一つのセンサで 冷温感・触感・見た目を 含む質感を測る技術 新潟大学 工学部 機械システム工学科 准教授 寒川 雅之 1 質感評価の従来技術とその問題点 • 従来の質感評価=感性的な手法 – 熟練技術者による手触り、見た目での評価 – 官能評価による数値化 • 問題点 – 評価結果への評価者の主観の混入 ➡客観性に課題 – 評価者の経験や年齢、体調によるばらつき ➡再現性に課題 2 本技術の概要 • 質感の構成要素 – 触感:硬さ、厚み、摩擦、・・・ – 視感:光沢、色、散乱、・・・ – 冷温感:熱伝導、熱放射、熱容量、・・・ • 本技術は質感構成要素を「一つ」の、「小型」のセン サにより複合的に計測する手法 – 触感 ➡ ベクトル接触力変化 – 視感 ➡ 入射光変化 – 冷温感 ➡ 温度時間変化 3 センサの基本構造 試作例 マイクロ カンチレバー エラストマ(弾性樹脂) Si基板 5 mm 5 mm Si基板上に表面MEMSプロセスにより作製した傾斜マイクロカンチレバー (片持ちはり)が弾性樹脂に埋め込まれた構造 4 触覚の検知原理 0.3 mm 薄膜ひずみ抵抗 傾斜構造 荷重に対するひずみ抵抗変化 Resistance Change (ppm) マイクロカンチレバー電子顕微鏡写真 100 0 -50 -100 -150 垂直荷重印加時 剪断荷重印加時 Shear Force 50 Normal Force 0 0.2 0.4 0.6 Force (N) 0.8 一つのカンチレバーが垂直・剪断 荷重両方に応答を示す ➡ 圧力だけでなく滑りも検知可能 5 対象物 反射光 (対象物表面特性を反映) インピーダンス変化率 (%) 視覚の検知原理 0 入射光なし(基準) 緑 -1 青 -2 -3 赤 光源の色 -4 赤 + 光励起キャリア 光源(カラーLED等) センサ 緑 青 入射光の色 白 導電性変化は光源と対象物 の色の組み合わせに依存 対象物の色の判別が可能 光入射 ➡ 光導電効果によりSi中導電性変化 6 冷温覚の検知原理 対象物 熱伝達 センサ 接触 ヒータ(体温程度に加熱) センサを対象物に接触させたときの熱伝達による温度変化 ➡ センサの導電性変化 7 アクティブタッチ計測 • 人間の探索行動と同様に、センサをアクチュ エータで駆動し、能動的に対象物に接触させて 計測 – 押当て、押込み、なぞり、光の色や当たる角度を 変える、・・・ • 動きと複合的センサ出力の相関性から質感情 報を得る なぞり センサ 観察光 押当て、押込み センサ 伝熱 対象物 垂直力 剪断力 対象物 8 触覚センサの従来技術とその問題点 • ロードセル、力覚センサ – 小型化困難 – 高価(数万円/個~) • 感圧ゴム、感圧インク、ゴム静電容量 – 圧力のみの検出➡滑りの検出不可 – 非線形性、耐久性 • ロボットハンド一体型 – 低汎用性 – 高価(百万円以上) 9 新技術の特徴・従来技術との比較 • 質感を数値化し記録・比較・評価でき、客観性・再現 性に優れる。 • 圧力、温度、光のセンサを組み合わせて計測するの に比べ、複合的な質感を一つのセンサで計測可能で あり、小型化・低コスト化・アレイ化が期待できる。 • 他のMEMS触覚センサ技術との比較 – 検知部の構造・作製プロセスが簡便、特殊な加工技術を 必要としない ➡ 低コスト – ほぼ接触力のみの検知であり、光や温度を複合して検知 する例はない 10 紙幣の手触り計測 触感計測の例 紙や布等をなぞった時の出力変化 スキャン方向 250 F = 20 gf 光沢紙 z ひずみ抵抗変化率 (arb. units) ひずみ抵抗変化率 (ppm) 0.5 m m v = 0.05 mm/s s 200 スキャン 開始 ポリスチレン 150 ティッシュペーパー 100 デニム生地 PET樹脂 50 皮革 0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 時間 (s) 0 1 2 3 スキャン距離 (mm) 4 0.03mmの微小な凹凸も計測可能 凹凸や摩擦係数に応じた出力変化 11 視感計測の例 900 Siインピーダンス ( ) 890 色紙の計測 観測光:赤 観測光:緑 観測光:青 880 870 860 850 840 830 820 橙紙 緑紙 青紙 橙紙 緑紙 青紙 橙紙 緑紙 青紙 観測光の色との組み合わせで紙の色が分かる 12 冷温感計測の例 センサを押当てた時のSi導電性変化 センサを押当てた時のひずみ抵抗変化 接触力による変化 ひずみ抵抗変化 Siインピーダンス変化 金属 アクリル 木材 0 50 100 接触後時間経過(秒) 150 金属 木材 アクリル 0 1 2 3 4 5 接触後経過時間(秒) 6 • 接触➡伝熱による温度変化➡インピーダンス・抵抗変化 • 材質による熱伝達の違いを計測可能 13 想定される用途 • 医療・福祉 – 介護ロボットや手術支援ロボットにおけるハンドリング制御 – 褥瘡リスク評価・予防のための皮膚ストレス、発赤、発熱等の評価 – しこり等の「触診」の数値化 • 製造業 – 官能評価に代わる家電・自動車等の製品の表面仕上げ評価 – 布・紙、化粧品等の材質の評価 – 熟練技術者の手でしかわからない表面仕上げ等の記録・数値化 • その他 – 数値化による質感のカタログ化、遠隔地への伝送 14 実用化に向けた課題 • 現在、物体に対する押込み、押当て、なぞり、光照射 により、触感、視感、冷温感の違いをそれぞれ計測 可能なことを示している。それらの違いを如何に組み 合わせて総合的な質感評価基準をつくるかが課題。 • 今後、様々な材質に対するデータを収集し、また動き の量や速度に対する依存性を評価することで、質感 の違いを表す最適なパラメータの構築を目指す。 • 実用化に向けて、センサの接触部の材質や形状の 最適化、および計測システムへの実装方法を検討し ていく必要がある。 15 企業への期待 • 測定対象によって、最適なセンサの構造や動 かし方が異なるため、実際に様々な質感を持 つ部品等を製作・評価している企業からの試 作品等の実験評価 • センサで得られた質感を含む計測データを活 かした新製品開発等の共同研究 16 本技術に関する知的財産権 1. 発明の名称 :MEMSセンサ – 出願番号 – 出願人 – 発明者 2. :特願2016-087136 :新潟大学 :寒川 雅之 発明の名称 :物体表面の質感計測装置およびそ れを用いた紙葉類判別装置 – 出願番号 – 出願人 – 発明者 :特願2011-198993 :大阪大学、国際電気通信基礎技術研究所 :寒川 雅之、奥山 雅則、野間 春生 17 産学連携の経歴 • 2011年 経済産業省・戦略的基盤技術高度化支援 事業に採択(アルケア株式会社・国際電気通信基礎 技術研究所と共同) • 2011年-2012年 JST A-STEP FSステージ探索タイ プに採択 • 2015年- 株式会社コガネイと共同研究実施 • 2015年 JST A-STEP FSステージ探索タイプに採択 • 2015年-2016年 JST マッチングプランナープログラ ム探索試験に採択 18 お問い合わせ先 新潟大学 シニアリサーチコーディネーター リサーチコーディーネーター 坪川 紀夫 林 敏和 TEL 025-262-7554(ワンストップカウンター) FAX 025-262-7513 e-mail [email protected] 19
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