予備試験商法 平 成 26 年 度 次の文章を読んで、後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 1 . X 株 式 会 社 ( 以 下 「 X 社 」 と い う 。) は 、 携 帯 電 話 機 の 製 造 及 び 販 売 を 行 う 取 締 役 会 設 置 会 社 で あ り 、普 通 株 式 の み を 発 行 し て い る 。X 社 の 発 行 可 能 株 式 総 数 は 1 0 0 万 株 で あ り 、発 行 済 株 式 の 総 数 は 3 0 万 株 で あ る 。ま た 、X 社 は 、会 社 法 上 の 公 開 会 社 で あ る が 、金 融 商 品 取 引 所 に そ の 発 行 す る 株 式 を 上 場 し て い な い 。X 社 の 取 締 役 は 、A 、B 、C ほ か 2名の計5名であり、その代表取締役は、Aのみである。 2 . Y 株 式 会 社 ( 以 下 「 Y 社 」 と い う 。) は 、 携 帯 電 話 機 用 の バ ッ テ リ ー の 製 造 及 び 販 売 を 行 う 取 締 役 会 設 置 会 社 で あ り 、そ の 製 造 す る バ ッ テ リ ー を X 社 に 納 入 し て い る 。Y 社 は 、古 く か ら X 社 と 取 引 関 係 が あ り 、ま た、X社株式5万1千株(発行済株式の総数の17%)を有している。 B は 、Y 社 の 創 業 者 で 、そ の 発 行 済 株 式 の 総 数 の 9 0 % を 有 し て い る が、平成20年以降、代表権のない取締役となっている。また、Bは、 X社株式5万1千株(発行済株式の総数の17%)を有している。 3 . Z 株 式 会 社 ( 以 下 「 Z 社 」 と い う 。) は 、 携 帯 電 話 機 用 の バ ッ テ リ ー の 製 造 及 び 販 売 を 行 う 取 締 役 会 設 置 会 社 で あ り 、C が そ の 代 表 取 締 役 で ある。 Z 社 は 、Y 社 と 同 様 に 、そ の 製 造 す る バ ッ テ リ ー を X 社 に 納 入 し て い る が 、Y 社 と 比 較 す る と X 社 と 取 引 を 始 め た 時 期 は 遅 く 、最 近 に な っ て そ の 取引量を伸ばしてきている。なお、Z社は、X社株式を有していない。 4 .X 社 は 、平 成 2 5 年 末 頃 か ら 、経 営 状 態 が 悪 化 し 、急 き ょ 1 0 億 円 の 資 金 が 必 要 と な っ た 。そ こ で 、A は 、そ の 資 金 を 調 達 す る 方 法 に つ い て B に 相 談 し た 。B は 、市 場 実 勢 よ り も や や 高 い 金 利 に よ る こ と と な る が 、 5億円であればY社がX社に貸し付けることができると述べた。 5 .そ こ で 、平 成 2 6 年 1 月 下 旬 、X 社 の 取 締 役 会 が 開 催 さ れ 、取 締 役 5 名 が 出 席 し た 。Y 社 か ら の 借 入 れ の 決 定 に つ い て は 、X 社 と Y 社 と の 関 係 が 強 化 さ れ る こ と を 警 戒 し て 、C の み が 反 対 し た が 、他 の 4 名 の 取 締 役 の 賛 成 に よ り 決 議 が 成 立 し た 。こ の 取 締 役 会 の 決 定 に 基 づ き 、X 社 は 、 Y社から5億円を借り入れた。 6 .Y 社 の X 社 に 対 す る 貸 付 金 の 原 資 は 、B が 自 己 の 資 産 を 担 保 に 金 融 機 関 か ら 借 り 入 れ た 5 億 円 で あ り 、B は 、こ の 5 億 円 を そ の ま ま Y 社 に 貸 し 付 け て い た 。Y 社 が X 社 に 貸 し 付 け る 際 の 金 利 は 、B が 金 融 機 関 か ら 借 り 入 れ た 際 の 金 利 に 若 干 の 上 乗 せ が さ れ た も の で あ っ た 。な お 、B は 、 こ れ ら の 事 情 を A に 伝 え た こ と は な く 、X 社 の 取 締 役 会 に お い て も 説 明 していなかった。 7.他方、Cは、Aに対し、X社の募集株式を引き受ける方法であれば、 不足する5億円の資金をZ社が提供することができると述べた。 8 .そ こ で 、同 年 2 月 上 旬 、X 社 の 取 締 役 会 が 開 催 さ れ 、1 株 当 た り の 払 込 金 額 を 5 0 0 0 円 と し て 、1 0 万 株 の 新 株 を 発 行 し 、そ の 全 株 式 を Z 社 に 割 り 当 て る こ と を 決 定 し た 。こ の 決 定 に つ い て は 、B の み が 反 対 し たが、他の4名の取締役の賛成により決議が成立した。 X 社 は 、こ の 募 集 株 式 の 発 行 に 当 た り 、株 主 総 会 の 決 議 は 経 な か っ た が 、募 集 事 項 の 決 定 時 及 び 新 株 発 行 時 の X 社 の 1 株 当 た り の 価 値 は 、1 万 円 を 下 る こ と は な か っ た 。ま た 、X 社 は こ の 募 集 株 式 の 発 行 に つ い て 、 適法に公告を行っている。 9.Cは、同月下旬、上記6の事情を知るに至った。 〔設問1〕 C は 、平 成 2 6 年 3 月 に 開 催 さ れ た X 社 の 取 締 役 会 に お い て 、X 社 の Y 社 か ら の 借 入 れ が 無 効 で あ る と 主 張 し て い る 。こ の 主 張 の 当 否 に つ い て論じなさい。 〔設問2〕 B は 、X 社 の Z 社 に 対 す る 募 集 株 式 の 発 行 の 効 力 が 生 じ た 後 、訴 え を 提 起 し て そ の 発 行 が 無 効 で あ る と 主 張 し て い る 。こ の 主 張 の 当 否 に つ い て論じなさい。 <1頁目> 1 1 設問1について 2 (1)ア Cは、Y社からの借入れ(以下「本件借入れ」という) 3 は 「 多 額 の 借 財 」( 362 条 4 項 2 号 ) に あ た る が 、 有 効 な 取 締 4 役会決議がなく無効であると主張すると思われる。 5 イ 6 にとって、その半分の 5 億円は当然「多額」である。 ま ず 、 経 営 状 態 が 悪 化 し 、 10 億 円 を 必 要 と し て い る X 社 7 ウ 8 会 社 の 利 益 と 衝 突 す る 個 人 的 利 益 を 有 し 、忠 実 義 務 違 反 の お そ 9 れ が あ る 場 合 を い う 。本 件 で は 、B は 借 入 れ の 相 手 方 た る Y 社 10 の 大 株 主 で あ り 、X 社 と の 関 係 を 強 化 す る た め に 強 引 に 取 引 を 11 進 め X 社 を 犠 牲 に す る お そ れ が あ る 。よ っ て 、B は 特 別 利 害 関 12 係を有する。 13 エ (ⅰ ) 14 利 害 関 係 取 締 役 が 議 決 に 参 加 し た 場 合 、取 締 役 会 決 議 は 無 効 な 15 の が 原 則 で あ る が 、当 該 取 締 役 が 参 加 し て も 決 議 に 影 響 が な い 16 といえる特段の事情がある場合は有効である。 17 (ⅱ ) 18 中 3 名 の 賛 成 が あ る か ら 、有 効 に 決 議 は 成 立 す る( 369 条 1 項 )。 19 B が 参 加 し た こ と に よ り 、他 の 取 締 役 の 意 思 決 定 に 影 響 を 与 え 20 た と も い え そ う だ が 、X 社 は よ り 多 く の 資 金 を 必 要 と し て い る 21 以 上 、他 の 取 締 役 も B の 参 加 の 有 無 に か か わ ら ず 借 入 れ に 賛 成 22 していたと思われる。よって、上記特段の事情が認められる。 こ こ で 、「 特 別 … 利 害 関 係 」 取 締 役 ( 369 条 2 項 ) と は 、 そ し て 、意 思 決 定 が 歪 め ら れ る 危 険 が あ る 以 上 、特 別 本 件 で は 、B の 他 に A 及 び 2 名 の 取 締 役 が 賛 成 し 、4 名 23 24 23 24 <2頁目> オ よって決議は有効であり、Cの主張は認められない。 (2)ア (ⅰ ) そ こ で C は 、 本 件 借 入 れ は 利 益 相 反 取 引 ( 356 条 1 25 項 2 号 3 号)にあたり、有効な承認がないから無効であると 26 主張すると思われる。もっとも、Bは本件借入れにつきY社 27 を代表しておらず、直接取引(同項 2 号)にはあたらない。 28 では、間接取引(同項 3 号)にはあたるか。 29 (ⅱ ) 30 り、取引の安全を図る必要があるから、間接取引にあたるか 31 は、外形的・客観的に会社の犠牲で取締役に利益が生ずる形 32 か否かによって判断すべきである。 33 (ⅲ ) 34 げた利益は実質的にはBに帰属するといえる。また、全株式 35 の 90% と い う 持 株 比 率 の 高 さ か ら 、 こ の こ と は 外 形 的 ・ 客 観 36 的 に も 明 ら か で あ る 。そ し て 、5 億 円 に つ い て 金 利 を 支 払 う X 37 社の犠牲のもとで、Bに利益が生ずるといえる。 38 (ⅳ ) 39 認 を 要 す る ( 365 条 1 項 、 356 条 1 項 )。 40 イ 41 に貸し付ければ、Bに利益が生ずる一方でX社に不利益とな 42 る 。と す れ ば 、こ れ は 利 益 相 反 性 を 基 礎 づ け る「 重 要 な 事 実 」 43 ( 356 条 1 項 )で あ り 、開 示 が な い 以 上 、X 社 取 締 役 会 は 有 効 44 な承認とはいえない。 ここで、利益相反取引であるかは外部から不明確であ 本件では、BはY社株式のほとんどを有し、Y社の上 よって、本件借入れは間接取引であり、取締役会の承 また、Bが借り入れた 5 億円を、金利を上乗せしてX社 <MEMO> 45 <3頁目> <MEMO> 45 ウ (ⅰ ) 46 の 無 効 に 準 ず る と 考 え ら れ る( 356 条 2 項 反 対 解 釈 )か ら 、第 47 三者に無効を主張するには、その悪意を会社が立証する必要 48 がある。そして、悪意の対象は、利益相反取引であることと、 49 それに承認がないことである。 50 (ⅱ ) 51 有者であるのだから、Y社は当然重要な事実の開示がなく承 52 認が有効でないことを知っていたと思われる。よって、本件 53 借入れは無効である。 54 (3) 55 2 56 (1)ア そして、承認なき利益相反行為の効力は、無権代理 本件では、X社の取締役であるBがY社の実質的な所 以上より、Cの上記主張は正当である。 設問2について B は 、Z 社 へ の 募 集 株 式 の 発 行( 以 下「 本 件 発 行 」と い 57 う ) は 有 利 発 行 に あ た り 、 株 主 総 会 の 特 別 決 議 が 必 要 ( 201 58 条 1 項 、 199 条 2 項 、 3 項 、 309 条 2 項 5 号 ) な の に 、 こ れ が 59 な さ れ て い な い と し て 募 集 株 式 発 行 無 効 の 訴 え( 828 条 1 項 2 60 号)を提起している。 61 イ 62 低い金額をいい、公正価額とは、資金調達の目的が達せられ 63 る限度で、既存株主に最も有利な金額をいう。 64 ウ 65 無 か っ た が 、そ れ が お よ そ 2 分 の 1 の 5000 円 で 発 行 さ れ て い 66 る 。既 存 株 主 の 利 益 保 護 の た め に は 10% 程 度 の 減 額 が 望 ま し い こ こ で 、「 特 に 有 利 な 金 額 」 と は 、 公 正 価 額 と 比 べ て 特 に 本 件 で は 、X 社 の 1 株 当 た り の 価 値 は 1 万 円 を 下 る こ と が 67 68 67 68 69 <4頁目> と思われ、本件発行はそれと比べても特に低い金額である。 よ っ て 、「 特 に 有 利 な 金 額 」 に あ た る 。 (2)ア で は 、有 利 発 行 に も か か わ ら ず 株 主 総 会 の 特 別 決 議 を 欠 70 いたことは、無効事由となるか。この点、募集株式の発行は 71 取引行為の色彩が強いから、取引の安全を可及的に保護すべ 72 きである。また、利害関係人が多数発生する以上、法的安定 73 性も図る必要がある。そこで、無効事由は、重大な法令・定 74 款違反に限られるべきである。 75 イ 76 無効とすると取引の安全を害する。また、株主には募集事項 77 の 通 知 ・ 公 告( 201 条 3 項 4 項 )に よ っ て 、事 前 に 差 止 め の 機 78 会 が 与 え ら れ て お り ( 210 条 )、 無 効 と し な く て も 株 主 保 護 に 79 欠けるところはない。 80 ウ 81 82 83 84 85 そ し て 、株 主 総 会 決 議 の 有 無 は 外 部 か ら は 不 明 確 で あ り 、 よって、重大な法令違反ではなく無効原因とならず、本 件発行は有効である以上、Bの訴えは認められない。 (3) 以上より、Bの主張は失当である。 以上
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