再可溶化できる光架橋型高分子

再可溶化できる光架橋型高分子
白井
正充
(大阪府立大学)
Photo-crosslinkable or UV curable reins are significant materials in relation to the application for coatings,
adhesives, photoresists, and printing plates. Crosslinked polymers are insoluble in solvents and infusible.
It is very difficult or impossible to remove the crosslinked materials from substrates.
Recently, however,
much attention has been paid to recovery or recycling of crosslinked polymers due to environmental
regulations.
Photopolymers with degradable property are realized as environmentally friendly materials
and a highly functionalized photopolymers.
Here, the design concept, synthesis and properties of
photo-crosslinkable polymers are described.
Key Words: Photo-crosslink, Degradable photopolymers, UV curing
1.はじめに
光照射により架橋・硬化する樹脂は、印刷製版、インキ、
接着剤、塗料、パッケージング材料、フォトレジストなど、
いろいろな分野で利用されている1) 。架橋・硬化樹脂の特
徴は、一度架橋・硬化すれば不溶・不融になり、優れた耐
熱性や機械的強度が得られることである。しかし、このよ
うな性質は場合によっては取り扱いにくいものである。例
えば、塗膜としての架橋・硬化樹脂を基材から取り外す場
合には、これらの性質は厄介なものである。光照射によっ
て架橋・硬化するが、その後、適切な波長の光を照射した
り、あるいは加熱することにより解架橋反応を起こさせ、
溶剤に可溶になるような特性を持った光架橋・硬化樹脂は
使用後の除去・回収や再利用の視点から環境に優しい材料
であると共に、新しいタイプの高機能性樹脂でもある。本
講演では、分解性を有する光架橋ポリマーや光硬化樹脂の
設計とその機能性材料としての応用例について、我々の研
究を中心に紹介する2)。
2.分解型光架橋・硬化樹脂の設計
ここでは分解型光架橋・硬化樹脂として、Fig. 1 に示す
ような2つのタイプを紹介する。(a)のタイプは側鎖に官
能基を有するポリマー型であり、側鎖に架橋サイトを結合
させたポリマーを利用するが、架橋サイトとポリマー主鎖
の間に熱分解し易い結合を挿入することが必要である。架
橋ユニットしては、エポキシ基やビニルエーテル基を用い
ることが多い。この系では光酸発生剤や光アミン発生剤の
存在下での光照射で架橋が形成されるが、加熱により熱分
解サイトが解裂して溶剤に可溶な線状ポリマーが生成する。
(b)のタイプは、重合する官能基と熱分解が可能なユニッ
トを1分子中に複数個有する多官能モノマー型である。光
ラジカル重合や光カチオン重合で架橋・硬化するが、加熱
により低分子化して溶剤に可溶になる。重合可能な基とし
ては、ビニル基やエポキシ基などを用いることができる。
(a)、(b)両タイプとも熱分解ユニットとしては、炭酸
エステル、第 3 級カルボン酸エステル、カルバメート、ア
セタール、ヘミアセタールエステル、スルホン酸エステル
などを用いることができる。用いる分解基のタイプにより、
架橋・硬化樹脂が分解する温度をかなり広範囲に設定する
ことができる。その他、(a)のタイプに、架橋剤を添加
する系や(a)と(b)の概念を併せたような系も設計す
ることができる。
a) F unctional polym er system
hν
∆
b) Multifunctional monomer system
hν1
hν2 and/or ∆
Crosslinkable unit
Thermally degradable unit
Fig. 1.
Design concept.
3.側鎖官能基型 3)
側鎖に官能基を有する分解型光架橋ポリマーの反応例を
Fig. 2 に示す。エポキシ基と第3級カルボン酸エステル基
を同一分子中に持つメタクリル型モノマー(MOBH)のラジカ
ル重合で分解型光架橋ポリマー 1 が得られる。モノマー
MOBH はスチレン型や種々のアクリル型モノマーと共重合
することもできる。この系では、光酸発生剤(PAG)を添
加した 1 の薄膜に紫外光照射すると高感度で架橋し、溶剤
に不溶になる。紫外光照射で発生した酸を触媒とする側鎖
エポキシユニットの開環重合で架橋体が形成されるためで
ある。用いる PAG の種類によるが、架橋体を 60-160℃で加
熱すると第3級カルボン酸エステル部分の分解がおこる。
熱分解により架橋体はポリメタクリル酸に変換されるので、
アルカリ水溶液やメタノールに可溶になる。
MOBH と p-スチレンスルホン酸エステル誘導体との共重
合体 2、3 や、架橋部位としてのエポキシ基と熱分解ユニ
ットとしてのスルホン酸エステル部位を一つの分子中に有
する 4 と光酸発生剤を組み合わせた系は、水に溶解できる
光架橋ポリマーである(Fig. 3)。
5.分解型モノマーを用いた光硬化プロセスの解析 5)
多官能アクリラートに代表される光硬化樹脂は多くの分
野で用いられている。硬化樹脂の機械的および熱的特性は
モノマーの構造や硬化重合条件に大きく依存することが知
られている。従って、硬化条件と硬化物の構造の関係を明
らかにすることは極めて重要である。しかしながら、硬化
物の化学構造を分析する事は容易ではない。これまでに、
重合連鎖解析については、理論やモデルを用いた重合速度
論による方法や硬化物の熱分解クロマトグラフィーを用い
る方法が研究されている。我々は分解型光架橋・硬化樹脂
を用いることで、硬化物の重合連鎖解析を行った。Fig. 5
に分析のコンセプトを示す。光ラジカル開始剤および光酸
発生剤を含むモノマー 10 に紫外線(365 nm)照射すると
通常の光硬化樹脂と同様に効率よく硬化する。硬化樹脂に
254 nm 光を照射するとヘミアセタールエステルユニットが
解離し、ポリメタクリル酸が生成する。これをポリメタク
リル酸メチルに変換し SEC で分子量を測定する。この方法
を用いて、光硬化時の重合連鎖長に及ぼす光強度、開始剤
濃度、モノマー構造の影響などを明らかにすることができ
た。
PAG
CH3
CH2
CH2
C O
H+
O
CH3
CH3
CH3
hν
C
C CH3
CH3
CH2
C
C
C O
C O
O
OH
C CH3
+
CH3
∆ (T2)
∆ (T1)
C CH2
O
O
CH3
CH3
O
CH3
1
Fig. 2. Photo-crosslinking and degradation of
polymer 1.
CH3
CH2 C
CH3
CH3
CH2
CH2 CH
CH
CH2
C O
C
O
O
O S O
H3C C CH3
O
O
CH3
O
CH
CH2 C
O
C O
O
C CH3
O S O
CH3 C CH3
O
O
R
R=cyclohexyl
R=CH2C(CH3)3
R=phenyl
O
S
CH3
CH2
C
CH3
X
CH2
CH2
O
CH3
-CH2H
-CH2-
CH3
2
R
X
-CH2CH(CH 3)-
O
O
3
R
CH3
4
H2C
C
CH3
CH3
CH3
C CH2
OCH2CH2 O CH O C O
O C O CH O CH2CH2O
Fig. 3.
Structures of degradable polymers.
10
hu (365 nm)
CH3
4)
4.多官能モノマー型
分子内に重合ユニットと熱分解ユニットを複数個有する
多官能モノマーは、分解型光硬化樹脂として利用できる。
重合ユニットとしてエポキシ基やビニル基を、分解ユニッ
トとしては、第3級カルボン酸エステルやスルホン酸エス
テルユニット、また、アセタール結合やヘミアセタールエ
ステル結合を有するものが利用できる(Fig. 4)。感光剤
としては、重合ユニットのタイプにより、光酸発生剤や光
ラジカル重合開始剤、あるいは両者を併用する。5 と 6 は
単独では光硬化しないが、エポキシ基と反応しうる OH 基や
COOH 基を有するオリゴマーとのブレンド系では、優れた光
架橋・硬化性を示す。また、7 ∼ 9 は単独で優れた硬化特
性を示す。これら多官能モノマーから得られる硬化膜は、
熱あるいは光と熱の併用による解架橋反応により、再び低
分子化合物に変化するので、分解型の光硬化樹脂として利
用できる。
O
S O CH2
CH2 O S
O
CH3
O
O
O
O CH3
CH2
CH2CH2O CH O CH2CH2 O C C
O
2
7
5
CH3
O
O
O
O
O
O CH3
CH2CH2O CH O C C
O
O
8
CH2
2
O
C
O
O
O
C
O
H3C
O
O
CH3
O
O
O
O
O
CH2 CH3
CH2
C
C
CH3
O
C
CH3
CH2
9
6
O
O
Fig. 4. Multifunctional monomers with
degradable moiety.
3
CH3
CH3
CH3
CH2 C
O C O CH O CH2CH2O
Photoacid
Generator
hu (254 nm)
C CH2
OCH2CH2 O CH O C O
H+
H2O, ∆
CH3
HO CH2CH2O
OCH2CH2 OH
+ CH3CHO
+
C-CH2
C=O
OH
CH3
SEC Analysis
C-CH2
C=O
Diazomethane
OCH3
Fig. 5. Application of degradable resin to
analysis of chain propagation.
1) 例えば “Photochemistry and UV Curing: New Trends
2006”, ed. J. P. Fourssier, Research Signpost (2006).
2) 白井正充、高分子論文集、65, 113 (2008). M. Shirai et al.,
Prog. Org. Coatings, 27, 158 (2007),
3) M. Shirai et al., Chem. Mater, 14, 334 (2002). M. Shirai,
Chem. Mater, 15, 4075 (2003). M. Shirai et al., Polymer, 45,
7519 (2004).
4) M. Shirai et al., J. Photopolym. Sci. Technol., 18, 199 (2005).
H. Okamura et al., Polym. J., 38, 1237 (2006).
5) M. Shirai et al., Chem. Mater., 20, 1971 (2008).