て平 9(株)サイバネテック入社.第三
世代移動体通信向け実験機開発に従事.平
17(株)国際電気通信基礎技術研究所入社.
以来,信号処理,MIMO 伝送,ESPAR ア
ンテナの研究に従事.現在,同社主幹研究
員.博士(工学).URSI-C 小委員会委員,IEEE 会員.
薗部
聡司
平 7 法政大・工・電気卒.平 9 同大学院
修士課程了.平 10 沖電気工業(株)入社.
平 12(株)モバイルテクノ出向,平 16 同
社転籍.平 22∼24(株)国際電気通信基礎
技術研究所出向.第二,三世代移動体通信,
無線 LAN,MIMO 伝送,誤り訂正符号化
大学院修士課程了.同年日本電信電話公社
(現株式会社)入社.環境 ICT 技術の研究
に従事.平 21(株)国際電気通信基礎技術
研究所波動工学研究所.現在,大学共同利
用機関法人高エネルギー加速器研究機構学
術フェロー.博士(工学).応用物理学会,高分子学会,放射線
化学会,各会員.
宇野 雅博
(正員)
昭 63 上智大・理工・電気電子卒.平 2 同
大学院博士前期課程了.平 2 ソニー(株)入
社.平 13∼19 Sony Deutschland GmbH,
平 22∼25(株)国際電気通信基礎技術研
究所出向.第二,三世代移動体通信,無線
LAN,ミリ波,周波数共用技術の研究に従
事.現在,ソニーセミコンダクタソリューションズ(株)研究
開発部門シニアエンジニア.IEEE 会員.
小林
聖
(正員:シニア会員)
昭 62 東京理科大・工・電気卒.平 1 同
大学院修士課程了.同年日本電信電話(株)
入社.無線通信における変復調,同期制御
等の信号処理及び実装技術の研究に従事.
平 23∼26(株)国際電気通信基礎技術研
究所出向.現在,
(株)フジクラ先端技術総
合研究所応用電磁気研究室副室長.平 19∼23 筑波大大学院客
員教授.平 24 室蘭工大客員教授.博士(工学).平 15 及び平
18 電波産業会電波功績賞(団体受賞).IEEE 会員.
技術の研究に従事.現在,
(株)モバイルテクノ方式開発部門.
563