上級価格理論II 第13回 2011年後期 中村さやか 今日やること 4. 不完備情報の動学ゲーム • 4.2 シグナリング・ゲーム – 4.2.B 就職市場のシグナリング 続き Spence (1973)のモデル プレーヤー: 労働者と2つの企業 1. 自然が労働者の生産能力ηを決める ηは確率qでH(高い)、確率1-qでL(低い) 2. 労働者は自分の能力を知って、教育水準e≧0を選ぶ 3. 2企業は労働者の教育水準を知ったのち(しかし労働者の 能力は知らずに)同時に労働者に対して賃金を提示する 4. 労働者はこれら2企業が提示した賃金のうち高い方を受け 入れ、もしそれらが等しければコインを投げて、就職先を決 める 労働者の受け入れる賃金をωと書く 利得 労働者の利得 = ω - c(η, e) c(η, e)=能力がηの労働者が教育水準eを得るのにかかる費用 労働者を雇う企業の利得 = y(η, e) - ω y(η, e)=能力がηで教育水準がeの労働者の生産性 労働者をやとわない企業の利得 = 0 ここで、任意のηと eに対して ye(η, e) ≧0 と仮定 つまり、教育は労働生産性を上げるか、もしくは変化させない 主要な仮定①: single crossing condition ∀e, ce(L, e) > ce(H, e) • いかなる教育水準におい ても、能力の高い労働者 より能力の低い労働者の ほうが教育の限界費用が 大きい ⇒ 教育水準をe1からe2へ上 昇させる費用を補償する ために必要な賃金上昇 分は、能力の高い労働者 より能力の低い労働者の ほうが大きい ω 無差別曲線は高々 1回しか交差しない IL IH ωL ωH ω1 0 e1 e2 e 主要な仮定②:企業の期待利得はゼロ 仮定: • 2企業の間のベルトラン競争によって企業の期待利得はゼロ • eという教育水準を観察した後で、両企業は労働者の能力が Hである確率について同じ信念 μ(H|e) を持つ (均衡経路上の信念は当然同じになるが、均衡経路上にな い e の選択を観察した後の信念も同じと仮定) ⇒ μ(H|e) を所与として、両企業とも教育水準 e の労働者の期 待生産性に等しい賃金を提示する ω(e)=μ(H|e)y(H,e)+[1-μ(H|e)]y(L,e) 3種類の完全ベイジアン均衡 一括均衡: • どちらのタイプの労働者も同じ教育水準を選ぶ 分離均衡: • 労働者がタイプによって異なる教育水準を選ぶ 混成均衡: • 片方のタイプの労働者は確率1で同じ教育水準を選ぶが、も う一方のタイプの労働者は一括均衡を作る戦略と分離均衡 を作る戦略の間でランダマイズする • タイプLがランダマイズする混成均衡について講義で解説す るが、タイプHがランダマイズする混成均衡もある どれについても数多くの均衡が存在する 完備情報の場合 注: 以降、図ではye(η, e)>0 だが、ye(η, e)=0でも議論 の本質には影響なし 労働者の能力が労働者の私 ω 的情報ではなく、全プレー ヤーの共有知識になっている と仮定 ⇒ 企業はω(e)=y(η,e)を提示 能力ηの労働者の ⇒能力がηの労働者は次式を 無差別曲線 最大化するようにeを選択: y(η,e) - c(η,e) この解をe*(η)と書き、 この努 力水準の下での賃金を ω*(η) ω*(η)=y[η, e*(η)] と定義 ω=y(η, e) 0 e*(η) e もし不完備情報の下でω(e)=y(η,e) だったら ω 能力Lの労働者が 能力Hのふりをする IH 誘因がない場合 (妬みのないケース) ω IL 能力Lの労働者が 能力Hのふりをする 誘因がある場合 IH (妬みのあるケース) IL ω*(H) ω*(H) ω=y(H, e) ω=y(L, e) ω*(L) ω*(L) 0 e*(L) e*(H) e 0 ω=y(H, e) ω=y(L, e) e*(L) e*(H) e 妬みのないケースの分離均衡における 労働者の最適反応 能力Lの労働者が ω 能力Hのふりをする IH 誘因がないケース IL ω*(H) ω=y(H, e) ω=y(L, e) このような企業の戦略(赤 の二重点線)を所与として、 タイプHの労働者にとって e*(H)、タイプLの労働者に とってe*(L) が、それぞれ最 適反応になっているか? ⇒なっている ω*(L) 0 ω(e) = y(L,e) if e<e*(H) = y(H,e) if e≧e*(H) e*(L) e*(H) e 妬みのあるケースでの分離均衡 タイプHの労働者は教育水準 e*(H) を、タイプLの労働者は 教育水準 e*(L) を選ぶような 分離均衡は維持できない ←タイプLの労働者もe*(H)を 選ぶ(タイプHのふりをする) ほうが効用水準が高い ω 能力Lの労働者が 能力Hのふりをする 誘因がある場合 IL ω*(H) IH ⇒分離均衡ではタイプHの労 働者はes以上の教育水準を 選ばないと分離均衡が維持 できない ω=y(H, e) ω=y(L, e) ω*(L) 0 e*(L) e*(H) es e 妬みのあるケースの分離均衡における 企業の信念と戦略 • タイプHの労働者は教育水準 es を、タイプLの労働者は 教育水準 e*(L) を選ぶ ⇒ 均衡経路上での企業の信念は μ(H| es)=1, μ(H| e*(L))=0 ⇒ 均衡経路上で企業が提示する賃金は ω(es)=y(H, es), ω(e*(L))=ω*(L) • 均衡経路上にない教育水準に対する信念と戦略は? 仮定: μ(H| e)= 1 if e≧es =0 if e<es ω(e) = y(H, e) if e≧es = y(L, e) if e<es 妬みのあるケースの分離均衡における 労働者の最適反応 ω(e) = y(L,e) if e<es = y(H,e) if e≧es このような企業の戦略(赤の 二重点線)を所与として、タイ プHの労働者が es を、タイプ Lの労働者がe*(L) を選ぶの は、それぞれ最適反応になっ ているか? ⇒なっている ω IH ω=y(H, e) IL ω*(L) ω=y(L, e) 0 e*(L) es e 妬みのあるケースの分離均衡において タイプHが選ぶ教育水準は一意ではない 均衡においてタイプHが es ではなく、es より大きくe’より 小さい教育水準e’’を選び、 企業の信念と戦略は μ(H| e)= 1 if e≧e’’ =0 if e<e’’ ω(e) = y(H,e) if e≧e’’ = y(L,e) if e<e’’ となる分離均衡が存在 ω IH ω=y(H, e) ω*(L) ω=y(L, e) 0 e*(L) IL e’’ es e’ e 妬みのあるケースで分離均衡が成立する 別の信念 e*(H)からesの範囲の努力 水準についてμ(H| e)が0で はなく小さい正の値で、企業 の戦略が赤の二重点線では なく青の二重線であっても、 タイプHの労働者はesを、タ イプLの労働者はe*(L)を選 ぶ分離均衡が成立 ω IH ω=y(H, e) ω*(L) 0 IL ω=y(L, e) e*(L) e*(H) es e タイプLがランダマイズする混成均衡での 均衡経路上の企業の信念 • タイプHの労働者は eh を選び、タイプLの労働者は確率 πでeh、確率(1-π)でe*(L) を選ぶ ⇒ ベイズの法則より、 P(H|eh)=P(H, eh)/P(eh)=P(eh|H)P(H)/P(eh) P(eh|H)=[タイプHがehを選ぶ確率]=1 P(eh|L)=[タイプLがehを選ぶ確率]=π P(H)=q, P(L)=1-q P(eh)=P(H)P(eh|H)+P(L)P(eh|L)=q+(1-q)π ⇒ 均衡経路上での企業の信念は μ(H|eh)=q/[q+(1-q)π], μ(H|e*(L))=0 ⇒ μ(H|eh)>q, π→0 μ(H|eh)→1, π→1 μ(H|eh)→q タイプLがランダマイズする混成均衡での 均衡経路上の企業の戦略 ⇒ 均衡経路上での企業の信念は μ(H|eh)=q/[q+(1-q)π], μ(H|e*(L))=0 ⇒ 均衡経路上で企業が提示する賃金は ω(e*(L))=ω*(L) ω(eh)=μ(H|eh)y(H,e)+[1-μ(H|eh)]y(L,e) ={q/[q+(1-q)π]}y(H,eh)+{(1-q)π/[q+(1-q)π]}y(L,eh) (1) タイプLの労働者にとってehとe*(L)は無差別 ⇒ ω*(L)-c(L, e*(L))=ω(eh)-c(L, eh) (2) ⇒ 均衡においては(1)(2)が満たされていなければならない ⇒ ehが与えられればπの値は一意に決まる タイプLがランダマイズする混成均衡での 企業の信念と戦略 仮定: μ(H|e)=0 if e<eh =r if e≧eh ⇒企業はe≧ehを観察すると、確率rでタイプH、確率1-rでタイプ Lだと解釈 ω(e)= y(L,e) if e<eh = ry(H,e)+(1-r)y(L,e) if e≧eh rは均衡経路での信念μ(H|eh)と一致していなければならない ⇒ r= μ(H|eh)= q/[q+(1-q)π] ⇒ ehを所与とすると、πの値が一意に決まるので、rの値も一意 に決まる 混成均衡での労働者の最適反応 IL ω ω(e)= y(L,e) if e<eh = ry(H,e)+(1-r)y(L,e) if e≧eh IH ω(e)=ry(H,e)+(1-r)y(L,e) ωh ω=y(L, e) ω*(L) 0 e*(L) eh e このような企業の戦略(赤 の二重点線)を所与とする と、タイプLの最適反応は e*(L)とeh両方であり、タイプ Hの最適反応はehである
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