論 文 審 査 の 要 旨

別紙1
論 文 審 査 の 要 旨
報告番号
甲
論文審査担当者
第 2799 号
氏 名
主査
教授
桑田
啓貴
副査
教授
井上
富雄
副査
教授
高見
正道
帆足
有理恵
(論文審査の要旨)
学 位 申 請論 文 「 Sleep bruxism model using neural cells derived from patient -specific iPS
cells with 5-HT2A polymorphism」に つ いて , 上記 の 主 査1 名 , 副 査 2 名が 個 別 に審 査 を行 っ た .
本 研 究 では , 睡眠 時 ブ ラ キ シ ズ ム( SB)患 者 お よび 健 常 成人 から iPS 細 胞を 樹 立 し, 5-HT2A を発
現 す る 神経 細 胞を 誘 導 して ,機 能的 関 連性 を 検討可 能 な SB 疾 患 モデ ル を構 築 し 、5−HT2ASNPs 変異
が SB の 発 症 誘 因 で る こ と を 証 明 す る こ と を 目 的 と し て 行 わ れ た 。 こ れ ま で の 結 果 よ り SB 患 者
(rs6313:C/C)2 名, 健 常成 人 (T/T)2 名 よ り iPS 細 胞 を 樹立 し 、縫 線 核 領域 と 類 似の 細 胞表 現 系 を
有 す る 神経 細 胞を 誘 導 し、 5-HT2A の 発 現確 認 など を 行 い、 機 能的 な 検 証を お こ なっ た 。
結 果 と して 、 これ ら の 細胞 は iPS 細 胞 より 神 経細 胞 へ と分 化 して い る こと が 確 認 さ れ ,さ ら には
5-HT2A 発現 も 確認 さ れた 。こ れま で のと こ ろ、こ れ ら の細 胞 を誘 導 す る手 法 は 確立 さ れて お ら ず、
今 後 5-HT2A と SB の 発症 メ カ ニズ ム につ い て 解明 す る モデ ル とし て 大 変有 用 で ある こ とが 示 され
た。
本 論 文 の審 査 にあ た り 多く の 質 問が あ り , そ の 一部 と そ れら に 対す る 回 答を 以 下 に示 す .
副査
高見 委 員の 質 問 とそ れ ら に対 す る回 答 :
1.従 来 のブ ラ キシ ズ ム 発生 メ カ ニズ ム につ い て 行動 や 中 枢神 経 系な ど の 観点 か ら 説明 せ よ.
(こ れ ま でに 明 らか に され て い る睡 眠 時ブ ラ キ シズ ム 発 生時 の カス ケ ー ドは ,交 感神 経 系の 活 動と
それに伴った一過性の覚醒が関連していることが分かっている.ブラキシズム発生の約4分前に
交 感 神 経活 動 の上 昇 が 起こ り ,さ ら に約 10 秒前に 平 均 心拍 数 の増 加,約 4 秒 前 に脳 波 活 動の 上 昇,
約 1 秒 前 に 心 拍, 呼 吸の 増 加 ,そ の 後に 閉 口 筋群 の 活 動が 開 始さ れ 数 秒間 の 咬 合接 触 ある い は 歯
ぎ し り 雑音 ( 睡眠 時 ブ ラキ シ ズ ム) が あり , 最 終的 に 嚥 下を 発 生 す る 。 )
2.末 梢 単 核 球 か ら iPS 細 胞 を 誘 導 し た 際 に LIN28 遺 伝 子 を 共 導 入 し て 初 期 化 を 行 っ て い る が ,
LIN28 はど の よ うな 機 能を 担 っ てい る のか 説 明 せよ .
(iPS 細胞は体細胞に 4 つの初期化因子である OCT3/4, SOX2, KLF4, c-MYC を導入すること
で作製することができるが,これらの因子だけでは初期化効率は 0.2%とかなり低い.その原
(主査が記載)
因として報告されているのが初期化される前の状態に逆戻りしてしまい iPS 細胞になれない
ということである.この初期化効率を改善することを目的として LIN28 は初期化前の細胞へ
の逆戻りを防ぐことが可能で,iPS 細胞の作成効率を上げることができるため 導入した.)
副査
井上委員の質問とそれらに対する回答:
1. 今後どのように 5-HT2A 受容体と SB の関連性を調べていくのか説明せよ.
(レンチウイルスベクターを用いて 5-HT2A 受容体プロモーター配列を GFP の前に挿入したベ
クターを作製し,神経細胞へ遺伝子導入することにより 5-HT2A 受容体を発現している神経
細胞を光らせ同定することを考えている.)
2.5-HT2A 受容体を発現している神経細胞によって,5-HT2A 受容体の機能は変わらないか説
明せよ.
(5-HT2A 受 容 体 は 脳 内 の 多 く の 領 域 に 発 現 し て い る . 特 に 腹 外 側 前 頭 前 野 に 認 め ら れ る
5-HT2A 受容体はセロトニン神 経に作用し,衝動的行動に 抑制をかける.背側縫線核の GABA
作動性神経細胞に発現している 5-HT2A 受容体はセロトニン神経細胞を抑制する働きがある .
5-HT2A 受容体が発現している神経細胞によって機能にどのような違いがあるの は不明.)
主査
桑田委員の質問とそれらに対する回答:
1.今回樹立した細胞を用いて in vitro の実験系で行うことのできる実験計画はどのようなもの
があるか説明せよ.
(抗体を用いてウェスタンブロット法による 5-HT2A 蛋白質の量的変化を解析し 、SB 群とコ
ントロール群との間でタンパク量に違いがあるのかを確認する.標的細胞で特異的 GFP を発
現するレンチウイルスベクターを用い,電気生理学的解析を用いたパッチクランプやカルシウ
ムイメージングを行い,細胞特異的な受容体の機能的な評価も可能である.)
2. アミノ酸変異を伴わない SNP が、転写発現に影響を及ぼす可能性を検証する実験手法を説
明せよ.)
(SNP rs6313 と完全連鎖不平衡で動く rs6311 がプロモーター領域にあるため,遺伝子の発現
量に変化を及ぼす可能性がある.レポーター遺伝子を導入し、細胞内の酵素活性や 生物化学発
光を測定することによりプロモーター解析を行うことで定量化することができる. )
主査の桑田委員は, 両副査の質問に対する回答の妥当性を確認するとともに, 本論文の主張
をさらに確認するために上記の質問をしたところ, 明確かつ適切な回答が得られた.
以上の審査結果から, 本論文を博士(歯学)の学位授与に値するものと判断した.
(主査が記載)