修 士 論 文 の 和 文 要 旨 大学院 電気通信学研究科 氏 名 論 文 要 題 目 鎌田 浩貴 博士前期課程 電子工学専攻 学籍番号 0532025 静止衛星測位信号を用いた電離圏シンチレーション観測システ ムの開発 旨 電 離 圏 擾 乱 観 測 の 手 段 の 1つ と し て 、衛 星 か ら の 測 位 電 波 に 生 じ る シ ン チ レ ー シ ョ ン 現 象 を 観測する方法がある。平面波として電離圏に入射してきた衛星からの電波は、電離圏内の電 子密度の不規則分布によって等位相面が歪められ、地上では干渉によって空間的に振幅や位 相に変動を受ける。ここで電離圏内の電子密度の不規則分布が衛星からの電波の伝搬経路を 横切って移動した場合、固定された地上の受信点では受信信号の電界強度や位相が変動し、 シンチレーション現象を引き起こす。この現象を空間的に観測することで電離圏擾乱の移動 速 度 や 変 動 ス ケ ー ル を 観 測 で き 、本 研 究 室 の 短 波 帯 電 離 層 ド ッ プ ラ (HFD)の 観 測 と 組 み 合 わ せ ることで電離圏内の物理現象を立体的に明らかにして行く手段となる。 汎用の測位受信機はシンチレーション観測システムとして時間応答が不十分で、しかも微 弱なシンチレーションを観測することができない。そこで、シンチレーション観測に特化し た 受 信 シ ス テ ム の 開 発 を 行 い 、HFD観 測 と シ ン チ レ ー シ ョ ン 観 測 の 対 応 関 係 を 明 ら か に す る こ とを目的とする。また、静止衛星測位信号を受信することにより、定点での長期的な観測が で き 、 HFDと の 観 測 デ ー タ の 比 較 が 可 能 と な る こ と か ら 、 本 研 究 で は 静 止 衛 星 INMARSAT 3-F3 をターゲットとしている。 静 止 衛 星 測 位 信 号 の 受 信 技 術 と し て は 、 ス ペ ク ト ル 拡 散 変 調 さ れ た 中 心 周 波 数 が 1.57542 GHzの 測 位 信 号 を 受 信 機 構 成 の 簡 易 さ 等 の 理 由 か ら 自 乗 技 術 を 用 い て 逆 拡 散 を 行 い 、2 段 ス ー パ ー ヘ テ ロ ダ イ ン 方 式 に よ り 、 中 心 周 波 数 を 400 Hz( 帯 域 幅 40 Hz) に 変 換 を 行 う 受 信 機 を 製 作 し た 。 こ の 結 果 、 極 め て 弱 い シ ン チ レ ー シ ョ ン を 観 測 す る 上 で 重 要 な SN比 を 50 dB確 保 す る こ と が で き 、 こ れ を 用 い て 菅 平 宇 宙 電 波 観 測 所 に て 2005年 12月 か ら シ ン チ レ ー シ ョ ン の 観 測 を 開 始 し た 。 そ の 観 測 結 果 と し て 、 高 い SN比 の 確 保 に よ り 、 電 離 圏 静 穏 時 に 振 幅 シ ン チ レ ー シ ョ ン 指 数 S 4( 平 均 信 号 強 度 で 正 規 化 し た 信 号 強 度 変 化 の 標 準 偏 差 )を 極 め て 弱 い シ ン チ レ ー シ ョ ン を 示 す 0.01ま で 観 測 す る シ ス テ ム を 開 発 す る こ と が で き た 。 電 離 圏 擾 乱 の 移 動 速 度 や ス ケ ー ル を 観 測 す る に は 、2点 間 で シ ン チ レ ー シ ョ ン を 観 測 し 、そ の シ ン チ レ ー シ ョ ン の 相 互 相 関 を と り 、 時 間 遅 れ を 調 べ る こ と で 可 能 と な る 。 そ こ で 、 2006 年 7月 か ら は 、2点 間 で シ ン チ レ ー シ ョ ン 観 測 を 行 っ た 。シ ン チ レ ー シ ョ ン 現 象 は 基 本 的 に は 、 電 子 密 度 最 大 の F層 高 度 の 擾 乱 を 観 測 す る の だ が 、ス ポ ラ デ ィ ッ ク E層 (高 度 100km付 近 の E領 域 中 に 突 発 的 に 形 成 さ れ る 電 子 密 度 の 高 い 層 )に よ っ て S 4 が 短 時 間 増 加 す る の を 観 測 し 、 ス ポ ラ デ ィ ッ ク Eに よ っ て シ ン チ レ ー シ ョ ン が 生 じ る こ と が 分 か っ た 。 ま た 、 ス ポ ラ デ ィ ッ ク Eを タ ー ゲ ッ ト と し た 時 、 関 東 付 近 、 約 100 km圏 内 に HFD観 測 、 イ オ ノ ゾ ン デ 観 測 、 シ ン チ レ ー シ ョ ン 観 測 網 を 構 築 で き る 利 点 を 生 か し 、 HFD観 測 と シ ン チ レ ー シ ョ ン 観 測 の 対 応 関 係 を 調 べ た 。 Es発 生 時 に シ ン チ レ ー シ ョ ン 観 測 か ら Esの 水 平 移 動 速 度 を 導 出 し 、HFD観 測 か ら も 同 様 に 水 平 移 動 速 度 の 導 出 を 行 っ た 。 両 ベ ク ト ル を 合 成 す る こ と で 均 一 な Esの 伝 搬 波 面 を 成 す こ と が 分 か り 、こ れ よ り 、開 発 し た 受 信 シ ス テ ム に お い て HFD観 測 と の 対 応 を 明 ら か に す る こ と が で き た。
© Copyright 2024 ExpyDoc