工学基礎物理 解説 1-4 平衡速度に達する落下運動(高専の応用物理 p 16) Jul. 2016 ©T. Hasegawa 平面の運動(斜方投射など)では空気抵抗を考えない場合が多いが、実際には空気抵抗は重要な役割を果たす。 雨粒の落下速度は空気抵抗により一定値で落ち着くため、我々は安心して雨の中でも歩くことができる。そして、 物体が落下するとき、その速度に比例する空気抵抗を受ける、というモデルは比較的よく実際を表している。一 般に、ある量が、その量に比例した変動を受けるとき(この問題では速度が、速度に比例して変化する) 、解は指 数関数を含む場合が多い。このような指数関数的振る舞いは、あらゆる工学の分野で出現するため、解法に慣れ ておくことが必要と思われる。この問題を例に考えてみよう。 図のように、質量 m の物体が重力加速度 g によって落下している。y 軸を下向き正に取る。速度は下向きに v で ある。速度に比例した抵抗、Cv を受けている。 1. 平衡速度「だけ」を求める。 最終的な平衡速度を求めるだけであれば、つり合いの式、 − から、 =0 (1) = を得ることができる。ただし、この解き方では、途中経過は全く分からない。 2. 運動方程式を解き、時間 t の関数として v(t)を求める 運動方程式を微分方程式として解けば、位置や速度が時間 t の関数として求めることができる。そこで、この速 度 v(t)を運動方程式から解いてみよう。物体にかかる力は、mg と、Cv(t) であるから、運動方程式は、 ( ) = − である。 1 ( ) (2) この式を次のように、左辺に v(y)だけ、右辺を y だけの式に整理する。 ( ) =− ( )− これを変数分離という。変数分離すれば、左辺、右辺をそれぞれ積分することができる1。 ( ) =− ( )− log ( )− =− ここで、C’は積分定数である。(3)式を、v(t)の式に書き直すと、 ( ) = ±e となる。最後の変形では、± + = ±e e (3) + ′ + = e + (4) を ′′とした。この ′′は、初期条件から求めることができて、t = 0 で v(0)=0 から、 (0) = + =0 であるので、 =− である。まとめると、 ( )=− e + = (5) 1−e となる2。v’(t)は、 となる。増減表は下のようになるであろう。 t v’(t) v (t) ′( ) = e 0 ・・・ 0 ↗ g ∞ 0 ⁄ つまり、この関数は、t = 0 のとき、v = 0 から始まって、その傾きは g である。傾きは常に正であるが、徐々に減 少し、無限遠の時間で傾きがゼロとなる。その時、v(t) = mg / C であり、式(1)で示した速度の平衡値と一致する。 グラフは、まさに文頭で示した、教科書の図 1.12 のようになる。 (5)式が、速度に比例した抵抗を受ける落下運動の速度を表す式となる。ちなみに、曲線の傾きを表す v’ (t)は、 速度の一回微分なので、加速度に相当する。t = 0 で傾き(加速度)が g であるのは、速度が小さすぎて、抵抗を 受けていないこと、を意味する。また、t = ∞で、傾き(加速度)がゼロになっているのは、重力と抵抗がつりあ っていることを意味している。 1 ここでの説明は、解法の説明を目的とし、数学的厳密性を意識せず式を変換している。厳密性が気になる人は 2 自然対数 e の肩にたくさんの文字式が乗ると、たいへん見苦しくなる。e をexp( )と書くと見やすいし、かっ 数学の教科書等で、自分で調べてほしい。 こいいので、慣れてほしい。 2 3. 付録:簡単な例(レッサーパンダ vs. 人間) 指数関数を使った簡単な例を考えてみよう。西山動物園にはかわいいレッサーパンダが飼育されている。繁殖実 績は日本一らしい。そこで、レッサーパンダの数が、今後どう増えていくか計算してみよう。レッサーパンダの 数を N とする。そして、N 頭のレッサーパンダからの割合で子供が生まれ、の割合でレッサーパンダが死ぬと 仮定しよう。数が多ければ、たくさん生まれ、死に、数が少なければ、少し生まれ、少し死ぬ、ことになる。先 の問題で、速度に比例して抵抗が生まれ、それによって速度が変化する、ことに類似している。 時間 t におけるレッサーパンダの数を N(t)とすると、t から t+t の間のレッサーパンダ増減数N(t)は、 ∆ ( +∆ )− ( ) ∆ = である。t が大きいと、その区間内で増減数が一定ではない(レッサーパンダ数が刻々と変わるので) 。しかし、 このt が十分小さければ、この増減数は、時間 t の瞬間の増減数N(t) – N(t)と等しくなると考えてよい。すなわ ち、 lim ∆ → である。整理すると、 ( +∆ )− ( ) = ∆ ( ) この式は簡単に解くことができて、 ( ) = ( )− ( ) = ( − ) ( ) ( ) = e( ) (5) となる。C は積分定数である。レッサーパンダの数が、指数関数的な振る舞いをすることがわかる。当たり前で あるが、出生率が死亡率より大きければ、N(t)は単調増加し、その逆であれば、単調減少する。 西山公園の HP によると、1985 年に 5 頭でスタートしたレッサーパンダは、60 頭が生まれ 2015 年で 43 頭が 生育中だそうである(寿命は 10~15 年ぐらいらしい) 。1985 年を t = 0 とすると、N(0) = C = 5 である。 年、すなわち tのとき、 (30) = 5e ( サーパンダの数は、t を年から数えた年とし て、 となる。 ( ) = 5e . ( ) = 5e( ) ) = 43 である。ここから、を得る。すなわち、レッ (6) (6)式をグラフにしたものが右図である(対数グ ラフに注意) 。100 年後にはレッサーパンダの数 が1万頭近くに達することが推定される。その頃 には鯖江市の人口がどうなっているかわからな いが、ひょっとすると人間の数より多くなってい るかもしれない3。 (おわり) 3 この結果を信じるか信じないかは、みなさんにお任せする。 3
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