無機化学I 4章 ファンデルワールス結合とファンデルワール ス結晶(分子性結晶) ●無機化学Iでは、主に 1) ファンデルワールス力、 2) 17族元素(ハロゲン元素 F, Cl, Br, I, At)、 3) 18族元素(He, Ne, Ar, Kr, Xe, Rn), 4) ドライアイスCO2を勉強 4-1) ファンデルワールス力 復習と目的 ●水素、酸素、炭酸ガスなどの分子は、共有結合 で形成された分子である。共有結合を、ハサミな どを用いて切断して、バラバラの原子にすることは 不可能である。 ●ところが、これらの分子の集合体でできた固体、 たとえばCO2の固体であるドライアイスを布巾でつ つんで、硬い部分に打ち付けて粉砕したり、ドライ バーなどで削りとることは簡単である(ファンデル ワールス力)。 ●黒鉛(graphite、石墨)は、ベンゼン環が蜂の巣状に結合 した共有結合板状平面が何枚も積み重なった層状化合物 である。鋭利なカミソリを用いて、黒鉛の層に沿って層を切 り離すこと(へき開性) 、また、セロテープで表面一枚をは がし取り黒鉛一枚の物質(グラフェン)を得ることは簡単で あるが、共有結合平面を切断するのは極めて難しい。 ●採掘地は、スリランカ、メキシコ、カナダ、北朝鮮、マダカ スカル、アメリカなど。硬筆に使われ石墨の和名を持つ。 a黒鉛 b黒鉛 ●分子の集合体である分子性結晶(ファンデルワールス結晶、例: ドライアイス、ワックス)において、個々の分子は、大きな結合エネ ルギーをもつ共有結合やイオン結合で形成されているが、分子間 をつなぐ結合は人の指でも十分切断できるほど弱い結合である。こ の弱い結合をファンデルワールス結合とよび、ファンデルワールス 力が主要なものである。 ●分散効果(全ての物質間)+誘起効果(双極子物質と無極性物 質)+配向効果(双極子物質間) ●結晶を形成するのに必要なエネルギーの目安は格子エネル ギー(=成分分子やイオンに分離するに必要なエネルギー、昇華 熱)である。ファンデルワールス結晶の格子エネルギーは数10 kJ mol1であり、イオン結晶(この結合も人の手で切断可能なものが 多い)の格子エネルギー250~1000 kJ mol1に比べてかなり小さ い(表4.1)。 ●ファンデルワールス相互作用のなかで最も重要な分散効果(ロン ドンの分散力として知られる)の起因となる瞬間的電場とそれによる 分子間相互作用エネルギーの大きさを示す。また、分子が充填して 結晶を形成するときの最密構造と各原子のファンデルワールス原 子半径を述べる。 表4.1 代表的な4種の結晶と例 結晶の種類 分子性結晶 イオン結晶 共有結合結晶 金属 代表 Ar O2 NaCl CaF2 C(ダイヤモンド) Si Hg Na Cu Ti W 凝集エネルギー / kJ/mol 7.74 7.1 764.0 1680 711 446 65 107 336 468 859 融点 /C 189.4 219.1 803 1360 3572 1410 38.8 97.8 1083 1725 3400 4.1.1) 分散効果 ●瞬間的電場Eにより誘起分極p (~aE、a:分極率)が生じる ことにより、分子間相互作用エネルギーが発生する。 ●無極性の原子や分子にも働き、分子や原子が接近して電子雲があ る程度重なり合うと強く現れる。 極性分子:正電荷の中心と負電荷の中心が一致しない分 子。双極子能率(dipole moment)を持つ HCl, H2O 非極性分子:正電荷の中心と負電荷の中心が一致する分 子 He, H2, CO2。双極子能率ゼロ 分子内での全双極性モーメント(分子内での双極子モーメントの総和) はゼロでも、局所的にモーメントが強くなっているような分子も極性分 子に含める場合がある Hd+ - Cld- 双極子能率アリ Od- = Cd+ = Od双極子能率ナシ 距離r離れた無極性2分子(○)に生じる誘起分極pを矢印 で示す。電場Eがかかったときの分子の電子雲の歪みやす さの目安である分極率aは、物質の誘電率と4.1式で関係 する。 r 電場E 図4.2 無極性2分子に生じる誘起分極pは矢印で示される p = anE/40 n:単位体積中の分子数 NA/cm3, 0 (4.1) :真空の誘電率 ●1920年以前は、無極性分子間に働く力が何に由来するのかが不 明であった。重力によるものではないかとの見解もあった。この力は 1923年のロンドン(F. London, 1900-1954)による提案(ロンドンの分 散力)により明確になり、すべての原子や分子の間に働く弱い力の 根源と見なされた。2分子間に働くロンドン力は弱いが、それらが集 まると、有機物の結晶、ローソク、さらに生体組織まで、柔軟性をも つ集合体や固体を形成する力になる。 ロンドンの分散力は短距離で初めて働く力であり1/r7の 関数である(クーロン力は遠方でも働く1/r2の関数)。ポテ ンシャルエネルギーは1/r6の関数である(4.5式 0: 分子 の固有振動数(第1イオン化電位))。 a 0 3 a h 0 U 2 6 6 4 (40 ) r r 2 2 (4.5) F. London(ドイツ→イギリス→アメリカ) ハイトラーとともに分子間力の起源を解明、超流動 ●表4.2にハロゲン、リン、硫黄、希ガスの融点・ 沸点を示す。分子量が大きく、電子雲が広がって 分極率が大きい右側の分子ほど分子間相互作用 エネルギーが大きく、融点、沸点が高い。 表4.2 ハロゲン分子、リン、硫黄の沸点、 希ガスの融点・沸点(すべて無極性分子) F2 Cl2 Br2 I2 P4 白燐(黄燐)[猛毒] 融点/C -223 -101 -7.3 113.7 44.1 沸点/C -187 -34.1 58.8 184.5 280 He 融点/C 沸点/C Ne -248.6 -268.9 -246.0 Ar -189.4 -185.9 Kr -157.2 -153.2 紫燐[無毒] 硫黄 S8 589.5 119.0 444.6 Xe Rn -111.9 -71 -108.1 -62 参考 電場の大きさ ●真空中における2つの単位電荷(–e:e = 1.610–19 C, 距離3 Åとする)間のポテンシャルエネルギーは 7.7×10-19 Jであり、この値はCO2 (直径3.24 Å)が接し たときの2分子のポテンシャルエネルギー(1.410-20 J) より大きい。水中の2電子間では10-20 Jであり、帯電し ていない分子間のポテンシャルエネルギーは水中の 電子間のポテンシャルエネルギーにほぼ等しい。 ●つまり、これらの電場の大きさは約108 Vcm1 つま り E~1 VÅ1で非常に大きい電場である。ちなみに、 水素原子中のボーア(r = 0.529 Å)の第1軌道の電子に は60 VÅ1の電場がかかっており(図2.6)、分散力を誘 起する瞬間的電場は原子内部の電場の数十分の一 である。 1923年 ロンドンの提案 ●無極性分子の平均電場は0であるが、ロンドン は、正電荷から負電荷に向かう力線をもつ電場が 瞬間的に存在するはずで、電荷q の 電場はq/r2 であるなら、双極子能率p(qrの次元)の双極子 の電場はqr/r3 = p/r3であろう(r:双極子からの距 離)と推論した。 ●すると電場中の他の分子の分極ポテンシャル はEp = –ap2/2r6 となり、ロンドン力の引力は1/r7 の関数となる。分散効果は4.5式(分極率の2乗、 距離の6乗に比例)で示された。 ●次に、双極子モーメントをもつ分子による効果 を考察する。 4-2)18族元素:希ガス元素(rare gas, noble gas, inert gas) 原子間相互作用はファンデルワールス 力, He, Ne, Kr, Xe, Rn ヘリウム He(helium) H2の次に軽い気体・・気球 (1929年就航 H2を利用 ツッペリン号)・・ヒンデ ンブルグ号1937年の爆発(水素爆発)・・He(燃え ない、爆発しない)気球 ●沸点 4K, -269 ℃、液体He ●放射性元素のa崩壊で生成・・米国、中国(回 収していない) 0.0005% 戦略物質の一つ カンザス州、オクラホマ州、テキサス州西部の地 域のガス田 ●超伝導体の冷却材(MRI,リニアモーターカー)、 深海へ潜る際の呼吸ガス(ドナルドダック現象、 ヘリウムと酸素の混合ガスであるヘリオックス、 ヘリウム、酸素、窒素を混合したトライミックス) ●太陽の核融合 H2→He ネオン(Ne, neon), アルゴン(Ar, argone) ●液体空気の分溜 Ne(0.002%), Ar(0.9%) ●Ne 放電で赤く発光・・ネオンサイン ●Ar 化学的不活性 ボンベに貯蔵し化学実験に利用 不燃性で蛍光灯、白熱灯に封入 アーク溶接(電気溶接:原子スケールでの溶接)の 雰囲気ガス クリプトン(Kr, krypton): F-Kr-F, 水、キノンと抱摂 化合物 キセノン(Xe, xenon): キセノンランプ、麻酔 ラドン(Rn, radon) : 放射性、放射能泉(Rn→Po) 4-3)17族元素:ハロゲン元素(halogen) 分子間 相互作用はファンデルワールス力 F, Cl, Br, I, At 非金属:フッ素、塩素、臭素、ヨウ素 非金属と金属の中間か?・・・アスタチン(不明元素) ●フッ素(F2, F, fluorine) 淡黄緑色の気体、反応性 極めて高い、猛毒、電気陰性度最大の元素 フッ化水素酸HF:腐食性強い、 ガラスのエッチング フロン:炭素との化合物、沸点が高くエアコン冷媒 ・・・・オゾン層の破壊(オゾンホール) テフロン:フッ素樹脂 耐熱性、耐薬品性、摩擦係数 低い ●塩素(Cl2, Cl, chlorine) 黄緑色の気体、反応性極 めて高い、猛毒、不快臭、殺菌(プール、浄水場)、 漂白作用(さらし粉 Ca(ClO)2→ CaCl(ClO)2•H2O ) Cl2ガスを用いずに、次亜塩素酸ナトリウムNaClOを 使う(次亜塩素酸ソーダとも呼ばれる。強アルカリ性 である。希釈された水溶液はアンチホルミンとも呼ば れる) 2NaOH + Cl2 → NaCl + NaClO + H2O 特異な臭気(いわゆるプールの臭いや漂白剤の臭い と言われる臭い)を有し、酸化作用、漂白作用、殺菌 作用がある。 ●家庭用の製品の「混ぜるな危険」などの注意書 きにもあるように、漂白剤や殺菌剤といった次亜塩 素酸ナトリウム水溶液を塩酸などの強酸性物質(ト イレ用の洗剤など)と混合すると、黄緑色の有毒な 塩素ガスが発生する。浴室で洗剤をまぜたことによ る死者も出ているので取り扱いには注意が必要で ある。 NaClO + 2HCl → NaCl + H2O + Cl2 ●有機塩素化合物 DDT, BHC, PCB, ダイオキシン ・・・人体に有害 ●ポリ塩化ビニル(塩ビ) ●臭素(Br2, Br, bromine) 赤褐色、重い液体(全元素 中HgとBr2のみ液体)・・・取扱に注意(ドラフト使用) ピペットから落ちる・・蒸発しやすい・・赤色気体・・吸引 しないこと、猛毒、刺激臭、性欲減、皮膚に臭素が触 れると腐食を引き起こす 臭化銀(AgBr) 銀板写真の原料 ●ヨウ素(I2, I, iodine)黒紫色固体、高い昇華性、毒物 AgI: 人工雨、でんぷんの検出:ヨウ素でんぷん反応、 ●消毒薬:ヨウ素のアルコール溶液がヨドチンキ、ヨウ 素とヨウ化カリウムのグリセリン溶液がルゴール液 ●ヨウ素は体内で甲状腺ホルモンを合成する。人体に摂取、 吸収され、ヨウ素は血液中から甲状腺に集まり、蓄積される。 ●チェルノブイリ原子力発電所の事故では、核分裂生成物 の 131I (放射性同位体) が多量に放出されたが、これが甲状 腺に蓄積したため、住民に甲状腺ガンが多発した。 ●放射能汚染が起きた場合、放射性でないヨウ素の大量摂 取により、あらかじめ甲状腺をヨウ素で飽和させる防護策が 必要である。 ●そのため、日本は国民保護法に基づく国民の保護に関す る基本指針により、核攻撃等の武力攻撃が発生した場合に 武力攻撃事態等対策本部長又は都道府県知事が、安定ヨ ウ素剤を服用する時期を指示することになっている。 さらし粉 CaCl(ClO)•H2O ●塩素(Cl2, Cl, chlorine) 黄緑色の気体、反応性極 めて高い、猛毒、不快臭、殺菌(プール、浄水場)、 漂白作用(さらし粉 Ca(ClO)2→ CaCl(ClO)•H2O ) Ca(ClO)2は溶液中での状態 またはさらし粉から CaCl2を除いた高度さらし粉の主成分 Cl2ガスを用いずに、次亜塩素酸ナトリウムNaClOを 使う(次亜塩素酸ソーダとも呼ばれる。強アルカリ性 である。希釈された水溶液はアンチホルミンとも呼ば れる) 2NaOH + Cl2 → NaCl + NaClO + H2O 特異な臭気(いわゆるプールの臭いや漂白剤の臭い と言われる臭い)を有し、酸化作用、漂白作用、殺菌 作用がある。 4.1.2) 双極子がつくる電場 図4.5の双極子モーメントp (= ed)が点Oにつくる 静電ポテン シャルは以下のようになる。 e 1 1 V (r ) ( ) 40 r ' r e r’ O r d -e 図 4.5 双 極 子 ed が 作 る 静電ポテンシャル d<<rより、 1 r' 1 (r d cos ) d sin 2 2 (r 2 2rd cos d 2 ) 1 / 2 2 1 2rd cos d 2 1 / 2 1 d cos (1 ) (1 ) 2 r r r r ed cos p cos V (r ) 2 40 r 40 r 2 したがって、O点での電場の強さE 二乗平均] r方向の成分 [(r成分)+(y成分)の V 2 p cos r 40 r 3 これに垂直方向( y方向)の成分 (dy rd ) V 1 V p sin y r 40 r 3 従って、O点に誘起される電場は4.8式である。 2 p cos 2 p sin 2 1 / 2 p(1 3 cos 2 )1 / 2 E {( ) ( ) } 3 3 3 40 r 40 r 40 r (4.8) 4.1.3) 誘起効果 双極子edから距離x離れた位置Oにある誘起双極子を考え る(図4.6) O x ed 図4.6 双極子edが作る誘起双極子 2 1 点Oでの電場Eに存在する分子に生じる誘起双極子モーメ ントはpi = ex = aEで、モーメントpiを生じるに必要な仕事は x 0 eEdx x 0 2 e x 2 2 e x 1 2 dx aE a 2a 2 生じた双極子モーメントのもつポテンシャルエネルギーは– piE = –aE2で、それらの和に4.8式を代入する。 全エネルギー: 1 2 1 p(1 3 cos 2 )1 / 2 2 ap 2 2 aE a{ } ( 1 3 cos ) 3 2 6 2 2 40 r 2(40 ) r 分子の向きが無秩序であると <cos2 > = 1/3 U 12 ap 2 6 (40 ) r 2 (4.9) なので、 となり、 同種2分子間の相互作用エネルギーは 4.10式で表される(分極率の1乗、双極子モーメントの2乗、 距離の6乗に比例)。 2ap ap U 2 6 6 (40 ) r r 2 2 (4.10) 4.1.4) 配向効果 双極子モーメントが熱的にゆらいでいるときの分極率 aは, p2/3kBT となるので、4.10式に代入すると、1対 の双極子同士の相互作用エネルギーは4.11式(双極子 モーメントの4乗、温度の1乗、距離の6乗に比例)と 4 4 なる。 2 p p U 3 (40 ) k BTr 2 6 Tr 6 (4.11) 4.1.5) ファンデルワールス相互作用 ファンデルワールス力による相互作用エネルギーは、 4.5式の分散効果+4.10式の誘起効果+4.11式の配向 効果(この項のみが温度依存を示す)の加算で示される。 表4.4で、2分子間ポテンシャルを比較し(20C)、その特徴 をまとめる。 表4.4 分子 He Xe CO HCl HBr HI NH3 H2O 2分子間ポテンシャルエネルギー(-Ur6 J m6/10-79)*) p/1030 C m a/1040 Kg1 S4 A2 h0/ eV 配向効果 誘起効果 分散効果 0 0.22 24.5 0 0 1.2 0 4.45 11.5 0 0 221 0.40 2.21 14.3 0.0034 0.057 67.8 3.44 2.93 13.7 18.6 5.60 114 2.60 3.98 13.3 6.1 4.34 204 1.27 6.01 12 0.35 1.57 420 5.0 2.46 16 83 10 94 6.14 1.65 18 189 10.0 48 *単位)pについて: 1D(デバイ) = 1018 esu cm = 3.361030 C(クーロン) m; aについ て:Kg1 S4 A2 = C m/ V m1を40=1.1131010 m3 Kg1 S4 A2で割ると、単位はm3 1) NH3とH2O以外は、分散効果が相互作用エネルギーの大部分を占 めている。2) 永久双極子モーメントをもつハロゲン化水素において、 ヨウ素のように分極率の大きなイオンを含むHIでの分散効果は(配向 +誘起)効果の200倍程度、臭素の場合は20倍程である。HClでも、( 配向+誘起)効果より分散効果のほうが5倍程度大きい。3) NH3にお いてもまだ分散効果の方が配向効果より少し大きい。4) H2O分子で の配向効果は分散効果の4倍程度である。このように、瞬間的電場 によって引き起こされる引力(分散効果)は、分子性化合物の凝集に 大きな寄与をしている。 4.4) 結晶中での分子の充填 六方最密構造と立方最密構造 ●同じ大きさの球(パチンコ玉を考えるとよい)を箱に詰めることをする。 ●第1層に隙間なく詰めた状態は、1個の玉の周りに6個が配位した六方最密 平面格子となる。その格子点をAとする。隙間にBとCの2種類がある(図4.7)。 ●2層目の1個のパチンコ玉がB点を占めたとすると、他のすべての玉も位置 Bを占めることにより2層目の六方最密平面格子(B層とする)ができる。もし、 2層目に置く最初の1個がC点なら、C点のみを占めた六方最密平面格子(C 層とする)ができる。 六方最密平面格子 A C B B層 A層 この段階で下層からの積層様式はABまたはACの2種類が可能 である。ABの場合、3層目はAまたはCの格子点を占める六方最密 平面格子が可能となる。このように箱に満杯になるまでパチンコ玉を 詰めた場合、どのような詰め方でも個数は同じであるが、その積層方 向の周期性は多彩である(図4.7下図)。 そのうち、 ●最も単純なABABAB••の2層周期の積層様式が六方最密構造 (hexagonal close packing, hcp) ●ABCABC•••の3周期が立方最密構造(cubic close packing, ccp) ともに, 1個の玉は同じ層に属する6個、上下の層に属すそれぞれ3 個の玉に接しているので、配位数(coordination number)は12である。 配位数12の構造はイオン結晶では見られず、単体原子または分子 が密に詰まり安定化する系で見られる。 A B C A B A C C C A A B B B C A C A B B C A C A C A B B C A B 図4.7 六方最密平面格子の積層様式と六方最密構造( )と 立方最密構造( )。ABABA( ), ABCAB( )の他に ABABC, ABACA, ABACBなど16種の充填様式を示す。 ●立方最密構造は面心立方格子(face centered cubic, fcc)(図4.8 左)に相当し、不活性ガス(Ne, Ar, Kr, Xe)、貴金属類(Au, Ag, Cu, Pt)、C60(図4.8右)などがとる。 ●球の半径をrとするとA層中のA1の球はB層に属する球のうち面 心に位置する3個の球と接しているので、球の半径は4r=2a (a は格子定数)を満たす。単位格子中に4個の球があるので、球の占 有率(充填率)は (4/3)(2a/4)34/a3 = 2/6 = 0.741である。 つまり、箱いっぱいのパチンコ玉を熔かすと、箱の約3/4弱を金属 が占めることになる。 図4.8 立方最密格子(面心立方格子)とC60単結晶 B A C a A 4.5) ファンデルワールス半径 ● 分子性結晶の結晶構造解析より原子のファンデルワールス半径が与え られる。 ●多くの論文や教科書においてポーリングのファンデルワールス半径が使 用されてきた。しかしポーリングの値は、有意な分子間原子接触を過大に見 積もることが明らかで、ポーリングの値よりも一般に少し小さなファンデル ワールス半径を用いる(ボンデイ(A. Bondi)、表4.6)。 ●表中のLi, Na, K, Ga, In, Sn の値は非結合状態の金属での値で、これに相 当するのは他に、Tl: 1.96, Pb: 2.02, Ni: 1.63, Cu: 1.4, Zn: 1.39, Pd: 1.63, Ag: 1.72, Cd: 1.58, Pt: 1.75, Au: 1.66, Hg: 1.55, U: 1.86 Åがある。また、パラフィン 中のH、パラフィン中のCやCH3に、各々、1.35, 1.90, 2.0 Åがある。 表4.6ファンデルワールス半径[2](Å, 上はポーリング、下はボンデイ) H 1.20 1.20 Li ― 1.82 Na ― 2.27 K ― 2.75 Mg ― 1.73 Ga ― 1.87 In ― 1.93 C ― 1.70 Si ― 2.10 Ge ― 2.1 Sn ― 2.17 N 1.5 1.55 P 1.9 1.80 As 2.0 1.85 Sb 2.2 O 1.40 1.52 S 1.85 1.80 Se 2.00 1.90 Te 2.2 2.06 F 1.35 1.47 Cl 1.80 1.75 Br 1.95 1.85 I 2.15 1.98 He 1.50 1.40 Ne 1.60 1.54 Ar 1.92 1.88 Kr 1.97 2.02 Xe 2.17 2.16 4.6) ドライアイス(dry ice) ●ドライアイスは常温常圧環境下では液体とならず、直接 気体に昇華する。比重: 1.56、昇華温度: -79℃(at 1気圧) 冷却能力は同容積の氷の約3.3倍となる。 ◎製造方法 ●気体の二酸化炭素(炭酸ガス)を、約130気圧前後に加 圧して液化させ、その液体の二酸化炭素を急速に大気中 に放出。その際に気化熱が奪われることにより自身の温 度が凝固点を下回ることを利用して粉末状の固体にした 上で、それを成形して製品にする。 ●この方法で製造した場合、ドライアイスは細かい粉体 (パウダースノー(粉雪)状態)で圧縮しても固めることがで きない。したがって、市販されるブロック状のドライアイスは 固めるために数パーセントの水が添加してある。 水にドライアイス→白煙(水の微少固体) 寒剤 有機溶媒とドライアイスとの混合物は寒剤とすること ができる。たとえば、エチルアルコールとドライアイス とでは-72℃、エチルエーテルとドライアイスとでは -77℃の低温が得られる 液体窒素 77 K, −196 ℃ 4章の② 水素結合、酸・塩基 (Hydrogen-bond, Acid, Base) 復習と目的 ●水素結合および擬似的水素結合を紹介した後で、水素結合の延長 であるプロトンの移動(ブレンステッドの酸•塩基)について述べる。酸・ 塩基の相互作用は化学における大きな分野である。平衡定数は化学 反応の平衡状態を物質の存在比で表したもの。通例Kで表される。 aA + bB + cC + dD ···· ⇌ aAB + bCD + gEF····· という反応では、 a b [ AB] [CD] [ EF ] ・・・ K [A]a [B] b [C ]c [ D]d・・・ で平衡定数が算出できる。平衡定数はギブス自由エネルギーGとの間 で次の式を満たす(Rは気体定数 J/K mol)を示す。 DG = RT lnK ●プロトン移動以外の酸・塩基の概念(ルイスの酸・塩基、硬い柔らか い酸・塩基)を紹介する。ルイスの酸・塩基は有機化学、無機錯塩化学 においてきわめて有用な概念である。関連して配位結合を説明する。 4.8) 水素結合 4.8.1) 水素 ●水素原子は、その1s軌道の電子の数により原子(ファンデルワール ス、イオン)半径が、H+(proton)で10-5 Å、H• (hydrogen)で1.2 Å、 H- (hydride)で1.54~2.08 Åと、大きく変化する。 ●ヒドリド(H-)のイオン半径は、Br-1.82 Å)、Se2- (1.84 Å)、Te2- (2.07 Å)に匹敵するほど大きい。これは、1s軌道に入った2個の電子 間のクーロン反発エネルギーによるもので、1つのサイトを2個の電子 が占めることによる電子相関(electron correlation, on-site Coulomb 反発)の効果の最も顕著なものである。2個の電子間の クーロン反発が電子雲を広げている。NaH, CaH2, NaBH4 以下に水素原子、分子の特徴を記す。 水素原子 H• + e H- + 16.4 kcal 電子親和力 EA = 16.4 kcal mol-1 = 0.75 eV mol-1 H• + 312 kcal H+ + e イオン化エネルギー Ip = 312 kcal mol-1 = 13.6 eV mol-1 4.8.2) 水素結合(hydrogen bond)の性質 図4.1 有機カルボン酸の水素結合 ●水素結合の形成が可能ならば、分子の詰め込みは悪くとも、水 素結合エネルギーで利得のある、異方性をもった結晶構造を取る。 ●OH基やNH2基をもつ分子は多くの水素結合が形成されるよう に結晶化し易く、方向性を持つことから多形が見られる。また強い 水素結合を含む結晶は融点の上昇、溶解性や揮発性の減少など が見られる。 ●水素結合による安定化の原因は、静電力、電荷移動力、分散 力などの総合による。 ●蟻酸(formic acid)や酢酸(acetic acid)の2量体、蓚酸(oxalic acid)(a, b型)、水中およびベンゼンに溶解した安息香酸 (benzoic acid)、分子内水素結合を示すサリチル酸(salicilic acid)を図4.1に示す。 ●表4.1に各種水素結合のエネルギーを示す。これらは10~30 kJ mol-1 (水で33 kJ mol-1)で、ファンデルワールスエネルギーと 大差はない。 O H 図4.1 有機カルボン酸の水素結合 O H O C H H C O H O formic acid 蟻酸 H3C C C O O O CH 3 C CH O COOH 3 a c e ty ls a lic ilic a c id m e th y ls a lic ila te サ リ チ ル 酸 メ チ ル ア セ チ ル サ リ チ ル 酸 O H O O H O C CH3 acetic acid 酢酸 サリチル酸をそのまま飲むと胃穿孔を起こし腹膜炎 の原因となる。酸性を弱め胃を通過できるようにした ものがアセチルサリチル酸(アスピリン)である。 表4.1 幾つかの水素結合の結合エネルギー(kJ mol-1) 水素 結合 OH・・O NH・・O OH・・N 物質 昇華熱 メタノール シクロヘキサノール フェノール アセトアミド -カプロラクタム ジメチルグリオキシム 41.8 60.6 67.7 56.8 83.2 97.0 ファンデルワールス 水素結合エネル エネルギー ギー 17.1 24.7 36.4 24.2 48.9 18.8 31.8 12.5 53.9 29.3 53.1 22.0 カプロラクタムはナイロン6の原料。その世界需要の約6割が 繊維用途、約4割が樹脂用途となる。繊維用途はほぼ同率で衣 料用繊維、タイヤコード、カーペット用となる。樹脂用途は約3/4 がエンジニアリングプラスチック用、1/4がフィルム用となる。 CH3CONH2 アセトアミド( acetoamide) 4.9) プロトン移動と酸・塩基[2] 4.9.1) ブレンシュテッド-ローリーの酸・塩基 酸はH+を供与する分子(HAA-+H+)、塩基はH+を受容する分子 (B+H+BH+)と定義された(1923年)。水中では、H2Oが塩基また は酸として働く。 溶液中 HA + B ⇌ A- + BH+ (4.2) 酸 HA + H2O ⇌ H3O+ + A- (4.3) [H 3 O ][ A ] Ka ' [HA][H 2 O] より , [H 3O ][A ] K a K a '[H 2O] [HA] pKa=-logKa 塩基 B + H2O ⇌ HB+ + OH- [BH ][OH ] [HB ][OH ] より , K b K b '[H 2 O] Kb ' [B][H 2 O] pKb=-logKb 共役酸・塩基で pKa + pKb = 14.0 である。 (4.4) (4.5) [B] (4.6) (4.7) 4.9.2) 内在的酸性度 ●上記酸性度は水溶液中で溶媒和された状態の値 である。気相での絶対的な値は、反応AH ⇌ A-+H+ の反応熱DH0で示され、DH0(内在的酸性度, intrinsic acidity)は以下の方法で求められる。 ●AH⇌A-+H+を3つの反応に分解し、各エネルギー の総和は4.8式。 1) AH A• + H• D(AH):結合解離エネルギー 2) H• H+ + e- Ip(H•) :水素原子のイオン化エ ネルギー(Ionization energy) 3) A• + e- A- -EA(A•):EA(A•)はA•の電子親 和力(Electron affinity) DH0 = D(AH) + Ip(H•) - EA(A•) (6.8) ●DH0 や [D(AH) - EA(A•)]が小さいほど強い酸 ●しかし、D(AH)やEA(A•)の実測は困難で、解決策 として既知の酸(A1H, 具体的にはHCl)と比較し、 DH0 や [D(AH) - EA(A•)]を求める。 A1H + A2- ⇌ A1- + A2Hの反応熱は DH120 = DH0(A1H) - DH0(A2H) = D(A1H)-D(A2H) -EA(A1•) + EA(A2•) (4.9) で、HClのD(HCl) = 432 kJ mol1, EA(Cl•) = 348 kJ mol1, DH0(HCl) = 1396 kJ mol1を用い、 ●DH120を実測して、 [D(AH)-EA(A•)]やDH0を求める。 結果を表4.2に示す。 表4.2 内在的酸性度 酸 NH3 H2O CH3CN HF CH3COCH3 ピロール フルオレン H2S D(AH)-EA(A•) 376 318 251 240 235 192 164 161 ピロール(pyrrole) DH0 1690 1632 1563 1552 1547 1503 1478 1473 酸 C6H5OH CH3COOH C6H5COOH HCl CH2(CN)2 HBr CF3CO2H HI フルオレン (fluorene) D(AH)-EA(A•) 151 145 103 84 71 42 38 3 DH0 1464 1458 1415 1396 1406 1351 1350 1315 表4.2 内在的酸性度の特徴 1) ハロゲン化水素の気相での酸性度はHI>HBr>HCl>HFで、ハロ ゲンの電気引性度の順I< Br < Cl < Fの逆である。X-のH+をひきつ けるクーロン引力の順はF- > Cl- > Br- > I-であり、H+はその逆の 順でHXから離れやすいことになる。 2) アセトンはHFより少し強い酸である。また、表中の有機酸の強さ は、CF3CO2H > C6H5CO2H > CH3CO2H > C6H5OH > ピロール > アセトン > アセトニトリルの順である。 3) 注目すべきことに、CH2(CN)2 (malononitrile、マロノニトリル)は HClと同程度の強い酸である。マロノニトリルとNaHの反応(4.10式) で生じる陰イオンにおいて、マイナス電荷が2つのシアノ基にまで非 局在し、陰イオンが安定化することに起因する。一対の非結合電子 対(:で示す)をもつ3配位の炭素陰イオンをカルバニオン(カルボアニ オン、carbanion)という。 (4.10) 4.10) ルイスの酸-塩基 ●ブレンシュテッドの酸・塩基の提案と同じ1923年に、八偶説(オク テット則)を提唱したルイスが提案 ●酸は共有結合を形成するため他の物質から一対の電子対を奪い (電子対受容体、ルイス酸)、塩基(電子対供与体、ルイス塩基)は電 子対を与え、ともに希ガス型電子配置をとる。 ●H+を含まないものまで酸・塩基の概念を拡張。有機合成化学におけ るルイスの酸・塩基触媒として発展。 ●BF3 + :NR3 ⇌ F3B:NR3 を八偶説に沿って図示(図4.5)。 F F B BF3 F R N F R R :NR3 F R F B N R R F3B:NR3 図4.5 :最外殻電子、B3個、N5個、 F7個、R1個、 :正常共有原子価 結合、 :配位共有原子価結合 G. N. Lewis, W. H. Nernst, A. Langmuirの業績、人柄、相克をWikipedia で調べると、幅広く、先端的な研究を行ったLewisがなぜノーベル賞を取 れなかったのか、興味ある事例が記されている。 Gilbert Newton Lewis (1875 –1946, age71) American physical chemist known for 1)the discovery of the covalent bond (Lewis dot structures & cubical atom model), 2) purification of heavy water (D2O), 3) reformulation of chemical thermodynamics in a mathematically rigorous manner (Fugacity), 4) theory of Lewis acids and bases, 5) photochemical experiments (photon, triplet). 1) Chemical Bond In 1916(age 41), he published a paper on chemical bonding "The Atom and the Molecule” in which he formulated the idea of covalent bond, consisting of a shared pair of electrons, and he defined the term odd molecule (free radical) when an electron is not shared. He included Lewis dot structures as well as the cubical atom model. These ideas on chemical bonding were expanded upon by Irving Langmuir and became the inspiration for the studies on the nature of the chemical bond by Linus Pauling. 2-1) D2O & Nobel Prize In 1913 (age 38), he was elected to the National Academy of Sciences. He resigned in 1934(age 59), refusing to state the cause for his resignation. His decision to resign may have been sparked by resentment over the award of the 1934 Nobel Prize for chemistry to his student, Harold Urey, for the discovery of deuterium (D2), a prize Lewis almost certainly felt he should have shared for his work on purification and characterization of heavy water ( Lewis was the first to produce a pure sample of D2O in 1933 (age 58)). 2-2) By accelerating deuterons (deuterium nuclei) in Ernest O. Lawrence‘s cyclotron, Lewis was able to study many of the properties of atomic nuclei. During the 1930s, he was mentor to Glenn T. Seaborg, who was retained for post-doctoral work as Lewis’ personal research assistant. Seaborg went on to win the 1951 Nobel Prize in Chemistry for the "discoveries in the chemistry of the transuranium elements” 93Np-102No, 106Sg (seaborgium) 4) Lewis Acid & Base In 1923(age 48), he formulated the electron-pair theory of acid-base reactions. In the so-called Lewis theory of acids and bases, a "Lewis acid" is an electron-pair acceptor and a "Lewis base" is an electronpair donor. Great Concept In Chemistry: Lewis acid&base, Brønsted acid&base, Pearson’s HSAB 6) He was a professor of chemistry at MIT (age 36), and the University of California, Berkeley (age 37). Although he never won the award he was nominated for a Nobel Prize 35 times. Why he was not able to get-----????? See Wikipedia encyclopedia ● G. N. Lewis vs. V. Nernst (1920, Nobel Prize in chemistry, thermodynamics) ● His student Harold Urey (1934 Nobel Prize in chemistry, the discovery of deuterium D2) ● His posdoc Glenn T. Seaborg(1951 Nobel Prize in Chemistry, discovery of the transuranium elements) ● Irving Langmuir (1932 Nobel Prize in Chemistry, Discoveries and investigations in surface chemistry ) 6) Death & Mystery In 1946, a graduate student found Lewis's lifeless body under a laboratory workbench at Berkeley. Lewis had been working on an experiment with liquid hydrogen cyanide (HCN), and deadly fumes from a broken line had leaked into the laboratory. However, some believe that it may have been a suicide. ●Why ? ●Why he did not win the Nobel Award even was nominated so many times? See Wikipedia encyclopedia(G. N. Lewis vs. V. Nernst, His student ) If Lewis's death was indeed a suicide, a possible explanation was depression brought on by a lunch with Irving Langmuir. Langmuir and Lewis had a long rivalry, dating back to Langmuir's extensions of Lewis's theory of the chemical bond. Langmuir had been awarded the 1932 Nobel Prize in chemistry for his work on surface chemistry, while Lewis had not received the Prize despite having been nominated 35 times. On the day of Lewis's death, Langmuir and Lewis had met for lunch at Berkeley, a meeting that Michael Kasha recalled only years later. Associates reported that Lewis came back from lunch in a dark mood, played a morose game of bridge with some colleagues, then went back to work in his lab. An hour later, he was found dead. Langmuir's papers at the Library of Congress confirm that he had been on the Berkeley campus that day to receive an honorary degree. 第四遷移元素 アクチノイド系21元素(89Ac~111Rg) Ac Th Pa U Np Pu Am Cm Bk Cf Es Fm 名 アクチニウム トリウム プロトアクチ ニウム ウラン ネプツニウム プルトニウム アメリシウム キュリウム バークリウム キャリフォル ニウム アインスタイ ニウム フェルミウム actinium thorium protactinium uranium neptunium plutonium americium curium berkelium californium einsteinium fermium Md No Lr Rf Db Sg Bh Hs Mt Ds Rg 名 メンデレビウ ム ノーベリウム ローレンシウ ム ラザホージウ ム ドブニウム シーボーギウ ム ボーリウム ハッシウム マイトネリウ ム ダームスタチ ウム レントゲニウ ム mendelevium nobelium lawrencium rutherfordium dubnium seaborgium bohrium hassium meitnerium darmstadtium roentgenium Bの電子(sp3電子 3電子) Fの電子(2s22p5電子 7電子) F F BF3 B F 共有結合 2 分 子 構 造 か ら は sp 混成 Fの周りには8電子・・満杯 Bの周りには赤3個+青3個・・・6電子・・2個分余裕あり F F F B BF3 (F上の緑の線が 関与していない電子 を除く) R N B R R :NR3 R N R F3B:NR3 配位結合 4.11 配位結合(Coordinate bond) ●結合を形成する2つの原子の一方からのみ結合電子が分 子軌道に提供される化学結合である。電子対供与体(ルイ ス塩基)となる原子から電子対受容体(ルイス酸)となる原 子へと、電子対が供給されてできる化学結合であるから、ル イス酸とルイス塩基との結合でもある。 ●したがって、プロトン化で生成するオキソニウムイオン(3 つの化学結合をもった酸素のカチオンの総称(最も単純なオ キソニウムイオンはヒドロニウムイオン H3O+ 。より正確には オニウムイオン、図4.6)は配位結合により形成される。 図4.6 オキソニウム R2R’O+ ●酸素の6個の最外殻電子(赤丸)に2個のRX(Xは不対電 子)が共有結合(covalent bond)で付き、酸素周りに8個の 最外殻電子が存在する(飽和状態)。ここに、R’(電子対 受容体)が酸素の電子対に配位し、結合を形成する。 非共有(非結合、孤立) 電子対(lone pair) H+ 図4.7 ヒドロニウム H3O+ H 2O ●オクテット則を満たさない第13族元素(B, Al)の共有結合化 合物は、空の軌道(空軌道, vacant orbital, 非占有軌道 unoccupied orbital)を持つので強いルイス酸で、配位結合 により錯体を形成する。 ●遷移金属元素の多くは共有結合に利用される価電子の 他に空のd軌道などを持ち(空軌道)、多くの種類の金属錯 体が配位結合により形成される。 ●非共有電子対が空軌道に入り込む 空軌道 非共有電子対 酸 塩 基 NH3(sp3) NH3BF3 ●アンモニウムイオンはプロトン化における配位結合の良い例。 ●アンモニアの窒素は5つの価電子(赤丸)をもち、3つの水素原子 と共有結合を形成して閉殻状態(8電子)になる。 ●アンモニア窒素には水素との共有結合に参加していない2つの 電子(1つの非共有電子対)が存在し、電子対を供与することが可 能なルイス塩基である。 ●H+がルイス塩基と配位結合すると、窒素の原子が+電荷を 持ったオニウムイオン(アンモニウムイオン)となる。 ●配位結合と共有結合も同じく分子軌道により形成されるので 本質的には違いは無いが、その分子軌道の構造やそのエネル ギー準位により結合自身の性質が決定される。NH4+の4本の 結合に違いは無い。 図4.8 アンモニウム NH4+ 4.12) ピアソンの酸-塩基: Hard and Soft AcidBase(HSAB) ●ピアソンは、1963年に硬さと軟らかさで酸・ 塩基を分類した。この硬さ・軟らかさは電子雲 の性質と考えればよい。最外殻の電子軌道が 外電場に対して分極し難い物質が硬い酸・塩 基であり、大きく分極する物質が軟らかな酸・ 塩基である。 ●硬いおよび軟らかい酸・塩基は、以下のようにまとめられる 酸:体積小さい、高い正電荷をもつ、Ipが小さい イオン性 結晶を与 えやすい 軟らかい塩基:分極し易い、EAが小さい 酸:体積大きい、低い正電荷、Ipが大きい 共有結合 結晶を与 えやすい 硬い塩基:分極し難い、EAが大きい 硬い酸:硬い塩基と安定なイオン性化合物を作る酸: H+, Li+, Na+, K+, Be2+, Mg2+, Ca2+, Sr2+, Mn2+, Al3+, N3+, As3+, Cr3+, Co3+, Fe3+, Si4+, Sn4+, BF3, AlCl3, CO2 中間の酸:Fe2+, Co2+, Ni2+, Cu2+, Zn2+, Pb2+, Sn2+, Sb3+, Bi3+, Rh3+, Ir3+, B(CH3)3, SO2, NO+, Ru2+, Os2+, R3C+, C6H5+, GaH3 軟らかい酸:軟らかい塩基と共役結合性化合物・分子性化合物を形成 する酸: Ag+, Cu+, Au+,Tl+,Hg+,Pd2+, Cd2+,Pt2+, Hg2+,Pt4+,Tl3+,RS+, I+, HO+, I2, Br2, ICN, 有機アクセプター 硬い塩基(分極し難い):H2O, OH-,F-,SO42-,PO43-,CH3CO2-,RO- ,Cl-,ClO4-, NO3-, ROH, NH3, RNH2, 中間の塩基:C6H5NH2, C5H5N, N3-, Br-, NO2-, SO32-, N2 軟らかい塩基(分極し易い):R2S, RSH, RS-, I-, SCN-, R3P, CN-, RCN, CO, C2H4, C6H6, H-, R-,有機ドナー 元素に関しては図4.8を参照のこと。 図4.8 各元素の酸としての硬さ、軟らかさ 硬い酸 中間の酸 軟らかい酸 H Li Be B C N O Na Mg Al Si P S K Ca Sc Ti Rb Sr Y V Cl Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn Ga Ge As Se Br Zr Nb Mo Tc Ru Rh Pd Ag Cd In Cs Ba La Hf Ta W Re Os Ir Pt Au Hg Tl Sn Sb Te I Pb Bi Po At Fr Ra Ac Th Pa U ●この概念はHSAB則として、無機化合物や無機 錯塩の結合(金属:ルイス酸、配位子:ルイス塩 基)、構造、反応、物性の解釈に大いに貢献した。 ●SCN基は[S(軟らかい部分)CN(硬い部分)]より成り、硬い 酸である金属とはN原子で配位し、イソチオシアナート錯体 を与える;例、MnII(NCS)42-, MnII(NCS)64-, FeII(NCS)42-, FeIII(NCS)63- [ただし、Mn, Feは中間の酸]。また、軟らかい 酸である金属イオンとはS原子で配位しチオシアナート錯体 を与える;例、PtII(SCN)42-, PtIV(SCN)62-, AuIII(SCN)4-, HgII(SCN)42-。 ●Cu+はSおよびNに配位できる。 ●Co3+は中間の酸に分類され、SCN-が2つのCo3+を架橋し た塩がある (NH3)5CoⅢ-NCS-CoⅢ(CN)5, (NH3)5CoⅢ-SCN-CoⅢ(CN)5] ●AgSCNは共有結合性で、(-Ag-NCS-)のジグザグ鎖 からなる。 4.13) マリケンのドナー、アクセプター ●マリケン(R. S. Mulliken)は、2種の分子、原子、イオン間での電 子の授受を考え、電子を供与する化学種を電子供与体(electron donor, D)、電子を受容する化学種を電子受容体(electron acceptor, A)とした。 ●生成する錯体(電荷移動錯体)は、Dd+・Ad-と記され、dは電荷移 動量である。電荷移動量は0以上の値で、整数である必要は無い。 またその上限は、D, Aの組み合わせにより決まる。 ●電子供与体のカリウムKと電子受容体のC60ではK1C60からK6C60 まで可能であり(C60が-12価のLi12C60もある)、Kと黒鉛の間の錯 体では、炭素8個当りにK+が1個入るまで可能である。 D + A ⇌ Dd+・Ad- (6.13) 電気の流れる有機物、超伝導体 ●DとA間でのマリケンの電荷移動の概念はルイスの酸-塩基の概 念をさらに拡張したもので、Dが塩基に、Aが酸に対応する。ドナー、 アクセプターとしての強さは、各々イオン化ポテンシャル、電子親和 力で表される。 4.14) ハメットのσ ●ハメットのσは、ブレンシュテッドの酸・塩基の強さに対する置換基 効果の定量的取り扱いから得られた置換基の電子吸引や電子供与の 能力を示すパラメータである。 ●有機反応や電子物性にまで適用できるとともに、分子設計指針を考 えるパラメータの1つとして重要なものである。 ●基準とする酸は安息香酸(HA0)で、置換基Xをもつ安息香酸をHAと する。その間での酸・塩基平衡は HA + A0- ⇌ A- + HA0 で、 [A][HA 0 ] [A][H] [HA 0 ] K KHA-Ao = (6.14) [HA][A 0 ] [HA ] [H][A 0 ] K 0 KHA-A0は酸HA0を基準とした酸HAの強さを示す。 DG = RTlnKHA-A0 = DH TDS (6.15) 生成エンタルピー(DH)は結合に関する因子の影響を主に反映、また、 生成エントロピー(DS)は溶媒の種類、反応粒子数、オルト、メタ、パラ 置換体などの立体因子の影響を主に反映する。 したがって、 1)溶媒を一定とし、立体因子も一定なら DS ~ 0, また 2)TDSとDH がTDS=p' + q'DHの関係(芳香族の酸・塩基置換系 で成立)ならDG = p + qDH であり、H+と塩基(A0-, A-)の結合に関する因子(DH項)のみを考 慮し、DGの差をKHA-A0に結びつけることができる、すると log KHA-Ao = log K - log K0 = aDH = (6.16) つまり、log KHA-A0はHAにおけるH+とAの結合の切断と、H+とA0と の結合の生成エンタルピー変化に比例する値で、置換基の効果を 示す。これをハメットの(表6.9)という。 ●置換基がオルト位の場合、置換基のサイズが大きいと原系と遷 移状態での構造が大きく変わることがあり、オルト位置換体ではハ メット関係は成立しがたい(オルト効果)。 ● < 0 水素に比べベンゼン核へ電子密度を増加させる置換基 (電子供与基)で、塩基性↑ 酸性↓ HOMO↑(Ip↓)~ドナー性↑ ● > 0 水素に比べベンゼン核の電子を引きつける置換基(電子吸 引基)で、 塩基性↓ 酸性↑ LUMO↓(EA↑)~アクセプター性↑ ここで、矢印の↑、↓は各々増加、減少を示す。 表6.9 ハメットの値 <0 >0 meta para 置換基 O- -0.71 -0.52 NHCH3 -0.30 -0.84 N(CH3)2 -0.211,-0.21) -0.600,-0.831) NH2 -0.161 -0.660 NHNH2 -0.02 -0.55 CH3 -0.069,-0.062) -0.170,-0.142) C2H5 -0.07 -0.151 CH(CH3)2 - -0.151 C(CH3)3 -0.10 -0.197 Si(CH3)3 -0.04 -0.07 < 0 C6H5 0.06 -0.01 OH 0.121 -0.370 OCH3 0.115,0.102) -0.268 OC2H5 0.1 -0.24 OC6H5 0.252 -0.320 CO2- -0.1 0.00,-0.071) H 0.00 0.00 SO3- 0.05 0.09 SH 0.25 0.15,0.01) SCH3 0.15 0.00 SeCH3 0.1 0.0 > 0 NHCOCH3 0.210 0.00 ( 内はアニリン誘導体に用いる. 置換基 CONH2 OCOCH3 SCOCH3 CHO CO2H COCH3 CO2C2H5 F Cl Br I SO2NH2 SOCH3 SO2CH3 CF3 CN NH3+ IO2 NO2 N(CH3)3+ NH2CH3+ N2+ meta 0.281) 0.39 0.39 0.36 0.37,0.351) 0.376 0.37 0.337 0.373 0.391 0.352 0.46 0.52 0.60 0.43,0.461) 0.56 0.63 0.70 0.710 0.881) 0.96 1.76 para 0.31 0.44 0.22(0.99) 0.45 0.502 0.45 0.062,0.152) 0.227 0.232 0.18,0.271) 0.571) 0.49 0.728 0.54,0.531) 0.600(1.00) (0.56) 0.76 0.778(1.26) 0.821) 1.91 酸性酸化物、両性酸化物、塩基性酸化物 1.酸性酸化物:水に溶けて酸となる酸化物(赤色部分) SO2 + H2O→H2SO3 SO3 + H2O→H2SO4 2.塩基性酸化物:水に溶け塩基となる酸化物(青色部分) Na2O + H2O→2NaOH 3.両性酸化物:酸とも塩基とも反応する酸化物(黄色部分) Al2O3(酸化アルミニウム、水に不溶)はHCl, NaOHと 反応しAlCl3, NaAlO2を与える 族 1 2 13 周 2 Li2O BeO B2O3 期 3 Na2O MgO Al2O3 4 K2O CaO 14 CO2 CO SiO2 15 16 N2O5 NO2 P4O10 SO3 SO2 17 Cl2O7 多塩基酸、多酸塩基 名称 化学式 酸 1塩基酸 塩酸: hydrochloric acid HCl hydrogen chloride(HCl)の水溶液 1 硝酸: nitric acid HNO3 蒸気の吸入、皮膚に付けることは厳禁、有 機物を激しく酸化、猛毒 2 硫酸:sulfuric acid H2SO4 水に混合で激しく発熱、猛毒 2 亜硫酸:sulfurous acid H2SO3 SO2の水溶液、水和したSO2として存在、 H2SO3分子は存在しない 2 炭酸:carbonic acid H2CO3 CO2の水溶液 3 リン酸: phosphoric acid H3PO4 P4O10の加水分解で生じる種々のオキソリン 酸の総称をリン酸といい、オルトリン酸が H3PO4 NH3 臭い、有毒 NaOH 潮解性、水に溶解すると多量の熱を発生(強 アルカリ性、皮膚に付けない) 塩 1酸塩基 アンモニア:ammonia 基 1 水酸化ナトリウ ム:sodium hydroxide 2 水酸化カルシウ ム:calcium hydroxide Ca(OH)2 消石灰、水に難溶、飽和水溶液を石灰水と いう 水素イオン指数(hydrogen ion exponent) pH = - log10[H+] (1909年の提案) [H+]は水素イオンのモル濃度(mol/dm3) ●25℃, 中性で [H+] = [OH-]=10-7 mol/dm3 pH = 7 酸性 pH <7, 塩基性 pH > 7 pH試験紙 ●強酸 H+を出しやすい酸:塩酸 強塩基 OH-を出しやすい塩基:水酸化ナトリウム ●中和反応:酸と塩基の反応で水と塩が生成する 塩の加水分解:塩と水との反応で酸と塩基が生成 中和 酸 + 塩基 塩 + 水 加水分解 ●生じた塩中に、依然としてH+が存在する塩: 酸性塩:H2CO3 + NaOH →NaHCO3 + H2O ●生じた塩中に、依然としてOH-が存在する塩: 塩基性塩:Ca(OH)2 + HCl →CaCl(OH) + H2O ●塩中に、OH-, H+が存在しない塩:正塩 ●塩の水溶液の酸性・塩基性 中和反応における酸と塩基の内、強い方の性質 NaHCO3(酸性塩)は? NaCl(正塩)は?
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