基礎商法2 第5回 1 本日のお題 • 「商行為法」の位置づけ • 商行為総則の規定 代理 報酬請求権等 時効・法定利率 契約の成立 2 商行為法の位置づけ 3 商行為法の位置づけ I. 基本的な位置づけ 商取引における民法の特則の集合体 民法に本則があるもの(商行為総則、売買等)と、民法 に対応する規定がないもの(交互計算、匿名組合、運 送、倉庫等)がある II. 商行為法の特徴 パッチワーク的に必要な規定を列挙しているので、(商 法総則に比べても)体系性を欠き、かつ民法典との対応 がわかりにくい 明治以来ほとんど改正がなく、まったく時代に追いつい ていない。そのため、法の不備を補うために契約技術が 発達している 4 III. 商行為法の将来 債権法改正により、いくつかの規定について、民法が商 法に合わせられる(民法の商化)ほか、民法と商法で規 定が統一される とくに商行為総則の部分で規定の統合がある(その分、 商法の規定は減る) 運送の分野については、現在改正作業が進行中 「中間試案」 http://www.moj.go.jp/content/001141894.pdf 5 III. 「商行為法」部分の構成 ① 商行為の定義規定(商501~503) ② 商行為総則(商504~522) ③ 商事売買(商524~528) ④ 交互計算(商529~534) ⑤ 匿名組合(商535~542) ⑥ 仲立営業(商543~550) ⑦ 問屋営業(商551~558) ⑧ 運送取扱営業(商559~568) ⑨ 運送営業(商569~592) ⑩ 商事寄託・場屋営業(商593~596) ⑪ 倉庫営業(商597~628) (●出るかも ●出なさそう ●多分出ない ●出ない) 6 商行為総則 7 前置き • 商行為総則は、商事売買と合わせて以下の 3つに分けて考察 ① その他(代理、報酬請求権等)[本講] 504~506,512~514,516~520,522 ② 契約総論+商事売買[本講] 507~510,524~528 ③ 債権担保[第7回] 511,515,521 8 • 商行為総則・商事売買の基本的学修方法 民法の各分野の特則なので、体系的ではないし、網 羅的でもない 本質は商慣習の追認なので、必ずしも理論的でもな い 結局、個別にしっかり暗記するしかない 9 商行為の代理(商504~506) 10 【504条】代理における非顕名主義 I. 概要 民法の顕名主義の例外。解釈には争いが多い II. 趣旨 ① 商取引の迅速 ② 相手方保護 11 III. 要件 1. 本文 ① 商行為の代理であること(次スライド参照) ② 代理が非顕名で行われたこと 2. 但書き 代理であることについて、取引の相手方が善意・無 過失であること(判例) ※学説には善意であれば足りるとの説、善意無重過失で足りる とする説もある。判例は善意無過失を要求) 12 3. 「商行為の代理人」の意味 本人にとって商行為であるべき行為の代理人 ※本人が商人ではない場合に、絶対的商行為の代理行為につ いて適用があるかどうか争いがある 本人 代理権 代理人 仮に本人が行ったら 本人にとって商行為 相手方 代理人や相手方にとって 商行為かどうかは問わない 13 IV. 効果 本条但書の「代理人に対して・・・請求することを妨げ ない」の意義について争いがある(最判S43.4.24百-37) [参考]民法においては、相手方が代理行為であることについて 善意・無過失であれば相手方・代理人間に、悪意・有過失なら 相手方・本人間に効果が生ずる(善意の立証は相手方) 相手方との法律関係の成立する当事者 法律効果の帰属主体 相手側の態様⇒ 民 商法 悪意・(重)過失*〔本文〕 法 代理人 判例 多数説 善意・無(重)過失*〔但書き〕 相手方の選択に従う 本人 本人(代理人に履行請求可) 少数説 代理人(本人に履行請求可) 旧説 代理人(民100但の証明責任転換) * 学説には、相手方の無過失を要求しない(無重過失で足りる、もしくは過失があってもよい)との立場もある 14 選択説(判例)における相手方による選択と時 効中断 判例の立場に立つと、本人(代理人)⇒相手方の履 行請求訴訟の場面では、敗色濃厚な相手方が、訴 訟の終盤で代理人(本人)を選択し、その時点で、相 手方に選択された代理人(本人)との関係では時効 が完成している、という事態が考えられる。 そこで、本人(代理人)⇒相手方の履行請求には、( 相手方が代理人を選択したときの)代理人(本人)⇒ 相手方についても時効中断効がある(最判S48.10.30 百選(5版)38事件) 15 【505条】委任を受けた者の権限 I. 趣旨 商行為の受任者は委任の本旨に反しない範囲で受任し ていない行為を行える II. 要件 「商行為の委任」=委任される行為が本人にとって商行 為となるべき行為(商506と対照) 本人 代理権 代理人 仮に本人が行ったら 本人にとって商行為 相手方 代理人や相手方にとって 商行為かどうかは問わない 16 III. 効果 a. 本条は注意的規定であり、代理人は授権されていな行 為を本人のために行うことはできず、そのような行為は 無権代理(判例・通説) b. 本条は、商行為の代理人は、委任の本旨に反しない範 囲であれば、授権されていない行為についても代理権 を有することを定めた創設的規定である(少数説) 17 【506条】本人の死亡と代理権 I. 趣旨 商人の死亡による営業活動中断の防止 II. 要件 商行為の委任による代理人であること ※下記1.から、委任者は必然的に商人 1. 「商行為の委任による代理」の意義 代理権授与自体が委任者にとって商行為となる場合(商 505対照) [理由]非商人の絶対的商行為の代理の場面を除外するため(事業 中断を防止する必要がない) ⇒必然的に死亡した本人は商人に限られる(授権行為は附属的商 行為にしかならないから、何かの基本的商行為を行っているはず) 18 本人 授権行為自体が本人に とって商行為 →本人は必然的に商人 本人は商人なので、本人が行っ たら本人にとって商行為になる 代理人 相手方 2. 相続人の営業意思と本条の適用 相続人に営業承継の意思がなく、かつ現実に営業を承 継していなくても本条が適用(東京高判H10.8.27百(4)42) III. 効果 本人が死亡しても代理権は存続 19 報酬請求権等(商512~513) 20 【512条】報酬請求権 I. 趣旨 商人の営利性から特約がなくても報酬請求権が生じる II. 要件 1. 基本 ① 商人が ② 営業の範囲内において ③ 他人のために行為をした 2. 留意点 相手方は商人でなくてもよい 事務管理の場合も報酬請求権がある。ただし相手方の ために行うことが客観的に認められることが必要(相手 方保護) 21 II. 効果 1. 基本的な効果 ① 特約がなくても報酬請求権が生じる ② 報酬額は「相当な報酬」 2. 留意点 民事仲立の場合、非委託者には報酬を請求できな い(非委託者のためにする意思を有していない。商 550の適用もない。最判S44.6.26百選(5版)41事件) ※詳細は仲立営業で解説。 22 【513条1項】消費貸借の利息請求権 I. 趣旨 消費貸借の無償性の特則 II. 要件 1. 基本的要件 ① 商人間の取引であること(貸し手・借り手とも商人) ② 金銭消費貸借契約であること 2. 留意点 512条、本条2項とは異なり、両当事者が商人の金銭 消費貸借に限り利息請求権が生じる 23 III. 効果 特約がなくても法定利率の利息請求権が生じる 24 【513条2項】立替金の利息請求権 I. 趣旨 委任・寄託に基づかない立替(事務管理)の無償性の特 則 II. 要件 立て替えた者が商人であること(相手側は商人でなくて 良い) III. 効果 特約がなくても法定利率による利息請求権が生じる 25 商事法定利率/消滅時効 26 【514条】商事法定利率 削除 I. 趣旨 • 貸し手・借り手とも有利な運用を行うはず II. 要件 1. 基本的な要件 商行為によって生じた債務であること 2. 留意点 債権者・債務者のいずれか一方にとって商行為であ ればよい(最判S30.9.8百-42事件) 27 削除 3. 商事法定利率の及ぶ範囲 i. 総論 商行為債権の変形物または実質上同一視できるものにも 商事法定利率が適用。ただし、何が商事法定利率適用と なるかには不明確な点あり ii. 商事法定利率適用例 ① 商事契約の不履行による損害賠償債務 ② 商事契約解除の場合の原状回復義務 iii. 民事法定利率の例 ① ② 過払金返還債務(最判H19.2.13百-43) 取締役の任務懈怠責任(会423、429) ※民事法定利率とされる債務については、いずれも短期消滅 時効を排除した結果、民事法定利率とされたという裏事情が 伺える 28 【522条】商事消滅時効 削除 I. 趣旨 取引の迅速な結了 II. 要件 1. 基本的要件 ① 債権者債務者のどちらか一方にとって商行為である 行為によって生じた債権であること ② ただし、他の法令に5年より短い時効期間の定めが あればこれに従う 29 削除 2. 商事消滅時効の適用範囲 i. 総論 商行為に「準じる」債権にも本条が適用。ただし、何が商事 消滅時効が適用される債権かには不明確な点も ii. 商事消滅時効適用例 ① ② 商事契約の不履行による損害賠償 商事契約解除による原状回復 ③ 非商人の保証人がなす他の非商人である保証人への求償 (主債務者は商人で、主債務者から保証委託を受けている 。最判S42.10.6百-48) iii. 不適用例 ① ② 過払金返還請求(最判S55.1.24百-49) 取締役の任務懈怠責任(会423・429) 30 商事(売買)契約総論 31 基本事項 基本的には、契約成立→履行→後始末のそれぞ れについて所要の規定が置かれている 条文として重要なものは • • • • 商509(諾否の通知義務) 商524(売主の保管供託権) 商525(定期売買) 商526(買主の検査・通知義務) 32 契約の成立 33 一部削除 【507・508条】契約申込の効力 I. 趣旨 対話者間、隔地者間の期間の定めのない申込につ いての特則 II. 留意点 商508Ⅰ以外は単なる注意的規定(民法と同じ) 商508Ⅰは、隔地者間の期限の定めのない申込につ いて、撤回を許す民法とは異なり、相当期間経過で 自動失効することを定める 34 【509条】諾否の通知義務 I. 趣旨 継続的取引関係にある相手方の信頼・期待を保護 II. 要件 ① 被申込者が商人であること ② 申込者が、被申込者と「平常取引をする者」であること ③ 申込内容が、被申込者の「営業の部類の属する契約」 であること ④ 被申込者が直ちに諾否の通知を発しないこと III. 効果 被申込者は申込を承諾したものと見なされる 35 III. 留意点 1. 申込人の属性 取引の相手方は商人でなくてもよい 「平常取引をなす者」とは、従来からある程度の取引関 係があり今後の継続が予想される者 ※申し込まれた取引については今回が初めてでもよい 2. 申込みの内容(「営業の部類に属する取引」) 学説が分かれる(最判S28.10.9百選(5版)39事件参照 ←ただし本事案はどの説でも通知義務なし) a. b. c. d. 基本的商行為を意味する(通説) 基本的商行為+その後始末(例:代金決済)等の関連行為 営業上集団的反復的に行われる行為を広く含む 沈黙が承諾を意味すると当然に予測される類型の取引に限る ※d説が通知義務が課される範囲が最も狭く、a→b→cの順に広 くなる 36 【510条】物品保管義務 I. 趣旨 目的物を送付して申込を行う取引形態の円滑(被申込 人である商人においては送りつけ商法も有益であること から、保管義務を課す) II. 要件 被申込人が商人 被申込人が申込みと同時に商品を受け取った 申込内容が被申込人の営業の部類に属する 37 III. 効果 被申込人は,申込人の費用負担で、送りつけられた物 品の保管義務を負う ただし、費用不足、損害発生の場合は保管不要 ※被申込者の諾否は無関係 IV. 留意点 契約の申込側は商人でなくてもよい 被申込側(保管側)は商人でなくてはならない 解釈上適用は遠隔地者間に限定(商527Ⅳ参照) 38 その他 39 【516条】債務の履行場所 I. 趣旨 住所→営業所 特定物の引渡しについて「債権発生時」の存在場所→「 行為の時」の存在場所(こちらについてはなぜ民法と扱 いが違うのか II. 詳細 債権者、債務者のいずれかにとって商行為であれば適用 特定物の引渡につき、民法との相違点は停止条件また は始期つきの契約(民484=債権発生当時、商516=行為 の時) 持参債務の場合は履行場所は営業所が原則 40 【520条】取引時間 I. 趣旨 I. ? II. 要件 行為の相手方(履行の場合は債権者、履行請求の場合 は債務者)が商人 法令・慣習により取引時間の定めがある III. 効果 債務の履行、または履行請求は取引時間内に行わなけ ればならない(時間外の履行の提供、履行請求は法的 な効果を持たない) 41 IV. 〔留意点〕 取引時間外の弁済提供であっても、債権者が任意に 弁済を受領し、それが弁済期日内であれば履行遅 滞にならない(最判S35.5.6百(3版)-47) 42 商事契約の成立 43 商事契約の特徴 I. 商事契約の類型 事業者間の契約(B2B) 事業者・消費者間の契約(B2C) II. 契約の特徴 1. B2B契約の特徴 継続的な取引関係が構築される場面が多い 基本契約⇔個別契約の構造 長期・複雑な契約交渉過程 2. B2C契約の特徴 約款(附合契約)の多用 消費者保護の要請 44 契約交渉破棄責任 I. 段階的契約交渉 II. 暫定的な合意 1. 暫定的合意の効力 ① 契約締結への利益の侵害による不法行為 ② 信義則上の(場合によっては予備的合意による)契約締 結努力についての注意義務違反(=契約締結上の過失 理論の応用) 2. 賠償の範囲 →原則として信頼利益に限られる(東京地判H18.2.13金商 1238-2) ※どちらが交渉を破棄したかではなく、どちらが交渉破棄 原因を作ったかが重要 III. 契約締結条項 契約締結条項(「当事者は以下の契約を迅速に締 結するものとする」といった条項)の効力 →契約締結を強制するものではない 付合契約 I. 意義 事業者と不特定多数の取引相手の間における類型的な 取引に適用される、事業者が事前に作成した定型的な契 約条項 II. 約款の拘束力 1. 拘束力の必要性 約款を見ていない人にも効力が及ばないと無意味 →意思表示理論との整合性が問題 2. 拘束力の根拠に関する学説 i. 法律行為論(拘束力否定説) ・・・約款が無意味に ii. 意思推定説(判例) ・・・推定が破られると困る iii. 商事自治法説 ・・・自治法とはいえない iv. (白地)商慣習法説 ・・・現在の多数説 v. 新契約理論 ・・・法律行為論の変形 vi. 区分説 ・・・公的監督のある約款とそれ以外を区別 →結局は妥当な約款の拘束力は認めて不当なものは否 定したい 3. 不当条項からの保護 ① 立法による内容規制(特に消費者契約8~10) ② 行政による内容規制(約款の届出、認可制度) ③ 司法による救済(公序良俗違反、信義則違反等)
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