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Profile
松本健史
理学療法士/介護支援専門員/
社会福祉学修士
NPO法人丹後福祉応援団勤務。
2014年に「松本リハビリ研究所」設立。著書に「拘縮対
応ケアハンドブック」(ナツメ社)等がある。介護従事者
向けの「生活リハビリの達人」養成研修が話題。
● ホームページ『松本リハビリ研究所』
● 研修・原稿の依頼・問い合わせは [email protected] まで 年間テーマ一覧
5月号 円背がとても強い方・腰がひどく曲がっている方
11月号 変形性の膝関節症で、膝が痛くて立ったり歩いたりしたがらない方
6月号 すり足で転倒しやすい方
12月号 パーキンソン病で飲み込みが低下しかけている方
7月号 イスからの立ち上がりができにくい方
1月号 関節リウマチで変形が中等度ある方
8月号 片麻痺で麻痺側の手足の痙性が強く起立できない、できにくい方 2月号 訓練にやる気がない方・歩けるようになる見込みがないのに歩くための体操ばかりしている方
9月号 片麻痺のぶん回し歩行・反張膝
10月号 イスに座ると体が傾いてしまう方・仙骨座りになる方
3月号
高齢者で床からの立ち上がりができない方、片麻痺の人で床からの立ち上がりが
できない方
※内容は変更となる場合があります
変形性膝関節症で「膝が痛くて訓練なんかしたくない!」
そんな方にオススメのステップアップ式機能訓練メニュー
本連載では、デイサービスで行いやすい機能訓練メ
ニューを紹介していきます。今回は変形性膝関節症で膝
に痛みがあり、「訓練なんかしたくない」と訓練に消極的
な方を対象に、取り組みやすい運動から始め、「これなら
できる!」と少しずつ難易度 (初級∼上級) を高めていく
手法を紹介したいと思います。必ず1ページ目から順に
取り組み、痛みを感じたら次のステップへは進まず、痛
ステップアップの見極め
初級の運動から始め、数週間かけてス
テップアップしていく
痛みを感じたら次のステップには進まず、
前回までのトレーニングを繰り返す
トレーニング後の状態を確認し、痛みを感じて
いたら次には進まない
みが出ない範囲でのトレーニングを繰り返します。
初級 の 運動
マッスルセッティング 関節を動かさずにできるトレーニング
大腿四頭筋の筋力が低下すると膝が不安定になり、痛みへとつながりやすくなります。関節を動かさずにト
レーニングすることで、痛みを感じることなく膝周囲の筋肉を鍛えて膝の安定性を高めます。
① 図のように片足を伸ばして座り、膝裏に丸めたバスタオルを差
利点
し込みます
安静にした状態から少しずつ筋肉を刺
激してトレーニングできます。
a )の方向に
② 足先の関節は矢印( 反らし、膝裏とバスタオルの隙
間をなくすように膝をグッと押
ポイント
b)
し付けます( ③ バスタオルに押し付ける←→緩める
を繰り返します
④ 足を変えて、同様に行います
a
b
太腿の前面に触れ、大腿
四頭筋が収縮して固くな
るのを確認しながら実施
するとより効果的です。
大腿四頭筋
ボール運動
弾力性のあるボール(直径20㎝程度の弾力性のあるリハビリボール)は関節に負担を
かけにくく、安全に運動ができます
イスに座った状態でボールを蹴る
注意点
ボールを使った運動の導入部分で準備運動として行います。
数人で円になってイスに座り、ボールを蹴り合います。
まずは体を動かすことの楽しさを実感することに重
点を置きます。バランスを崩さないように肘かけの
あるイスに座って行いましょう。
痛みのないほうの足で実施するなど工夫します。
利点
ボールを扱うことで全身の協調性も高められます。
他利用者と複数で実施すれば、他者との交流の機会
にもなります。
レベルアップ
慣れてきたらコーン目掛けて
蹴るなど難易度を上げます。
ボールでストレッチ
伸展 20度 0度
(背屈)
かかと
つま先から踵までボールを前後に移動させます。
45度
痛みの出ない範囲で足の運動を促し、筋肉を刺激します。
屈曲
(底屈)
足関節の正常な可動域は背屈20度、底屈45度ですが、
高齢者は特に背屈が難しく、ほとんど曲がらない方が多い
注意点
関節の痛みが増強しない範囲の運動にとどめます。
利点
ボールを扱うことで全身の協調性も高められます。
つま先
踵
理学療法士の視点
運動の中で関節可動域をチェックしましょう。
● 膝の関節可動域はどうか?
● 足関節(足首の関節)の背屈(足を反らせること)が
ちゃんとできているか? など
きな負担がかかります。よって、足関節の柔軟性を上
げることで膝の痛みが改善できるケースもあるのです。
手順としては痛みのない関節から運動を開始し、
慣れてきたら膝に対する運動も実施します。ボール
やチューブなど弾力性のある器具を使うことで関節
膝の痛みがある場合、膝だけが原因ではない場合が
に負担をかけず、安全に運動ができます。
あります。多くの高齢者は筋肉の柔軟性が低下し、特
ボール体操・チューブ体操などで足首がよく動く
に足関節の可動域が狭くなっています。足関節の動き
ように柔軟体操をしたり、アキレス腱のストレッチ
が悪いと、歩行の際の衝撃を吸収できないため膝に大
などをメニューに加えます。
現場スタッフに役立つ
疾患別 リハビリ
股関節の運動 膝以外の痛みのない関節への運動メニュー
膝の痛みがあるため運動したくない方には、痛みのない関節の運動を促していくことも一つの手法です。特に股
関節の運動は体幹の力を強めることができ、いろいろな動作の安定にもつながります。
股関節の内転運動
イスに座って行う股関節の外転運動
① 4カウントで、ボール
① 肘かけのあるイスにボールを挟み、ボールを
をつぶすように力を入
つぶすように4カウント力を入れる
ボールは床に着けて行っています
れる
② 4カウント休憩
② 4カウント休憩
10回を1セットとして
3セット程度
左右10回を1セット
として3セット程度
硬めのクッション
や 丸 めたタオル
でもOK
※イスに座って行うこともできます
注意点
ポイント
回数は体力によって加減します。
ボールは床に着けて行いましょう。
持ち上げたり、膝を曲げ過ぎると膝
が安定しません。
注意点
内転筋(内もも)に力が入
ることを意識しながら
実施します。
回数は体力に
よって 加 減し
ます。
ポイント
中殿筋(お尻の外側)に力が入る
ことを意識しながら実施する
とより効果的です。
膝の伸展(膝を伸ばす)運動
慣れてきたら、痛みの確認を行いながら膝の伸展運動を行います。
注意点
① ボールを両足で挟み、膝を伸ばしてボールを持
関節の痛みが増強しない範囲
の運動にとどめます。
回数は体力によって加減します。
ち上げ4カウント
② 4カウント休憩
10回を1セットとして3セット
アシスト運動・負荷運動 介助者が手で補助しながら膝関節の可動域を広げる
筋力が低下して膝が上がりにくく、ボール運動などが難しい場合は、自力で膝を伸ばしてもらい、「これ以上は
上がらない」ところから、介助者が補助して軽く膝を伸ばす運動を行います。
アシスト運動
負荷運動
介助者が片手を膝の下に添え、もう
力が出てきたら、今度は膝を伸ばして
片方は足首を下から支え、軽く膝を
もらいながら足首を上から軽く押さ
伸ばす運動を行います。足を替えて
え、負荷をかけます。足を替えて同様
同様に行います。
に行います。
注意点
関節の痛みが増強しない範
囲の運動にとどめます。
ポイント
軽く
伸ばす
負荷
介助者は力の足りない部分
を補助します。
関節がまっすぐ伸びる感覚
を本人が感じられるように配
慮します。
中級 の 運動
油圧式マシントレーニングの利点
機器を使って低負荷・短時間の運動を実施します。
軽度の膝の痛みがある場合でも実施しやすいものを紹介
します。
油圧式のマシンは負荷を調節することができ、関節に無
理な負担をかけずに運動ができる利点(右記)があります。
● 座って行うものが多いため、膝に体重をかけ
ずに運動することが可能
● 運動負荷の調整が容易
● 並んで行う集団運動が可能で活気が出る
エルゴメーター
サドルに座るため、膝への負荷を少なくして運動ができます。
注意点
サドルを高めにして、膝が強く曲がらない
ように工夫しましょう。
ポイント
有酸素運動を取り入れることで心肺機能
も高めていくことができ、ダイエット効果
も期待できます。運動習慣をつけていく
のに適しています。
好きな音楽をかけながら、5分ほどこいで
もらうといいでしょう。
サドルが低いと膝が強く曲
がって痛む
サドルを高くすると、膝が曲
がる角度を抑えられる
ホリゾンタルレッグプレス ゆっくりと関節を動かすことで、痛みを感じずに行えます
スロートレーニング※を心掛けましょう。心肺機能・関節への負担
ポイント
を抑えながら運動できます。
①「1、2、3、4」と4カウントしながら、膝を伸ばします。
心肺機能へ負荷を与え過ぎないよう、
“笑
顔で取り組めるペース ”
で行います。
②「5、6、7、8」と次の4カウントで膝をゆっくり曲げます。
実施の際の注意点
10回を1セットとして3セット程度
膝をまっすぐ伸ばすと痛い場合は、途中
で中止します。
1、2、3、4
5、6、7、8
ひ と 工 夫!
曲げる
伸ばす
膝が不安定な場合、ボールを両膝の間に
挟んで実施するといいでしょう。
※スロートレーニング:筋肉に力を入れたままゆっくりと動かすトレーニング
現場スタッフに役立つ
疾患別 リハビリ
上級 の 運動
関節の痛みがある場合、一般に関節を動かさず
す)
の運動を行っていきます。
に筋力を発揮する運動がよいとされています。こ
運動の種類
の、関節を動かさず筋肉の長さが変わらない運動
とう しゃく せい
を等尺性収縮と言います。
きゅう しん せい
等尺性収縮の運動に慣れてきたら、次に求心性
等尺性収縮… マッスルセッティング(111ページ)
求心性収縮… 本誌で紹介しているボール・チューブ・
マシンなどを使ったトレーニング
収縮(筋肉を縮めながら関節を動かす)の運動を行いま
これから上級としてご紹介するのが遠心性収縮
す。求心性収縮の運動もクリアできたら、最後に
の運動である「KBW」
「階段昇降」です。
ケービーダブリュー
えん しん せい
一番負荷の大きい遠心性収縮(筋肉を伸ばしながら動か
ひ ざ
曲 げ
歩 行
KBW(Knee Bent Walking )
膝を少し曲げた状態で歩行します。歩行の際の膝の不安定さを軽減することを目的に実施。
膝周囲の筋肉が膝関節を安定させるように働き、痛みを発生させない動きが覚えられます。
STEP 1
いつものように直立で
STEP 2
慣れてきたら平行棒を持っ
STEP 3
2
にも慣れたら、直立
歩く
て直立より10㎝低く、膝
より20㎝低く、膝を曲
を曲げたまま歩く
げたまま歩く
10㎝
注意点
距離は関節の痛みが
増強しない範囲にと
どめます。
20㎝
ポイント
鏡 などを利 用し、視
覚的フィードバックが
できるように配慮し
ます。
階段昇降 KBWで膝の周囲の筋肉を鍛えたら、次は実際に段差の上り下りをします
段差昇降で膝が不安定になりやすいのは、階段を下りる
階段の下り
ときです。段差を下りるとき、上の段の足が安定して体
重を支えるためには、大腿四頭筋の遠心性収縮が必要で
伸ばされながら
縮もうとする
(遠心性収縮)
大腿四頭筋
す。ゆっくり動かすと大腿四頭筋が伸ばされながら縮も
うとする動き(遠心性収縮)をより引き出すことができます。
手すりのある階段や踏み台を使用して上り下りします。
注意点
転倒しないよう見守る必要があります。
下り始めは上の段にあ
る足は膝が伸びた状態
下りようとして上の段に
ある足で踏ん張る瞬間
月刊デイのホームページから松本健史先生の「居宅訪問でご利用者の生活環境を把握しよう」がご覧になれます。プロ
グラムを提供するときは、ご利用者の生活から導いた目標設定をすると、主体的に取り組んでもらえます。個別機能訓練
などの参考にぜひご覧ください!
月刊デイ で検索(アドレス:http://daybook.jp/day.html)