試験・研究 杭の長さ径比が座屈耐力に与える影響 The effect of length to diameter ratio of pile for the buckling strength 廣瀬 竜也*1、下平 祐司*2、伊藤 淳志*3 1.はじめに 小規模建築物の地盤補強として用いられている小口径 の鋼管杭や既製コンクリート杭の許容支持力は、地盤で 決まる許容鉛直支持力と長さ径比による低減などを考慮 した杭材の許容圧縮力のうち、小さい方の値である。 許容鉛直支持力は、平成13年国土交通省告示に規定 された算定式、建築基礎構造設計指針1)や小規模建築物 基礎設計指針2)などに示された算定式、あるいは、工法 毎に相当数の載荷試験を行い設定した算定式によって求 められている。 長さ径比による杭材の許容圧縮力の低減については、 昭和44年6月の各特定省庁宛の建築指導課長通達として の低減が示されている。また、大臣認定に係る基礎ぐい の性能評価においては、回転貫入杭の最大施工長を杭径 の130倍と規定している例えば6)が、根拠は不明である。 そこで本報では、小規模建築物の地盤補強に用いられ る小口径の鋼管杭や既製コンクリート杭などの杭材の長 さ径比による圧縮耐力低下についての力学的検討を目的 として行った模型座屈実験およびこの模型座屈実験のモ デル解析について報告する。 2.座屈実験 2. 1 実験概要 使用した実験装置を図-1に示す。実験土槽には、外径 示されているが、建築基礎構造設計規準 によると、そ 165.2mm、高さ680mm、厚さ5mmの鋼管を用いた。模 の低減は打込み杭の実験結果や施工精度の検討に基づい 型杭の長さの変化に対応できるように、これとは別に同 3) て設定されていた。しかし、主に大口径の杭を対象とし た建築基礎構造設計指針4)では、長さ径比による杭材の 許容圧縮力の低減は規定されておらず、上記通達も現在 効力を失っていることは国土交通省にも確認している。 これは、同指針によると、さほど困難を伴わずに施工で きる限界長さは、杭径にはさほど関係なく、杭の種類に よって定まること、および、長さ径比と杭体の性能低下 の関係は必ずしも明確ではないことによるとされている。 一方、小規模建築物では、小口径の鋼管杭(φ89.1mm) 径、同厚で高さが340mmと680mmの鋼管を用意して組 み合わせた。鋼管の両端部にはフランジを溶接し、鋼管 と鋼管および鋼管と土層底板(厚さ25mm)の接合部に 厚さ2mmのゴムシートを挟み、ボルトで固定した。実 験装置の上部には、模型杭に載荷するためのスクリュー ジャッキを設置した。なお、図-1の杭頭部の支持条件の 固定端は、杭頭の水平方向への移動および回転を拘束し ていることを表している。 模 型 杭 に は、 外 径d=5mm、 厚 さt=0.8mm、 長 さ や既製コンクリート杭(φ200mm)を10m以上の深さ l=650mm、975mm、1300mmの3種類のステンレスパ に支持させる場合があり、小規模建築物基礎設計指針5) イプ(SUS304)を使用した。本研究で座屈荷重に与え では、上記通達に準じて、細長比(本報でいう、長さ径 る影響として対象としている長さ径比l/dはそれぞれ 比)が100以上の小口径鋼管杭や同じく80以上の小口径 130、195、260である。l/d=130としたのは、前述のと 既製コンクリート杭に長さ径比による杭材の許容圧縮力 おり、大臣認定に係る基礎ぐいの性能評価における回転 *1 HIROSE Tatsuya:(一財)日本建築総合試験所 試験研究センター 構造部 土質基礎試験室 主査 博士(工学) *2 SHIMOHIRA Yuji: (一財)日本建築総合試験所 建築確認評定センター 建築確認評定部 部長 博士(工学) *3 ITO Atsushi:関西大学環境都市工学部建築学科 教授 博士(工学) 19 GBRC Vol.41 No.3 2016.7 行った。杭頭固定-先端ピン支持の場合は、すべての長 さのステンレスパイプで、地盤の無い状態と粉寒天に対 する水の配合比が10、20および30の4種類とした。模擬 地盤の変形係数E50は、溶かした寒天をモールドに流し 込んで作製した3本の供試体の一軸圧縮試験より、一軸 圧縮強さをひずみが15%の時として求めた値の平均値 とした。この応力-ひずみ曲線の例を図-3に示す。これ より寒天による模擬地盤は、弾性体と見てよいと考えら れる。なお、表-2において、粉寒天と水の配合比率が同 じでも、E50が大きく異なっているが、これは寒天が水 表-2 実験の種類 図-1 実験装置(単位:mm) 表-1 ステンレスパイプの材料特性 350 2 引張応力(N/mm ) 300 250 200 150 100 50 0 0 1 2 3 ひずみ(%) 4 5 図-2 ステンレスパイプの応力-ひずみ関係 100 貫入杭の最大施工長を杭径の130倍と規定しているため する。ステンレスパイプの材料特性を表-1に示す。ヤン グ係数と降伏強度は、 引張試験により求めた(図-2参照) 。 地盤は寒天で模擬することとし、粉寒天と水の配合比 率を変えることによって、剛性を変化させた。実験の種 類を表-2に示す。両端ピン支持の場合、ステンレスパイ 80 2 圧縮応力(kN/m ) であり、l/d=195、260はそれぞれその1.5倍、2倍に該当 配合比10 配合比20 配合比30 配合比60 60 40 20 プの長さが650mmの場合は、粉寒天に対する水の配合比 が10、20、30および60の4種類、975mmおよび1300mm の場合は、10および20の2種類である。これらに加えて 各長さのステンレスパイプで地盤の無い状態でも実験を 20 0 0 5 10 ひずみ(%) 図-3 寒天の応力ーひずみ関係 15 GBRC Vol.41 No.3 2016.7 に完全に溶けていなかったことが原因と考えられる。し 2. 2. 2 杭頭固定-先端ピン支持の場合の弾性座屈荷重式 かし、各実験の模擬地盤のE50が一軸圧縮試験により求 弾性地盤に支持された杭頭固定-先端ピン支持の場合 められているため、実験結果を検討するためには問題な の杭の弾性座屈荷重式は、式(4)8)で表される。 いと考えられる。地盤は、杭の両端をピン支点として鉛 直に実験土槽に設置した後、所定の量の水と粉寒天を火 (4) にかけ、沸騰しないようにかき混ぜながら溶かした寒天 ここに、αfp:地盤による座屈荷重の上昇率で、式(5) を杭の周囲に流し込み、固まるまで表面を高分子フィル あるいは式(6)による。 ムで覆って2日間養生した。 (5) 載荷方法は、実験装置の最上部に取り付けたスクリュー ジャッキによる連続載荷とした。載荷速度は、0.5mm/ minとした。杭頭荷重は載荷ロッドとピン支点の間に取り 付けたロードセルで測定し、杭頭変位は載荷ロッド上端 に取り付けたダイヤルゲージで測定した沈下量からロッ ドの剛性と載荷荷重より求めたロッドの縮み量を減じた 2. 3 実験結果 ものとした。 2. 3. 1 両端ピン支持の場合の実験結果 2. 2 弾性座屈荷重式 (6) 杭頭荷重P0-杭頭変位量S0関係を模型杭の長さ毎に 実験結果を検討するにあたり、文献 7),8) に示されてい 図-4に示す。同図には、式(7)に示すオイラー座屈荷 る座屈荷重式を示しておく。 重PEも示した。pp-650-0、pp-975-0およびpp-1300-0の 2. 2. 1 両端ピン支持の場合の弾性座屈荷重式 最大杭頭荷重P0maxは、ややP Eより大きな値を示してい 弾性地盤に支持された両端ピン支持の場合の杭の弾性 るが、比較的よい対応を示しているといえる。また、ど の長さの模型杭においても、模擬地盤の変形係数E50が 座屈荷重式は、式(1) で表される。 7) 大きくなれば、P0maxも大きくなっていることがわかる。 (1) すべてのP0maxが模型杭の降伏荷重2.49kNよりも小さい ため、このP0maxを座屈荷重とした。 ここに、Pcr:杭の座屈荷重(kN) E :杭のヤング係数(N/mm ) 2 I :杭の断面二次モーメント l :杭の長さ(mm) (7) ここに、PE:オイラー座屈荷重(kN) m :Pcrが最小になるsin半波の数で自然数 2 β :地盤定数(N/mm )(たわみが1mmに -5に示す。同図には、式(1)に示した弾性地盤に支持 等しいときの杭の単位長さ当たりの地 された両端ピン支持の場合の杭の弾性座屈荷重Pcrおよ 盤反力)で、式(2)を用いた。 び模型杭の降伏荷重も示した。P cr線は、P crが最小にな d (2) kh0 :基 準 水 平 地 盤 反 力 係 数(kN/m ) で、 式(3) による。 (3) った。また、E50がおよそ200kN/m2までは、P0maxはP cr αkh0:評価法によって決まる定数(m -1)で、 とよい対応を示しているが、E50がこれより大きくなる 一軸圧縮試験から求めた地盤の変形係 と、P0maxはPcrの0.6 ~ 0.8倍となった。これは、βの評 数を用いる場合は80 価方法(P crの算定に用いた を式(3)に示したk h0より ζ :群杭を考慮した係数で単杭の場合は1.0 求めているが、式(3)は模型杭よりも大きな径の実杭 E0 :地盤の変形係数(kN/m )で、一軸圧 や模擬地盤よりも大きな剛性の地盤における実験結果よ 縮試験より求めたE50を用いた。 り得られたものであること)が影響している、あるいは、 2 l/dが異なっても、地盤の剛性がほぼ同じであれば、 P0maxやP crのいずれにおいても明確な差が認められなか 9) るsin半波の数で自然数mが変わるたびに折れ曲がるた め、滑らかな曲線ではない。 :模型杭の直径(mm) 3 最大杭頭荷重P0max-模擬地盤の変形係数E50関係を図 B :無次元化杭径(杭径をcmで表した無次 元数値) 地盤の剛性が大きい場合は地盤の剛性のばらつきを受け やすいと考えられる。 21 GBRC Vol.41 No.3 2016.7 pp-650-10 3.5 pp-650-20 2 P omax (l/d =130) l/D=130 P omax (l/d =195) l/D=195 P omax (l/d =260) l/D=260 P cr (l/d =130) Equation(1)(l/D=130) P cr ( l/d =195) Equation(1)(l/D=195) P cr (l/d =260) Equation(1)(l/D=260) 降伏荷重 4 pp-650-0 2.5 pp-650-30 3 pp-650-60 P 0 (kN) P 0 max (kN) 系列6 PE 1.5 1 2.5 2 1.5 1 0.5 0.5 0 0 0 0.5 1 1.5 2 2.5 S 0 (mm) (a) 0 200 400 600 800 1000 E 50 (kN/m 2 ) 図-5 杭頭荷重P0-地盤の変形係数E50関係 (実験:両端ピン支持) l =650mm(l/d=130) pp-975-0 2.5 pp-975-10 2. 3. 2 杭頭固定-先端ピン支持の場合の実験結果 pp-975-20 系列6 PE 2 杭頭荷重P0-杭頭変位量S0関係を模型杭の長さ毎に 図-6に示す。同図には、式(8)に示す拘束のない杭の P 0 (kN) 1.5 杭頭固定-先端ピン支持の場合の座屈荷重P crfpも示し た。fp-650-0の最大杭頭荷重P0maxは、ややP crfpより大 1 きな値を示しているが、fp-975-0およびfp-1300-0を含 めて比較的よく整合しているといえる。また、両端ピン 0.5 支持の場合と同様、どの長さの模型杭においても、模擬 地盤の変形係数E50が大きくなれば、P0maxも大きくなっ 0 0 0.5 1 1.5 2 2.5 の降 伏荷重2.49kNよ り も小さ いた め、同様に、 この S 0 (mm) 増大しているが、これは実験装置にゆるみがあったため pp-1300-0 pp-1300-10 pp-1300-20 系列6 PE 2.5 2 P 0 (kN) P0maxを座屈荷重とする。なお、P0が0.5kN程度でS0が l =975mm(l/d=195) (b) ていることがわかる。P0maxについてもすべて、模型杭 である。 (8) 1.5 ここに、Pcrfp:地盤による拘束のない杭の杭頭固定- 1 最大杭頭荷重P0max-模擬地盤の変形係数E50関係を図 先端ピン支持の場合の座屈荷重(kN) -7に示す。同図には、式(4)に示した弾性地盤に支持 された杭頭固定-先端ピン支持の場合の杭の弾性座屈荷 0.5 重Pcrおよび模型杭の降伏荷重も示した。なお、 は、表-3に示す通りであり、すべて 0 0 0.5 1 1.5 2 S 0 (mm) (c) l =1300mm(l/d=260) 図-4 杭頭荷重P0-杭頭変位量S0関係 (両端ピン支持) 22 2.5 であるた め、αfpの算出には式(6)を用いた。 両端ピン支持の場合と同様、l/dが異なっても、地盤の 剛性がほぼ同じであれば、P0maxやP crのいずれにおいて も明 確な差が 認められなかった。また、E50がおよそ 200kN/m2までは、P0maxはPcrとよい対応を示しているが、 GBRC Vol.41 No.3 2016.7 表-3 lと の関係 fp-650-0 2.5 fp-650-10 fp-650-20 fp-650-30 2 P crfb 系列6 P 0 (kN) 1.5 1 0.5 0 0 1 2 3 S 0 (mm) (a) l =650mm(l/d=130) 2.5 2 fp-975-10 3.5 fp-975-20 fp-975-30 3 P 0 max (kN) P crfb 系列6 1.5 P 0 (kN) P omax (l/d =130) l/D=130 P omax (l/d =195) l/D=195 P omax (l/d =260) l/D=260 P cr (l/d =130) Equation(1)(l/D=130) P cr (l/d =195) Equation(1)(l/D=195) Equation(1)(l/D=260) P cr (l/d =260) 降伏荷重 4 fp-975-0 2.5 2 1.5 1 1 0.5 0.5 0 0 0 0 1 2 400 600 800 1000 E 50 (kN/m2 ) 3 図-7 杭頭荷重P0-地盤の変形係数E50関係 (実験:杭頭固定-先端ピン支持) S 0 (mm) (b) 200 l =975mm(l/d=195) fp-1300-0 2.5 fp-1300-10 E50がこれより大きくなると、P0maxはP crの0.7 ~ 0.9倍 fp-1300-20 fp-1300-30 2 となった。これについても、両端ピン支持の場合と同様、 P crfb 系列6 βの評価方法や地盤のばらつきが影響していると考えら P 0 (kN) 1.5 れる。 1 3.モデル解析 3. 1 解析モデル 0.5 解析モデルを図-8に示す。解析には、「任意形平面骨 組の複合非線形解析プログラム CLAP10)」を用いた。 0 0 1 2 S 0 (mm) (c) l =1300mm(l/d=260) 図-6 杭頭荷重P0-杭頭変位量S0関係 (杭頭固定-先端ピン支持) 3 杭は表-1に示した材料特性をもつ弾塑性体とし、梁要素 でモデル化した。ひずみ硬化係数は引張試験より0.01と した。なお、初期たわみとして、図-9に示すようなたわ みの最大値l/1000を持つ1次モードu1とl/2000を持つ2次 モードu2を与え、軸方向の杭の分割数は26とした。地 23 GBRC Vol.41 No.3 2016.7 盤は、軸剛性が表-2に示したE50から求めたk h0と同じ剛 P cr (l /d =130:解析値) l/D=130(解析値) P cr (l /d =195:解析値) l/D=195(解析値) P cr (l /d =260:解析値) l/D=260(解析値) P 0max (l /d =130:実験値) l/D=130(実験値) P 0max (l /d =195:実験値) l/D=195(実験値) P 0max (l /d =260:実験値) l/D=260(実験値) P cr (l /d =130:理論値) l/D=130(理論値) P cr (l /d =195:理論値) l/D=195(理論値) P cr (l /d =260:理論値) l/D=260(解析値) 4 性を持つ弾性体の梁要素でモデル化し、杭の各節点にピ 3.5 ン接合した。 Pcr (kN) 3 P0 P0 2.5 2 降伏荷重 1.5 1 0.5 杭 杭 0 0 200 400 600 E 50(kN/m2) 800 1000 図-10 杭頭荷重P0-地盤の変形係数E50関係 (解析:両端ピン支持) l l 表-4 座屈モード(両端ピン支持) 地盤 (a) 地盤 両端ピン支持の場合 (b) 杭頭固定-先端ピン支持の場合 図-8 解析モデル No. 理論値 1 次モード 2 次モード pp-650-10 4 3 4 pp-650-20 3 5 3 pp-650-30 2 3 2 pp-650-60 2 1 2 pp-650-10 5 5 5 pp-650-20 5 4 5 pp-650-30 7 5 7 pp-650-60 5 3 5 ※座屈荷重はすべて2次モードで決まっている。 3. 2. 2 杭頭固定-先端ピン支持の場合の解析結果 解析による座屈荷重P crと模擬地盤の変形係数E50の関 係を図-11に示す。座屈荷重は、両端ピン支持の場合と 同様、初期たわみが1次モードと2次モードの場合から 得られた最大荷重のうちの小さい方とした。また、同図 には、杭頭固定-先端ピン支持の場合の実験値および理 論値も示した。解析による座屈荷重は理論値とよい対応 を示した。 図-9 初期たわみ P cr (l / d =130:解析値) l/D=130(解析値) P cr (l / d =195:解析値) l/D=195(解析値) P cr (l / d =260:解析値) l/D=260(解析値) P l/D=130(実験値) 0max ( l / d =130:実験値) P 0max (l / d =195:実験値) l/D=195(実験値) P 0max (l / d =260:実験値) l/D=260(実験値) P cr (l / d =130:理論値) l/D=130(理論値) P cr (l / d =195:理論値) l/D=195(理論値) l/D=260(理論値) P cr (l / d =260:理論値) 4 3.5 3. 2 解析結果 解析による座屈荷重P crと模擬地盤の変形係数E50の関 係を図-10に、解析と理論における座屈モードを表-4に 示す。座屈荷重は、初期たわみが1次モードと2次モー ドの場合から得られた最大荷重のうちの小さい方とし た。また、同図には、両端ピン支持の場合の実験値およ び理論値も示した。解析による座屈荷重は理論値とよい 対応を示した。 24 Pcr (kN) 3. 2. 1 両端ピン支持の場合の解析結果 3 2.5 2 降伏荷重 1.5 1 0.5 0 0 200 400 600 E 50 (kN/m2) 800 1000 図-11 杭頭荷重P0-地盤の変形係数E50関係 (解析:杭頭固定-先端ピン支持) GBRC Vol.41 No.3 2016.7 3. 2. 3 考察 った。 図-10および図-11を見ると、理論値、解析値および実 3)地盤の変形係数が比較的小さい場合は、座屈荷重の 験値には支持条件の影響が顕著には認められないが、地 実験値と理論値は比較的良い対応を示していた。し 盤の剛性が大きい場合、実験値は理論値および解析値よ かし、地盤の変形係数が大きくなると、実験値は理 りも小さい値を示した。支持条件を杭頭自由-先端ピン 論値よりも小さな値を示した。 支持として行った解析結果を両端ピン支持の場合の解析 結果および実験結果と合わせて表-5に示す。両端ピン支 4)施工試験や載荷試験の実績があれば、長さ径比が 130より大きくても問題はないと考えられる。 持の場合に比べて杭頭自由-先端ピン支持の場合の方が 座屈荷重は小さくなった。このことから、実験における 【参考文献】 支持条件が、治具のゆるみ等で純粋なピン支持あるいは 1)日本建築学会:建築基礎構造設計指針,pp.203-205,2001. 杭頭固定になっていないと推察される。なお、解析にお 2)日本建築学会:小規模建築物基礎設計指針,pp.185-186, 2008. ける初期たわみは、座屈長さが2lとなる1次モードと2次 モード、地盤の剛性は、両端ピン支持の場合と同様とし た。 4)日本建築学会:建築基礎構造設計指針,2001. 5)日本建築学会:小規模建築物基礎設計指針,pp.187-188, 2008. 表-5 座屈荷重の関係 解析結果 No. 3)日本建築学会:建築基礎構造設計規準・同解説,pp.213214,1960. 杭頭自由-先端 ピン支持 座屈荷重 Pcr(kN) 実験結果 両端ピン支持 両端ピン支持 座屈荷重 Pcr(kN) 座屈荷重 Pcr(kN) pp-650-10 1.47 2.43 1.43 pp-650-20 0.90 1.57 1.18 pp-650-30 0.62 1.11 1.13 pp-650-60 0.28 0.54 0.81 pp-975-10 1.71 2.49 1.93 pp-975-20 1.13 1.83 1.56 pp-1300-10 1.88 2.49 1.79 pp-1300-20 0.68 1.08 1.23 また、支持条件以外にも、模型杭の初期たわみ、剛性 6)一般財団法人日本建築総合試験所:建築基準法施行令規則 第1条の3第1項に掲げる表三の認定に係る性能評価業務方法 書,http://www.gbrc.or.jp/contents/ documents/center/6 Q231-009.pdf 7)Stephen P. Timoshenko and James M. Gere:Theory of Elastic Stability,pp.94-98,1963 8)木村祥裕,時松孝次:液状化地盤における鋼管杭の曲げ座 屈荷重に及ぼす材端支持条件の影響,日本建築学会九州支 部研究報告,第44号,pp.221-224,2005.3 9)日本建築学会:建築基礎構造設計指針,pp.277-278,2001. 10)小川厚治,多田元英:柱・梁接合部パネルの変形を考慮し た静的・動的応答解析プログラムの開発,第17回情報・シ ス テ ム・ 利 用・ 技 術 シ ン ポ ジ ウ ム 論 文 集,pp.79-84, 1994.12 のばらつきおよび地盤の不均質性の影響も考えられる。 これらのことから、理論や解析の結果どおりに実杭の圧 【執筆者】 縮耐力が発揮されるとは限らない。しかし、性能評価に おける回転貫入杭の長さ径比の最大値を130としている 根拠はなく、理論、解析および実験結果からも、長さ径 比がこれ以上でも杭の圧縮耐力には影響はないと考えら れる。 4.まとめ *1 廣瀬 竜也 (HIROSE Tatsuya) *2 下平 祐司 (SHIMOHIRA Yuji) *3 伊藤 淳志 (ITO Atsushi) 小規模建築物に用いられる小径杭の長さ径比による許 容応力度低減について、模型座屈実験およびモデル解析 により検討し、理論値と比較した。得られた主な知見は、 以下のとおりである。 1)地盤の剛性が大きくなるほど、杭の座屈荷重も大き くなることを確認した。 2)杭の座屈荷重には、長さ径比の影響が認められなか 25
© Copyright 2024 ExpyDoc