乾燥に強い農作物を実現する方法 甲南大学 理工学部 生物学科 准教授 今井 博之 1 <研究背景> ABAシグナリングにおける Sphingosine 1-phosphateの役割 ~シグナル物質としてのスフィンゴ脂質~ 農地の砂漠化など、地球温暖化の影響 はこれからの農作物の生産に大きく影響 を与える。本技術は、植物の気孔からの 水分蒸発を調整する機能を持った技術を 提供し、耐乾燥性に強い農作物鑑賞植 物を創生することを可能とする。 2 シグナル物質スフィンゴ脂質の役割 <研究背景> OH Sphingosine NH2 OH Sphingosine Kinase ATP ADP Sphingosine-1-phosphate phosphatase OH Sphingosine-1-phosphate OO P O NH2 O- ・アポトーシス抑制 ・細胞増殖促進 ・胚発生、分化の制御 ・Ca2+動員 etc Sphingosine-1-phosphate lyase Ethanolamine-phosphate + Palmitaldehyde 3 <研究背景> スフィンゴイド長鎖塩基1-リン酸を介した スフィンゴ脂質の分解経路 スフィンゴイド長鎖塩基 (DHS, PHS, SPH) スフィンゴイド長鎖塩基 キナーゼ(AtLCBK1) Sphingoid base-1-phosphate phosphatase (AtSPP1) スフィンゴイド長鎖塩基1-リン酸 (DHS1P, PHS1P, SPH1P) シロイヌナズナ突然変異体 spl1-1, spl1-2 シロイヌナズナ突然変異体 spp1-1, spp1-2, spp1-3 Sphingoid base-1-phosphate lyase (AtSPL1) C16アルデヒド + ホスホエタノールアミン 4 明らかになったABAシグナリング経路 ABA Sphk Sph ? R <研究背景> Sphk Sph S1P ? S1P ? ? ? R GPA1 GPA1 Promotion inhibition Adapted from Coursol et al., Nature 423:651-654 (2003). K+ Opening Closure Anion 5 実験方法 <研究内容例> 相補性試験 ガラクトースで誘導されるGal1プロモーターを持つpYES2ベクターを使用した。Gal1の3’ 側にAtSPP1または、酵母のS1Pホスファターゼ YSR2のcDNAをそれぞれを挿入した。 HPLCの活性測定 相補が確認された酵母形質転換株をそれぞれ50 μMスフィンゴシンで2時間処理し、洗浄後、 細胞を破砕しスフィンゴシンを抽出した。C18カラムで逆相クロマトグラフィー分析を行った。 Semi‐quantitative RT-PCR分析 発芽後4週目のtotalRNAを抽出し、アクチン遺伝子At-Act2のプライマーを用いてPCRを行 い、mRNAレベルをそろえた。その後、各遺伝子についてPCRを行った。 乾燥ストレス MS培地で4週間育て、プレートのフタを開けて計時的にtotalRNAを抽出した。 AtSPP1欠損体の単離 primerⅠ、ⅡをAtSPP1のゲノム内に作成した。発芽後3週間のA.thalianaの葉から ゲノムを抽出しゲノムPCRを行った。同様にtotalRNAを抽出しRT-PCRを行いmRNA の発現がないことを確認した。 ABAの効果 ABAを0,0.1,0.5,1.0 μMになるようにMS培地に加え種子をまいた。4℃で4日間処理 し、発芽率を調べた 6 <研究内容例> 乾燥ストレスに対するmRNAの蓄積量 Relative intensity 1.00+0.04 0.82+0.05 0.65+0.02 0.66+0.07 2 3 AtSPL1 Act2 0 1 (h) 7 <研究内容例> 乾燥ストレスに対するmRNAの蓄積量 0h 1h 2h 3h 1.2 R ela tiv e Intensity 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 At-Act2 At-Act2 AtSPP1 AtSPP1 8 <研究内容例> 土植え(3週目)乾燥重量 植物試料(地上部)の新鮮重量の変化 50 water loss(%) 重量の減少割合(%) 40 30 20 WT spl1-1 AtSPL1-KO-1 AtSPL1-KO-2 spl1-2 10 0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 時間(min) 9 <研究内容例> 植物試料(地上部)の新鮮重量の変化 重量の減少割合(%) 100 90 80 70 WT spp1-1 EX2 spp1-2 Int spp1-3 EX1 60 50 40 30 20 10 0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 (min) 10 従来技術とその問題点 ・従来、乾燥ストレスに強い作物は、トライアン ドエラーで探索、乾燥に強い植物の遺伝子を探 索してそれを活用する手段が用いられてきたが、 探索は困難が伴って最適解はなかなか出てき ていないのが現状である。 ・遺伝子組換え植物を用いている。 11 新技術の特徴・従来技術との比較 ・植物の気孔の開閉を制御調整する方法 ・植物の耐乾燥性を向上させる方法 ・植物の耐乾燥性を向上させる物質のスクリーニング方 法 ・上記の方法を用いて、耐環境性に優れた農作物を実 現する。 ・従来のような、遺伝子組換え植物を用いる技術と異な り、本技術は、遺伝子欠損植物を用いることを特徴と している。 つまり、遺伝子組換え植物を用いない技 術である。 12 想定される用途 ・鑑賞植物の長寿命化 ・鑑賞植物及び農産物の生産地域の拡大 ・地球温暖化、砂漠の緑化用耐乾燥性植物の創出 想定される業界 ・ 肥料製造メーカー ・ 製薬メーカー ・ 種苗メーカー 13 実用化に向けた課題 • 現在、「遺伝子破壊株は気孔を閉じやすくすることで、 耐乾燥性を付与する」ことが可能なところまで開発済 み。しかし、植物体の生育条件の標準化の点が未解 決である。 • 今後、栽培条件について実験データを取得し、有用 農業植物に適用していく場合の条件設定を行っていく。 • 実用化に向けて、モデル植物における遺伝子欠損株 の適用の精度を様々な有用植物にまで向上できるよ う技術を確立する必要もあり。 14 企業への期待 • 遺伝子組み換え植物を用いずに、耐乾燥性 が付与された食用植物の実用化を考えてい る企業には、本技術の導入が有効と思われ る。 • また、耐乾燥性植物を開発中の企業、花卉な どの鑑賞用植物分野への展開を考えている 企業には、本技術の導入が有効と思われる。 15 本技術に関する知的財産権 1)・発明の名称 ・出願番号 ・出願人 ・発明者 2)・発明の名称 ・出願番号 ・出願人 ・発明者 :葉の水分蒸散を調整する方法 :特願2005-234607 :学校法人甲南学園 :今井博之、西川正洋 :葉の水分蒸散を調整する方法 :特願2006-248762 :学校法人甲南学園 :今井博之、中川弘子 16 お問い合わせ先 甲南大学フロンティア研究推進機構 産官学連携コーディネーター TEL FAX e-mail 安田 耕三 078-435-2559 078-435-2324 [email protected] 17
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