週次レポート 平成 27年 2月 23日 緩やかな円安再開の持続性にらむ ギリシャ動向、FRB議長証言、米指標など焦点 今週の為替相場は、緩やかな円安再開の持続性をにらんだ展開となろう。週間予想はドル/円が 1 17.80- 120.30円、ユーロ/円が 133 .80-138.50円。前週末にはギリシャに対する金融支援の 4カ月延長が基本合意 されており、日米株の堅調さとあいまって、ドル/円、クロス円ともリスク選好による円の戻り売り(外貨の 押し目買い)が優勢となる。ただし、ギリシャ問題は不透明感が残されているほか、イエレン米 FRB議長の 議会証言や米経済指標などの行方次第では、短期的なユーロ安やドル安、円高の余地も残されている。 黒田総裁と安倍首相の両ブレーンが円安是認 「ドル/円は政治的・政策的な円安歯止めのリスクが指摘されているが、現状段階では日米双方の当局によ る円安牽制の動きは広がっていない」――。 日本の財務省幹部はこのような指摘を行う。米国サイドでは 3月中旬にかけて TPP(環太平洋経済連携協 定)交渉が大詰めを迎えるなか、米国の議会や産業界、労働組合などによるドル高・円安への牽制圧力がく すぶっている。しかし、TPP調整のため、前週に来日した米下院歳入委員会のポール・ライアン委員長(共 和党)ら超党派の米議員代表団 6人は 19日、安倍晋三首相との会談で「TPPは日米同盟の基軸であり、両国 はウイン・ウインの関係を築くことができる」と友好姿勢を示す一方、為替相場への言及は一切見られてい ない。 しかも、20 12年の大統領選で副大統領候補を務め、米共和党の次代のリーダーと目されるライアン氏は 19 日、 「安倍首相の防衛政策を大いに歓迎する」 、 「TPP妥結なら日米同盟の強化につながる」と発言した。現在 の米議会は共和党が上下院を制しているほか、2016年の米大統領選にかけては、オバマ米大統領のレームダ ック化と入れ替わりに共和党の攻勢が注目を集めている。その中での共和党幹部による「日米同盟重視」の 姿勢は、来年にかけての政治的なドル高・円安牽制を制御させるものだ。 また、日本サイドでは 4月に統一地方選が迫るなか、円安による物価上昇が打撃となっている地方経済や 中小企業に配慮した「円安自制論」が注目を集めている。12日には一部通信社が「一段の追加緩和は、逆効 果になるとの見方が日銀内で浮上している」、 「追加緩和はさらなる円安を引き起こし、消費マインドに水を 差す」 と報じ、為替相場では円高が加速する場面が見られた。 しかし、日銀の黒田東彦総裁は 18日、政策会合後の会見で「円安の悪影響への懸念は?」との質問に対し、 「ファンダメンタルズを反映して安定的に推移する限り、経済にマイナスはなることはない」という見解を 示した。続いて黒田氏が強く信頼するブレーン、河合正弘日銀参与(東京大学教授)は 20日、追加緩和につ いて「経済や物価情勢を精査して決めるべきで、円安を懸念して躊躇すべきではない」と発言。そのうえで 「現在の為替レートは日本経済にとってプラスであり、 中長期的には1ドル=120円を超えて円安が進む」 (ブ ルームバーグ)という見通しを示している。 さらに 23日には、安倍首相のブレーンである本田悦郎内閣官房参与が、 「117-1 20円は日本経済にとって 居心地の良い水準」、 「円が一段安になる可能性があっても、必要があれば追加緩和を止めるべきでない」 (ブ ルームバーグ)と述べている。それぞれ河合氏は黒田氏の財務省財務官時代に副財務官、アジア開発銀行総 裁時代に同行の研究所長、そして現在は日銀参与として、長らく黒田氏を支え続けてきた重要なキーパーソ ンだ。かたや本田氏は「安倍首相と河口湖畔の別荘が近所どうしという間柄、古くから安倍氏の良いときも 苦難の時代も支援し続けた」 (財務省幹部)関係にあり、 「首相の信頼度と首相への影響力は群を抜いている」 (同) 。こうした有力ブレーンによる発言を見る限り、少なくとも安倍首相と黒田総裁によるデフレ完全脱却 と日本再生に向けた「円高阻止」の姿勢に揺らぎはない。その他の注目ポイントは以下の通り。 <イエレン FRB議長の講演> 今週は 24 -25日にイエレン米 FRB議長の議会証言が予定されている。前週 18日の 1月 FOMC議事録では利 上げを急がない姿勢が示され、年央以降の利上げ観測が後ズレしており、イエレン証言でも緩和支持(ハト 派)的な発言がドル安要因として注視されている。 しかし、18日公表の FOMC議事録はあくまで、1月 2 7-28日に開催されたものだ。その後、2月 6日には 1 月の雇用統計や平均賃金が改善し、原油相場も反発に転じてきた。前週にはギリシャ支援で合意がなされた ほか、米国での賃金低迷の象徴である小売大手ウォルマートが「従業員の引き留め措置」として、賃金の引 き上げを打ち出している。米国のインフレ低下や安全逃避の環境が微妙に変化しており、イエレン証言が期 待ほどハト派にはならない余地も残されている。 しかも米議会は昨年 11月の中間選挙から、8年ぶりに共和党が上下院を制している。共和党はこれまで FRB の超金融緩和策を批判しており、イエレン議長は「市場との対話によるハト派姿勢」だけでなく、 「議会との 対話に伴う過度なハト派の自制」というバランスのとり方も重要になっている。為替相場ではドルの下支え 要因となりやすい。 <米国の経済指標> 米国市場では今週、住宅を中心に指標が相次ぐ。住宅指標は寒波影響や供給制約などで伸び悩んでおり、 23日の中古住宅販売、24日のケースシラー住宅価格指数、25日の新築住宅販売、27日の中古住宅販売成約 指数などが予想を下回るリスクは排除できない。ただし、26日の耐久財受注は、前月までの悪化の反動回復 が期待される。24日の消費者信頼感指数や 27日のミシガン大学消費者信頼感指数なども、株高やガソリン 下落、賃金復調などによる高水準の維持が焦点になっている。 <ギリシャ支援策> ギリシャに対する金融支援は前週末、4カ月延長で基本合意された。しかし、合意ではギリシャに対し、 23日までに支援期間中に実施する政策措置をユーログループ(ユーロ圏財務相会合)に提出することを義務 付けた。さらにユーログループは 24日、電話会議を通じてこれを承認する可能性があるが、疑問が残る内容 なら、再び会合を召集することになっている。今週もギリシャ不安のぶり返しが、単発的にユーロ安やリス ク回避の円高をもたらす余地をはらむ。しかも、ギリシャ支援はあくまで「つなぎ融資」であり、7月にか けて危機再燃のリスクは残されている。 <世界的な長期金利低下の一服> 先進国を始めとした世界の債券市場では、年初からの安全逃避による国債シフトと長期金利の低下が一服 となってきた( 債券価格は反落) 。為替相場では内外金利差の縮小に歯止めが掛かり、ドル/円やクロス円での 円の戻り売り(外貨の押し目買い)要因となる。年初からはギリシャ懸念や原油急落、新年向け新規資金配 分での債券投資などが金利低下を加速させてきたが、足元ではこうした要因が剥落してきた。ドイツの 10年 物国債金利も日本と並ぶ 0 .3%前後にまで急低下しており、 「理論値の面での金利低下の下限フロア接近」が ユーロの一旦の底入れと自律反発を支援し始めた。 <円ショートの整理と日本株ヘッジ> 年初からのリスク回避相場と円高を受けて、円売り(円ショート)ポジションの整理が進んでいる。シカ ゴ IMMの投機的な円先物ポジションは 17日、-4万 9 091枚のネット・ショートとなり、前週の-5万 5124 枚から 5週連続で円の売り持ちが減少している ( 非商業部門、国際通貨市場) 。12月 2日週の-11万 1160枚 をピークに円の買い戻しが優勢となり、2012年 11月 1 3日週の-3万 0447枚以来の低水準となってきた。円 ロングと円ショートの合計ポジションに占める円ショートの比率も 72.0 %となり、アベノミクス相場が始ま った 2012年 11月以降の下限である 68 -70%に接近してきた。足元では円ショートに拡大の余地が醸成され ており、投機的な円売りの再開が注目されやすい。 しかも日本株市場では 2月以降、外国人投資家による日本株投資が再拡大している。2月以降はドル/ 円の 横這い化により、先行きの円安によるドルベースでの為替差損に備えたヘッジの円売りは付随されていない。 それが IMMポジションなどでの円ショート減少にもつながっている。その分だけ先行き円安・ドル高の機運 が再開されると、日本株の為替ヘッジ需要に伴う円売りが拡大。ヘッジの円売りが円安をもたらし、それが 円安・株高を促すことで円の一段安を助長させるスパイラル再開の余地が残されている。 日本株と円相場については、今週 2 7日前後にも想定される GPI F(年金積立金管理運用独立行政法人)に よる昨年 10 -12月期の運用状況も注目されよう。日本株や外国株・外債の運用比率拡大方針に対して、基準 比率見合いでの投資余地が確認されると、改めて日本の株高と円安(ドルなどの外貨高) の流れが後押しされ やすい。 お客様は、本レポートに表示されている情報をお客様自身のためにのみご利用するものとし、第三者への提供、再 配信を行うこと、独自に加工すること、複写もしくは加工したものを第三者に譲渡または使用させることは出来ません。 情報の内容については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、これらの情報によ って生じたいかなる損害についても、当社および本情報提供者は一切の責任を負いません。本レポートの内容は、 投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっての最 終判断はお客様ご自身でお願いします。 ---------------------------------Japan Economic Pulse Co.,Ltd. ----------------------------------
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