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生活単元学習指導案
やまびこ(情緒障害)学級
指導者 教諭 戸村 千鶴
1
単元名
2
単元について
・
・
「4年1組の友だちへ」
ー障害の理解と,よりよい人間関係を求めてー
当校ではここ数年,身体障害の方との交流授業や,ハンディキャップ体験などを糸口と
した障害福祉に関する授業が行われている。また,交流教育への関心も高まり,特殊学級
の児童が通常学級の授業に参加したり,一緒に行事に取り組むなど,交流が盛んに行われ
るようになってきた。
しかし,身体障害のように目に見える障害とは異なり,知的障害や情緒障害のような目
に見えない障害を持つ特殊学級で学ぶ「友だち」を,通常学級の児童はどのように理解し
ているのであろうか。 同等な友だちとして見てくれているのであろうか。
ここでは,普段から交流を行っている協力学級(4年1組)において,特殊学級で学ぶ
本児( W 児)が自分の持つ障害(自閉症)を正しく理解してもらい,家族とともにその
障害と戦い,培ってきた力を披露する。そのことにより,自分の力を多くの友だちに認め
られる喜びを味わわせ,これからの活動意欲につなげていきたい。また,新たな人間関係
を形づくることにより,より確かな社会性を身につけられることも期待したい。
4年1組の児童には,本単元の学習を展開することにより,これからの W 児への協力
・支援のあり方を考えさせたい。そして延いては,地域,社会の一員としても,障害への
偏見・差別をなくし,誰もが大切な存在であるということに気づかせていけるのではない
かと考える。
なお本単元は,4年1組においては特別活動の内容A学級活動( 2)「日常生活や学習へ
の適応及び健康や安全に関すること」の「望ましい人間関係の育成」に位置する。
当学級(やまびこ学級)について
4年男1名(W児)の情緒障害学級である。
氏
名
障害名
学習の様子
生活の様子
H・W
自閉症・軽度精神発達遅滞
田中ビネー IQ 61(平成13年10月)
・平仮名・片仮名・簡単な漢字の読み書きができ,簡単な文章も書く。
・算数ではドリル形式の計算を好んで行う(2位数までの加減算)。
・コンピュータに大変興味を持っている。短時間に操作を覚え,楽しん
でいる。
・興味を持ったことについては,そのことについて独り言を言ったり,
絵を描いたりと,時間を忘れて没頭する。
・身辺処理はほぼ自立し,生活面での指示も理解して行動できる。
・環境の変化に抵抗を示し,教室を走り回ったり,大声で叫ぶなどの
パニックに陥ることがある。(短時間で治まる)
・相手と目を合わすことはなかなかできないが,会話は少しずつ成立す
るようになった。(反響言語がまだ多い。)
・一人遊びを好み,発展性の乏しい遊びの反復であることが多い。
-1-
交流の様子
家庭の姿勢
・協力学級の児童の名前を覚え,特殊学級や家庭でも,友だちの話をし
ている。
・班長の言うことを聞きながら,一緒にグループ活動をしようと努力し
ている。
・協力学級の担任とのコミュニケーションが増え,担任に話しかけられ
ると応えることが多くなった。
※交流の詳細については,別紙資料1参照
・家族全員がW児の障害を受け入れた上で,自然な形で対応している。
・母親はW児の障害に目を背けず,真正面から戦ってきた。幼児の頃か
ら父親と共に児童相談所に通ったり,自ら障害児の親の会をつくった
りと,我が子だけでなく,障害児全体にも目を向けている。
W児は,協力学級の友だちと活動することを楽しみにしており,一緒に活動するために
本児なりに我慢や努力をしてきた。そのため,上記のように,他者とのコミュニケーショ
ン能力や集団への参加能力が高まってきており,障害児側からの交流教育の目標は,徐々
にではあるが達しつつあると言える。
しかし交流の現場を見ると,W児と健常児との発達のギャップが大きく ,「お世話され
る」関係が多く,友だちに自分から働きかけたり,家庭ややまびこ学級で身につけた力を,
十分に発揮できる場面はほとんど見られないのが実情である。
3
・
協力学級「4年1組」について
協力学級の4年1組35名。彼らは3年生時からW児と様々な交流学習を行ってきてい
る。また,その中の数名は入学時,あるいは保育所時代から関わりを持ってきている。彼
らはW児に対して非常に好意的で ,「世話」もよくしてくれる。しかしそれは同等な友だ
ちの関係でなく,本来の交流教育の意図とは異なるものがある。
W児の障害についても,これまでは触れないできた。中には「自閉症」と知っている児
童もいるが,それがどのような障害であるかは理解していないと思われる。
・
4年生は障害福祉に関する授業として,聴覚障害について,総合的な学習の時間で取り
組んできた(10∼11月 )。地域の聴覚障害の方や手話サークルの方をコミュニティゲ
ストとして迎え,聴覚障害についての話をしてもらったり,手話を通しての交流を行った
りしている。ここではその体験を基盤として,身近な存在であるW児の障害について目を
向けさせていきたい。
単元の目標
(1) やまびこ学級 W児について
・自分の力を多くの友だちに認められる喜びを味わわせ,自信を持たせることにより,
これからの活動意欲を高めるようにする。
・障害を正しく理解してもらうことにより,社会性を身につけるとともに,自立する力
を培うようにする。
(2) 4年1組の児童について
・障害を持つ友だちに対する誤解や偏見,差別をなくし,仲間の一人として受け止め,
協力して共に活動しようとする態度を育てる。
・障害を克服する意欲に触れ,自分の生活の姿勢や学習の態度を反省させる。
-2-
4
単元の指導計画
(1) 授 業 者:W児の母親をゲストに迎え,やまびこ学級担任が行う。
(2) 打合せ会:やまびこ学級担任,母親,4年1組担任で事前に打合せ会を開き,授業内
容について検討する。
(3) 授業内容:次の3つの活動内容で構成する。
○ 障害(自閉症)の理解
担任が「 自閉症」について説明する。遺伝や家庭の躾の問題ではないことも話し,
不用意な偏見を払拭するように努める。また,プライバシーの問題もあるので,十
分に母親と検討する。
○ W児とその家族の抱える苦しみ・悩みそして喜び
W 児の代弁者として母親に話してもらう。話の後には,児童から自由に質問や
疑問を出させる。
W児の抱える苦しみや悩みに触れ,障害を乗り越えて生きる姿から,自分を振り
返らせる。また,同世代の子どもとして共通の悩みや苦しみもあること,親の子に
対する愛情は同じであることも理解させ,W児と4年1組の児童の間に対等な人間
関係を持たせていく。
○ 成長したW児の紹介
W児が,家庭ややまびこ学級で身につけた力を発表する。自分の頑張りを大好き
な友だちに認められることにより ,「認められる」という喜びを味わわせるととも
に自信を持たせ,次の活動への意欲を高める。
5
本時の指導
(1) 準備物
教師
W児
:
:
自閉症の説明の資料
計算カード
作文
感想カード(W児用,4年1組児童用)
(2) 学習過程
別紙の通り
(3) 評価の観点
○ やまびこ学級 W児について
・自分の身につけた力を,堂々と発表できたか。(発表の様子)
・これからの活動への自信と,意欲を持つことができたか。(表情)
・自分でできることは自分で行い,友だちと協力し合う態度が身についたか。
(今後の活動)
○ 4年1組の児童について
・W児の障害や,W児の頑張りを理解できたか。(質問・感想カード)
・W児を同じ仲間の一人として認めることができたか。(感想カード)
・W児に接し,自分の生活や学習の態度を,振り返ることができたか 。(今後の活動)
(4) 指導していただきたいこと
・インクルージョンの考えが広がってきている現在,障害理解は重要な意味をもつもの
と考えられる。脳の機能の障害である自閉症や,染色体異常のダウン症候群の場合は
はっきりと説明ができるが,精神発達遅滞の場合は,どのように説明したらよいか。
-3-
ー資料1ー
1
交流教育について
交流の目標
(1) 心身障害児に対して
・健常児と共通の体験を持つことにより,新しい人間関係のできる喜びや,自分の力を多
くの友だちに認められる喜びを味わわせ,社会性の伸長と望ましい人間関係の育成を図
る。
・集団の規律や決まりを学び,社会適応能力を身につけさせる。
・交流教育を通し,自分も協力学級,学年,学校の一員であるという意識を持たせる。
(2) 健常児に対して
・障害児と共に生活することによって,障害児に対する誤解や偏見,差別をなくし,誰も
が大切な存在であることに気づかせる。
・障害児の意欲に触れることにより,自分の生活の姿勢を考え,友だちの立場を理解しよ
うとする態度を育てる。
・思いやりやいたわりの気持ちを培い,相手が困っている時に自然に応じられるような温
かい人間的資質や心情を養う。
1
交流の実際
交流の場
音
流
の
様
子
楽
・学年(4学年)と一緒に,合唱の練習を行った。1年時は全く入れなかっ
たが,学年が上がるにつれ徐々に一緒に活動できるようになり,今年は歌
をしっかり歌うことができた。
育
・友だちと一緒に運動するのをとても楽しみにしている。
・競争心がないので,かけっこなどはマイペースで走る。またドッジボール
やサッカーにおいては,ルールが理解できないので見ていることが多い。
教
科 体
交
特別活動
・朝会,学校・学年行事,縦割り班活動,学年PTA行事などに積極的に参
加している。縦割り班活動は1,2年生もいるので,上級生は4年のW児
にあまり関わることができないので,担任が動きなどを教えている。
・クラブ活動はあえて担任とは離し,他の先生とのつながりを持たせている。
総合的な
学習の
時 間
・学年(4学年),あるいは協力学級と一緒に活動している。活動の中から,
本児が興味・関心を持ったことを見出し,やまびこ学級で学習しながら
交流学習に参加させている。
給
・週に1∼2回,W児が協力学級に出向いて給食を食べる。偏食がかなり激
しいので,給食の献立との兼ね合いも見て交流させている。
・協力学級では,グループが時々変わるので,より多くの友だちと関わりを
持つことができた。また後片付けも自分でするように,声をかけてもらっ
ている。
食
-4-
3
交流教育を実施しての変容
( 1)
人間関係
・協力学級の友だちの名前を覚え,やまびこ学級に戻ってきてからも,友だちの名前を
言ったり,楽しかったことを話すようになった。
・班長の言うことを聞きながら,一緒にグループ活動をしようと努力するようになった。
・協力学級や学年の先生の名前を覚え,話しかけられると応えることが多くなった。
( 2)
行動・意欲
・「 4年生と一緒に活動する」というだけで,目をきらきらさせて取り組もうとする。
一緒に活動するために,事前の活動も頑張ってやり抜くようになった。
・教科における交流を年間を通して行ったので,自分も学級の一員なのだ,という自覚
が出てきて,喜んで交流に行く姿が見られた。
-5-
ー資料2ー
1
自閉症の理解
医学的理解
・中枢神経(脳の障害)
脳の一部の「周りからのいろいろな情報を,きちんと知る働き」に障害がある。
遺伝や育て方,家庭環境に原因があるのではない。(原因については,まだ不明)
・自閉症は生涯にわたって障害が継続し,完全に治ることはないが,適切な療育,教育によ
って目覚ましく発達する。
・1000人に1∼2人の割合で出生する。
2
特徴(診断基準)
(1)社会的相互交渉における質的な障害
・ 他人への関心が乏しい
・ 視線が合わない
・ 他人への共感性が欠如している
・ 関わられることを嫌がる
・ 発達水準に相応した仲間関係がつくれない
(2)コミュニケーションにおける質的な障害
・ 話し言葉の発達の遅れ
・ 反響言語が長い間ある
・ 同じことを繰り返して話す
(3)反復的または常同的な行動
・ 活動や興味の範囲が極端に狭く,限られている
・ 変化に対する抵抗
・ こだわりのある行動
3
コミュニケーションのとり方(支援のあり方)
○簡単な言葉で,やさしくはっきりと話す。(身振りや文字や絵,写真の利用)
○挨拶は,応えが返ってこなくてもする。
○話しかける時は,名前を呼んでから話す。
○人に迷惑をかけたり,ルールを守らない時は,優しく,はっきり教える。
(単なる禁止ではなく,これからの行動を具体的に教える。 例 …しようね。)
ー資料3ー
◎
授業後の児童の反応
4年1組の児童が記した「感想カード」の一部を紹介する。
・A男(男)
今日はいろんなことを話していただいてありがとうございました。W君は運動しんけい
がいいので,一輪車もじょうずで,サッカーもできるよね。ぼくが転校してきた時,W君
のことがぜんぜんわからなくて,なかなか声をかけられませんでした。初めて「W君,お
はよう 。」と言ったら ,「おはよう 。」と返してくれました。休み時間,サッカーをしてい
る時,W君が「まぜて 。」ときたので,いっしょにしました。がんばっているんだね。こ
れからも,いっしょにいろんなことをしようね。
-6-
・B子(女)
Wちゃんはすごいですね。今日はWちゃんのことをいろいろ聞きました。Wちゃんのお
母さんもいろいろくろうしたと思うけど,W君のことを大切にしてきたから,いろいろな
ことができるようになったんだなあと思いました。ありがとうございました。
・C男(男)
W君,一輪車,とくいだよね。でも,ぼくはにがてだから,こんどおしえてね。あと,
サッカーもがんばっているよね。ぼくはつよくないから,うらやましいな。ぼくもW君に
負けないようにがんばるからね。
・D子(女)
W君のことがよく分かりました。小さい頃のこと,勉強のしかた,W君のお母さんの苦
労とか,よく分かりました。これからも一人の大切な友だちとして,せっしていきたいと
思います。
・E男(男)
Wちゃんは,これからもいっぱい友だちをつくっていけるよ。もちろんぼくも,もっと
もっと,いっぱいなかよくなれるといいな。こんどいっしょにサッカーしようね。
教室に,またカナチョロが一ぴきふえたので,見にきてね。
-7-
(2) 学習過程
段
主
階
W
導
1
入
2
な
学
児
習
活
動
4年1組児童
聴覚障害の方との交流会を想起する
本時の学習について知る。
(1)学習のめあてを知る。
自分の頑張って
きたことを,友
だちに発表しよ
う
W君について,
もっともっとよ
く知ろう
(2)学習のゲストを知る。
展
指
導
上
の
留
意
点
☆は,W児に対しての留意点
備
考
・手話で挨拶をすることにより,自然な 協 力 学 級 の
形で,より鮮明に想起させる。
担任は,児
童と一緒に
・自分たちの身近な存在であるW児も, 話 を 聞 き ,
障害を持つ一人であることに気づかせ 「 母 親 へ の
るようにする。
質問」の時
☆家庭や特殊学級で培ってきた力を,大 に 指 名 を す
好きな友だちの前で発表することを知 る。
らせ,励ます。
・W児の母親には,ここで初めて登場し
ていただき,紹介する。
☆母親に不必要に甘えることがないよ
う,事前に話しておく。
3 「自閉症」という障害について知る。 ・プライバシーの問題もあるので,説明 自 閉 症 に つ
(1)「自閉症」の医学的理解
の仕方や内容については,保護者と綿 い て の 詳 し
密に話し合っておき,簡潔に説明する。 い 説 明 は ,
資料2を参
(2)「自閉症」の特徴
・遺伝や育てる環境,育て方が原因でな 照
・他の人への関心が乏しい
いことを理解させ,不用意な差別や誤
・話し言葉の遅れ
解がないようにする。
・活動や興味の範囲がせまい
(3)友だちになるために
開
・簡単な言葉で,やさしくはっき
り話そう
・挨拶は,答えが返ってこなくて
もしよう
・迷惑をかけたり,ルールを守ら
ない時は,はっきり教えよう
4
W児の母親と交流を持つ。
○友だちと一緒
に話を聞く。
(1)話を聞く。
(2)質問をする。
5
・言葉や行動では上手に表せなくても,
W児はみんなと,もっともっと友だち
になりたいことを知らせ,これからの
W児への接し方について話すようにす
る。
・W児を療育してきた母親の立場として
またW児の代弁者としての立場として
障害と向き合い,乗り越えて来た苦し
みや悩み,そして喜びを話していただ
く。
・W児も,10歳としての喜びや悲しみ
があり,4年生児童と同じ気持ちを持
っていることに気づかせるようにす
る。
・新たな人間関係をつくり出すために, 協 力 学 級 担
児童の率直な疑問や質問を出させるよ 任 が , 指 名
うにする。
をする。
W児の頑張り発表会をする
○これまで頑張っ
てきたことを発
表する。
・計算
・作文
☆母親も見守っていることを話し,安心
して取り組ませる。
○W児の発表を見 ☆題「4年1組の友だちへ」の作文を事 計算カード
る。
前に書かせておき,小さな声でも自分 作文
で読ませるようにする。
など
-1-
6
感想カードを書く。
ま
と
め
○今日頑張ったこ ○本時の学習につ ・学習を通しての感想や,W児へのメッ 感想カード
とについて感想
いて,自由に書
セージなどを自由に書かせながら,こ (4年1組用,W児用)
を書く。
く。
れからのW児に対する関わり方を考え
させる。
☆頑張りを認め,賞賛することにより,
これからの活動意欲につなげるように
する。
7 終わりの挨拶をする。
○W児の母親に,お礼の言葉を言う。
※
当日,“3(3)友だちになるために”は,“5
W児の頑張り発表会”の後に行った。
-2-