試験・研究 小規模建築物に用いる小口径杭の鉛直支 持力評価に関する研究(学位論文要約) A Study on the Bearing Capacity Evaluation of Small-diameter Pile for Small Buildings. (Summary of the Doctoral Dissertation) 廣瀬 竜也*1 1.研究背景と研究目的 試験結果を対象に、先端荷重-先端沈下量関係、極限先 住宅等の小規模建築物の地盤補強を目的として、小口 端支持力度と3つの範囲の先端平均換算N値および極限 径杭工法では、先端翼を取り付けた鋼管を回転して地盤 周面摩擦力度と周面平均換算N値との関係などについて に貫入させる回転貫入杭工法やプレボーリングを併用し 統計的に検討した。その結果、先端荷重-先端沈下量関 てコンクリート杭を地盤に静的に圧入する既製コンクリ 係の平均曲線、極限先端支持力度は杭先端下方1D w ~ ート圧入杭工法が多く用いられている。小規模建築物基 上方1D w(D w:先端翼径)の範囲の平均換算N値 礎設計指針では、これらの杭に平成13年国土交通省告 の関係が最も支持力評価の精度がよいこととその関係 示1113号に示されている埋込み杭の支持力算定式に小 (図-1)および極限周面摩擦力度と周面平均換算N値と 規模建築物の地盤調査に採用されることが多いスウェー の関係などを示した。また、小口径の回転貫入杭の支持 デン式サウンディング試験より求められる換算N値や換 力に関しては、標準貫入試験よりもスウェーデン式サウ 算一軸圧縮強さを用いてもよいことが示されているが、 ンディング試験の方が地盤定数を適切に評価できること 根拠は不明である。また、小規模建築物基礎設計指針で を示した。 は、回転貫入杭や既製コンクリート圧入杭を含めた小口 は、旧建築基礎構造設計規準・同解説に準じているが、 打込み杭の試験結果に基づいて設定されたものであり、 その根拠については不明な点が多い。 本研究の目的は、小規模建築物の地盤補強に用いられ ている回転貫入杭や既製コンクリート圧入杭の支持力算 定式を提案することである。 2.学位論文の概要 学位論文は、前章で述べた研究目的をもとに検討した 結果について、全6章にまとめた。 8000 極限先端支持力度 qp (kN/m2) による杭材の許容圧縮力の低減を与えている。この低減 ──:a -・-:a ±σ データ数 104 の平均値a =170 q p / N 1′ 10000 極限先端支持力度 qp (kN/m2) 径杭に対して細長比(本研究では“長さ径比”と称す) の標準偏差σ q p / N 1′ 6000 4000 ○:Type1 ×:Type2 △:Type3 2000 0 0 10 20 N 1′ 30 (a) 砂質土 40 5000 ──:a -・-:a ±σ 4000 ○:Type1 ×:Type2 △:Type3 3000 と 2000 データ数 65 1000 0 の平均値a =178 q p / N 1′ の標準偏差σ =34 q p / N 1′ 0 5 10 15 20 N 1′ 25 30 (b) 粘性土 図-1 極限先端支持力度と との関係 第3章では、4種類の断面形状の既製コンクリート圧入 杭の載荷試験結果を対象に、先端荷重-先端沈下量関係、 極限先端支持力度と4つの範囲の先端平均換算N値およ 第1章では、小規模建築物に用いられる小口径杭の支 び極限周面摩擦力度と周面平均換算N値との関係などに 持力算定の現状について述べ、問題点を示した。また、 ついて統計的に検討した。その結果、先端荷重-先端沈 研究目的および方法について述べた。 下量関係の平均曲線、極限先端支持力度は、先端地盤が 第2章では、3種類の先端翼形状の回転貫入杭の載荷 砂質土の場合、杭先端下方1D ~上方1D(D:杭径)の *1 HIROSE Tatsuya:試験研究センター 構造部 土質基礎試験室 主査 博士(工学) 30 GBRC Vol.41 No.3 2016.7 範囲の平均換算N値 との関係が、先端地盤が粘性土 との関係が最も支持力評価の精度がよいこととその 関係(図-2)および極限周面摩擦力度と周面平均換算N 値との関係などを示した。また、既製コンクリート圧入 (kN ) ) PcrP(crkN の場合、杭先端下方2D ~上方1Dの範囲の平均換算N値 杭の打ち止め圧入力を設計における短期許容支持力以上 として管理することの有用性を確認した。 ○:円形 ×:正八角形 △:変十角形 □:H型 10000 8000 6000 4000 データ数 45 の平均値a =369 q p / N 11′ 2000 0 q p / N 11′の標準偏差σ =78 0 10 20 N 11′ 30 ──:a -・-:a ±σ データ数 36 q p /N 21′の平均値a =288 10000 8000 q p /N 21′の標準偏差 σ =77 6000 4000 ○:円形 ×:正八角形 △:変十角形 □:H型 2000 0 40 (a) 砂質土 0 5 10 15 N 21′ 20 25 30 (b) 粘性土 図-2 極限先端支持力度と あるいは l/D=130(解析値) P cr (l /d =130:解析値) l/D=130(解析値) P l/D=195(解析値) =195:解析値) cr (l /d =130:解析値) l/D=195(解析値) l/D=260(解析値) P =195:解析値) cr (l /d =260:解析値) l/D=260(解析値) l/D=130(実験値) (l /d =130:実験値) P (l /d =260:解析値) 0max cr l/D=130(実験値) P =130:実験値) l/D=195(実験値) 0max (l /d =195:実験値) l/D=195(実験値) P l/D=260(実験値) =260:実験値) 0max (l /d =195:実験値) l/D=260(実験値) l/D=130(理論値) P (l =130:理論値) /d =260:実験値) (l /d 0max cr l/D=130(理論値) l/D=195(理論値) P =130:理論値) cr (l /d =195:理論値) l/D=195(理論値) l/D=260(解析値) P =260:理論値) cr (l /d =195:理論値) l/D=260(解析値) P (l /d =260:理論値) 降伏荷重 cr 降伏荷重 200 400 600 800 1000 200 E400 6002) 800 1000 50(kN/m E 50(kN/m2) (a) 両端ピン支持の場合 (a) 両端ピン支持の場合 の関係 (kN ) ) PcrP(crkN 極限先端支持力度 qp (kN/m2) 12000 極限先端支持力度 qp (kN/m2) ──:a -・-:a ±σ 14000 4 4 3.5 3.5 3 3 2.5 2.5 2 2 1.5 1.5 1 1 0.5 0.5 0 0 0 0 4 4 3.5 3.5 3 3 2.5 2.5 2 2 1.5 1.5 1 1 0.5 0.5 0 0 0 0 200 400 600 800 1000 200 E400 6002) 800 1000 50(kN/m E 50(kN/m2) (b) 杭頭固定-先端ピン支持の場合 (b) 杭頭固定-先端ピン支持の場合 第4章では、弾性体と見なせる寒天を用いた一様地盤 における模型座屈実験を行い、地盤の剛性および杭の長 l/D=130(解析値) P cr (l /d =130:解析値) l/D=130(解析値) P =130:解析値) l/D=195(解析値) cr (l /d =195:解析値) l/D=195(解析値) l/D=260(解析値) =195:解析値) P cr (l /d =260:解析値) l/D=260(解析値) l/D=130(実験値) (l =260:解析値) /d =130:実験値) P 0max cr (l /d l/D=130(実験値) (l /d =195:実験値) =130:実験値) l/D=195(実験値) P 0max l/D=195(実験値) =195:実験値) l/D=260(実験値) P (l /d =260:実験値) 0max l/D=260(実験値) l/D=130(理論値) P (l =130:理論値) /d =260:実験値) (l /d 0max cr l/D=130(理論値) l/D=195(理論値) P =130:理論値) cr (l /d =195:理論値) l/D=195(理論値) l/D=260(理論値) P =260:理論値) cr (l /d =195:理論値) l/D=260(理論値) P 降伏荷重 cr (l /d =260:理論値) 降伏荷重 図-4 座屈荷重Pcr-地盤の変形係数E50関係 さ径比(l/d、l:模型杭の長さ、d:模型杭の杭径)が 杭の座屈荷重に与える影響を検討した。また、座屈荷重 P crの理論値と比較した。その結果、地盤の剛性が大き 第6章では本研究の結論をまとめ、今後の課題につい て述べた。 くなるほど杭の座屈荷重も大きくなることを確認し、杭 の座屈荷重には長さ径比の影響は認められなかった。ま 3.おわりに た、地盤の剛性が比較的小さい場合は座屈荷重の実験値 本研究をまとめるにあたりご指導いただいた関西大学 と理論値は比較的よい対応を示したが、地盤の剛性が大 の伊藤淳志教授、研究の当初よりご指導いただいた当法 きくなると実験値は理論値より小さくなった(図-3)。 人の下平祐司氏、詳細な載荷試験データを提供していた だいた各企業の方々、共同研究として模型座屈実験に携 P 0max (l /d =130) l/D=130 l/D=195 P 0max (l /d =195) l/D=260 P 0max (l /d =260) (l/D=130) P cr (l /d =130) (l/D=195) P cr (l /d =195) (l/D=260) P cr (l /d =260) 降伏荷重aaaaaaaa P 0max (kN) 4 3 4 2 1 わった関西大学建築基礎工学研究室の卒業生、大学院へ P 0max (l /d =130) l/D=130 P 0max (l /d =195) l/D=195 l/D=260 P 0max (l /d =260) P cr (l /d =130) (l/D=130) P cr (l /d =195) (l/D=195) P cr (l /d =260) (l/D=260) 降伏荷重aaaaaaaa 5 P 0max (kN) 5 3 の進学を許可していただいた当法人の役員各位に心より 感謝いたします。 2 【主な公表論文】 1 0 0 0 200 400 600 2 E 50(kN/m ) (a) 両端ピン支持の場合 800 0 200 400 600 2 E 50(kN/m ) 800 (b) 杭頭固定-先端ピン支持の場合 図-3 最大杭頭荷重P0max-地盤の変形係数E50関係 第5章では、第4章に示した模型座屈実験をモデル解析 により検討した。その結果、解析結果は理論値を良い対 応を示した。また、模型座屈実験と同様に、地盤の剛性 1)廣瀬竜也,下平祐司:スウェーデン式サウンディング試験 による地盤評価に基づく螺旋状先端拡大翼付き小口径回転 貫入杭の支持力係数,最近のサウンディング技術と地盤評 価シンポジウム発表論文集,pp.7-12,2009.10 2)廣瀬竜也,伊藤淳志,下平祐司:小規模建築物に用いる回 転貫入杭の支持力特性に関する統計的検討,日本建築学会 構造系論文集,Vol.79,No.701,pp.933-939,2014.7 3)廣瀬竜也,伊藤淳志,下平祐司:小規模建築物に用いる既 製コンクリート圧入杭の支持力特性に関する統計的検討, 日本建築学会構造系論文集,Vol.80,No.709,pp.419-425, 2015.3 が大きくなるほど杭の座屈荷重も大きくなり、杭の座屈 荷重に長さ径比の影響が認めらなかった(図-4)。 31
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