医療機関の効率性 - econ.keio.ac.jp

2015Fall
医療経済学(経済学部:河井啓希)
Ⅷ 医療サービスの供給(1):医療機関の効率性
1 効率性の測定1:measurement の問題
成果(平均寿命 etc)
生産関数:y=f(x)
y:成果、x:投入
費用関数:C=w’x=g(w、y)
C:費用、w:単位あたり費用
費用便益分析:py-w’x
p:単位あたり便益
投入(人口1万人あたり医師数など)
(1) 成果y、便益 p の評価
患者数、平均寿命、健康寿命=平均寿命-不健康期間、Disability-Adjusted Life Year
池田ほか(1998)「わが国における障害調整生存年(DALY)簡便法による推計の試み」
『医療と
社会』8:83-99
社会経済分析ガイドライン http://staff.aist.go.jp/kishimoto-atsuo/socioecono.htm
支払意思額(willingness to pay: WTP):アンケート調査にもとづく推計値
French & Mauskopf(1992) “A quality of life method for estimating …” American Journal of Public
Health 82
喘息:$200/日、頭痛:$186/日 咳:$200/日、慢性気管支炎:$10780/日、慢性関節炎:$6322/日
(2)費用Cの評価
入院医療費・外来医療費、COI
疾病費用(cost of illness:COI):直接費用 30%+間接費用(機会費用)20%+死亡に伴う
費用(期待稼得所得)50%
(3)投入xの評価
医師数、看護師数、様々な検査機器(機会費用)
、薬剤…
2 効率性の測定方法
(1)さまざまな分析手法
1)生産関数 Y=F(X) Y:output
X:inputs(医師、看護師、設備、機械、薬…)
2)費用関数 C=G(w、Y) w:input prices(給与、原料価格…) Y:outputs(診療別患者数)
3)SFA (Stochastic Frontier Analysis) Y=F(X)+a+e C=G(w,Y)-a+e
4)DEA(Data Envelop Analysis)
:様々な output を考慮可。ノンパラメトリックな分析
(2)規模の経済性
規模の不経済性(大病院への補助)⇔ 規模の経済性(診療所への補助)
(3)範囲の経済性
範囲の経済性(総合病院化) ⇔ 範囲の経済性なし(病院の機能分化)
(4)統合の経済性
外部化(検査部門、給食部門、入院部門、調薬部門) ⇔ 統合
(5)生産要素間の代替・過不足
医療設備の充実→検査技師の増加、看護師の減少?
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薬剤費の増加→設備・看護師の節約、事務職の増加
医師不足、看護師不足の検証、検査機器過剰の検証
(6)医療機関の非効率性
非効率性=技術的非効率性+資源配分非効率性
サーベイ
河口洋行(2008)『医療の効率性測定 その手法と問題点』勁草書房
刀根薫(2000)『経営効率評価ハンドブック―包絡分析法の理論と応用』朝倉書店
日本医師会総合政策研究機構(2008)
「TKC 医業経営指標(M-BSAT)平成 20 年度版」に掲載された全国 685 の法人病院と
3178 の法人診療所の決算データ。公立病院の7割、民間病院の2割、診療所の3割が昨年
度赤字。赤字経営の病院、診療所は共に、黒字病院より事業規模が小さい(規模の経済性)
赤字病院は、仕入れ面と人件費面でのマネジメントにおいて、黒字病院と比べて、その効
率性を損ねている
DPC (Diagnosis Procedure Combination:診断群分類) の効率性指数
全 DPC 対象病院の平均在院日数÷当該医療機関が全 DPC 対象病院と同じ患者構成であっ
たと仮定した場合の平均在院日数。分母の自院の在院日数が分子の全病院の平均よりも短
ければ機能評価係数で評価される仕組み。DPC はこれまで DRG/PPS ほど在院日数を短縮
するインセンティブがなかったが、効率性指数の評価しだいでは大きく変えることになる。
青木研,漆博雄(1994)「Data Envelopment Analysis と公私病院の技術的非効率性」上智
経済論集 39(1,2):56-73
DEA を用いて病院の技術非効率性を測定。公立病院、大病院が効率的
漆博雄,中西悟志(1994)「民間病院の費用分析」医療と社会 3(2):118-132
民間病院の経営実態調査、規模の経済性、資源配分の非効率性
山田宣夫(1998)「DEA 法による公立病院の生産性分析:生産性変化の主因と最適生産規模」
第5回ヘルスリサーチフォーラム新しい時代の保健・医療を考える:グローバルスタンダ
ードの視点から
Malmquist 指数により生産性を計測。愛知県内の 24 の公立病院について 1971 年から 20
年間の生産性の変化,効率性の変化,生産フロンティアのシフトを計測している。その結
果,20 年間で生産性が約 2 倍になっており,その原因は生産フロンティアの上へのシフト
であった。
中島隆信,駒村康平,磯崎修夫(2000)「日本の病院における全要素生産性」国立社会保障・
人口問題研究所編!医療・介護の産業分析"東京大学出版会,pp. 25-57
医療経済実態調査を用いて開設者別に全要素生産性を計測。社会保険関係病院が非常に高
いパフォーマンスを示している一方で,国立病院と公立病院の全要素生産性は他の経営形
態と比較して相当低い水準にある。
中山徳良(2004)「自治体病院の技術効率性と補助金」医療と社会 14(3):69-79
地方公営企業年鑑を利用して自治体病院の非効率性を DEA によって計測。
非効率性の要因:補助金比率、検査件数、立地(不採算地域)、救急病院、手厚い看護基準
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小川光、久保力三(2005)「2次医療圏の技術非効率性」医療と社会 15(2):39-49
DEA を利用。医療圏の人口と面積が効率性に影響
中山徳良(2008)「愛知県内の公立病院の効率性と生産性」名古屋市立大学
1999 年度から 2006 年度までの愛知県内にある 26 の公立病院のデータにより,DEA の
手法を用いて Malmquist 指数,効率性の変化,生産フロンティアのシフトを計測した。そ
の結果,Malmquist 指数はいずれの年においても改善している病院は半数に満たないこと,
特に 2004 年度から 2005 年度と 2005 年度から 2006 年度にかけてはほとんどの病院で下
がっていることが示された。また,効率性の変化はいずれの年においても半数を超える病
院が改善していることが示された。しかし,生産フロンティアのシフトは 1999 年度から
2000 年度,2002 年度から 2003 年度は半数前後の病院が上へのシフトを示すものの,他
の年度では下へのシフトを示すものが多いことがわかった。また,効率性の要因について
分析した結果,経常収益に対する補助金の比率が高まると効率性は減少し,病院間の競争
の程度が高まると効率性は増加することが示された。
野竿拓哉(2007)「地方公営病院におけるインセンティブ問題-DEA による非効率性の計測お
よびその要因の計量経済分析とともにー」『会計検査研究』35:117地方公営企業年鑑を利用。①補助金比率が高いほど効率性は低下する②情報公開条例等が
ある自治体の病院は効率性が高まる③第3者機関評価をうける病院の効率性が高まる④災
害拠点病院や臨床研修指定病院は効率的だが、救急告示病院や政令指定都市が開設する病
は非効率的⑤病院密度が高い地域の病院は効率的
元橋一之(2009)「日本の医療サービスの生産性:病院の全要素生産性と DEA 分析」ESRI
Discussion Paper Series No.210 公立病院、人口密度
本稿においては 2005 年と 2008 年の「病院年鑑」
(株式会社アールアンドディ)のデータを
用いて、日本の病院に関する全要素生産性と DEA(Data Envelope Analysis)による効率
性に関する分析を行った。約 9000 の全国のほとんどの病院をカバーするデータで開設者別
の生産性に関する分析を行ったところ、国や都道府県が行う公立病院の生産性は医療法人
と比べて高いことがわかった。また、DEA による効率性について都道府県別の平均を見た
ところ、人口密度が高い都心部において必ずしも効率性が高いとは言えないことが分かっ
た
森川正之(2010)「病院の生産性-地域パネルデータによる分析-」RIETI Discussion Paper
Series10-J-041 規模の経済性
病院の平均規模が大きいほど生産性が高いという関係が確認され、二次医療圏レベルで
は地域固有効果を考慮してもなお顕著な病院規模の経済性が存在する。平均病院規模が2
倍になると入院医療サービスの生産性は 10%以上高く、経済的に大きなマグニチュードで
ある。この効果は、在院日数を考慮しないと観察されないか非常に小さく、病院規模の経
済性は主として医療サービスの質の向上という形で生じている。政策的には、病院の集約
化等により規模の経済性を活かすことが医療サービスの生産性向上に寄与する可能性を示
唆している
河口洋行, 橋本英樹, 松田晋哉(2010)「DPC データを用いた効率性測定と病院機能評価に関
する研究」『医療と社会』20(1):23-34.
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本研究では,DPC データを用いて生産物(output)をより精緻に捉えたうえで,Stochastic
Frontier Analysis を用いた効率性測定を実施した。具体的には,第一に生産物としての「患
者数」に DPC データから得られる相対係数で重み付けを行った。これまでの日本の先行研
究では生産物として単純に患者数や退院数を用いていたため,より医療資源が必要な患者
を多く取り扱う医療機関が効率性測定において不利になっていたが,このウエイト付けに
より正確な生産関数を推定することが可能となる。第二に,DPC データから得られる
HSMR(Hospital Standardized Mortality Ratio:期待死亡率と観測死亡率の比を取った比
率)を品質変数として推定モデルに追加し,品質の制御を実施した。これまでの日本の先
行研究では品質変数が利用できず,「医療サービスの品質は一定」という暗黙の前提条件を
設定していた。もし,日本の病院に大きな品質のばらつきがある場合には,効率性の差が
大 き くな る 可能 性が 考 えら れる 。 併せ て, サ ンプ ル 病院 の 「観 測さ れ ない 異質 性 」
(unobserved heterogeneity)を制御するために Greene(2004,2005)の True Fixed Effect
Model(以下,TFEM)を用いた。TFEM の特徴は,従来の SFA に病院毎のダミー変数を
追加し,このダミー変数で固定効果を補足することによって,より正確な効率性推計を可
能とした点である。さらに,この固定効果を示す数値は,病院の生産構造(或いは費用構
造)の違いを反映すると考えられ,DPC データの機能係数としての利用可能性があるかも
知れない。推定の結果,以下の 2 点が明らかになった。第一に,推定した効率性値は,約
0.6 と先行研究に比して低い水準となった。これは,本研究では,品質変数による制御が行
われているためと考えられ,品質変数を除いたモデルでは効率性の平均値は 0.74 であった。
第二に,病院毎の固定効果値のヒストグラムを見ると,0.9 付近を峰とする分布になってい
ることがわかった。当該棒グラフを,その開設者が識別できるように,樹形図に変換した
ところ,明らかな分布の違いは認められなかった。
PFI(Private Finance Initiative)導入と効率性の改善
電子カルテの導入と効率性の改善
アウトソーシングの拡大と効率性の改善
DPC 対象病院(定額制病院)の拡大と効率性の変化
3 病院の非営利性
遠藤久夫(2006)「医療と非営利性」田中・二木『保健・医療提供制度』勁草書房
(1)営利病院は非営利病院に比して効率的か?
(2)DRG・PPS の影響に違いはあるか?
(3)営利病院の医療の質は低いか?
(4)営利病院はクリームスキミングを行うか?(立地選択、不採算サービス、患者選択)
(5)あなたなら病院の非営利性についてどのような分析を行なうか?(その理由・重要
性、分析手法について提案しなさい)
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