〔平成 28 年 会社法〕模擬再現答案(作成者:資格スクエア講師 加藤喬) 1 設問1(1) 2 1.取締役は議題の如何を問わず取締役会に出席する義務があ 3 る か ら 、議 題 の 如 何 を 問 わ ず A に 対 し て も 出 席 の 機 会 を 与 え 4 る た め に 招 集 通 知 ( 会 社 法 368 条 1 項 ) が 必 要 で あ る 。 そ れ 5 ゆえ、臨時取締役会の決議には招集通知漏れの瑕疵がある。 6 招集通知漏れのある取締役会決議は、会議体の一般原則に 7 従い原則として無効であるが、招集通知を欠く取締役が取締 8 役会に出席しても決議に影響がないといえる特別の事情があ 9 るときは、法的安定の要請から有効であると解する。 10 11 2.特別の事情との関係で、A が解職議案につき「特別の利害 関係を有する取締役」 ( 3 6 9 条 2 項 )に 当 た る か が 問 題 と な る 。 12 本件解職議案は、海外展開に関する意見対立に端を発した 13 甲 社 の 経 営 方 針 を 巡 る 経 営 者 と し て の A・ B 間 の 利 害 対 立 事 14 項 で あ っ て 、 取 締 役 会 の 監 督 権 限 ( 362 条 2 項 2 号 ) の 行 使 15 場面における代表取締役・会社間の利害対立事項ではない。 16 よって、A は、解職議案につき甲社に対する忠実義務に違 17 反し自己保身のために議決権を行使するおそれがあるとはい 18 えないから、 「 特 別 の 利 害 関 係 を 有 す る 取 締 役 」に 当 た ら な い 。 19 3.それゆえ、A は解職議案の議決に加わることができた。そ 20 して、A が反対票を投じれば、賛成 3 名・反対 3 名により、 21 出 席 取 締 役 の「 過 半 数 」 ( 369 条 1 項 )の 賛 成 を 満 た さ な く な 22 るから、解職議案の可決・否決の結論に影響が生じる。 23 よ っ て 、上 記 特 別 の 事 情 は 認 め ら れ ず 、決 議 は 無 効 で あ る 。 1 1 設問1(2) 2 1 . 取 締 役 の 報 酬 は 株 主 総 会 決 議 で 定 め る 必 要 が あ る ( 361 条 3 1 項)が、お手盛りによる会社財産の恣意的流出を防止する 4 という同条の趣旨からすれば、取締役全員に対する報酬総額 5 の最高限度額を株主総会で定めれば足りると解される。 6 し た が っ て 、甲 社 の 取 締 役 報 酬 に 関 す る 運 用 も 適 法 で あ り 、 7 A は、少なくとも減額議案の可決前までは上記運用に基づき 8 決 定 さ れ た 月 額 150 万 円 の 報 酬 請 求 権 を 有 し て い た 。 9 2.では、減額決議により A の報酬請求権が減額されるのか。 10 ( 1 ) 取 締 役 の 報 酬 請 求 権 は 取 締 役 ・ 会 社 間 の 委 任 契 約 ( 330 11 条 、 民 法 643 条 ) を 根 拠 と す る も の だ か ら 、 一 度 決 定 さ れ 12 た取締役の報酬額については契約の拘束力が生じ、取締役 13 の同意がない限りこれを減額することは許されない。 14 15 (2)では、A の同意があるといえるか。 確かに、甲社では、取締役会の決議によって役職ごとに 16 一 定 の 報 酬 額 が 定 め ら れ 、こ れ に 従 っ た 運 用 が さ れ て お り 、 17 A はこれらの取扱いを了知した上で取締役に就任している 18 と考えられる。それゆえ、A は、代表取締役の解職に伴い 19 上 記 運 用 に 従 っ た 月 額 50 万 円 ま で の 報 酬 減 額 に つ い て は 20 黙示的に同意していたといえる。しかし他方で、上記運用 21 を 下 回 る 月 額 20 万 円 へ の 減 額 に ま で は 黙 示 的 に 同 意 し て 22 いたとはいえない。 23 24 3 .よ っ て 、A は 月 額 5 0 万 円 の 報 酬 を 請 求 す る こ と が で き る 。 2 1 2 3 設問2(1) A は 、 339 条 2 項 に 基 づ く 損 害 賠 償 請 求 を す る べ き で あ る 。 1 .「 正 当 な 理 由 」 4 339 条 2 項 の 責 任 は 、 株 主 に 解 任 の 自 由 が 認 め ら れ る 一 方 5 で取締役の任期に対する期待を保護するために法が特別に定 6 め た 法 定 責 任 で あ る と 解 す る 。 そ こ で 、「 正 当 な 理 由 」 と は 、 7 取締役の任期に対する期待が法的に保護するに値しない事情、 8 具体的には当該取締役に経営を行わせるに当たって障害とな 9 るべき状況が客観的に生じた場合を意味すると解する。 10 甲社では、A が提案した海外事業の売り上げが伸びず、3 11 年余りで海外事業から撤退しており、A は海外展開に関する 12 経営判断を誤ったといえる。しかし、経営判断の失敗が直ち 13 に善管注意義務違反という職務遂行上の法令違反となるわけ 14 ではない。また、A が経営判断の失敗を繰り返しているわけ 15 でもないから、経営能力の著しい欠如があるともいえない。 16 よって、A に経営を行わせるに当たり障害となるべき客観 17 的 状 況 は 認 め ら れ ず 、A の 解 任 に つ き「 正 当 な 理 由 」は な い 。 18 19 20 2 .「 損 害 の 賠 償 」 範 囲 339 条 2 項 の 責 任 の 上 記 性 質 か ら は 、 同 条 項 の 損 害 賠 償 は 取締役の任期に対する期待を償うためのものと解される。 21 したがって、A には、取締役を解任されなければ得られた 22 残 り の 任 期 8 年 分 の 報 酬 4800 万 円 ( 8 年 ×月 額 50 万 円 ) の 23 損害賠償請求が認められる。 24 3 1 設問2(2) 2 1.B は、甲社の「総株主…の議決権」及び「発行済株式」の 3 百 分 の 三 … 以 上 」で あ る 20%の 議 決 権 及 び 株 式 を 保 有 し て い 4 る 「 株 主 」( 8 5 4 条 1 項 1 号 、 2 号 ) と し て 、 A 及 び 甲 社 を 共 5 同 被 告 と し て( 8 5 5 条 )、定 時 株 主 総 会 の 日 か ら 3 0 日 以 内 に 、 6 A の 取 締 役 の 解 任 を 請 求 す る 訴 え ( 854 条 1 項 柱 書 ) を 提 起 7 す る べ き で あ る 。 な お 、 甲 社 は 非 公 開 会 社 で あ る か ら 、「 6 箇 8 月 」 の 株 式 保 有 期 間 は 要 件 と さ れ な い ( 同 条 2 項 )。 9 2.まず、A が多額の会社資金を流用していたことは特別背任 10 罪 ( 960 条 1 項 3 号 ) 又 は 業 務 上 横 領 罪 ( 刑 法 253 条 ) で あ 11 る か ら 、「 役 員 … の 職 務 の 執 行 に 関 し 不 正 な 行 為 」 に 当 た る 。 12 3.次に、解任議案が「否決されたとき」に当たるか。 13 (1)かかる要件の趣旨は、取締役の解任について第一次的に 14 株主総会における資本多数決に委ねることにある。この趣 15 旨からすれば、 「 否 決 さ れ た と き 」は 、 解 任 議 案 が 議 決 を 経 16 経て否決された場合に限らず、資本多数決による解任が否 17 定された場合を広く含むと解すべきである。 18 (2)確かに、A の解任議案は議決を経ていない。しかし、A 19 が旧知の仲である甲社の株主数名に対し定時株主総会への 20 欠 席 を 要 請 し た 結 果 、 過 半 数 の 定 足 数 ( 341 条 ) を 満 た さ 21 ず流会となっているから、資本多数決による解任議案が反 22 対 派 A ら に よ っ て 否 定 さ れ た と い え 、「 否 決 さ れ た 」 と き 23 に当たる。よって、解任の訴えは認められる。 24 4 1 設問3 2 1 . C の 任 務 懈 怠 責 任 ( 423 条 1 項 ) 3 (1)大会社である甲社の代表取締役 C は、その「任務」たる 4 善 管 注 意 義 務 ( 330 条 、 民 法 644 条 ) の 内 容 と し て 、 従 業 5 員の職務執行の法令適合性を確保するための内部統制シス 6 テ ム を 構 築 す る 義 務 を 負 う ( 362 条 4 項 6 号 ・ 5 項 、 規 則 7 1 0 0 条 1 項 4 号 )。そ し て 、あ ら ゆ る 不 正 行 為 の 防 止 は 不 可 8 能だから、通常想定される不正行為を防止し得る水準のシ 9 ステムを構築すれば同義務の履行として足りると解する。 10 甲社の取締役会は、内部統制システム構築の基本方針を 11 決定した上で、法務・コンプライアンス部門を設け、内部 12 通報制度の設置・コンプライアンス研修の企画・同規模か 13 つ同業種の上場会社と同等の社内規則を制定しているから、 14 下請業者との癒着による不正行為のうち通常想定されるも 15 のを防止し得る水準のシステムの構築があるといえる。し 16 た が っ て 、内 部 統 制 シ ス テ ム 構 築 義 務 違 反 は 認 め ら れ な い 。 17 (2)次に、代表取締役は、他の取締役のみならず従業員の職 18 務 執 行 に つ い て も 監 視 義 務 を 負 う と 解 さ れ る ( 362 条 4 項 19 6 号 、 規 則 1 0 0 条 1 項 4 号 参 照 )。 た だ し 、 職 務 分 担 に よ 20 る取締役の連係が奏功するためには他の取締役への信頼を 21 保護する必要があるから、各取締役は、内部統制システム 22 が外形上問題なく機能している場合には、あえて疑念を差 23 し挟むべき特段の事情がない限り、他の取締役の分担事項 5 1 について監視義務を負わないと解する。 2 C が本件通報につき報告を受けるまでは内部統制システ 3 ムは外形上問題なく機能していた上、C は報告後直ちに法 4 務・コンプライアンス部門に対して調査を指示することで 5 監視義務を履行しているから、監視義務違反はない。 6 ( 3 )よ っ て 、C は 任 務 懈 怠 に 基 づ く 損 害 賠 償 責 任 を 負 わ な い 。 7 2 . D の 任 務 懈 怠 責 任 ( 423 条 1 項 ) 8 (1)D は、法務・コンプライアンス部門を担当する取締役の 9 「任務」たる善管注意義務の内容として、従業員の職務執 10 行について監視義務を負う。 11 確かに、効率的な監視を実現するためには、すべての通 12 報内容について調査する義務までは負わず、D が通報内容 13 の信ぴょう性がないという合理的判断に基づき調査の指示 14 や取締役等への報告をしないことも許容されるべきである。 15 し か し 、過 去 に 例 の な い 不 正 行 為 も 起 こ り 得 る こ と か ら 、 16 これまで甲社において本件通報内容たる不正行為がなかっ 17 たことは、本件通報の信ぴょう性の判断で重視するべきで 18 はない。また、会計監査人の会計監査が常に正しいとは限 19 らないから、会計監査人から指摘がなかったことも重視す 20 るべきではない。さらに、E が直属の部下であったことは 21 D の主観的な信頼を基礎づけるにすぎないから、考慮する 22 べきではない。したがって、D が本件通報には信ぴょう性 23 がないと判断したことには合理性がないから、本件通報を 6 1 受けたのに法務・コンプライアンス部門に対して調査の指 2 示をせず、C を含む他の取締役・監査役にも報告しなかっ 3 たことは、監視義務違反による任務懈怠となる。 4 (2)E の不正行為は、本件下請工事の見積書を 3 つに分割し 5 3 通作成することで甲社の社内規則を掻い潜る態様で行わ 6 れていたが、見積書の工事の時期・内容や下請業者を確認 7 すればかかる潜脱に容易に気が付くことができる。それゆ 8 え、D が調査指示・報告をしていれば、法務・コンプライ 9 ア ン ス 部 門 や 取 締 役・監 査 役 に よ る E の 不 正 行 為 の 発 見 を 10 通 じ て 平 成 27 年 4 月 末 の 残 代 金 3000 万 円 の 支 払 い を 阻 止 11 で き た 。 そ れ ゆ え 、 D の 監 視 義 務 違 反 と 3000 万 円 の 損 害 12 との間に因果関係が認められる。 13 ( 3 ) よ っ て 、 D は 3000 万 円 の 損 害 賠 償 責 任 を 負 う 。 7 以上
© Copyright 2024 ExpyDoc