植物育種学 レポート課題 1 課題 1 新品種 : てきなしーチの育種法 てきなしピーチ育種計画に至る背景とそのメリット:在モモの栽培において多大な 時間を要する作業の一つとして、摘花と摘果があげられる。そのためモモの栽培は果樹 農家にとっても難しいとされ、農家数の減少に伴い結果樹面積はここ十年間でおよそ 600ha 減少している(※1)。ここで実際にどれほどの時間と労力を要するのか簡単に計 算してみよう。モモの 1 樹当たりの着果数は、幹の周によっておおよそ決まっている(※ 2)。 現在田無の農場で育てられているモモの幹の周が仮に 50cm 程度とすると、モモは 1 樹当たり 600 果なる。1 樹のモモに対して 3 人がかりで作業をし、一時間ずつ計 3 回、 適花と摘果を行ったので 600 果のモモに対してのべ 9 時間の作業を減らすことができ る。現在 10a あたりの収穫数が 1260kg であるので、モモ 1 個の重さが仮に 300g であ るとすると、 1a あたり 1260×100÷300=4200 果のモモが育つため、1a あたり 9×(4200 ÷600)=63 時間を節約することができる。また、日本の総結果面積は 9690ha であるた め、もし農家の人が一人当たり自給 1,000 円分の価値(計算の便宜上のため)のある作業 をしていたと仮定すると、適花、摘果の作業を省くだけで毎年およそ 6.1 兆円もの経済 効果を生むことになる。 その上、モモは栄養成長と生殖成長が夏に同時に起こる。(※3)、最初から収穫され る予定である実や葉に栄養が多く供給されやすくなるので、従来より甘いモモになるこ とが予想される。 また、高齢者が高所から落ちてなくなる事故などが多数報告されることがあるが、適 花摘果することがない分、高いところに上る回数が少なく安全な栽培方法を提供するこ とにもつながる。 具体的な育種計画 : 適花、摘果の手間を省くために、1 本の枝に咲く花の数(以降 1 枝花数と呼ぶ)を少なくするための育種計画を考える。現在そのような遺伝資源は発見 されていないため、1 枝花数を制御している遺伝子の調査から始める。まず、1 枝花数 が少ない個体とそうでない個体のゲノム情報をできるだけ多く集めて(この時用いる個 体は同じ地域で得た個体が望ましい。)それら QTL 解析し、1 枝花数を制御している遺 伝子座をマッピングして比較する。モモは種をまいてから次の生殖までに 3 年(※4) も要するため、栽培試験も F2 世代も待たなくてよい GS による選抜が最も効率的であ る GS によって選ばれた個体群の中で、ゲノム情報と確率的処置により 1 枝花数がより 少なくなると期待される組み合わせで交配と選抜を行い、それを何週か繰り返すことで、 てきなしピーチとする。 ゲノム情報を集めてくる個体は、遺伝子以外の条件をそろえておく必要があるので、 同じ地域で同時期に育てられている個体である必要がある。多量のゲノム情報が必要で あるため、全国一位のモモの産地(※5)でありかつ大きな研究機関を備える首都圏内に ある山梨県のモモからゲノム情報を集め、実験も同じ場所で行うことにする。 モモは現在、かなりの適花と摘果を必要とするので、まったく適花と摘果が必要なく なるレベルまで花の数を減らすにはかなりの時間が必要である。おそらく花の量を調整 する QTL は複数存在し、他の形質をつかさどる遺伝子とかなりの確率で関係している と予想されるので、そのような遺伝子座の発現にかかわっている外部からの影響(例え ば日照条件や気温等の条件)なども同時に調べることで育種のスピードを上げることが できる。具体的な期間としては 3 年×10=30 年を想定しているが、上に述べたような研 究が実を結べばさらに早期に育種を終えることが可能かもしれない。 最後に イネや大豆など現在育種が進んでいる植物は、まいて一年で交配が可能かつゲノム研 究が進んでいる。一方モモに関してはまいてから交配までの時間を要する上に、ゲノム 研究がこれらの作物と比べると進んでいない。例えば、数ある品種のうち、マーカーに よる鑑定が可能な品種数はおよそ 50 程度に過ぎない(※6)。そのため、育種のスタート ラインがこれらよりもそもそも遅いうえに育種にかける時間が長くなってしまう。しか し先述した経済効果を考えると、このような手間をかけてしかるべき育種計画であり、 今後のモモ栽培方法を一新することのできる可能性を持っていると言える。 参考資料 1. http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_kazyu/pdf/syukaku_m omo_15.pdf 2. http://www.ja-komano.or.jp/farming/farming2/3104/ 3. http://eat-a-peach.jp/kouza_tekika.htm 4. http://www.sanyo-nursery.co.jp/select.html 5. http://www.momosanti.moraimon.com/seisan.html 6. http://web08.affrc.go.jp/training/files/2006-4material.pdf 課題 2 ゲノム育種とは、遺伝子情報に基づき育種を進めていくことである。特によく用いられ るのが、DNA マーカー選抜育種である。DNA マーカーとは個体を識別する際の目印とな る遺伝子のことで、育種においてこの DNA マーカーは大いに役に立つ。 DNA の組み換えは遠くにある遺伝子どうしで組み換えが起こりやすく、近くにある遺伝 子どうしは起こりにくい。そのため、品種固有の形質などの重要な形質をつかさどる遺伝 子を調べたいときは、その近くにある塩基配列の中から DNA マーカーを探す。新品種に持 たせたい形質が遺伝されたかどうかは、形質を発現させるまで待つことなく、その形質の マーカーが受け継がれているかどうかを調べるだけでわかる。従来の育種では、病気への 抵抗性などの形質が遺伝されているかどうかは個体がある程度成熟するまでわからなかっ たが、DNA マーカーにより、幼苗の段階から選抜をすることができる。そのため、土地面 積と労働力が大幅に削減できるという長所がある(※1)。また、DNA マーカー選抜は連鎖の 引きずりを防止できる育種法でもある。連鎖の引きずりとは、対象の形質をつかさどる遺 伝子の近くにある望ましくない遺伝子が同じように遺伝してしまうことである。対象形質 の遺伝子とこの望ましくない遺伝子の二つの遺伝子にマーカーを施すことによって、望ま しくない形質を排除した育種が実現しやすくなった。また、DNA マーカー選抜により持た せたい形質を集積(ピラミディング)させることができ、ゲノムの解析が終了したイネな どではピラミディングによる育種が進んでいる(※2)。 しかし、このような育種には限界があり、例えばトマトのフルーツサイズをつかさどる QTL 遺伝子座はおよそ 30 遺伝子座存在し、これらがすべて受け継がれている個体を選抜し ようとすると、何世代も交配を続けなければならず現実的ではない。 一方、GS(genomic selection)法はこの問題点を解消しうる選抜法である。GS 法では、 個体ごとのゲノム情報も形質情報もそろったトレーニング集団で、ゲノムワイドマーカー のそれぞれにマーカーと遺伝子座の連鎖不平衡に応じて重みづけを施し、個々のマーカー の効果を推定してそれを足し合わせて得たゲノム育種価(※3)により、親候補品種間の交配 により生まれる形質をモデルにより予測する(※4) 。これにより選抜集団でゲノム情報を調 べて目標形質を実際に計測することなく早期に選抜できるため、マーカー選抜と同様に栽 培試験を行うことなく効率的かつスピーディーに育種を進めることができる。また、先ほ ど述べたようなトマトのピラミディングによる育種では次世代品種を待たなければいけな いため、QTL が多ければ多いほど多大な時間がかかるが、GS では大幅に時間を節約する ことができる(※5)。さらに、栽培試験を行わないことからアフリカなどの日本と異なる環 境の影響を大きく受ける形質を、どこでも安定して選抜することができる(※5)。 GS の現状の短所や課題としては、植物の特徴が遺伝子だけでなく環境にも影響を受ける ということを考慮していないところにある。植物が環境に対してどのように応答し、遺伝 状態や栄養状態、代謝産物を変化させていくかについても計測していかねばならない(※6) 上記のような理由で、このような育種法において生物学的な分子メカニズムの理解は、 欠かすことができないと言える。例えば、稲の開花時期を制御する遺伝子は、もともとも っている体内時計に関する遺伝子と、外界からの光に応じて制御を行う遺伝子があり、こ の後者の遺伝子のように外部からの影響を受けて制御が行われる場合はどのような分子的 仕組みで制御が行われているのかを考慮せねば、この遺伝子を後代に受け継がせても制御 が行われるとは限らず無意味である。また、遺伝子の発現に関与する制御遺伝子の存在も 無視できない(※7)。対象にしている形質をつかさどる遺伝子だけでなく、プロモーターや リプレッサーをコードしている遺伝子を同時に考えることも、酵素や代謝産物の量を調整 することにつながるので、結果として病原体への抵抗性を高めたり収量を上げたりといっ た、ゲノム育種や GS での目的を達成することができる。 また、研究者のモラル的な意味においても、育種を行う上で生物学的な分子のメカニズ ムについての理解は必要である。つまり、マーカーや GS という分子生物学の結晶ともいえ る技術についての理解を持たない研究者はそのような技術を用いるべきではない。例えば ガリレオガリレイは自ら天体望遠鏡を開発し、当然のようにその仕組みを理解していた。 ゆえに月までの距離を計算できたりと’’技術を使う’’以上の結果を残せた。育種を行う研究者 も分子メカニズムについての理解を持たねば、技術を技術として用いることにとどまり、 技術の仕組みを理解しているがゆえに生み出せるであろう功績を生み出すことができない (顕微鏡を用いている我々も、高校生の時にレンズの仕組み等を学んでいるのもそういった 理由からかもしれない)。 参考にした情報 1.http://www.s.affrc.go.jp/docs/report/report21/no21_p1.htm 2.http://www.s.affrc.go.jp/docs/report/report21/no21_p5.htm 3.Kennji Togashi. Genomic Selection. 2009. The Journal of Animal Genetics (2009) 37, 21–28 4. https://www.jsps.go.jp/seika/2014/vol3_013.html 5.岩田 洋佳, 育種の新パラダイム:ゲノミックセレクションによる育種の加速化, (http://lbm.ab.a.u-tokyo.ac.jp/~iwata/seminar/intergenomics/youshi_iwt.pdf) 6.https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/shinshun/15/12/31/00020/ 7. http://www.jaist.ac.jp/is/labs/hira-lab/old_home_page/page006.html
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