高専入試過去問解説 平成 26 年度 数学 ナレッジスター Knowledge Star http://know-star.com/ まえがき 高専受験の数学では,公立高校受験に比べてかなり高度な論理的思考力が要求される.また,基 礎的な公式や考え方も,しっかりと見についていなければ正解にたどり着くことはできない.しか しながら,「ひらめき」が 1 つ生まれた瞬間に一気に正解に近づける感覚や,自分の中で組み立て た正解へのロードマップによって正解を導けたときの快感は,従来の数学の問題では味わえないも のだ.ぜひ,以下のことを意識しながら,高専受験の数学の問題を楽しんで解いてみてほしい. • 基礎問題 ( ) 1 をのぞき,::::::::::::::::::::::::::::::::::: すぐには正解にたどり着くことはできない.高専受験の数 学では,まず解き方のロードマップを決め,それを常に意識しながら地道に正解に近づ いて行くことが大切だ. •「大きな問題を小さな問題に分割」して解く(分割統治法)ということを意識しよう. 工学や理学で現れる重要な問題は,そのようにして解決する必要があるものばかりだ. 高専の受験では,その思考能力を問われている. • 頭のなかに「ひらめき」が 1 つ出てきた瞬間に,問題が突然解け始めることが多い.そ してその「ひらめき」は,根気よく悩むことにより必ず得られる.焦ること無く,じっ くりと考えを巡らせて,「ひらめいた」瞬間の感動を味わってほしい.高専の問題は, 数学の楽しさに気づくのに最適な題材だ. また,最初の問題 ( ) 1 では,簡単な基本問題が出題される.特に高専だから難易度が高いという ことはないので,本資料では解説を省略してある.本資料が,高専受験生にとっての勉強の一助と なることを心から祈りつつ,まえがきを終えたいと思う.頑張れ!! Shinji Akematsu http://know-star.com/ ※この資料を学校,塾等で配布する際は,[email protected] へご一報ください. また,製作者を偽って配布したり,販売したりすることは御遠慮くださいませ. 1 babababababababababababababababababab 2 以下の図のように,原点を通り y 軸上に中心を持つ円と,放物線 y = ax2 が点 A(4, 8) で交わっている. y A O x この時,次の各問に答えなさい. (1) a の値を求めなさい. (2) 円の中心の座標を求めなさい. (1) A の座標が (4, 8) で,A は y = ax2 上の点なので,x = 4, y = 8 を代入して a を求めよう. 8 = a × 42 16a = 8 1 a= . 2 よって,a = 12 . □ (2) 円の中心を P とする.P は y 軸上にあるので,P の x 座標は 0. よって,P の座標は (0, t) と 置くことができる. さて,円の半径はいつも等しい. AP も OP も円の半径なので,AP=OP だ (下図). 2 y A(4,8) AP P(0, t) OP t O x 図を見ればすぐにわかるが,まず,OP= t である.さらに,AP も 2 点間の距離の公式を使っ て計算することができて, AP = √ √ (4 − 0)2 + (8 − t)2 = 16 + (8 − t)2 . OP=AP より,次の式が得られる. √ 2 t = |{z} | 16 +{z(8 − t }) . OP √ AP が邪魔なので,両辺を 2 乗して外してしまおう. t2 = 16 + (8 − t)2 . これを展開して整理すれば,t の 2 次方程式が得られる.それを解いて t が分かり,中心の座 標が分かるでしょう!という算段だ. t2 = 16 + (8 − t)2 t2 = 16 + (64 − 16t + t2 ) t2 = 16 + 64 − 16t + t2 16t = 80 t = 5. よって,中心の座標は (0, 5) である. □ ひとくちメモ 1 問目のボーナスっぷりとは対照的に,2 問目はややトリッキーだ.ここでも,試行錯誤をい とわないということを忘れないでいてほしい.とにかく,出来そうなことをやり,ダメだった ら切り替える.そうしていつか解答にたどり着く.解説を見た瞬間に「思いつくかよこんな ん!」と思うべからず.僕だって悩みながらこの答えを導いているんだから. 3 babababababababababababababababababab 3 小さい正方形を,縦横 n 枚ずつ敷き詰めて大きい正方形の数表を作る.図 1 は,縦横 4 枚ずつ敷き詰めた数表であり,図 2 は,縦横 5 枚ずつ敷き詰めた数表である. 図 1 や図 2 のように,数表の左上の小さな正方形には 1 を記入し,矢印の向きにした がって順に連続する自然数を記入していく. そして,数表の対角線上の小さな正方形 に記入された数を,小さい方から順に横 1 列に並べた数の列を考える. たとえば,図 1 の場合の数の列は 1, 4, 7, 10, 13, 14, 15, 16. 図 2 の場合の数の列は, 1, 5, 9, 13, 17, 19, 21, 23, 25 となる.このとき,次の各問いに答えなさい. (1) 縦横 9 枚ずつ敷きつめたときにできる数の列について,大きい方から 3 番目の数を 求めなさい. (2) 縦横 n 枚ずつ敷きつめたときにできる数の列について,小さい方から 4 番目の数を n を用いて表しなさい. (3) 縦横 n 枚ずつ敷き詰めたときにできる数の列について,大きい方から順に 4 つの数 をたすと 664 になった.このときの n の値を求めなさい. 問題を解き始める前に,なぜ出題者がわざわざ図 1 と図 2 という 2 つの図を与えてくれているの かという意図を汲みとっておこう.と,いうのも,図 1 と図 2 では,なんだか「灰色の正方形 (数 4 の列を構成する数が書かれた正方形) の登場規則が違うように見える」からだ. これは実は,図 1 は n が偶数の例,図 2 は n が奇数の例になっている.つまり,2 つの図がわ ざわざ与えられているのは, n の偶奇によって数の列の規則が変わるから,ちゃんと分けて考えなさいよ! という,出題者からのヒントだったのだ. また,数表の中で最大の数は n2 であるということにも気づけるとよい. (1) まず,この場合 n = 9 で奇数だ.この時点で,「あ,図 2 がでかくなった数表をイメージすれ ば良いんだな」と思えると良い. この数表に対応する「数の列」の最大数は 81(= 92 ) だ.さらに,図 2 を参考にして考える と,数の列を大きい方から見た時,途中まで 2 ずつ減っていることが分かる. 81 |{z} → 79 |{z} → 77 → · · · −2 −2 .. . .. . .. . ··· 73 74 75 ··· ··· 80 81 76 ··· ··· 79 78 77 ··· .. . .. . .. . よって,大きい方から 3 番目の数は 77 である. □ (2) 数の列で最小の数は 1 だ.そして,次の数に行くには, • 図 1 では (途中までは)+3. • 図 2 では (途中までは)+4 進んでいるということから,途中までは +(n − 1) をして行けば良いことが分かる*1 .つまり, 小さい方から 4 番目の数を求めるには,(n − 1) を 3 回足せば良いので, 求める数 = 1 + 3(n − 1) = 1 + 3n − 3 = 3n − 2. よって,小さい方から 4 番目の数は 3n − 2 である*2 , □ *1 これは,n が偶数だろうが奇数だろうが言えることだ.つまり,数の列を小さい方から順番に読むときは,n の偶奇 と規則性に関係はない. *2 ちなみに,実際に 3n − 2 に n = 4, n = 5 を代入して計算した値が,図 1, 図 2 の数表から読み取った「小さい方か ら 4 番目の数」と一致するかどうか確かめてみるとよい.図 1 (n = 4) では,数表より,小さい方から 4 番目の数 5 (3) この問題は,数の列を大きい方から見ていく問題だ.数の列を大きい方から見たときの規則性 は,n の偶奇によって変わる.よって,この問題は, • n が偶数と仮定 → n を求める. • n が奇数と仮定 → n を求める. という場合分けが必要だ*3 . • n が偶数と仮定. n が偶数の数表は,図 1 と同じ規則性を持っているので,図 1 を参考にしよう.この 場合,数の列は最大数 n2 から,次のような規則で小さくなっていく. n2 |{z} → (n2 − 1) |{z} → (n2 − 2) |{z} → (n2 − 3). −1 −1 −1 n2 − 3 n2 − 2 n2 n2 − 1 これらの和が 664 と等しいので, n2 + (n2 − 1) + (n2 − 2) + (n2 − 3) = 664 という n の 2 次方程式が得られる.これを解いてみよう. n2 + (n2 − 1) + (n2 − 2) + (n2 − 3) = 664 4n2 − 6 = 664 4n2 = 670 n2 = 167.5 √ n = ± 167.5. n は正方形の数なので,正の整数でなければならない.よってどちらの n も解として適さ ず,求める n は偶数ではなかったことが分かる. は 10 だ.3n − 2 に n = 4 を代入すると, 3 × 4 − 2 = 12 − 2 = 10 となり,しっかり一致している.図 2 (n = 5) についても, 数表より,小さい方から 4 番目の数は 13 と分かるが, 3 × 5 − 2 = 13 *3 となり,確かにこの場合も一致している.これによって, 「あ,ミスっていないっぽい」という安心感を得られる. 規則性が違うんだから一緒くたに扱うことはできないわけで,だったら分けて調べてみるしかないでしょ,という話. 6 • n が奇数と仮定. n が奇数の数表は,図 2 と同じ規則性を持っているので,図 2 を参考にしよう. この場合,数の列は最大数 n2 から,次のような規則で小さくなっていく. n2 |{z} → (n2 − 2) |{z} → (n2 − 4) |{z} → (n2 − 6) → · · · −2 −2 −2 .. . .. . .. . ··· n2 − 8 n2 − 7 n2 − 6 ··· ··· n2 − 1 n2 n2 − 5 ··· ··· n2 − 2 n2 − 3 n2 − 4 ··· .. . .. . .. . これらの和が 664 と等しいので, n2 + (n2 − 2) + (n2 − 4) + (n2 − 6) = 664 この 2 次方程式を解いてみよう. n2 + (n2 − 2) + (n2 − 4) + (n2 − 6) = 664 4n2 − 12 = 664 4n2 = 676 n2 = 169 n = ±13. n は正方形の数なので,正の整数でなければならない.よって n = 13 とわかる. □ ひとくちメモ この資料ではかなり丁寧に解説をしているので,「解説の長さ」で難しい問題に感じるかもし れない.が,実際に思考をして答えを導き出すだけなら,実はそれほど難しくない(3 問目は やや難だが,1 問目,2 問目はかなりボーナス問題だ) .数表の図も,この問題をやたらと難し く見せるのに一役買っているが,まぁこの問題は,比較的見かけ倒し感が強い問題だろう. 7 コラム : 「場合分け」!? babababababababababababababababababab 先ほどの問題で「n が偶数の場合と,奇数の場合を分けて」考えるという考え方が登場し た.このような方法を場合分けという.通常の高校入試問題ではあまり問われることは ないのだが,高専の入試問題や,高校の数学ではこの「場合分け」というアプローチが必 要となることがある.ここではこの「場合分け」について,先ほどの問題を題材にして, もう少し踏み込んで説明をしておこう. いま,我々の目の前には自然数がずらっと並んでいる (下図). ●は奇数,⃝は偶数だ. n 1 2 3 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 4 5 6 そして,それぞれの自然数には,数表と数の列が対応している (下図). 1 3 2 4 5 1, 3, 5, 7, 9 16 17 18 19 6 1 2 3 15 24 25 20 7 8 9 4 14 23 22 21 8 7 6 5 13 12 11 10 9 1, 5, 9, 13, 17, 19, 21, 23, 25 ··· n 1 2 3 1 2 4 3 1, 2, 3, 4 4 5 6 1 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 2 3 4 12 13 14 5 11 16 15 6 10 9 8 7 ··· 1, 4, 7, 10, 13, 14, 15, 16 出題者は,無数にある自然数の中から「数の列の最大数から順番に 4 つ加えると,664 になる数表を持つ」ようなものを探せと言っている.今の場合,その自然数の正体は 「n = 13」なのだが,問題を解き始めた段階の我々は,当然それを知る由もない. n 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 いま,我々に与えられたミッションは,この「n = 13」を見つけることだ.当然そのた めには,それぞれの自然数に対応する数表(数の列)の性質を調べなければならない. 8 babababababababababababababababababab もし,これらの数表がすべて共通した性質を持っていて,それを一気に調べることが 出来れば楽なのだが,この場合はそうは行かない.なぜなら,偶数に対応する数表 (数の 列) と,奇数に対応する数表 (数の列) だと,持っている性質が異なっているのだ (下図の 上の点線枠が「奇数に対応する数表の世界」で,下の点線枠が「偶数に対応する数表の世 界」)a . 1 2 3 4 5 1, 3, 5, 7, 9 16 17 18 19 6 1 2 3 15 24 25 20 7 8 9 4 14 23 22 21 8 7 6 5 13 12 11 10 9 1, 5, 9, 13, 17, 19, 21, 23, 25 ··· n 1 2 3 1 2 4 3 1, 2, 3, 4 4 5 6 1 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 2 3 4 12 13 14 5 11 16 15 6 10 9 8 7 ··· 1, 4, 7, 10, 13, 14, 15, 16 性質が異なるものは,当然一気に調べることは出来ない.もしあなたの目の前に「日 本人」と「アメリカ人」がいて,その両方と会話をしたいのなら,日本人とは日本語で, ::::::::::::::: アメリカ人とは英語で話さなければならないというのと同じである.だから,この問題 ::::::::::::::::: では,n が偶数のときと奇数のときを分けて考えて,アプローチを変えていたのだ.そう した結果, 「偶数」の世界に目的の自然数はおらず, 「奇数」の世界で目的の「n = 13」を 発見できましたね!! ということなのだ. 「場合分け」というのはものすごく重要だ.無数に存在するあらゆる数が全く同じルール に従っているほうが,よく考えて見れば不自然なわけで,数々の対象を適切な「ルール」 で分割し,それぞれを効率よく調べるということは今後ひんぱんに必要となる. ここまで噛み砕いて「場合分け」について説明している資料というのは探してもなかなか 無いと思うが,このくらいしつこく説明をしてでも,理解をしておいてほしい考え方なの である. a 最大数から順番に数の列をさかのぼると,出現の規則性が異なっている. 9 babababababababababababababababababab 3 駅から 6km 離れたところに公園があり,この間を 2 台のバスが一定の速さで何回も往 復している.A さんは正午にバスと同じ道を駅から公園に向かって一定の速さで歩きは じめ,途中 15 分の休憩をとった後,タクシーに乗って 13 時 15 分に公園に着いた.A さ んは公園に向かう途中,12 時 30 分に駅から 2km の地点でバスに追い越された.下のグ ラフは,A さんが出発してから x 分後の駅からの距離を ykm として,A さんと 2 台のバ スの進行のようすを表したものである. (1) A さんは駅を出発してから公園に着くまでに,駅行きのバスと何回出合いましたか. (2) A さんが駅を 12 時 45 分に出発するバスに追い越されたのは,駅から何 km の地点 ですか. (3) タクシーの速さはバスの 1.5 倍であった.A さんがタクシーに乗っていた時間は何 分何秒ですか. (1) 駅行きとバスのグラフと,A さんのグラフの交点の数を数えればいい. 交点は 4 つあるので,出合った回数は 4 回である, □ 10 (2) A さんは,12 時 45 分に出発するバスのグラフとの交点でこのバスに追い越される (下図). よって, 「A さんのグラフ」と「バスのグラフ」の交点を求めれば良い.そのために,まず両方 のグラフの式を求めよう. • A さんの式を求める. 1 次関数の式 y = ax + b に,分かる情報を代入して行こう.まず,原点を通っている ので切片 b = 0 である.さらに,x = 30, y = 2 を通っているので, 2 = 30a + 0. これを解いて,a = 1 15 . よって,A さんの式は y = 1 15 x である. • バスの式を求める. 1 次関数の式 y = ax + b に,分かる情報を代入して行こう.x = 45, y = 0 と x = 60, y = 6 を通るので,それぞれを y = ax + b に代入すると,以下の連立方程式が得ら れる. これを加減法で解く*4 と,a = { 45a + b 60a + b 2 5, b =0 = 6. = −18 が得られるので, バスの式は y = 25 x − 18 で ある. あとは,この 2 つの直線の交点の座標を求めれば良い.交点は連立して解けば分かるので,次 の連立方程式を解こう*5 . *4 *5 { y y 1 x = 15 2 = 5 x − 18. b の係数が 1 ではじめから揃っているので,そのまま引き算して b を消せば良い. 式が y = · · · に変形されているので,代入法を用いて解く. 11 1 つ目の式の右辺を,2 つ目の式の左辺に代入 (代入法) すると, 1 2 x = x − 18 15 5 が得られる.これを解くと,x = 54, y = 18 5 = 3.6 が得られて,追い越されたのは駅から 3.6km の地点とわかる. □ (3) A さんは徒歩→ 休憩 →タクシー によって,出発から 75 分後 (x = 75) に公園に到着してい |{z} 15 分 る.いま,徒歩の時間とタクシーの時間の両方が分からないので,徒歩の時間を a 分,タク シーの時間を b 分とおこう (下図). 徒歩の時間とタクシーの時間は合計で 60 分 (75 分 − 休憩 15 分) なので, a + b = 60. さらに,徒歩の速さは時速 1 15 km, タクシーの速さは,問題文よりバスの速さの 1.5 倍なので, 2 3 ×1.5 = [km/時]. 5 5 |{z} バス速さ 12 よって,タクシーの速さは時速 35 km と分かる.「道のり=時間×速さ」なので,徒歩の道の りは a 15 [km], タクシーの道のりは 3b 5 [km] である.駅から公園への道のりは 6km なので, a 3b + = 6. 15 5 これにより,連立方程式 { a+b a 3b 15 + 5 = 60 =6 が得られる.これを加減法で解いて a, b を求めると, a= 15 225 [分], b = [分] 4 4 と分かる.求めたいのはタクシーに乗っていた時間なので, b = 15 4 [分] = 3 分 45 秒. □ ひとくちメモ 3 問目がやや難だが,1,2 問目は難しくない.とくに 1 問目についてはグラフを見た瞬間に答 えがわかるボーナス問題だ. 13 コラム : 1 は全問正解あたりまえ!? babababababababababababababababababab 僕はよく「 1 は何が何でも全問正解するべし」と口を酸っぱくして言っているのだ が,それには理由がある.というのも,試験問題というのは, 1 は,簡単なわりに「配 点が難しい問題とおなじ」なのだ. 試験では「コストパフォーマンスが高い問題」ほど,もらさずに解くべきである.「コ ストパフォーマンスが高い」というのは,要するに「お得」な問題のこと.つまり「簡単 なのに点数は普通にもらえる」問題のことだ. たとえば,本資料で扱っている平成 26 年度の入試問題は, 5 の最終問題の難易度が かなり高い.僕も完全に頭を抱えてしまうくらいだ.しかし,配点は何点かというと 5 点. ちなみに, 1 の最初の問題 ( (−2) ÷ 3 3 1 − 5 3 ) を計算しなさい. も配点は 5 点だ.どちらが手っ取り早く 5 点を GET できるかは歴然だ. 1 には,簡単な問題が集まっている.しかし,配点は後半の難問と同じだ.つまり, 1 をもらさずに正解することが,実際の点数にかなり大きな好影響を与えるのだ.基本 でしっかりと点数を GET した上で,後半の問題でも,歯がたたない問題にこだわりすぎ ないことを心がけるべし.50 分という限られた短い時間を有効活用するには, 「取れると ころで確実に取る」のが頭の良い戦略なのだ. 14 babababababababababababababababababab 5 AB=8cm, AD=12cm の長方形 ABCD がある.図 1 のように,AB を 1 辺とする正 方形 ABEF と,EC を 1 辺とする正方形 ECGH を作る. 図 2 のように, 平面 ABF⊥ 平面 FBE 平面 CEG⊥ 平面 HEG となるように折り曲げ,頂点 A が来たところを A′ , 頂点 C が来たところを C′ とする. 2 点 A′ と C′ は,元の平面に対して同じ側にある. 15 babababababababababababababababababab このとき,次の各問いに答えなさい. (1) 図 2 で,2 点 A′ , C′ を結んでできる線分 A’C’ の長さを求めなさい. (2) 図 2 で,3 点 A′ , B, E を結んでできる △A′ BE の面積を求めなさい. (3) 図 3 のように,直線 BE と直線 FG の交点を O とすると,直線 A′ C′ は点 O を通る. 立体 C′ EG-A′ BF の体積を求めなさい. まずは,図 1 において,わかる辺の長さをすべて書き込んでおこう.ここで求めた辺の長さを手 がかりに先に進んで行く. 16 (1) 図 2 に,下図のような点 P,Q,R をつくろう. 求める「線分 A′ C′ の長さ」は,直角三角形 △A′ PC′ において (i) 線分 A’P の長さを求める. (ii) 線分 C’P の長さを求める. (iii) 三平方の定理で線分 A′ C′ の長さを求める. という流れで求められる.順番に実行して行こう. (i) 線分 A’P の長さを求める. 線分 A’P の長さは,下図より A′ Q−PQ=A′ Q−C′ R で求められる. 17 先ほど図 1 で求めた辺の長さより, √ √ √ A′ P = A′ Q − C′ R = 4 2 − 2 2 = 2 2 と,A’P が求められた. (ii) 線分 C′ P の長さを求める. 線分 C′ P の長さは,図 1 における以下の直角三角形の斜辺の長さと等しい. 三平方の定理により, C′ P = 62 + 22 = 40. 2 よって,C′ P = √ √ 40 = 2 10 [cm]. (iii) 三平方の定理で線分 A′ C′ の長さを求める. あとは,三平方の定理により線分 A′ C′ の長さを求めよう. √ √ 2 A′ C′ = (2 2)2 + (2 10)2 = 48. よって,A′ C′ = √ √ 48 = 4 3 [cm]. □ (2) 点 A′ から辺 BE に垂線をおろしてその足を I とする. 18 まず,BE= 8 である.さらに A′ I は以下の直角三角形に三平方の定理を適用して求めよう. A′ √ 4 2 I 4 これより A′ I= √ √ 48 = 4 3 で,△A′ BE の面積は √ √ 1 × 8 × 4 3 = 16 3 [cm2 ] □ 2 (3) まず,三角錐 O-C′ EG と三角錐 O-A′ BF が相似であることに気づこう.ここから 相似 → 相似比 (m : n)→ 体積比 (m3 : n3 ) という流れで,2 つの三角錐の体積の関係が明らかになり,三角錐 O-A′ BF の体積から三角錐 O-C′ EG の体積を引けば求める体積が出てくるだろうという「見通し」が立つ (まぁ,ここま 19 で洗練された見通しを本番で自力で導き出すためには,かなりの経験が必要だと思うが). さて,三角錐 O-A′ BF と三角錐 O-C′ EG の相似比を求めよう.たとえば A′ B と C′ E を対 応する辺として選ぶと,相似比は 8 : 4 = 2 : 1 で,体積比は 23 : 13 = 8 : 1 と分かる. 三角錐 O-A′ BF の体積を V , 三角錐 O-C′ EG の体積を V ′ とすると V : V ′ = 8 : 1 なので, 8V ′ = V 1 V′ = V 8 であり,三角錐 O-C′ EG の体積は 18 V であることがわかる.で,それを三角錐 O-A′ BF の体 積 V から引けば 立体 C′ EG-A′ BF の体積 = V − 1 7 V = V 8 8 とわかるので,あとは V を求めてここに代入すれば良い. ということで V を求めよう.底面を △A′ BF とすると,その面積は × 8 × 8 = 32 [cm2 ]. √ さらに,△BFO は直角二等辺三角形*6 なので,高さ OF = BF = 8 2 が分かる.あとは三角 錐の体積の公式より, 1 2 √ √ 256 2 1 . V = × 32 × 8 2 = 3 3 であり,これを 立体 C′ EG-A′ BF の体積 = 7 V 8 に代入すれば, √ √ 224 2 7 256 2 = . □ 立体 C EG-A BF の体積 = × 8 3 3 ′ *6 ′ 図 3 を見て直感的に気づけると良い. 念の為,あえて式で確かめると,∠FBE=45◦ であり,∠BFO=∠BFE+∠OFE=45◦ +45◦ = 90◦ なので, ∠FOB= 180◦ − (90◦ + 45◦ ) = 45◦ となり,△BFO は,2 つの鋭角が 45◦ の直角三角形とわかる.ここから,辺 √ の比は 1 : 1 : 2 なので △BFO は直角二等辺三角形で,BF = OF = 1 : 1 から BF = OF が得られるわけだ. まぁ,こんな具合で式にするとちょいとややこしいわけだが,あくまで「式に書き起こしたからややこしく見える」 だけである.練習と経験さえ積んでいれば,頭のなかで直感でちょいちょいっと思いつけるはずだ. 20 ひとくちメモ かなり高度な空間把握能力と,三平方の定理を確実に適用する力が求められる問題だ. 1 問目から結構めんどくさく,(2 問目は簡単だが) 3 問目も難問なので,あまり得点源と しては機能しない問題かもしれない.まぁ,こういう問題は,解けなくていつまでも不安 にさいなまれるくらいなら,「どうせみんな解けないだろう」くらいでスパッと忘れても 良いような気もする(もちろん,解けるのが一番いいんだけどね). ちなみに,この問題では,「2 つの鋭角が 45◦ である直角三角形の辺の比は 1 : 1 : √ 2」 というのを,かなり何度も使っている.以下に示す「有名な直角三角形」は,辺の比も含 めて完全に頭に入れておくように.覚え方は「いったいいったいるーとに」,「いったい にーたいるーとさん」. 30◦ 45◦ √ 2 2 √ 1 45◦ 60◦ 1 1 21 3
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