Bain の方位関係1 – まだ改訂は無し 1 – Martensite 変態における方位関係 鉄鋼材料は、高温で FCC(γ相、オーステナイト構造) であるが、低温では BCC(α 相、 フェライト) である。オーステナイトはフェライトよりも多くの炭素を固溶できるので、共 析組成付近のオーステナイトを高温から低温へゆっくり冷却すると、ほぼ平衡状態図に沿っ て共析変態を起こし、フェライトとセメンタイト (Fe3 C) の混合相になる。とくに、共析組 成の合金は perlite と呼ばれる特徴的な層構造組織となる。 共析変態は固相→固相の変態であり、原子の移動を伴うため、冷却速度が速い場合は変 態が追いつかない。その場合は2相に別れること無く、平衡相より高い炭素濃度を持つ正 方晶 (単相) となる。これが martensite 変態であり、生成した相は martensite(α′ 相) と呼ば れる。当然ながらこれは平衡相ではない。炭素は3種類ある8面体位置のうち1種類だけ を占有する。炭素濃度が高くなるにつれ、軸の比 (c/a) の値が1からずれてゆく。 この変態は、せん断機構によって結晶構造が変わることで起こるため、原子の移動を必 要としない。したがって変態速度は極めて速く、一瞬で完了する。 2 Bain の関係 martensite 変態は無拡散変態であるから、変態前後における原子の相対的な位置関係は ほとんど変わらない。そのため、母相のオーステナイトと martensite の間には一定の方位 関係が保たれる。炭素濃度や熱処理の違いによっていくつかの異る方位関係が存在するこ とが判っているが、基本的な考え方は Bain の方位関係で説明することができる。 Bain の方位関係とは、オーステナイトとマルテンサイトの方位関係を次に示す図のよう に取ったものである。 1 2013 年 06 月 23 日 初版文書化 1 zα = zγ yγ yα xα xγ Bainの関係 この対応関係を、数式で表してみよう。まずは方向の Miller 指数から。 2.1 Bain の関係における、方向の Miller 指数の変換 α(Martensite) から γ への対応を見る。α 相における基本ベクトルが γ 中でどうなるかを 調べると良い。これらを列挙すると、 1/2 0 1/2 1 1 → 1/2 , 0 → −1/2 , 0 0 0 0 α γ α γ 0 0 0 → 0 1 γ 1 α であるから、 u 1 1 0 u 1 v = −1 1 0 v 2 w γ 0 0 2 w α 逆の変換 (γ → α) は、逆行列を用いて u 1 −1 0 u v = 1 1 0 v w 0 0 1 w α 2.2 γ 面の Miller 指数の変換 図の中に面を描いてそれぞれの座標系でどう表されるかを見れば、対応がわかる。面の 場合と同様に、まず α → γ で考え、逆変換は逆行列で表示する。 2 面指数なので、共変系 (通常のベクトル変換の転置型) で表示すると、 (100)α → (110)γ , (010)α → (110)γ , (001)α → (001)γ となるのだが、計算する際には反変系 (縦ベクトル表示) の方がやり易いので、最初は縦で 書いてあとで転置することにする。で、反変系で表示すると、以下の通りである。 1 1 0 1 0 0 0 → −1 , 1 → 1 , 0 → 0 0 0 0 0 1 1 α γ α γ α γ であるから、 h 1 1 0 h k = −1 1 0 k l γ 0 0 1 l α となり、最後にこれを転置して 1 −1 0 (hkl)γ = (hkl)α 1 1 0 。 0 0 1 γ → α は、逆行列を使って 1 1 0 1 −1 1 0 2 0 0 1 (hkl)α = (hkl)γ で与えられる。面の変換と方向の変換に関する行列が互いに逆行列になっていることに注 意されたい。 3
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