大規模地震対策としての備蓄品

2016 July Special-2
東京海上日動 WINクラブ
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大規模地震対策としての備蓄品
平成 28 年(2016 年)熊本地震では、発災直後から避難所等での水や食糧の不足が報じられました。地震の被害が
大きく広範囲にわたる場合、行政による援助や救援の遅れが予想されるため、数日間は自力で命をつながなくてはなり
ません。本稿では大規模地震対策のうち備蓄品に焦点をあて、企業と家庭の備蓄品について解説します。
Ⅰ.企業における備蓄品
業務時間中に大規模地震が発生した場合、交通網の寸断等により多くの従業員が帰宅困難となり、社内等に数日間待
機を余儀なくされる可能性があります。加えて、もし従業員の閉じ込めや負傷者が発生した場合には、消防等の到着ま
で時間がかかることが想定されるため、自力で救出や救護活動を行う必要があります。電気・水道等のライフラインが
停止し通信状況も悪化する中で上記のような状況に対応するため、企業は水や食糧、トイレ、その他非常用物品等の備
蓄を行う必要があります(図表1)
。例えば東京都では、都内の企業等に対して3日分の備蓄を努力義務としています。
特に重要な備蓄品の一つがトイレです。トイレの不足や衛生上の問題があると、トイレに行く回数が減り体調不良を
引き起こします。熊本地震では、感染症やエコノミークラス症候群の要因の一つとなることも確認されています。テナ
ントとしてビル等に入居している企業は、トイレをはじめとする地震発生時のビル内施設の使用に関して、予めビル管
理者に確認しておくべきでしょう。
また、正確に情報を入手することも震災対応には不可欠です。停電や通信状態の悪化により、テレビやパソコン、ス
マートフォン等が使えなくなり、一般の固定電話は災害時の通信規制やアクセスが集中することにより繋がりにくくな
ることが想定されます。情報収集のためのラジオや、企業によっては代替通信手段として衛星電話等の準備が必要です。
備蓄品をいざという時にすぐに取り出すことができる場所に保管しておくことにも留意すべきです。地震の揺れによ
る被害で保管場所への通路が塞がったり、保管していた棚から備蓄品が落下する等、備蓄品が取り出せなかったり破損
したりする可能性もあります。オフィス内の家具の固定や分散保管等の対策を講じておくことが有効です。
備蓄品の購入はコスト負担の観点から、最も必要なものから数回に分けて購入してもよいでしょう。また、購入後は
消費期限や有効期限の管理も定期的に行いましょう。この他、企業だけで万全の備蓄は難しいため、従業員個人の引き
出し等に、間食等の食料や常備薬、運動靴等を置くことを推奨したり、オフィスの置き菓子サービスの利用、自動販売
機ベンダー業者と大地震発生時に無料で飲料を提供をしてもらう契約を結ぶこと等も有効な対策と言えます。
【図表1:企業における備蓄品の検討例(3日分)
】
備蓄品目
備蓄量
水:ペットボトル入り飲料水
1人あたり1日3リットル、計9リットル
主食:アルファ化米、クラッカー、乾パン、カップ麺
1人あたり1日3食。計9食
その他物資(特に必要性が高いもの)
毛布、簡易トイレ、衛生用品(トイレットペーパー等)
、敷物(ビニールシー
ト等)
、携帯ラジオ、懐中電灯、電池、救急医薬品等
毛布:1人あたり1枚
その他品目:物資ごとに必要量を算定
事業継続等の要素も加味し、企業ごとに検討しておく備蓄品の例:
非常用発電機、燃料(危険物関係法令等により消防庁への許可申請等が必要なことから、保管場所・数量に配慮が必要)
、
工具類、調理機器(携帯用ガスコンロ、鍋等)
、副食(缶詰等)
、ヘルメット、軍手、自転車、地図
等
【出典】東京都「帰宅困難者対策ハンドブック」をもとに弊社作成
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Ⅱ.家庭における備蓄品
地震発生後、自宅の被災等により従業員やその家族の命や健康が守られない状況では、従業員は業務に注力すること
が困難となり、企業にとっては復旧活動や事業継続活動の際の戦力を欠くことになります。このため、企業としては従
業員の各家庭に備蓄品等の地震への備えを促すことも重要です(図表 2)
。家庭での備蓄品は、食料、医薬品、日常品
等の日頃使用しているものを多めに購入し、それに加えて災害時に特に必要となるものを準備するとよいでしょう。
【図表2:家庭における備蓄品の検討例】
参考モデル:夫婦・乳幼児1人・高齢女性1人の4人の家族構成
日頃使用しているもの
被災地の経験から
食品
災害への備え
□水(飲料用、調理用等) 2L・12 本
□簡易トイレ(複数回使用) 約30 回分
□カセットコンロ 1 台
□懐中電灯 2 個
□カセットボンベ 6 本
□乾電池
□常備薬・市販薬 各 1 箱
□手回し充電式等のラジオ
□主食・無洗米 5kg、レトルトご飯 6 個、
乾麺 1 パック、即席麺 3 個
□主菜・缶詰(さばのみそ煮、野菜など) 各 6 缶
□レトルト 9 パック
□缶詰(果物等) 1 缶
□野菜ジュース 9 本
□飲料 500ml・6 本
□チーズ、かまぼこ等 各 1 パック
□菓子類 3 個
□栄養補助食品 3 箱、健康飲料粉末 1 袋
□調味料 各一式
生活用品
□大型ビニール袋・ゴミ袋 各 30 枚、ビニール袋
□救急箱
□携帯電話の予備バッテリー 3 個
(携帯電話の台数分)
□ラップ 1 本
□ラテックス手袋 1 箱・100 枚
□ティッシュペーパー 5 パック入り・5 個
□トイレットペーパー 12 ロール
□雑菌ウエットティッシュ 1 箱・約 100 枚
□使い捨てコンタクトレンズ 1 ヵ月分
□使い捨てカイロ 10 個
□点火棒 1 個
女性用
乳幼児用
□生理用品 約 60 個
□スティックタイプの粉ミルク 約20本
□離乳食 1 週間分以上
□お尻拭き 1 パック
□おむつ 約 70 枚
高齢者用
□おかゆ等のやわらかい食品、高齢者用食品 1 週間分以上
□常備薬(処方箋) 1 ヵ月分
□補聴器用電池 6 個
□入歯洗浄剤 約 30 錠
【出典】東京都「東京防災」をもとに弊社作成
地震発生後、企業が慌てて食料品等を買い占める姿だけは近隣住民に見せるべきではありません。むしろ、常連客や
地域住民のために何ができるかを検討しておくべきでしょう。ある企業では被災直後に近隣住民のために避難場所や食
料の無償提供を行い、地域住民との絆を深めることができたといいます。地域における企業ブランドを守り育てるた
めにも、企業は余裕をもった備蓄を心がけるべきでしょう。
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