PDFテキスト - 院内がん登録支援

病期分類概論
1. なぜ、病期分類が必要なのか
2. UICC TNM分類
3. (癌)取り扱い規約分類
4. 進展度(臨床進行度)分類
国立がん研究センター
がん対策情報センター
がん登録センター
がん医療・対策の結果の評価
病期(がんの進行・拡がり)の利用
 要因ごとに分類して、評価を進める
→ 「類似したもの」を集めて、特徴をつかむ
「病期」 :進行程度、拡がり具合の尺度
《例》 Ⅰ期、 早期癌、 上皮内癌、 遠隔転移あり
 がんの進行程度・拡がり方
病期分類( clinical / pathological
臨床的 / 病理学的な拡がり)
 解剖学的部位
 病理組織診断(組織型、分化度)
 患者の性 あるいは 年齢
 病状や徴候が続いている期間
 治療方法・使用薬剤
 臨床での利用
 適切な治療方法の決定
 予後の告知(過去の経験から得られる予後情報)
 研究的な利用
 治療結果の評価(生存率の比較)
 研究的な治療の際の症例振り分け
 検診の効果や診断レベルの評価
2
3
多様な病期とがん登録での利用
 UICC TNM分類
 取扱い規約分類(部位別)
院内がん登録の基本病期
1.なぜ、病期分類が必要なのか
院内がん登録では肝臓癌のみ
 進展度分類
地域/全国がん登録で利用
 FIGO分類
(部位特異的分類:子宮頸部・体部など)
2. UICC TNM分類
3. (癌)取り扱い規約分類
世界産婦人科連盟
 Dukes分類 (部位特異的分類:大腸)
 Ann Arbor分類 (組織特異的分類:リンパ腫)
4. 進展度(臨床進行度)分類
アメリカのがん登録では、
1) AJCC分類
UICC TNM分類とほぼ同じ
2) SEER Summary Stage 進展度に相当
3) Collaborative Staging
より詳細の部位特異的情報
4
UICC TNM分類
TNM分類 6つの原則
 UICC(国際対がん連合)が定めた病期分類
 全ての部位に適用される総則
Union for International Cancer Control
T 原発腫瘍の拡がり
N
M 遠隔転移の有無
序論
P7
1. 病理学的(顕微鏡的)な確証
Tumor
所属リンパ節転移の有無/拡がり
UICC
LymphNodes
Metastasis
2. 二つの分類(臨床分類、病理学的分類)
3. TNMから病期を決定
4. 判定が難しいときは、低い方の分類に
T,N,Mの3つの要素で、
直接浸潤(T)、転移(N, M)の状態を表現
主に、3要素を元に、病期(ステージ)を決定
5. 一臓器に同時多発病巣→最も高いT分類
6. 亜分類が存在
6
6つの原則
1.病理学的確証
UICC
TNM
序論
p.7
7
6つの原則
2. 二つの分類
UICC
TNM
序論
p.7
 臨床分類と病理学的分類
 臨床分類(治療前臨床分類)
1.すべての症例は、
組織学的な形態を含め、
悪性腫瘍として、顕微鏡的(病理学的)に
確証がされなければならない。
TNM(またはcTNM)
c: clinical
治療前に得られた情報に基づく分類
 病理学的分類(術後病理組織学的分類)
pTNM
p: pathological
確証がない症例は区別して記録する。
治療前に得られた情報に基礎をおくもので、
手術や(侵襲的な)病理組織検査の標本から
得られた知見で、補足・修正された分類
※ 顕微鏡的に(病理組織診/細胞診)確認されていない症例も
病期分類を行ってよいが、そうでない症例とは別に分析
がん登録的には、顕微鏡的な確証がないものも 悪性腫瘍としてよい
pTNMは、手術で得られた標本あるいは手術中の生検標本をもとに、
治療前の評価を標本で確認する形で得られた情報で分類する
手術標本での顕微鏡的確証があるものは、別の形で分類
→ 病理学的分類(p分類)
8
6つの原則
3. 病期分類の決定
 T,N,Mあるいは
pT,pN,pM分類に
基づいて、
病期に分類
基本的には、
UICC
TNM
序論
p.8
《例》 食道の病期
0期
Ⅰ期
ⅡA期
ⅡB期
Ⅲ期
Ⅳ期
ⅣA期
ⅣB期
Tis
N0
T1
N0
T2,T3
N0
T1,T2
N1
T3
N1
T4
Nに関係なく
T,Nに関係なく
T,Nに関係なく
T,Nに関係なく
M0
M0
M0
M0
M0
M0
M1
M1a
M1b
T, N, Mの3因子が決まると、ステージが決まる
9
6つの原則
4.判定に悩む→低い分類
UICC
TNM
序論
p.8
 T, N, M因子の判定時、
情報が矛盾したり、不足したりして、
どちらの分類がよいか判断できない場合は、
より低い(より進行していない)分類にする
《例》 T2あるいはT3
いずれか決定できない
→ T2
N2aあるいはN2b いずれか決定できない
→ N2a
 TNM分類および病期分類は、一旦決定したら、
変更することなく、診療記録に残す
cTNMは、
pTNM情報などに基づいて変更したりしない!
治療前に一旦決定した
T,N,M各因子が情報不足で全く決定できない場合は TX, NX, MX
ある程度、絞り込める場合に、この原則を適用すること!
10
11
6つの原則
5. 一臓器に同時に多発
UICC
TNM
序論
p.8
 単一臓器に、同時に複数の病巣、
かつ いずれも他病巣の転移等でなく、
単一「がん」と判断される場合は、
最も進行した病巣(高いT分類)を対象に分類
T因子以外のN,M転移系因子は、
どの病巣から転移したか判定できない
→ T因子で最も進行している病巣を決定
最も高いT分類の
②の病巣に対して
病期分類を行う
多発か否かがT分類の判定基準
③幽門前庭
T2
UICC
TNM
②胃体下部
T3
一般的に
T,N,M各因子の亜分類は小文字で、病期の亜分類は大文字で表記
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UICC TNM分類
T分類 (Tumor)
TX 原発腫瘍の評価不可能
Tis 上皮内癌
T分類のパターン
 管腔臓器
悪性リンパ腫
 臓器の壁への浸潤の深さにより判断
《該当部位》 食道、胃、結腸、子宮内膜など
原発臓器
T1 浸潤の深さ、腫瘍の大きさ、
~T4 個数、隣接臓器への
浸潤等を考慮して分類
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UICC TNM分類
T分類 適用外
T0 原発腫瘍を認めない
序論
p.8
《例》
T1 粘膜固有層(筋板を含む)あるいは粘膜下層に浸潤する腫瘍
T1a 粘膜固有層あるいは粘膜筋板に浸潤する腫瘍
T1b 粘膜下層に浸潤する腫瘍
Ⅳ期 遠隔転移(M1)
ⅣA期 1臓器(腹膜転移を除く)に遠隔転移
ⅣB期 2臓器以上に遠隔転移又は腹膜に転移した場合
①胃体上部
T1b
《例外》 肝臓、卵巣、卵管では、
(多発病巣の有無でT分類が異なる)
6.病期分類には亜分類が存在
 TNM分類および病期分類は、
(部位によって)
臨床的目的 または研究のために
細分化された亜分類を設定できる
(これが予後に影響するはず)
→ 個別の病巣のT分類はできない
6つの原則
T
 実質臓器の場合
所属
リンパ節
所属
リンパ節
 腫瘍の大きさにより判断
《該当部位》 中咽頭、甲状腺、乳腺など
 腫瘍の拡がり(隣接組織への浸潤)により判断
《該当部位》 上咽頭、肝臓、肺、子宮頸部など
所属外
リンパ節
遠隔臓器
原発巣からの直接浸潤を評価
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UICC TNM分類
N分類
UICC TNM分類
(LymphNodes)
NX
所属リンパ節転移の
評価不可能
N0
所属リンパ節転移なし
N1 所属リンパ節転移あり
~N3
大きさ、数、転移部位、
側性等を考慮して分類
N分類 適用外
悪性リンパ腫、
妊娠絨毛性腫瘍
N
N分類のパターン
 所属リンパ節転移の有無のみ
《例》 肝臓
 所属リンパ節への転移数など
転移数 かつ/または 大きさ
原発臓器
所属
リンパ節
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《例》 胃
所属
リンパ節
転移の側性
かつ/または
大きさ
《例》 乳腺(pN分類)
原発巣からリンパが流れていくリンパ節で
標準的な術式で郭清される範囲が所属リンパ節
所属外
リンパ節
特定のリンパ節への転移の有無で分類
遠隔臓器
《例》 肺
一緒に取り除かれること
原発巣に近いリンパ節への転移を評価
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UICC TNM分類
M分類
MX 遠隔転移の評価が不可能
その他の病期分類に必要な情報
M分類 適用外
 部位により、T、N、M各因子以外に
必要な情報がある。
 G (Grade:病理組織学的悪性度)
悪性リンパ腫
M0 遠隔転移なし
原発臓器
骨、軟部組織、虫垂癌
 S (Serum Marker:血清腫瘍マーカー)
M1 遠隔転移あり
 UICC TNM分類第7版には、
「MX」「pM0」は用いないこととされているが、
院内がん登録では、
「MX」、「pMX」、「pM0」なども使用する
精巣
所属
リンパ節
所属
リンパ節
 年齢/病理組織型
M
M
甲状腺
所属外
リンパ節
 リスク分類
遠隔臓器
妊娠絨毛性腫瘍
遠隔臓器(所属外リンパ節を含む)への転移を評価
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UICC TNM分類
cTNM、pTNM
yTNMの考え方
【補足】
( cTNM )
 臨床病期
 cTNMを評価時の状態で手術
治療をする前の状況から、分類する
治療戦略を立案するための目安
 術後病理学的病期
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→ 手術標本は、治療前(cTNM評価時)を反映
 術前に治療すると、
cTNM評価時と手術時で状況が異なる
( pTNM )
手術標本などで 臨床病期を補完する
治療前の状況を反映
→ 手術標本は、治療前(cTNM評価時)を反映しない
cTNM
cTNM, pTNMいずれも治療前の状況を評価
cTNM
pTNM
原発臓器
ycTNM
化
療
手
術
原発臓器
原発臓器
原発臓器
ypTNM
手
術
原発臓器
 UICC TNM分類には
rTNM
yTNM
再発時TNM
治療後TNM
所属
リンパ節
所属
リンパ節
という考え方もあるが、
院内がん登録では非採用
所属
リンパ節
所属
リンパ節
所属外
リンパ節
遠隔
臓器
所属
リンパ節
所属
リンパ節
所属
リンパ節
所属
リンパ節
所属外
リンパ節
所属外
リンパ節
遠隔
臓器
遠隔
臓器
所属
リンパ節
所属
リンパ節
所属外
リンパ節
所属外
リンパ節
遠隔
臓器
遠隔
臓器
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TNM分類で用いられている記号
記号
記号の意味
T
原発腫瘍の拡がり
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TNM分類で用いられている記号
《例》
記号
T2b
c
臨床分類の接頭辞
記号の意味
cT2, cM1a
《例》
pN2, pT1a
N
所属リンパ節転移の有無と拡がり
N2c
p
病理学的分類の接頭辞
M
遠隔転移の有無
M1a
r
再発腫瘍分類の接頭辞
rM1, rN2b
0
原発腫瘍が認められない場合、
所属リンパ節、遠隔転移の無い場合
T0, N0, M0
y
既治療例の分類の接頭辞
ycT2, ypN1
X
T, N, Mが評価できない(十分な情報がない)場合
(検査をしていない、診療録に表記がない等)
TX, NX, MX
is
上皮内癌
a, b, c
T, N, Mの亜分類
Stage 0 上皮内癌の病期
Stage
I-IV
病期I~IVに従い大きい番号ほど進行している
A, B, C Stage(病期)の亜分類
a
剖検での分類の接頭辞
m
単一部位の多発がんに対する記号
aⅡA
cT2(m)
G
分化度の分類
G2
T1b, N2a,
M1c
S
血清腫瘍マーカーの分類(精巣癌に用いる)
S1
L
リンパ管侵襲の分類
L1
←
V
静脈侵襲の分類
V2
Pn
神経周囲侵襲の分類
Pn0
C
診断の確実性の分類
C3, C4
R
遺残腫瘍の状態の分類
R0, R2
Tis
StageⅢ
StageⅣB
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院内がん登録でのcTNM、pTNM
太字の縦線
 各要素は別々に評価され、Stageを決定
cT、 cN、 cM → cStage
pT、 cN、 cM → pStage
 院内がん登録では、
pTNMは、治療前の最終(総合的な)病期
→ p因子が存在するはずなのに不明なら、
c因子をp因子として代用(入力)する
本来の
第6版と比べて、
第7版で改訂が
あった部分
形
原発巣
切除
cT3
pT4
cN0 cM0
pN? pM?
pT4
cN0 cM0
院内
がん登録
原発巣
切除
cT3
pT4
cN0 cM0
pN? pM?
pT4 pN0 pM0
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院内がん登録での総合病期の扱い
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院内がん登録でのTNM
 院内がん登録では、
生存率評価などで「総合病期」を用いる
 pTNMが明確な場合は、pTNMが総合病期
X
?500
 不明
?999
 観血的治療の範囲が、「1:原発巣切除」
(2006年度版修正版での 1~3:原発巣 治癒切除、非治癒切除、治癒度不明)
かつ
pStage(病期)が「4000~4490」のもの
いわば自施設・主治医の要因
自施設の検査で決定に十分な情報が
得られず、決定できなかったとき
いわば他施設・実務者の要因
他施設での診断情報が不明確
または スキルの問題等で決定できない
 該当せず
TNM分類が適用されない場合
 手術なし
自施設で手術が施行されず、pTNMなし
7777
(「不明」、「手術なし」、「術前治療後」、「該当せず」を除く)
 pTNMが上記以外は、cTNMが総合病期
6610
 術前治療後
どちらかを用いて、総合病期を決定する
6620
自施設での手術施行前に
非観血的治療が施行された場合
他施設で観血的初回治療を開始、自施設で継続治療として非観血的治療、
他施設情報でpTNMをつけても良い
8???
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1. なぜ、病期分類が必要なのか
2. UICC TNM分類
3. (癌)取扱い規約分類
4. 進展度(臨床進行度)分類
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取扱い規約
 学会・研究会で作成している
わが国独自の決まり
 T因子、N因子、M因子の3因子に分けて、
UICCと似た分類をしていることが多い
 頭頸部、肺、乳腺(取扱い規約では術前評価のみ)の他、
UICCとはほぼ同じ分類内容に変わりつつあるが、
肝癌や大腸癌など、独自の分類も存在
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UICC TNM分類と取扱い規約
取扱い規約とUICC TNM分類 《大腸》
大腸癌取扱い規約
第8版
決定方法
UICC TNM分類
第7版
 UICC TNM分類は国際的に用いられているが、
取扱い規約は、ほぼ国内でのみ利用
Tis ~ T4b
ほぼ同じ
Tis ~ T4b
N分類
N0 ~ N3
所属リンパ節の範囲
・転移の分類方法が
異なる
N0 ~ N2b
 取扱い規約は
臨床情報をより詳細に記録しようとする傾向
UICC TNM分類は、
臓器横断的に同じ表現をしようとする傾向
M分類
M0 ~ M1b
ほぼ同じ
M0 ~ M1b
T分類
 消化器系を中心に、
UICCと異なった表記・定義を用いている部位が存在
(特に所属リンパ節の概念が異なる。)
診療記録に見かけ上、T, N, Mで記載されていても、
分類の仕方が異なるので、そのまま転記してはいけない
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1. なぜ、病期分類が必要なのか
2. UICC TNM分類
3. (癌)取り扱い規約分類
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進展度(臨床進行度)分類
400 上皮内 (in situ)
組織の基底膜下にがん細胞が入り込んでいない状態
410 限局 (Localized)
4. 進展度(臨床進行度)分類
がんが発生元の器官に限定して存在する状態
420 所属リンパ節転移 (Regional lymph nodes)
がん発生元の器官と直結したリンパ節への転移が
認められる状態(隣接臓器には浸潤していない)
430 隣接臓器浸潤 (Regional extension)
がんが発生元の器官と隣接する器官の境界を越えて
進展した状態
440 遠隔転移 (Distant)
がん細胞が発生元器官から離れて身体の他の部位に
移動して新たな病巣で増殖を始めている状態
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UICC TNM分類と進展度
病期分類のまとめ
 従来、地域がん登録で用いられてきた
→ 全国がん登録でも採用された
 がんの進行・拡がりを評価するために
臓器横断的なルールに基づくもの
臓器・組織特異的なルールによるもの
 TNM分類や取扱い規約が変わっても
経年的に比較がしやすいように定められた
多様な病期に関する分類が定められてきた
 アメリカの「がん疫学」で頻用される
SEERのSummary Stagingに相当
 院内がん登録で用いられるのは
 UICC TNM分類
 取扱い規約分類
 進展度分類
 UICC第7版からの変換が可能なように
テーブル(変換表)が作成されており、
この変換表を用いて分類してもよい
(定義「~という状態」に基づいて感覚的に決めてもよい)
院内がん登録の基本病期
院内がん登録では肝臓癌のみ
地域/全国がん登録で利用
の 3つの分類で、扱い方に特徴がある
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