赤堀侃司 永井哲郎 - 関西教育ICT展

第1回開催記念
特別対談
赤堀侃司
1944 年広島県生まれ。東京工業大学大学院修了後、静岡県高等学校教員、
東京学芸大学講師・助教授、東京工業大学助教授・教授、白鷗大学教育学部
長・教授(2014 年度まで)
、現在、日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)会
長/ ICT CONNECT 21
(みらいの学び共創会議)
会長/東京工業大学名誉教授。
永井哲郎
1953 年兵庫県生まれ。京都大学法学部卒業後、1977 年に大阪市奉職。総務局
人事部長、大阪市教育委員会事務局教育次長などを歴任し、2008 年より 2014
年まで大阪市教育委員会教育長を務める。2014 年 6 月より現職。
「関西教育 ICT 展」の主催者を構成する、日本教育情報化振興会と
大阪国際経済振興センター。本展示会を牽引する両団体のトップが、
展示会の成功と、その効用について熱く語る!
ーまず初めに、教育現場におけるICTの普及度について、関
しなければいけないと思っています。
西地区の現在の状況は、いかがでしょうか?
赤堀:東京都も非常に力が入っています。いくつかのモデル校
赤堀:データ的には、関西、関東で大きな差は見られないもの
に、1年間だけ貸し出して効果を検証し、次の年度には、別のモ
の、実感としては、西高東低であるような印象を持っています。
デル校に貸し出す方法で、3年間の実証研究を行っています。
永井:大阪市を例にとると、市内の全小・中学校に電子黒板、
なかなか良い結果を生んでいるようで、
まず体験してみないと
LAN環境下で外部にアクセスできるPCを整備し、
タブレットも
わからないのでは無いでしょうか?
各校40台を配布しています。他の市町村も程度の差はある
ー現場の先生方にとってのICT活用のメリット、及び問題点
が、概ね大阪市と同様の傾向。各自治体がモデル校を設置・活
について、
お聞かせ下さい。
用し、その成果を各校にフィードバックしています。
永井:子どもを授業に集中させるために、教材は非常に重要で
赤堀:大阪市は前市長の橋下さんが、ICTの活用が重要だと言っ
す。そのため教師は教材づくりに時間をかけてきました。
しか
ているのをテレビで見ました。
その影響は、
あったんですか?
し、ベテラン教師の多くが退職していく中で、そのノウハウが継
永井:ありましたね。私は平成26年3月まで大阪市の教育長を
承されれば良いのですが、形としては継承されても実践面では
していましたので、橋下市長とは約2
年間、一緒に仕事をしていましたが、
当時、佐賀県の取組に刺激を受けて、
大阪もやろうとなりました。大阪市は子
供の学力が非常に厳しい。授業に集中
させることが難しい。そんな時にタブ
レットを活用し、動画などを見せること
で、子供の興味・関心を呼び起こすこ
とができればと思いました。
赤堀:あくまで土 台 は 授 業 なので、
ちゃんと伝える仕組み、そのための教
材が無いといけない。永井さんは、む
しろ、それを引っ張っていった役割
だったのでは?
永井:そうです。環境整備は行政の役
割であり、教員の方々をバックアップ
子供たちの自主学習を、
ICTの活用で実現する。
覚束ないというケースもあります。そのフォ
ローにICTが一役買っており、例えば算数で行
われる立体と展開図の関係も動画を使って子
供たちの前で見せることができます。実際にハ
サミやノリを使った作業を経験させることがで
きないマイナス面もありますが・
・・
赤堀:かつてはPCを使って学習するというこ
とには賛否両論がありました。特に保護者が遊
んでいるのか勉強しているのかわからないと
いう感覚を持っていたのではないでしょうか。
それがタブレットになり、一般家庭でも生活で
使うようになってきたので、違和感が少しずつ
なくなってきているように思います。
一方で、最も困っているのがトラブルです。
途中で動かなくなった、見えなくなった、子供
だったら落としてしまったなど、35人学級であ
れば、予備も含めて40台くらい用意していな
いと危ない。ICTのアドバイザー、
コーディネー
ターなど、支援する環境が必要。大学では、日常的な道具で、文
らしい。結局、今、先生方が求めていることも、子供たちが教えら
字通りいつでもどこでも使っています。ゼミ、
レポートなどに必須
れるのではなく、
より自主的に学習することを、ICTの活用によっ
なので、特に言う必要もないですが。1993年にカリフォルニア
ていかに実現するかということだと思います。
タブレットを渡して
大学アーバイン校に客員教授で半年間滞在しましたが、青空の
教材があったら、子供たちがグループで勝手に学習を始める。そ
元で緑の芝生のキャンパスで談笑している学生の横には、必ず
ういうことが日本の将来にとって重要ではないでしょうか?
PCがあって、
これからは小中学校もこのキャンパスモデルになる
永井:確かに、ベテランの先生方はクラス全員が同じ結論になる
と思います。
指導技術を身に着けていますが、今求められているのは、決めら
永井:大阪市では、大学の先生やメーカーの担当者、ベテランの
れた時間の中で様々な意見を交わしながら、自分たちの考えを
教員などからなるサポートチームを構成し、問題解決に当たっ
まとめる、いわゆる協働学習の指導技術です。一定のまとまりを
ていました。導入当初は関連機器のバッテリーが途中で切れる
引き出す為には高いスキルが必要になりますが、そういった面で
ようなこともありましたが、徐々に改善されていったようです。
もICTは非常に有効だと思います。
赤堀:先ほどの話ですが、日本の先生は子供思いですね。海外の
先生と比べて宿題も良く見ているし、良い教材があれば使おうと
ー永井理事長は、大阪市教育長在任中の、
また、赤堀会長
している。日本の先生の技術を海外に輸出するべきなので、今、
には、現在の活動について、お教え下さい。
サウジアラビアと交渉しています。サウジアラビアの先生が日本
永井:大阪の学力調査結果は全国平均よりも学力が低いという
に来て研修すると、世界各国の中でも日本の先生や学校の雰囲
課題があり、
この問題を解消する為に、平成22年度から小・中
気など、日本ほどすごい教育は無いと言います。ただ、彼らが一
9年間を見通した計画を進めました。大阪市では中学校で私立
点、日本の教育が諸外国に比べて弱いと感じているところがあっ
に行く子供は少なく、大半は公立中学校に進みます。小学校で
て、それは、先生が上手すぎて子供をコントロールしてしまうこと
の学力のつまずきを中学校に持ち越したとしても復習できると
第1回開催記念
特別対談
先生方には、
ICTを食材に、
料理(授業)の腕を磨いて欲しい。
いうシステムの構築を目指しました。3校の9年間一体型の学
理事長やテレビ大阪グループとご一緒できて、大変嬉しく思っ
校が誕生したのも大きな成果だと思います。少子化でスペース
ています。是非、継続して行きたい。
に余裕があるということもありますが、9年間を通しての教育が
永井:周辺の関係者と話していても、立ち上げの勢いは充分に
重要だということが立証されてきていると言えます。
感じています。今後も
「大阪の夏は教育ICT展」
というイメージで
また、6年計画で、今年やっと全小・中学校にエアコンが入る
浸透させて行きたいと思っています。
ことになり、夏休みを含めて学校で教育をするという環境も整い
赤堀:8月で教育関係者が来場しやすいということもあるし、是
ます。
タブレットについては1校あたり40台で運用しています。
非、成功させたい。私たちの自主事業でご協力頂いている先生
コストダウンが進み、
タブレットも各家庭が買える時代が来れば、
方にも喜んで頂いていますし、文部科学省や総務省の方にもお
家庭学習も一層充実すると思います。
越し頂きますが、初めての関西での大規模ICT展ということで、
赤堀:日本教育情報化振興会には約200社の企業が所属し
非常に期待されています。
ていますが、団体としての主な役割は関連省庁との橋渡しで
ー来場される教育関係の方々に、見て頂きたいポイントを
す。
自主的な活動としては全国でセミナーを開催しているし、文
お教え下さい。
部科学省系の受託事業もしています。小さい市町村の教育委
永井:セミナーはもちろんですが、企業展示の中には授業に活
員会の情報局担当の指導員は、予算・事業計画など様々な責任
用できるヒントがたくさんあります。実践に役立つ展示会なの
を負っており、忙しくて大変です。それをサポートする為に専門
で、是非、
ご来場頂きたい。
思いますが、我々の団体にはメーカー、通信系の企業、
コンテン
ツ会社など様々なジャンルの企業が入会しているので、連携し
て学校を支えていきたい。
ーそんなお二人がタッグを組んで、
「関西教育ICT展」の初開
催に向けて尽力して来られました。
きっかけは何だったんですか?
永井:大阪国際経済振興センターは、大阪市からの受託により
インテックス大阪を管理する団体でしたが、平成25年度から、
我々が大阪市に賃料を払って、
より自由度の高い運
営をすることに変わったのです。その流れを受け
て、我々も自主企画として、大阪経済の活性化に寄
与するようなBtoBの展示会を立ち上げていこう
としています。教育関連について、関西では大規模
な展示会は開催されていなかったので、展示会の
開催実績が豊富なテレビ大阪グループとタッグを
組んで、開催しようということになりました。
赤堀:我々の団体にもテレビ大阪グループからお話
がありました。かねてから自分達が主体になって展
示会を主催したいという思いがありましたが、事務
所が東京にあるので、東京中心に考えていた部分
があったのかもしれません。今回、
こういう形で永井
永井哲郎
必要なのです。
これからの教育は学校を支える環境が重要だと
大阪の夏は教育ICT展という
イメージを浸透させたい。
家の先生方を派遣したり、アドバイスをするという支援活動が
赤堀:企業出展の中には、
コンテンツを見せるだけでなく授業
ていました。特に特別支援の分野では、役立つアプリがたくさん
でどう使うかというデモ的な展示が多く見られます。ICT活用と
あったように思います。
いうのは料理に例えると食材のようなもの。
これまでは和食ば
永井:特別支援教育は、特にICTとの親和性が高いですね。ICTを
かり食べていたところに、突然、
ヨーロッパの食材が入って来た
使って子供達ひとりひとりに合わせた指導ができます。
また教育
んですが、結局、料理人の腕が悪いと大した料理ができない。
ICT展の開催にあたって、いくつかの大学に伺いましたが、大学
やはり基本は授業をどうするかという設計力なので、料理人の
教育でもICTの活用がかなり進んでいます。先ほど教員養成課程
腕の見せ所です。そういう視点でたくさんの食材をご覧頂き、
ど
での学生の話がありましたが、知識の活用に重きを置く大学なら
ういう風に料理しようかと、できれば学校にも持ち帰って頂い
ではと思います。教育ICT展では素材としてのアプリが多数展示
て、職員室の話題にして欲しい。
されますので是非ご覧いただきたいと思います。
永井:団塊の世代の退職に伴って、いわゆる職人技を引き継ぐ
ー最後に、
「関西教育ICT展」の今後の展開、将来像につい
のも大事だが、若い先生方には、ICTの活用方法を身につけて、
てお聞かせください。
子供たちの血となり肉となる料理を作れるレベルに早く達して
永井:現場での実践をキーワードに、出展者の方と現場の先生方
欲しい。
そこから先は先生方の腕の見せ所ですね。
で情報交換し、それを元に製品をブラッシュアップしてもらう。
こ
赤堀:日本の教科書は非常によくできているが、諸外国に行くと
んなことをしたい、
どうしたらできるかをICT展の開催を通して実
教科書会社によって、
コンテンツや指導方法がかなり異なりま
現し、
ソフト・ハードが進化していけたら良いと思います。
す。今回の展示を見ても色んなアプリがたくさんでてくるので、
赤堀:大阪で開催できることが良かったと思いますが、是非、関西
まだまだ可能性は広がるように思います。
一円の先生方にご来場頂きたい。経済は東京と大阪に集中して
私は、かつて教育学部の教員を6年間勤めましたが、当時、研
いるので地方は元気がありませんが、ICTをよく活用している学校
究室にタブレットを10台近く置いていたら、多くの学生が
として、茨城県つくば市立の春日学園義務教育学校があります。
こ
しょっちゅう触りに来て、色んな教材のアプリをダウンロードし
このICT活用は非常に素晴らしく、児童生徒数は1600人を超
教育ICTが、地域活性化の
起爆剤になるような展示会に。
赤堀侃司
えており、近隣の保護者からの入学希望が殺到しています。全て
の先生がICTを活用し、不登校者は0、正確に言うと不登校の子
供も登校するようになります。私も見学に行きましたが、子供たち
は希望に、夢に燃えていました。若者、学校が元気にならないと地
域活性化ができません。是非、近隣の地域の先生方も、お越し頂
き、教育ICTが地域活性化の起爆剤になるような、そんな展開にも
つながる展示会として、お役に立っていければ良いと思います。
永井:小中学校は、地域コミュニティの中心的存在でもあります
からね。
赤堀:私は埼玉県所沢市に住んでいて、所沢中学校の評議員を
していますが、地域の人達は、学校を非常に良く見
ています。色んな面で、学校をみんなで見守ってい
こうという気持ちになると、元気になります。ICTを
核にして、地方が元気になると非常に嬉しい。その
為にも、毎年、開催を継続していかなければなりま
せんね。
永井:授業の話ばかりしてきましたが、学校の事務・
校務、生徒の管理業務が占めるウエイトも高い。大
阪市では校務支援にICTを導入することで校務に
費やす時間が大幅に減り、子供をケアする時間が
増えるという効果を実現しました。
この展示会は授
業でのICT活用だけがテーマではなく、先生方の業
務を軽減するというのも重要なテーマです。