白神様が行く 真打 ID:90442

白神様が行く 真打
柴猫侍
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小説の作者、
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︻あらすじ︼
▼藍染との決戦が終わり、現世と尸魂界には平穏が訪れた。▼だが、その平穏も長く
は続かない。▼時計の針は動き出す。月が沈み始めたならば、起こることはただ一つ▼
太陽が昇り始める。▼これは﹃白神様が行く﹄の続編です。前作を読了していない方は、
先にそちらを読んで頂けると幸いです。▼オリジナル要素多めなので、そういったのが
苦手な方はブラウザバック推奨。
目 次 プロローグ
隊花 ││││││││││││
大罪 ││││││││││││
暗躍 ││││││││││││
襲撃 ││││││││││││
tiful Puppet
T h e K i n g M a r k & P i
1
16
51 33
プロローグ
二番隊は〝翁草〟意味するは、﹃何も求めない﹄。
一番隊は〝菊〟。意味するは、﹃真実と潔白﹄。
ており、隊長が羽織る隊長羽織や、副隊長が身につける副官章にも描かれている。
護廷十三隊には、それぞれ特色がある。それは〝隊花〟という形で、各隊で掲げられ
に導き、悪しき魂│││〝虚〟を斬魄刀で斬り、その罪を浄化することを命としている。
死神は、〝護廷十三隊〟なる組織の下、現世と尸魂界を又にかけ迷える魂魄を尸魂界
斬魄刀を振るい、悪しき魂を浄化する存在│││〝死神〟。
我らは愛でる
その意味も知らずに
美しき花
隊花
1
隊花
2
三番隊は〝金盞花〟。意味するは、﹃絶望﹄。
四番隊は〝竜胆〟。意味するは、﹃悲しんでいる貴方を愛する・正義・誠実﹄。
五番隊は〝馬酔木〟。意味するは、﹃犠牲・清純な愛﹄。
六番隊は〝椿〟。意味するは、﹃高潔な理性﹄。
七番隊は〝菖蒲〟。意味するは、﹃勇気﹄。
八番隊は〝極楽鳥花〟。意味するは、﹃全てを手に入れる﹄。
九番隊は〝白罌粟〟。意味するは、﹃忘却﹄。
十番隊は〝水仙〟。意味するは、﹃神秘とエゴイズム﹄。
十一番隊は〝鋸草〟。意味するは、﹃戦い﹄。
十二番隊は〝薊〟。意味するは、﹃復讐・厳格・独立﹄。
十三番隊は〝待雪草〟。意味するは、﹃希望﹄。
これらが魂魄を護る為に斬魄刀を振るう十三の隊が有すそれぞれの花と、掲げる志。
しかし、これら以外にも一つだけ隊花を掲げる部隊が存在する。
その部隊とは、瀞霊廷に居を置く護廷十三隊の総戦力を上回る力を有し、現世・尸魂
界・虚園の安定を保つ〝霊王〟を護るために存在する王族特務と呼ばれる部隊である。
3
その名を﹃零番隊﹄。
掲げる隊花は〝沈丁花〟。意味するは、﹃栄光・不滅・永遠・歓楽﹄
│││そして、﹃優しさ﹄。
***
黒い空間。いや、〝暗い〟空間と言った方が正しいであろう。漆黒が支配する空間に
於いて現在、続けざまに閃光が瞬いており、その度に二人の人影のような物が闇の中に
浮かび上がる。
一人は黒い着物を着ており、白髪の青年。
そしてもう一人は、全身黒づくめの恰好をしている謎の人型の生物。
両者はそれぞれ片手に刀を携え、幾度となく剣戟を繰り広げていた。
死闘。特に光源がある訳でない空間で、刃が交わる一瞬だけ火花が飛び散り、互いの
隊花
4
顔を照らす場所で、両者は戦っていた。
全身黒づくめの男は右手に持っている刀で、鋭い斬撃を繰り出していく。しかし、白
髪の青年も刀で応戦し、特に焦る様子もなく受け流していく。さらに、時折素手で刃を
弾き、反撃に出て、黒づくめを斬り倒そうと試みる。
鋭い一閃。それは黒づくめの胸板辺りを浅く斬りつけた。その瞬間に黒づくめは、刀
を振るう事を止めて、己の後方に一瞬で移動する。
高速歩法﹃瞬歩﹄。
死神の基本戦術である〝斬拳走鬼〟の〝走〟に当たる技術。この〝瞬歩〟が使えれ
ば、一人前の死神として認められるのが、護廷十三隊での通説である。しかし、席官ク
ラスになれば当たり前のように使用出来るようになる代物であり、隊長格の瞬歩は他の
死神達の瞬歩とは次元が違う。
目の前の黒づくめの使用した瞬歩の速度は、その隊長格に匹敵する速度であった。し
かし、白髪の青年にとっては既に見慣れたもの。寧ろ、この位早くなければ青年にとっ
ては瞬歩として捉えられない。
それほどまでに、青年の〝眼〟は慣れていた。
黒づくめは呼吸を一拍置き、手首を九十度回転させて刀の切っ先を地面に向ける。そ
してなんと、そのまま手を放すではないか。
だが、刀は金属音を響かせて地面に落ちるのではなく、吸い込まれるように地面に消
えていった。
﹁││⋮⋮﹃│││││﹄﹂
次の瞬間、漆黒の空間に巨大な刃が無数に地面から伸びる。それらは途端に分裂し始
め、漆黒の空間を桜色の花弁で覆い尽くしていった。
その光景を目の当たりにし、青年も呼吸を整える。
せんおくやしゃひめ
そして、迫りくる億の刃を見据え、刀を構えた。
﹁卍解│││﹃戰憶夜叉姫﹄﹂
***
﹂
みすぼらしい小屋の前で、二人の人物が直立していた。その視線は、小屋の中で繰り
日向ちゃんの調子はどうだい
広げられている激戦に向けられている。
﹁あらあら
?
その視線の先には、紫色のボリュームのある髪の毛を後頭部で纏めている、恰幅のよ
よって後方に向けられた。
しかし二人の視線は、後方から響いてくる元気の良い女性の声と、鳴り響く足音に
!?
5
い女性が居り、右手に大きな重箱が入っている風呂敷を握っていた。
一歩進む度に﹃ドシン﹄という地面が揺れる様な音が辺りに響き、女性の体重の重さ
が窺える。
どうしたんだい、曳舟
ネ
ココまで来るなんてNe
﹂
﹂
その女性を目にした内の、サングラスをかけてレゲエダンサーのような髪の毛をして
オー
いる男が反応した。
!
﹁折角だから、日向ちゃんに昼飯作って来てやったんだよォ∼
﹁Oh
!?
﹂
?
及第点だNe
ネ
﹂
﹁四分五十三秒だ。二枚屋﹂
﹁天示郎
その瞬間に、小屋の中から大きな音が響く。
屋の前に座り込む。
ラッパー口調で話す男に対し、
﹃曳舟﹄と呼ばれた女性は﹃どっこらしょ﹄と言って小
!
!
!
!
その後ろでは、曳舟がパチパチと拍手して、たった今起こったことに賞賛を送ってい
る。
間を口にする。それに対し、
﹃二枚屋﹄と呼ばれた男は、嬉しそうにピースサインを掲げ
﹃天示郎﹄と呼ばれたリーゼントの男は、右手に携えていたストップウォッチを見て時
﹁OK
隊花
6
た。
三人の視線が小屋の扉に向けられた瞬間、扉の前に白髪の青年が現れる。体のあちこ
ちに切り傷を作っており、そこからは血が流れている。
ン
マッ
チ
今回の〝影打〟とのMatchはどうだった
かげうち
﹂
しかし特に気にする様子も無く、左手に持っていた真っ黒の刀を、ラッパー口調の男
チャ
に渡す。
!?
ウ
チャ
ン
ネ
血も滴る良い男ってのは、日向chanのことだNe
チ
﹂
!
﹂
!
│││これが、霊王を護る剣の一角を担う者達なのだ。
る。
いたことによりさらに目を細めた。二枚屋は叩かれた勢いにより、地面に顔面を強打す
二枚屋の言葉に白けた表情をする日向だったが、それを聞いた曳舟が二枚屋の頭を叩
﹁OUCH
ア
﹁どうでもいいから、早く治療してやんな﹂
﹁ヒュ∼
!
その淡々とした様子に、二枚屋は口角を吊り上げて賞賛の言葉を送ろうとする。
額から流れる血を拭いながら答える。
ラッパー口調の男│││﹃二枚屋王悦﹄の問いに、白髪の青年│││﹃天宮城日向﹄は
﹁まあまあです﹂
﹁日向chan
!
7
初めて会った者であれば、そのようなことは信じられないだろうが、これで実力は備
わっているのだから、相手からしてみれば癇に障ること間違いなしだろう。
﹂
そんなことを考える日向の前に、リーゼントの男│││﹃麒麟寺天示郎﹄が、桶を携
﹂
今から湯ぅぶっかけて治療してやる
えて立ちはだかる。
﹁おっしゃ
﹁ちゃんとやったげな
﹂
!
に、何かが蒸発するような音が鳴り響くが、この音こそ傷が癒えている証拠であった。
曳舟は、持参した手拭いを湯に浸し、程よく絞ってから日向の傷に当てる。それと共
だがそれでは全身びしょ濡れになり締まらないので、曳舟は止めたのであった。
単に癒えてしまうのである。
度で傷を癒すことが出来る特別な湯であり、最悪ぶっかけられても日向の全身の傷は簡
それはともかく、今麒麟寺が日向に掛けようとしたのは只の湯ではなく、凄まじい速
盪を起こすのではないかと思う程である。
いないだろうが、叩かれている側からすればかなりの力であり、普通の者であれば脳震
力で叩かれたことにより阻止された。曳舟本人は、余り強い力で叩いているとは思って
桶に入っている湯を日向にぶっかけようとする麒麟寺だったが、それは曳舟に結構な
!!
!
!
﹁いてえな、チクショ││││
隊花
8
﹁あの⋮⋮自分でやりますから﹂
アタシに母ちゃんやらせとくれ
﹂
!
これで終い
﹂
﹁ほいさっ
!!?
﹂
!
***
その三人のみっともない姿は数分続いていた。
は特に反応も見せない。
の場所に広がっていたが、ここ最近ではよく見る光景であるため、遠目で見ている者達
二枚屋や麒麟寺を含めると、男三人が女一人に打ち倒されるという情けない光景がこ
の一撃はかなりのダメージであり、既に背中には大きな紅葉模様が出来上がっていた。
じたばたする。背中の傷も塞ぐために、上衣を脱いで肌を晒していた日向にとって、そ
最後に、完了を告げる張り手を背中に浴び、日向は苦痛に悶えながら地面に寝ころび、
﹁痛っつ
!
全身にあった切り傷は跡形なく消え去っており、元の綺麗な肉体があった。
仕方なしと日向は、そのまま治療を受けている間立ち尽くしていた。数分もすると、
拭いで拭いていく。
日向が自分でやるという旨を伝えるが、曳舟はそれを押しとどめてどんどん傷口を手
﹁いいんだよ、日向ちゃん
!
9
痛みが引いた後、日向は曳舟が作って来てくれた弁当に手を付けていた。中身は、変
哲 も な い お に ぎ り で あ っ た が、日 向 は 頬 が ハ ム ス タ ー の よ う に 膨 ら む ま で 詰 め 込 み、
次々とそれらを胃袋に納めていた。
日向がおにぎりを食べ進める光景を、曳舟は満足そうに眺める。物心つく前に両親が
死んだ青年は、今迄に母親の料理といったものを食べたことが無い。しかし、彼の母親
に対し、曳舟が料理の指導を何回か行ったことがある。
│││男の胃袋を掴めば、心も掴めるとは言ったものだ。
日向の母親がまだ独身であったころ、気になる男性│││つまり、日向の父親に対し
料理を作ると宣言し、それを応援するために曳舟が指導したのも、既に百年以上も前だ。
話は戻るが、母親の手料理が何たるかを知らないこの青年に、曳舟は自分なりの﹃母
す
よ
い
つ
も
通
り
日向ちゃん﹂
の手料理﹄というものを作って食べさせてあげているのだ。
いっ
﹂
﹁ふまひっふほ。ひふもほおひ﹂
旨
﹁美味しいかい
?
そりゃよかったよ
!
!
この、修行をしてから料理を食べるという流れは、最近出来てきたものである。
自分の手料理に喜ぶ日向に、曳舟も喜ぶ。
﹁そうかい
隊花
10
11
元を辿れば、日向を充分に鍛え上げる為の修行を、二枚屋の居る鳳凰殿において行い、
治療の為に麒麟寺の麒麟殿に向かい、曳舟の居る臥豚殿で食事を摂ると言うのが始まり
だった。
しかし、如何せんこの場所・〝霊王内裏殿〟の移動は面倒くさい。いちいち移動する
には長い距離であったため、一度にこうして普段それぞれの殿に居る三人の死神達が、
一つの場所に集まっていたのである。
そしてこの修行の内容というのが、傍聞けばかなりハードなものであった。その内容
とは、二枚屋と兵主部一兵衛という男の合作の斬魄刀・〝影打〟との簡単な試合である
が、それにはあるルールが課されていた。
単純なルールが一つだけあり、五分以内に〝影打〟を倒せれば、課題はクリアという
ものである。
問題なのは、〝影打〟という斬魄刀が何たるかである。
ここで一つ、刀の話をしよう。刀匠は、誰かに依頼されて刀を打ち上げた際に出来の
いい物│││つまり〝真打〟の他に、それまでに打ち上げた刀複数の内、真打の次に良
いものを〝影打〟として手持ちに残すのである。
話は戻り、日向が相対していた〝影打〟という斬魄刀の能力は、斬魄刀の能力の複製。
それは、二枚屋の思うがままに複製することが出来、尸魂界百万年の歴史に於いて存在
した全ての斬魄刀の能力を複製できる。
しかし、傍から聞けばかなり危険な力であるため、能力の起動には二枚屋の霊圧が必
要になるのである。
そんな〝影打〟と戦っていた日向は今日、複製した〝千本桜〟という斬魄刀と戦って
いた。〝影打〟は始解のみならず、卍解までも複製できる。
故に今日の日向は、億を超える刃を掻い潜り、勝利を掴んだと言うことになる。ここ
で一つ注意すべきなのは、例え勝ったとしても﹃五分以内﹄に倒せなければ不合格なの
である。
この〝影打〟との戦闘を考えたのは、兵主部と言う現在の日向の師匠であるが、日向
を瀞霊廷を護れる最強の死神に鍛え上げる為に、この無理難題を押し付けたのであっ
た。
﹄
!
日向が霊王宮にやって来て、早二か月。兵主部の無理難題に慣れたはずの日向であっ
う。
兵主部にそう笑顔で言い放たれ、日向が突然急き込んだのは偶然ではなかっただろ
﹃最強の死神に成るには、全部の斬魄刀に勝てる位に強くなければの
隊花
12
ても、複製された斬魄刀の戦闘というのは堪えるものがあった。
ここまでに、何度斬魄刀を相対したか。
﹃雀蜂﹄、
﹃厳霊丸﹄、
﹃金沙羅﹄、
﹃神鎗﹄、
﹃逆撫﹄、
﹃捩花﹄、
﹃千本桜﹄、
﹃蛇尾丸﹄、
﹃天譴﹄
⋮⋮などなど、本物を所有している者が卍解出来る斬魄刀に関しては、半分ほど戦った
と日向は記憶している。
何度か死にかけたのも、今では良い思い出である。
がら駆け寄ってくる。
﹄と音を立てな
そんなことを思い出しながら、日向は口に米を詰め込みながら新たなおにぎりに手を
付けようとする。
﹄
だがその手は、ある者の声によって遮られた。
﹂
日向ァ∼
尚
おほう
和
﹃おぉ∼い
!
!
食事をしている日向の前から、恰幅の良い坊主頭の男が﹃ドスドス
﹁ん
?
﹁ふぅ∼⋮⋮どうしたんすか、和尚。そんな走って﹂
れを見た日向は、口に詰め込んでいる米を一気に飲み込み、話を聞く体勢に入る。
兵主部は途中まで普通に走り、途中で一気に瞬歩で日向の目の前までやって来る。そ
その者こそ、﹃兵主部一兵衛﹄。この零番隊の頭目にあたる人物である。
!
?
13
﹂
﹁うむ、よく聞いたのう
﹁は
手短に話すぞ
!
おんしの初任務じゃ
!
﹂
!
!
そして、追加情報のように、兵主部は言い放った。
﹂
﹁瀞霊廷で謀反があり、護廷十三隊が壊滅状態に近いらしい
﹂
反を鎮めると同時に、奪取された神器を取り返すのじゃ
!
それを見て兵主部は、うんうんと頷く。
はいられない﹄という意思が垣間見える。
驚愕の情報に、日向は素っ頓狂な声を上げて立ち上がる。真剣な表情から、
﹃こうして
!!?
おんしはそれに加勢し、謀
る曳舟や二枚屋、麒麟寺も興味深そうな視線を兵主部に向ける。
そんな日向に﹃初任務﹄とは、何なのか。日向のみならず、横でおにぎりを食べてい
だ。
向が充分強くなったら、瀞霊廷に返す﹄という約束を結び、こうして修行をしているの
しかし、とある誓約により零番隊に無理やり入れさせられようとし、必死に拒んで﹃日
なっているような立場であり、本来ならばこの霊王宮に居られない立場の者である。
正式にこの零番隊に入ったのではなく、護廷十三隊を休隊し、尚且つ零番隊の補欠に
﹃初任務﹄と言う言葉に、日向は呆気にとられたような声を上げる。そもそも日向は、
?
﹁⋮⋮はあ
隊花
14
﹁さあ
準備せい
おんしを瀞霊廷に送るぞ
﹂
﹂
!
﹂
今こそ、修行の成果を見せるのじゃ
もっと早く言ってくれよ
﹁うわっはっはっは
﹁ったく
!
﹁んなこと言ってる場合か
﹂
!!
!!
!
***
時刻は廻って、深夜の零刻。
日が沈もうと、宴はまだまだ続いてく。
さあ、酒を飲み、戦に酔う準備は出来ているか
出来てなくても、夜はまだまだ続いてく。
さあ、飲み明かそうじゃないか。
この物語の行く末を語りながら。
?
神風の如き瞬歩で去って行く二人を、三人はおにぎりを食べながら見送った。
ていった。
日向は凄まじい速度の瞬歩でこの場から消えていき、それに続いて兵主部の姿も消え
!!
!!
!!
15
The King Mark & Pitiful P
uppet
の決戦から二か月後に当たる。
日向の下に、瀞霊廷への出撃命令が発せられる一週間前。それは、藍染との空座町で
真っ赤な血で飾って見せろ
我が身に振り下し
嗚呼、逞しいその手
襲撃
襲撃
16
***
現世のとある山林の上空。そこには、一つだけ動くのが速い雲が存在していた。傍か
ら見れば、風の流れによるものにしか見えないだろう。それは普通の人間であれば、そ
うとしか捉えられない現象である。
しかし、ある者達によってそれは作為的なものであると理解出来る。
﹂
│││例えば、霊感の強いものであれば
﹁お∼う。首尾はどうだ
ゆ
き りきち
恋次さん⋮⋮じゃなかった⋮阿散井副隊長。こちらは大丈夫です⋮多分﹂
!
この任務に不満か
﹂
?
あ、えっと、そんなんじゃなくて⋮⋮只、ここまで仰々しくやるもんなのかと思い
﹁どうした、理吉
﹁え
?
たものかと歩み寄っていく。
そんな恋次に対し、理吉は少し不満そうな顔を見せる。部下の表情に、恋次はどうし
を取り終えたかのような声を漏らす。
赤い髪を後頭部で纏めている恋次は、ボリボリと頭を掻きながら﹃そうか﹄と、確認
当たる男│││阿散井恋次に対し現状を報告した。
山林の中で他の者達と共に警備をしていた行木理吉は、瞬歩で目の前の現れた上司に
﹁
?
17
?
まして⋮⋮﹂
﹁あァ∼⋮⋮ま、普通はそうだろうなァ。﹃目立たないように警備しろ﹄ってんのに、向
こうは楽器わんさか鳴らしながら運んでるんだ。腑に落ちねえのも仕方ねえよ﹂
愚痴を零すように話す恋次は、早く動いている雲に視線を向ける。その雲の中では、
能楽師や鬼道衆などが列を為して﹃ある物﹄を運んでいる。恋次達│││もとい、六番
隊はその﹃ある物﹄を護衛する為に、現世のこのような場所にまで赴いて散開し、警備
に当たっているのである。
副隊長である恋次のみならず、隊長である朽木白哉も出動していることから、相当重
﹂
?
要な物であるかは確かである。
おういん
そりゃあそうだろうよ。え∼っと⋮⋮何だっけ⋮﹂
﹁でも、﹃王印﹄っていうのはそんなに重要なものなんですかね
﹁あぁ
?
しろがね ぎ ん じ ろ う
美羽の説明に、
﹃あぁ、確かそうだったな﹄と若干理解出来ていない様な表情をしなが
レードマークの女性である。
六 席 で あ る 銀 美羽 が 答 え た。前 六 番 隊 副 隊 長 で あ る 銀 銀次郎 の 娘 で あ り、眼 鏡 が ト
しろがね み は ね
恋次が理吉の問いに何とか答えようと頭を回転させていたが、それよりも早く同隊の
達にその概要が知らされないのも仕方ありません﹂
﹁阿散井副隊長。﹃王印﹄は、中央四十六室の上に存在する王族の秘宝だった筈です。私
襲撃
18
19
らも思い出す。今回の任で、運搬される物の名前こそ教えられているものの、それがど
ういった物であるのかという説明は受けていない。
│││運ばれている物の名は、﹃王印﹄。
美羽の言う通り、中央四十六室という瀞霊廷において絶対的な権限を持っている組織
よりも上に位置する﹃王族﹄の秘宝。その概要は、一般の者達に知られる事などまず無
く、王族以外の者は誰も存在を見たことが無いとされている。その保管地は数十年ごと
に遷移されるのであり、その年が今年に当たり、護衛することになったのが六番隊とい
うことである。
運ばれる物の概要も知らせずに任務に当たらせる辺り、権力のにものを言わせるよう
な腐敗した内政が窺えるが、今に始まったことではない。
そんな組織の一部の、
﹃一応﹄責任ある立場に居る自分に言えることではないので、恋
次は実直に任務に当たっているのであった。
とりあえず、理吉や美羽の居る班の報告を聞き終えた恋次は、全ての班に異常がな
かったという事を把握し、指揮を執っている同隊隊長である白哉の下に瞬歩で駆け寄
る。
白哉はと言うと、王印や鬼道衆、能楽師などが中に居る雲の下で、銀白風花紗という
マフラーのような布を靡かせながら、凛とした佇まいで警備に当たっていた。
﹁隊長。各班、異常ありませんでした﹂
﹁⋮⋮そうか。引き続き、任を継続せよ﹂
恋次は軽く礼をすると、持ち場に戻っていく。
﹁解りました、隊長﹂
そんな恋次を、白哉は横目でちらりと見た後に、再び雲へと視線を戻す。先程と何も
はや
変わらぬように進んでいく雲。だが、その動きに白哉は一瞬違和感を覚えた。
│││⋮⋮風が迅い。
僅かに、肌に触れる風が迅いと感じた。しかし、それはただ単に風速が速いという訳
ではない。
何か、この空間に別の物が現れて空気が押し出されたような感覚。言うなれば、異常
﹂
とも│││。
!
火炎に殺傷能力があったことが窺えた。
とはかけ離れた黒煙が噴き出してくる。さらに、人の悲鳴が聞こえたことから、先程の
突如、火炎のような物体が、雲の中に突っ込んで行く。次の瞬間に、雲の中からは白
﹁││⋮⋮
襲撃
20
﹁⋮⋮﹂
すぐさま斬魄刀の柄に手を掛け、振るう準備をしながら雲の中へと瞬歩で移動し始め
る。後方からは、異変に気づき指揮を執り始めている恋次の姿が見えた。
後ろは任せて大丈夫だと判断し、白哉は襲撃者であろう者の元へと駆けて行く。雲の
﹂
中に入り、白い煙のような壁を突き進んでいくと、そこには外からは窺えない悲惨な状
況が在った。
︵⋮⋮不覚︶
である。
応が出来るとは思えない。そして、だからこそ六番隊がこうして警備に当たっていたの
ない。鬼道衆総帥や副鬼道長ならまだしも、
﹃飾り﹄としてやって来た者達に襲撃者の対
鬼道衆はあくまで瀞霊廷に於ける裏方のような役職の者達であり、戦闘が得意とは限ら
鬼道衆もいるのだから、鬼道の一つや二つで反撃に出ろと考える者も居ると思うが、
いるが、牽制にもならずに反撃を喰らって火達磨になっていく。
何人かの者達が、あちらこちらに駆け巡っている火炎に向かって刺又を振りかざして
りには、突然の襲撃により混乱に陥っている能楽師や鬼道衆の者達が居た。
たった今、白哉の目の前で一人の人物が火炎に包まれて一つの炭に変貌していく。辺
﹁う、うわああああ
!!
21
自分が付いていながらも襲撃を許したことに、白哉は自分に恥じらいを覚えながらも
襲撃者に肉迫し、斬魄刀を一気に振るう。
風を斬る様な一閃に対し、火炎は金属音のような甲高い音を奏でながら空中で留ま
る。その瞬間に火炎は宙に霧散していき、中からは短剣のような物で白哉の斬魄刀を受
け止めている女が現れた。額から後頭部にかけて細長い仮面がある、赤い髪の女。
アランカル
﹁⋮⋮破面か。何用だ﹂
│││ 破 面
存在自体は数百年前から確認されているものの、数か月前より藍染の奪い去っていっ
た崩玉により個体数を大幅に増やした、虚の進化体とも言える存在。
頭部に残った虚の仮面の名残こそ、その証拠。
﹁答える義理などない﹂
の光がバチバチと音を立てながら収束していく。
そんな破面に向かい、白哉は左手の人差し指を破面に向ける。指先からは、白い霊圧
く。
だが、吹き飛ばされていくのではなく破面はバク転をしながら白哉の一閃から逃れてい
白哉は斬魄刀に力を込めると、目の前の破面は力に押されてグンとのけ反っていく。
﹁⋮⋮ならば、斬るのみ﹂
襲撃
22
﹁破道の四・﹃白ら⋮⋮っ
る。
﹂
す。左腕に向かって振り下ろされた一閃を、白哉は旋風の如き瞬歩で下がって回避す
目の前の破面とは違う者が、〝白雷〟を放とうとした白哉に向かって刀を振りかざ
を得なくなった。
だが、その鬼道での一撃は上空から襲いかかってきた何者かの襲撃のより中断せざる
!
しい推測であるのであれば、襲撃者は﹃王印﹄が何たるかを知っており、尚且つこの運
恐らく襲撃者の目的は﹃王印﹄の奪取。王族の秘宝を狙っての犯行である。それが正
た。
被る者の後方に向けると、そこには神輿に向かっている先程の赤髪の破面の姿が見え
そう言って斬魄刀を構える白哉に、黒い外套の男も刀を構える。白哉が視線を外套を
﹁⋮⋮兄が誰であろうと、私が兄達を斬ることに何の些少の躊躇いも無い﹂
﹁⋮⋮﹂
う事は出来ない。
に刀を振りかざした物はフード付きの黒い外套のような物を被っており、その全貌を伺
新たな襲撃者に、白哉は斬魄刀を握り直すことによって気を入れ直す。たった今自分
﹁⋮⋮何者だ﹂
23
搬の事を事前に察知した上での犯行であることが予想される。
つまり、敵に﹃王印﹄が渡った時点で終わりである。
一対二
目の前の外套の者は、明らかに自分の足止め。このまま真面に目の前の敵と戦えば、
﹂
神輿のある場所にいる破面が﹃王印﹄を盗んでいくだろう。
せんぼんざくら
│││ならば。
﹁散れ│││﹃千 本 桜﹄﹂
﹁⋮⋮ふっ﹂
***
ざ び ま る
!!
﹂
﹁咆えろ│││﹃蛇尾丸﹄
その程度の攻撃
!
!!
面は鞭のような武器を振り回している。
いであろう。さらに赤い髪の破面の武器が短剣であったのに対し、こちらの青い髪の破
面は、白哉と戦っていた赤髪の女破面と瓜二つの顔であり、差異と言えば髪が青いくら
白哉が雲の内部で戦っている間、恋次もまた雲の外である破面と戦っていた。その破
﹁ふん
襲撃
24
さらに鞭には電流が奔り、真面に触れれば感電するという代物であった。斬魄刀を解
放した恋次であったが、直接攻撃系であるために如何せん相性が悪い。
ダンビラ状の刀に変貌した蛇尾丸を振るい、敵の鞭を弾くように受け流す。刃で払っ
て斬れない事から、鞭がかなりの硬度がありながらも柔軟性を保っていることが窺え
る。
死神の斬魄刀の強度は、所有者の霊圧に比例する。それは破面の有す斬魄刀も同じこ
とが言える。つまり、目の前の女が有している鞭は間違いなく斬魄刀であり、それなり
﹂
﹂
の霊圧を有す破面であることが解る。
﹁はあ
﹂
﹁へっ⋮⋮喰らうかよ
﹁何
﹁ちっ⋮⋮
﹂
!!
!
﹁舐めんじゃねえぞ
﹂
恋次の猛々しい気迫に押され、破面は後方に下がっていく。
奔るが、恋次は気にもせずに返す太刀で破面に蛇尾丸を振るう。
刃節を伸ばした状態で振るい、光弾を両断した。その瞬間に蛇尾丸の刃からスパークが
破面は鞭に霊圧を込め、雷の光弾を輪っか状にして放ったが、それを恋次は蛇尾丸の
!?
!!
!
25
今の所、戦況は五分五分。油断しない限り負ける事は無い筈である。
ギ
リ
ア
ン
だが、このレベルの相手は平隊士達には務まらない。それは以前戦ったことのある
りながら、限定霊印を押されている恋次を圧倒していた。つまり、逆のことを言えば限
﹃イ│ルフォルト・グランツ﹄という破面からも解る事であった。最下級大虚の破面であ
定霊印を押していなければ恋次が勝てる訳であるのだが、それでも上位席官レベルであ
ることは間違いない。
目の前の破面がどのレベルの大虚であったのかは解らないが、破面という括りである
以上、副隊長である自分が相手すべきと恋次は考えていた。人型とは言え、元は﹃大虚﹄。
﹂
平隊士が勝てないと言うのは明白である。
﹂
﹁阿散井副隊長
﹁恋次さん
!
﹂
﹂
テメーらは、隊長んトコ行って、負傷者なりなんなりの救援に行け
い。さらに言えば、下手に数が多い連携であれば無用な犠牲が増える。
が異常に気付き駆け寄って来るが、相手のレベルを考えると加勢するには実力が伴わな
恋次の後方からは、部下である美羽や理吉が駆け寄ってくる。その他にも多くの隊士
!
﹁此処は俺がやる
!
﹁で⋮ですが
!
襲撃
26
!!
﹂
俺を誰だと思ってやがる
!
ご武運を
﹁俺の事は気にすんな
﹂
﹁くっ⋮はい
﹁おうよ
!
﹂
!
セ
ロ
く瞬き始める
│││虚閃
!
﹁くっ⋮小賢しい
﹂
に向かって一撃を放つ。
だが、それも予測の範囲内。弾かれた蛇尾丸に合せて恋次も一回転し、そのまま破面
丸は大きく横に弾かれる。
虚閃から雲へと向かう隊士達を守る盾となった。しかし虚閃を受け止めた反動で、蛇尾
そして恋次の予想通りに蛇尾丸は、破面の放った虚閃の射線上に入り込み、放たれた
の虚閃の射線上であろう位置に向かって振り下ろされていく。
虚閃を放とうとしている破面に、恋次は蛇尾丸を振るう。刃節の伸びた刀身は、破面
﹁っ⋮⋮させると思うか
﹂
しかし、そんな隊士に行かせまいとする破面が左手を翳して霊圧を収束し始める。紅
き、多くの隊士が雲の中に突入していく。
軽く左手を挙げて、恋次に声を掛けていた美羽に対し応える。九席である美羽に続
!
!
27
!
思わぬ攻撃に、破面は右手の鞭を振るって叩き落とすようにして恋次の一撃を防御す
る。弾かれた蛇尾丸の刃節を元に戻し、元のダンビラ状の刀にして、恋次は再び斬魄刀
を構えた。
破面も手元に戻した鞭を、ビンと張り詰めさせる。
鋭い視線が交錯し、空気がさらに殺伐とする。
しかし、その空気も一瞬で変わった。
恋次の視界にある雲の中から、一つの人影が落ちていくのが見えた。
│││白い羽織。そして、白銀のマフラー。
│││そんな馬鹿な。
﹂
ひ ひ お う ざ び ま る
﹂
恋次が高めていた霊圧が一気に爆発し、周囲にはその際に発生した白煙が靡いてい
!!
様な様子をみせる。
一気に片を付けようとする。恋次の霊圧の上昇に、目の前の破面は目を見開き驚愕した
その光景を目の当たりにした瞬間に、恋次の中の堪忍袋の緒が切れた。霊圧を高め、
瞳の中に映し出された。
自分の目標である男が、血を流しながら地面に向かって重力に任せて落ちていくのが
﹁っ、隊長ぉおおおお
!!!
﹁卍解│││﹃狒々王蛇尾丸﹄
襲撃
28
く。そして次の瞬間に、巨大な蛇の頭部のようなものが白煙の中から顔を覗かせた。蜷
局を巻く狒々王蛇尾丸によって、白煙は竜巻のように上下に回転しながら伸びていき、
ある程度まで伸びた瞬間に大気に溶け込んでいく。
藍染との決戦から二か月経った今日であるが、療養で休んでいた時以外の時間は、
﹃藍
染と戦えるように﹄鍛錬していた。
誰だ
﹂
!
僅か二週間と言えども、卍解の完成度は高まっていた。
│││まずは目の前の奴を⋮⋮
﹁
!?
!!
の者に向かわせた。
﹁てめェが⋮⋮隊長をォォオオ
﹁ふっ⋮⋮﹂
﹂
次の瞬間、恋次は考えるよりも前に斬魄刀の柄を振るい、狒々王蛇尾丸の頭部を目の前
手に持っている刀だけで、恋次は目の前の敵が白哉を斬り伏せたものだと理解した。
の滴る刀を持ちながら宙に立ち尽くしていた。
突如、背後から聞こえた声に恋次は振り向く。そこには黒い外套を着ている者が、血
!
﹁ほう⋮⋮それがお前の卍解か﹂
29
﹂
│││その程度の卍解で。
﹁│││⋮⋮なっ⋮
│││こいつの能力は何だ
│││衝撃を和らげる力なのか
?
│││まずこいつは、破面なのか
?
?
目の前で起こっている事象が何なのか解らずに、恋次の頭は混乱する。
タッチで止めたのであった。
た。しかも、受け止める衝撃は発生せずに、狒々王蛇尾丸自ら停止するような柔らかな
恋次の振るった狒々王蛇尾丸は、なんと外套を着ている者の左手一つで受け止められ
!?
﹁動きが、止まっているぞ﹂
襲撃
30
﹁っ⋮⋮がはっ
﹂
﹂
一瞬にして開いていき、その中へと三人は消えていった。
外套の者の言葉を聞き、青い髪の破面がその場で黒腔を開いた。禍々しい黒い空間が
﹁⋮⋮行くぞ﹂
│││目的の物は手に入った。
吊り上げる。
輝く押印のような物が握られていた。それを見て、外套の者はフードの中で口の両端を
そんな外套の者の所に、二人の破面が寄ってくる。赤い髪の破面の手元には、黄金に
いった白哉の方へと向けられた。
から斬り捨てた瞳を覗かせていた。その視線は、一度恋次の方に向き、次に先に落ちて
意識の遠のく恋次の背後では、一瞬の内に恋次に一太刀加えた外套の者がフードの中
も下の地面に降り注ぐ。
刹那、恋次の脇腹から夥しい量の血が溢れだす。それは血の雨となって何十メートル
!
﹁⋮⋮これさえあれば⋮⋮ククク⋮⋮ハハハハハ
!!
31
襲撃
32
閉じゆく空間の中で、一人の不気味な笑い声が響き、それは外側にいる六番隊の隊士
達にも聞こえ、何とも言えない空虚と身が凍える様な絶望に体を震わしていた。
そんな町の上空を、二人の人物が駆けて行った。身に纏うのは黒い着物│││〝死覇
態は収束した。
死亡した空座町では、それは自然発生した有毒ガスの所為であると報道され、一先ず事
てなくなり、そのまま息絶えていった。藍染が町を蹂躙し、百人を超す一般人が一日に
死神と次元を隔絶した藍染により、普通の人間であると藍染に近寄るだけで存在を保
より多大なる犠牲を被った町でもある。
空座町。重霊地として、魂魄が集まりやすい性質を持ち、二か月前に藍染との戦いに
我が目が光る
夜になれば
暗躍
33
装〟。一人の少年は背に大きな刀を背負い、もう片方の少女は紅い帯を靡かせながら少
年に追随していった。
﹂
付いてくる少女に、少年はどこか納得のいかないような表情を浮かべる。
﹂
﹁なあ⋮⋮茜雫。別にお前も付いてこなくて良かったんだぜ
何で
?
?
る。
一護は茜雫に何故と質問され、﹃そりゃ⋮⋮あれだよ﹄と少し口を濁しながらも応え
べる。
少年│││黒崎一護の言葉に、茜雫と呼ばれた少女は呆気にとられたような顔を浮か
﹁え
?
一護が言いたかったのは、自分のやっているような危ない業務は茜雫にやらせない
い出され、多くの者達の協力もあり普通の生活を送れている。
しかし、思念珠として利用されようとした際に一護ともう一人の死神の手によって救
でもなければ、普通の人間でもないのだ。
死神代行でも何でもなく、元は﹃思念珠﹄と呼ばれる記憶の集合体であり、正規の死神
間でありながらも虚を討伐し、町を守ることを許されている。だが、それに対し茜雫は
一護の言う事はもっともかもしれない。一護は、尸魂界公認の﹃死神代行﹄であり、人
﹁別にお前は死神代行でも何でもねえんだ。空座町の見回りなら、俺だけでも出来る﹂
暗躍
34
で、出来る限り彼女には普通の人間としての幸せな生活を送って欲しいという事であ
る。
﹂
私だって空座町在住の女子なんだから、出来る限り町に貢献し
だが茜雫は、少し複雑そうな表情を一瞬浮かべた後に、軽く一護の脇腹を小突く。
﹁な∼に言ってんのォ
たいっていうのは普通でしょ
﹂
!
ぐにでも無くなっていってしまうだろう。
た為、まだ死神としての力は残っているが、もし霊圧を急激に使う様な事態に陥ればす
るごとに減少していっている。今に至るまで、虚退治の際には何故か茜雫が同行してい
力を代償に放てる技であった。それ故に、〝無月〟を放った一護の死神の力は日を重ね
二か月前。一護は、藍染を倒す為に〝無月〟という技を使った。それは自分の死神の
えた。
しかし、今の一護にしてみればその心を映し出すかのように、くすんでいるように見
広がっており、天気さえよければ緑や紅葉が美しいコントラストを描くことだろう。
茜雫の言葉に、一護は視線を下に広がる大地へと向ける。そこには、穏やかな自然が
﹁⋮
﹁それに⋮⋮一護の死神の力だっていつまで持つか解らないんだから﹂
﹁っ⋮⋮そりゃそうだけどよ⋮⋮﹂
!
!
35
﹂
顔を俯かせる一護に、茜雫は少し悲しげな、だがいつもの快活な笑顔を浮かべた顔で
﹂
!?
!
話を続ける。
んだよ、それ
﹁だから、一護には死神代行の先輩として色々教えてもらわなきゃね
﹁は
!?
﹄って言われたから、オッケーしといたの﹂
?
これを続けると、現世と尸魂界の魂魄のバランスがとれなくなり、やがて世界が崩壊
である。 を完全に滅却してしまう。つまり、輪廻の道に戻すことなく魂魄を崩壊させてしまうの
である﹃石田雨竜﹄という少年が居るのだが、滅却師の使う霊子兵装で行う攻撃は、虚
だが、死神の対極の位置にある滅却師という者達がいる。一護の友人に、その滅却師
と同義なのである。
り、死神が虚を倒すという事は、過った道に進んでしまった魂魄を元の輪廻に戻すこと
死神の持つ斬魄刀は、虚が虚となった後に犯した罪を洗い流すことが出来る。つま
を任せる事に関してはある程度理解出来た。
不良な見た目の一護であるが、頭はそれなりに良いので浦原が茜雫に死神代行の後任
初耳であることに、一護は目を見開き声を荒げる。
いっスか
﹁私、店長に﹃黒崎サンの後任として、茜雫サンに虚退治をしてもらいたんスけど⋮⋮い
暗躍
36
37
してしまうことにもなりかねなく、これが原因で死神と滅却師の間で戦争が起こったこ
ともあった。そしてその生き残りが、石田という事になる。
つまり何なのかと言うと、石田では虚を滅却してしまうため、同じ虚退治といっても
内容が変わってしまうのである。一人の滅却師の虚退治と言えど、塵も積もれば山とな
る。出来るだけ、虚退治は死神に任せる方が得策であろう。
空座町には、〝滅却師〟石田雨竜の他に霊能力者が多々いる。
先ず、一護の通う空座第一高等学校の生徒であり、同級生の井上織姫。彼女もまた、虚
を倒せる能力を持っているが、如何せん戦闘には向いていない。
さらに同級生に茶渡泰虎という大男が居るが、こちらは逆に能力の規模が大きいた
め、町に被害が出るかもしれない。
こういった要素を色々考慮していった結果、一護の後任の虚退治の役目は茜雫に任さ
れることになったのである。
勿論、空座町には担当死神である車谷善之助というアフロ頭の男が居るのであるが、
重霊地であり強力な虚も多々出現する空座町では、少し実力に不安がある。逆に茜雫
は、不完全とは言え破面を単独で倒したこともあるため、油断さえしなければ充分役目
を全うできる実力は備えている。
色々考えた結果、やはり適任は茜雫しか居ないという事になるが、見た目はか弱い少
﹂
女に危険は犯させたくないと言う考えが、一護の脳裏を巡る。
﹁はァ∼⋮⋮でも、暫くの間は俺に任せろよ
﹁オッケーオッケー♪﹂
︵⋮⋮ゼッテー適当に流してやがる⋮⋮︶
間違いであった。
見、向こう側の景色の方が太陽が燦々と照っており、穏やかそうに見えるが、それは大
一護達のいる方の景色とは違、晴れていて尚且つ一面に草が生い茂っている場所。一
の目の前に景色に切れ目が入り、なんと別の空間のような景色が目の前に広がった。
そう言って一護は斬月を三度振るう。横に一回、縦に二回。それによって一護と茜雫
﹁ったく⋮⋮うちの近場で、何やってんだか﹂
一護は、﹃やれやれ﹄とため息を吐きながら、斬魄刀│││〝斬月〟を取り出す。
感というものがそこには存在した。
の山林へと飛び降りる。見た目こそ、何の変哲もない山林であるが、拭いきれない違和
そんな事をしている内に、一護達は目的地に着いた。すぐさま上空から、その目的地
茜雫の軽い返答に、一護は一抹の不安を覚える。
?
共に入っていった二人であるが、茜雫は目の前の凄惨な光景に口元を手で覆った。
﹁嘘⋮⋮﹂
暗躍
38
その光景とは、所々で人間が死んでおり、一面に生い茂っている草には人の血がこび
り付いていた。それだけに留まらず、地面に突き刺さっている旗には火がついている物
もあり、ただ事でないことを如実に示していた。
何があったんだ。
言葉にしないながらも、一護はとんでもないことが起こっているのではないかと、不
安を覚える。
﹂
﹂
しかし、そんな一護の思考も一瞬の内に途切れる。
!
何
﹁⋮⋮
﹁え
?
死神代行・黒崎一護だ
﹂
!
反応も見せずに、寧ろ腰に差している刀の柄に手を掛けようとする。
自分が敵ではない事を示そうとする一護であったが、黒装束の者達はその言葉に何の
﹁俺だ
!
ることは間違いない。しかし、このように囲まれるのは何とも気分が良くない。
そのような者達が、何故ここに居るのか。恐らく、目の前の景色と何らかの関係があ
の者達は、瀞霊廷に存在する組織の一つである﹃隠密機動﹄に所属する者達である。
突如、二人の周りに黒い装束を身に纏った者達が、二人を取り囲むように現れる。そ
﹁⋮⋮隠密機動か⋮⋮﹂
!?
39
その様子に、一護のみならず茜雫の表情も引きつってくる。
これでは、弁明の余地なく襲われるのが目に見えている。
じりじりと詰め寄ってくる隠密機動の者達に対し、一護と茜雫は背中合わせになるだ
けで何の抵抗も見せない。いや、見せようとすれば襲われるのは待ったなしである。
﹂﹂﹂
﹁そこまでだ﹂
﹁﹁﹁
﹁お前は確か⋮⋮夜一さんの⋮⋮
﹂
装束の者達は瞬歩で一瞬の内に二人の周りから消え失せていく。
その青年は、隠密機動の者達を手で抑え、下がるように目くばせする。その瞬間に、黒
態度で歩み寄って来るのが見えた。
茜雫の二人が、声の聞こえた方向に視線を向けると、そこには褐色肌の青年が凛とした
しかし、突如響き渡った声に隠密機動の者達の動きはピタッと止まる。そして一護と
!
?
く別人であると解る。
してくれたある女性を連想させるが、その丁寧な言葉遣いと毅然とした態度を見ると全
艶のある黒紫の髪に、猫のような吊り上った瞳。それは一瞬、自分の修行の手伝いを
朝霧です。以後、お見知りおきを﹂
﹁姉様がお世話になっております。二番隊第三席兼隠密機動第一分隊刑軍所属・四楓院
暗躍
40
朝霧は軽く礼をした後に、一護に視線を合わせる。その際に、一護の後方に存在する
斬り裂かれた結界を見て、苦笑いを浮かべた。
あ⋮ああ、済まねえ。何か起こってるのかと思ってよ⋮⋮﹂
?
いと言うのは吝かでしたね﹂
?
﹂
?
﹁事態は火急である﹂
***
﹁では、お話いたします⋮⋮│││﹂
﹁ああ、頼む﹂
いでしょうか
﹁⋮⋮ええ。内容が内容なので、少しかいつまんで話す事になってしまいますが、よろし
て、視線を一護達の方に戻した。
一護の言葉に、朝霧は顎に手を当てて考えるような素振りを見せる。そして数拍置い
﹁⋮⋮つーことは、ココで何か起こったってことなんだよな
﹂
﹁いえ、確かに死神代行である黒崎殿の町で起こっている出来事を、黒崎殿自身に伝えな
﹁え
﹁⋮⋮結界を張っていたのですが、どうやら斬ってしまったみたいですね﹂
41
一番隊のとある部屋において、隊首会が開かれていた。ずらりと並ぶ隊長達+αだ
が、空いている場所が二つほどある。そこは、前三番隊隊長である市丸ギンが護廷十三
隊を離反して以来埋まっていない三番隊隊長の場所と、数時間前襲撃者によって意識不
明の重傷を負った朽木白哉の六番隊隊長の場所である。
何故隊首会が行われているか。それは勿論、
﹃王印﹄が奪取されたことに起因する。だ
がそれだけに留まらず、隊長の中でも実力者である白哉が意識不明になる程の実力者
が、王印を奪い去ったことも、並んでいる隊長達+αの面持ちが険しくなっている理由
の一つである。
因みに、
﹃+α﹄とは九番隊の隊長代理である宮能まつ梨の事であり、唯一この場で正
式な隊長でないため羽織を羽織ることなく狛村と剣八の間に挟まれるように立ち、がち
がちに緊張しながら立ち尽くしている。
それと同時に、卯ノ花が口を開く。
る。そして元柳斎は、現在までの一通りの話を終えると同時に、卯ノ花に視線を移す。
重々しく響き渡る元柳斎の声に、隊長達が並んでいる部屋の空気が一気に張り詰め
持ち去られた﹂
散井恋次も重傷を負う事態となっておる。さらに、六番隊が護衛していた王印は、賊に
﹁先刻の襲撃により、朽木白哉六番隊隊長が意識不明の重体。及び、同隊副隊長である阿
暗躍
42
﹁⋮⋮負傷者の話によると、襲撃者の数は三名。内、二名は破面であると確認出来ていま
す﹂
﹂
?
﹁これは命令じゃ。王族の秘宝を奪われた今、一刻の猶予すら無い﹂
犯行であることはまだ解らないのである。
確かに犯行に破面が携わったのは事実であるが、それが虚夜宮に屯している破面達の
元柳斎の言葉に、卯ノ花は諌める様な言葉を発する。
﹁些か、早計では
虚夜宮への出撃を命ずる﹂
﹁⋮⋮ならば、すぐにでも虚園に向けて破面の討伐部隊を編制させ、藍染の根城であった
は勿論、元柳斎が無意識に放つ霊圧である。
そしてマユリの言い放った言葉によって、部屋に重圧のようなものが発生する。それ
きない。
藍染に対する絶対的な信者のような物たちがこのような行動を起こしたことは否定で
破面とは藍染が崩玉の力によって産み出した虚の進化体とも言える存在。その中で、
同時に、十一番隊隊長である更木剣八が﹃面白えじゃねえか⋮⋮﹄と口角を吊り上げる。
卯ノ花の賊に関する情報の後に、十二番隊隊長である涅マユリが口を開いた。それと
﹁フン⋮⋮藍染の狂信者の起こした怨念返しかネ﹂
43
﹁あ⋮⋮あのう⋮﹂
元柳斎が言葉を発した後に、弱弱しい声が部屋に響き渡る。そして全員の視線が、一
人の羽織を羽織っていない少女に向けられる。一斉に視線を向けられたことに、まつ梨
は体をビクッと振るわせた。
えっと⋮⋮﹂
﹁どうした。宮能三席﹂
﹁は、はい
では⋮⋮﹂
﹂
?
﹂
?
⋮⋮我々死神ですら、その使用方法を知らない物を破面が狙うという事に些
﹁ふむ⋮⋮それだけか
面達がそれを狙う必要があるのでしょうか
﹁王印は、隊長方にも概要など一切知らされない王族の秘宝という訳なのですが、何故破
そしてまつ梨は、少し体を強張らせながらも発言し始める。
んとか正気に戻る。
一瞬、元柳斎の声に硬直したまつ梨であったが、隣に立っている狛村の激励もありな
﹁は⋮はい
代理を任されているのだ。もっと、胸を張って発言するといい﹂
﹁宮能三席。貴公は、隊長の任を任せられる人格を有していると認められ、九番隊の隊長
!
!
!
か違和感を覚えまして⋮⋮﹂
﹁い、いえ
暗躍
44
まつ梨の言いたい事は、大方周りの者にも理解出来た。護廷十三隊の隊長達でも使用
方法の解らない物を、どうして破面が欲しがるのか。
今回の犯行が、計画的であることからその不信感は一層強まっている。
ことわざに、
﹃猫に小判﹄や﹃豚に真珠﹄のような言葉がある通り、その者にとって価
値の解らない貴重な物を与えても、何の役にも立たない。逆に言えば、今回破面が王印
を盗んでいったという事は、王印が何たるかを知っての行動であるということだ。
しかし、いかにして破面が王印の事を知ったのか。それがまつ梨の疑問であった。
﹂
﹁これだから小娘は⋮⋮﹂
﹁へ⋮⋮
﹁君は覚えていないのかネ
藍染は瀞霊廷に居る時に、大霊書回廊で王鍵について調べ
そしてマユリは、まつ梨に鋭い視線を向けながら喋り始めた。
視線が今度はマユリの方に向かう。
まつ梨の言葉を一通り聞いた直後、マユリが呆れた声で呟いた。その瞬間に、全員の
?
﹂
!
?
﹁い、いいえ
﹂
場所⋮⋮その気になれば、王印についての記述を見つける事など他愛もない。違うかネ
ていたんだヨ。大霊書回廊は、否応なしに尸魂界で起こった全ての事象が書きこまれる
?
45
﹁フン⋮⋮これだから馬鹿は⋮⋮﹂
︵⋮⋮ふえ∼ん⋮⋮︶
マユリに論破された後、手短な言葉で罵倒されたまつ梨は心の中で﹃発言しなきゃ良
かった﹄と思いながら、顔を真っ赤にしていた。
まつ梨に対するマユリの言う事はこうだ。藍染は以前、尸魂界の全ての事象について
記されている場所﹃大霊書回廊﹄に於いて調べものをしていた。その際に王印について
記述を見つけ、それを虚園で部下であった破面達に伝えれば、使用方法を教えることも
出来、今回の犯行の辻褄が合ってくるということだ。
まつ梨の言い分も尤もだが、マユリの言い分も尤もだ。
そして二つの内で、支持される意見はマユリの方である。辻褄も充分であり、白哉を
倒せるほどの実力があるとすれば存命している十刃であると予想出来る。
涅十二番隊隊長は、す
一通り意見が揃ったところで、元柳斎は右手に携えていた杖で床を突き、部屋中に響
き渡る音を鳴らした。
!
これにて、隊首会は閉じる
﹁虚園への向かうのは、五・八・十二番隊隊長・副隊長に命ずる
﹂
ぐさま黒腔の調整に当たり虚園へ向かえる様に準備せよ
!
﹁ハイハイ⋮⋮人使いが荒いネ⋮⋮﹂
暗躍
46
!
元柳斎の言葉で、一斉に隊長達は各々の行動を取り始める。
その中で、八番隊隊長である京楽春水は、四番隊隊長である卯ノ花の下に歩み寄って
いた。
京楽隊長﹂
?
ると同時に、了承したことを示すかのように軽く頷く。
﹁いやァ∼、流石卯ノ花隊長。助かるよォ﹂
?
京楽は満足そうな表情を浮かべながら、部屋を出ていく。その際に、笠を少し深く被
﹁ええ。気を付けて﹂
卯ノ花隊長。お先失礼しますよ﹂
﹁あァ∼⋮⋮確かに、七緒ちゃんには早く伝えないと怒られちゃうなァ∼。それじゃあ、
﹁そんなことよりも、此度の一件を伊勢副隊長に伝えた方がよろしいのでは
﹂
京楽は、卯ノ花に対して端的に要件を伝える。それに対し、卯ノ花は内容を聞き終え
﹁│││⋮⋮成程。その程度であればお安い御用です。解り次第、伝えましょう﹂
﹁いや、そんな難しい事じゃないんだよ。只⋮⋮││﹂
時折この笑顔は凄まじく恐ろしいものに感じるのを、一部の者は知っている。
歩み寄ってきた京楽に対し、卯ノ花はいつも通りの柔らかい笑みを浮かべる。だが、
﹁どうなされたのですか
﹁卯ノ花隊長。ちょっと、折り入って頼みたいことがねェ⋮⋮﹂
47
るようにする。
﹂
︵やれやれ⋮⋮少し、厄介になってきたね⋮⋮︶
***
﹁ひっ⋮⋮
かったのか
﹂
﹁や ⋮⋮ 約 束 が 違 う じ ゃ な い か
お 前 達 を 手 伝 え ば、破 面 以 上 の 力 を く れ る ん じ ゃ な
んでいる者。それは違うことなき、自分達と共に﹃王印﹄を奪取した者であった。
目の前には、血が滴る刀を持っている者が立っていた。黒いフード付きの外套を着こ
突然の事に、赤髪の女破面は腰を抜かしてその場に崩れ落ちる。
た仲間の青色の髪をしている女破面の生首。
赤色の髪をしている女破面の前に、ある物体が転がり落ちる。それは、長年連れ添っ
!?
!?
!!
すぐさま女破面は逃げる為に立ち上がろうとする。しかし、身体が動かない。恐怖で
び散り、赤髪の女破面の頬に紅い斑点を描き出す。
目の前の者は、無言で刀を一振りする。それと同時に、刀にこびり付いていた血が飛
﹁⋮⋮﹂
暗躍
48
動けないのではない。物理的に、何かに縛られているかのような感覚が、女破面の体に
はあった。
﹁⋮⋮﹂
外套の者は、ゆっくりと女破面の下に歩み寄る。
女破面は必死に逃げ出そうとするが、どうしても動かない。それが解ると同時に、絶
﹂
﹂
望と恐怖が心を支配し、無意識のうちに両目からは滝のような涙を流していた。
﹁い⋮⋮嫌ァ⋮⋮
﹁⋮⋮﹂
﹁嫌ぁぁああああああああ
既に王印はある者に手渡した。
│││口封じとしては、格好の場所だ。
する虚園では、すぐにでもあの死体を喰らう為に虚たちが集まり出すだろう。
目の前に転がる二つの死体を一瞥し、外套の者は振り向いて歩き始めた。常闇が支配
﹁⋮⋮ふっ﹂
覆ってしまう様な光景でも、外套の者は黙して刀を振るい、こびり付いた血を落した。
そして、地面には大きな血だまりが出来始めた。普通の感性を持つ者であれば、目を
刹那。女破面の視界は、黒く染まった。
!!!
!
49
暗躍
50
計画は、もう始まっているのだ。
﹃彼女﹄は、自分を包み込む温い水の中で瞼を開ける。それと同時に、紫色の研究用の
│││だけど、一つだけ解った。
│││この光は、私の絶望を照らし出しているようにも思える。
│││私には希望がない。
いう材料を照らし出すための光。
唯一ある光源は、自分を照らし出す淡い光だけであろう。それは、あくまで﹃私﹄と
暗い暗い部屋。
私の正義に反する森羅万象だ
私は
お前は罪とする
何を以て
大罪
51
水のような物が目の中に入ってくるが、どうでもいいことであった。
今すぐにでも、あの机の上に在る物を持ち去らなければ、瀞霊廷が大変なことになる。
それは私の使命であるように思えた。
世話になった記憶はない。だが、私という存在は、死神の為に創られた。ならば、死
神の為にこうして動くことは何の矛盾も無い筈だ。
久し振りの動かす体。多少ぎこちないが、動くことには動く。水中に居る為、多少動
きが制限されるものの、目の前の薄いガラスを砕くには充分な腕力が自分には在る筈
だ。
出来る限りの力で拳を振るい、目の前のガラスを殴りつける。それと同時にガラスに
は罅が入り、水圧によってどんどん罅が広がっていき、一分も経たない内にガラスは
粉々に砕け散った。
﹂
ガラスが床にばらまかれる派手な音と、水がカプセルの中から零れる音が部屋の中に
げほっ
!
響き渡る。
!
私の体を地面に縫い付ける様に降り注ぐだけだ。
に居る様なふわふわとした感覚は取り除けないが、動けないことはない。ただ、重力が
私の口に装着されていた呼吸器を無理やり取り、裸のまま進んでいく。未だ水中の中
﹁げほっ
大罪
52
﹁⋮⋮﹂
ゆっくりと進んでいき、目の前の机の上に置いてある箱に手を伸ばす。厳重そうに保
管されているが、私の霊圧であれば彼とほぼ同じな為、霊圧認証も容易く潜り抜けられ
るだろう。
予想通り、箱を開けようとしても何の警告音も出ずに、蓋を開けることが出来た。そ
こには。黄金に輝く、判子のような物が一つある。
│││これを持ち去ればいいんだ。
│││これで、誰も傷つかなくて済むはずだ。
│││これで、私が傷つくだけで⋮⋮。
水が滴る手の中に﹃それ﹄を収め、深く念じてみる。使い方など解らない。だが、彼
はカプセルの外で、﹃時間と空間を司る力を持つ﹄と言っていた。
ならば、適当に使えば、どこかに行くことが出来るだろう。
***
は光に包まれていった。
冷える身体を温めようと思い、近くに在った布に手を掛ける。その瞬間に、彼女の体
﹁ああ⋮⋮そうだ⋮⋮どこか、遠くに⋮⋮﹂
53
男は、暗い空間の中でただ目を閉じていた。
剣の字 ねえ違う、剣の字
そして見ちゃった見
剣の字が昔考えた改造魂魄
面白そうな話聞いちゃった聞いちゃった
ねえ、違う
!!
だが、次の瞬間に男の耳に騒がしい女の声が響き渡った。
違う
!?
!
﹁キ ハ、キ ハ ハ ハ
ちゃった
!?
!!
!?
キハハハハハ
﹂
宝みたいなの勝手に盗んでもう片方の全裸の女の子に盗まれた光景
奮しちゃった
!!
見ちゃった
興
!?
そんな男の後ろには、〝男にしか見えない〟女が扇情的な格好をして笑い声を上げて
為ここに入れられたという訳である。
つまりこの男は、尸魂界の歴史に残る大罪を犯し、尚且つ殺されない体を持っている
することの出来ない特殊な者達と相場は決まっている。
尸魂界に存在する者でも、ここに居られるのは歴史に残る大罪人であり、尚且つ処刑
その名も、〝無間〟。
い。なぜならば、ここは外とは完全に離されている空間。
騒がしい女の声に対し、男はふと瞼を開いて暗い空間を見渡した。そこには闇しかな
!?
!!
を勝手にパクッて剣の字みたいに牢獄にぶち込まれてる感じの奴の片割れが、王族の秘
!!
﹁⋮⋮成程﹂
大罪
54
・
・
・
・
・
・
もしかして、あの女の子の裸の事
バスト
ウエスト
いた。黒い革帯で目を覆い隠し、高級そうな着物を着ており、大胆に胸をはだけさせて
何が成程なの
全身隈なく嘗め回すように見たい感じ
!?
いる。だが、そんな女には目もくれずに男は立ち上がった。
それとも陰部みたいなイケない所
﹁キハハハハ
ヒップ
﹂
!?
!?
!?
いや、八代目剣八・痣城双也って呼んだ方がいい キハハ
う ろ ざ く ろ
つれないね、剣の字
!?
!?
﹂
﹁どうしたの、剣の字
だった感じ
!?
もしかして、さっきのあの子をストーカーするつもり
!?
タイプ
!?
榴は、ケラケラと笑いながら見つめる。
痣城は、拘束されていた筈の体を自由に動かし、ゆっくり歩いていく。それを雨露柘
る者ならば知っていることだろう。
そんな痣城が、何故ここにいるのか。それは約二百五十年前に存在していた死神であ
を許された男。現剣八が、十一代であるため、三代前の剣八ということになる。
男の名から解る通り、彼は元十一番隊長である。そして﹃八代目剣八﹄を名乗ること
男│││痣城剣八は、自分の斬魄刀である﹃雨露柘榴﹄に対して鬱陶しそうに呟いた。
!?
﹁⋮⋮少し黙れ﹂
﹂
﹁キハ
ハ
!
﹁黙れと言っている、﹃雨露柘榴﹄。私が気になっていることは、﹃王印﹄だ﹂
!!
!
!?
!
55
何
そんなに興味持っちゃった
﹂
あの女の子が持ってった物
!?
それと
!
﹁⋮⋮これから、王印について調べる。その後、脱獄して王印を手に入れる﹂
﹁キハハハハハ
も、本命は女の子の方││││⋮⋮ぎゃん
!?
る。
の為に黒腔の調整をしていた。勿論その仕事は、他の技術開発局の者達も携わってい
技術開発局副局長である阿近は、今回の一件で虚園に向かうことになった隊長格など
になったと思ったら、今度は隊長引き連れて出発かよ⋮⋮﹂
﹁全く⋮⋮隊長が虚園によく調査しに行くようになって、仕事とかがこっちに回るよう
***
まるで、その場の空気に溶け込んでいくようにして。
その後男は、その場に溶け込む様にして消えていった。
られる。
いい加減五月蠅いとばかりに、雨露柘榴は痣城に投げ飛ばされ、無間の壁に叩き付け
!
!!
﹁畏まりました﹂
﹁お∼い、因幡。その部品、持ってきてくれ﹂
大罪
56
57
阿近の指示に、十二番隊第七席兼技術開発局断界研究科課長である因幡影狼佐が、頼
まれた部品を手に取って阿近の下に届ける。眼鏡をかけ、やけに陰気な雰囲気を醸し出
している彼であるが、この十二番隊においては特に目立つことでもないので、誰も口に
はしない。
周りを見ていると、鵯洲やリン、久南などが黒腔を開くためにせっせと調整をしてい
る。元々この黒腔は、マユリがプライベートで虚園に調査に行くために作ったものであ
り、室内に設置してある。その為、普通の死神達が使う穿界門よりは小さいものである
が、合計六人で向かう今回の出撃には支障は無い筈である。
六番隊の隊長格が重傷で戻ってきて、瀞霊廷に動揺が生まれて慌ただしくなったと
思ったら、虚園に出撃するので黒腔を調整しろと言われ、技術開発局は大変慌ただしく
なっていた。普段から、面倒事を押し付けられている阿近であったが、流石に二か月前
の藍染の一件から今日までこうも慌ただしいとなると、流石にため息が出るのを止めら
れない。
第一に、〝転界結柱〟による現世の空間異常の為、十二番隊は総出で現世に赴き、結
界の補強などもしていたのである。
これなら給料を増やしてもらえそうと思う阿近であったが、自分の隊長を考えた瞬間
にそれが無駄な考えだと悟り、黒腔の調整を続ける。
今頃現世では、二番隊が現場の調査をしていることだろう。
﹁はぁ∼⋮⋮こうなってくると、外の空気が吸いたくなってくるなァ∼⋮⋮ったくよ﹂
元々陰気くさいところを好む阿近であるが、流石にずっと室内での作業となると外の
空気が恋しくなってくるのであった。
調整はもうできそうかネ
﹂
そんなことを考えていると、後ろの方からコツコツという足音が複数聞こえてくる。
﹁どうだネ
?
﹁御免ねェ、阿近クン。急いでもらっちゃって﹂
そんな阿近の後ろに、別の者の足音も聞こえてくる。
ける。
た。そのような態度はいつものことであるので、気にしたら負けだと、阿近は作業を続
現れたマユリは、現状の進行具合を尋ねた後に眉間に皺を寄せながらそう吐き捨て
﹁あァ∼、すいません、隊長。頑張って早く終わらせますから﹂
﹁フン⋮⋮鈍いんだヨ、お前達は⋮⋮全く﹂
﹁隊長⋮⋮あと、十数分ってところッスね﹂
?
けてくる。
八番隊の隊長である京楽が最初に話しかけ、次に副官である七緒が心配そうに声を掛
﹁よろしければ、私も手伝いますが⋮⋮﹂
大罪
58
﹁いや、いいっすよ。俺等だけでやった方が早いと思いますから﹂
適材適所。こういったものは専門の者達がやった方が早いと言う風な阿近の口調に、
手伝いを進んで申し出た七緒も素直に下がる。
しかし、後ろからまた別な者が阿近に声を掛けてくる。
と、雛森の申し訳なさそうな顔を見て良しとした。
﹁アンタも今になって隊長になるなんざ、どういう心境の変化だ
﹂
﹁俺もそろそろ、家庭の事を考えようと思ってよ。ちょうどいいと思ってな﹂
?
?
﹁はんっ⋮⋮だったら、奥さんとイチャコラして餓鬼でも作ったらどうですか
﹂
も大人であることを再認識し、子供っぽく苛立つのは大人としてどうなのかと思ったの
訳なさそうにする。年上が年下に対し大人気なくしていることに阿近は苛立つが、自分
得意げに笑みを浮かべる海燕に対し、副官である雛森は苦笑いを浮かべて阿近に申し
いう訳でもなく、互いに見知っている程度の間柄である。
以外にも護廷十三隊に所属している期間は近いという二人であるが、特に仲がいいと
うに顔を歪める。
現五番隊隊長・志波海燕が阿近の肩をポンッと叩く。それに対し、阿近は少しうざそ
﹁俺は出来れば労いの言葉が欲しいんスけどね、志波⋮⋮じゃなかった。もう隊長か﹂
﹁ま、こういうのは確かに十二番隊に任せた方が早ぇだろうしな。頼んだぞ、阿近﹂
59
﹁余計なお世話だ、阿近てめえ⋮⋮﹂
阿近の言葉に、今度は海燕が苛立つように眉毛をピクピクと動かす。それを見て、雛
森が慌てて宥める。
何やかんやで、海燕と妻である都は五十年以上は結婚していることになる。死神の寿
命が長いとはいえ、人間も死神も子供を産むのであれば早い方が良い筈だ。
最近、妻が﹃そろそろ⋮﹄というような雰囲気を醸し出していることもあり、海燕は
かなり痛い所を突かれてしまった。それが隊長になった動機でもあるので、阿近の発言
は意趣返しとしては的確な攻撃であった。
それはともかく、この五・八・十二番隊の隊長・副隊長たちが今回の一件で、虚園に
出撃する戦力である。今回の一件で、破面が関与していることは確かである。ならば、
破面の根城となっている虚夜宮に行くことが、
﹃王印﹄を奪取する為の手がかりになるこ
とは間違いない。
所お願いねェ﹂
﹁まあまあ、志波隊長。阿近クン。僕は、安全面がしっかりしてれば充分だから、そこん
﹁うっす⋮⋮じゃ、そこら辺で休んでてください﹂
京楽は二人を宥める様に間に入る。それらが本気の喧嘩でない事は重々承知してい
﹁じゃ、遠慮なく⋮⋮﹂
大罪
60
るが、このまま海燕が阿近に話しかけていると、十二番隊隊長の堪忍袋の緒が切れると
考えたため、阿近に作業を集中させるべく取り繕った。
現尸魂界で、狂気的ながらも天才的な頭脳を持つマユリは、怒らせると大変なことに
なるのはこの瀞霊廷の隅にまで伝わっている事だろう。只でさえ、まだ調整の作業が済
んでおらずイライラしているマユリを、これ以上怒らせるのは得策ではないだろう
因みにマユリがイライラしているのは、早く虚園にいって研究素材を手に入れたいか
らである。理由はどうであれ、最悪破面を殺す既成事実が出来上がったのだ。もし、〝
うっかり〟殺したり、〝正当防衛〟で破面を殺せれば、正当な理由で自分の研究素材が
手に入り、王印など無くてもマユリにとっては美味しい出撃になる。
そのため、早く行きたくてウズウズし、短気になっているのである。
そんなことはいざ知らず、京楽や海燕達は出されたお茶を手に取って啜っている。
これから起こる事も知らずに。
***
ルキアは、病室でベッドに横になっている白哉の手を握っていた。その顔は大分やつ
﹁兄様⋮⋮﹂
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れており、かなり精神的な疲労を被っていることが窺える。
それはこの義兄だけでなく、自分にとって幼馴染である恋次も重傷で倒れているとい
う理由もある。大事な者が二人も、傷を負って倒れている。ルキアが辛い状況であるの
は、これだけで充分理由になるだろう。
どうか早く意識を取り戻して欲しいと願うルキアであったが、白哉は一向に意識を取
り戻さない。
ルキアがじっと瞼を閉じて白哉の手を握っていると、後方に存在する扉が開く音が響
いた。
﹁あら⋮⋮いらっしゃっていたのですね﹂
振り返ってみると、そこに立っていたのは四番隊隊長である卯ノ花烈であった。いつ
﹁⋮⋮卯ノ花隊長⋮﹂
も通りの柔らかな笑みを浮かべて、白哉の寝ているベッドまで歩み寄ってくる。
﹁⋮あの⋮⋮兄様は⋮⋮﹂
﹁怪我はほぼ治っています⋮⋮ですが、意識が戻るのはまだ先かと⋮⋮﹂
していないかのような態度をとっていた義兄であるが、それが全て自分に対する想いの
卯ノ花の言葉に、ルキアは辛そうな表情を浮かべる。昔は、自分に対し何の感情も有
﹁⋮⋮そう、ですか⋮⋮﹂
大罪
62
裏夏至であることを知っている今、こうして何も出来ずに回復を祈ることしか出来ない
自分を、ルキアは情けなく思っていた。
そんなルキアを見て、卯ノ花は少し考え込む。数拍置いて、卯ノ花は突然話を切り出
した。
﹂
?
﹂
!?
﹂
!
例えに引き出されたが、勿論一護達がそのようなことをするとは考えることが出来な
驚愕の事実に、ルキアは目を見開く。話す卯ノ花も、どこか複雑そうな面持ちである。
﹁なっ⋮⋮
が攻撃したかのような⋮⋮﹂
うですね⋮⋮例えるならば、黒崎さんや仮面の軍勢の方々のような、内側に虚を有す者
﹁確かに、虚の霊圧も若干残っていましたが、割合を見る限り死神寄りのものです⋮⋮そ
﹁し⋮死神⋮⋮
神に近い霊圧でした﹂
﹁まだ詳しくは検査していないので確定ではありませんが、私が触れた限り限りなく死
卯ノ花の真剣な表情に、ルキアの表情も自然と険しくなる。
﹁実は京楽隊長に頼まれていることなのですが、朽木隊長の傷に残る残留霊圧の事です﹂
﹁な⋮なんでしょうか
﹁朽木さん⋮⋮今回の襲撃に関し、貴方に伝えておくべきことがあります﹂
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い。
そして、今回の一件がかなり複雑なものであると感じ取り始めた。内に虚を有す者に
よる襲撃。
﹁⋮⋮余り考えても仕方のないことですね。貴方は、今日は帰って休むことをお勧めし
ます。見る限り、かなり憔悴している様子です⋮⋮﹂
│││なあ、日向。お前ならどうする
頭を過ったのは、未だ安否も解らない想い人であった。
?
ルキアは死覇装の襟もとを右手で握った。
刻が夕方へと変わったのだろう。美しい夕焼けに、どこか感傷の様なもの覚えながら、
部屋を出ると、橙色の光が窓から差し込んでいる事に気付いた。気づかぬうちに、時
部屋を出ていった。
そして眠っている白哉に、
﹃また明日来ます﹄と小さく呟いてから、卯ノ花に一礼して
に、ルキアもやつれた顔で笑みを浮かべて、椅子から立ち上がる。
考え込むルキアを見かねた卯ノ花が、再び笑みを浮かべて帰るように促す。その言葉
﹁は⋮⋮はい。有難うございました⋮⋮﹂
大罪
64