現代の金融システムの意義について 〜現在と過去の金融システムの

現代の金融システムの意義について
〜現在と過去の金融システムの比較〜
慶応義塾大学経済学部3年
加藤佳弘
初めに
〜金融システムの意味〜
1.金融システムの機能
2.金融自由化の進展
3.金融システムの改革
4.金融界の再編
初めに
〜金融システムの意味〜
企業に代表される資金不足主体が、家計等の資金余剰
主体から資金を借り入れたり株式を発行して資金を調
達することを金融という。金融システムとは、法令や
規制などの制度的枠組みだけでなく、金融機関の行動
パターンや慣行などを含む金融の仕組み全体をいう。
1.金融システムの機能
日本の金融組織は伝統的に、短期金融・長期金融・中小企業金
融・農林漁業金融などの分野において専門金融機関がきめ細かく
設定されてきたが、金融の自由化や金融システム改革により、事
実上業態間の垣根は消えつつある。
金融機関のもっとも基本的な機能としては、金融取引に係る取引
コストの軽減・節約を通じて金融取引の円滑化を図ることである。
また銀行は資金仲介機能・決済機能を通じて経済活動を円滑に進
める役割を果たしている。
なお、銀行は受け入れた預金の一部を支払い用の現金準備として
残し、残りを貸出しに振り分けるが、その貸出しがまた企業の設
備投資などの資金として利用され、いずれ新たな預金としてまた
銀行に戻ってくる。こうした過程が繰返されることによって最初
の預金の何倍もの預金が想像される。これを銀行の信用創造機能
という。
2.金融自由化の進展
(1)海外の金融制度の動向
(2)日本における金融の自由化
(3)金利の自由化
(4)金融の証券化
(5)業務分野規制の緩和
2-1.海外の金融制度の動向
欧米諸国では 70 年代から始まった金融の自由化があら
ゆる面で進行しており、それが世界の潮流ともなっている。
例えば、アメリカでは1929年の世界恐慌の経験から、預金
金利の上限規制、銀行証券の分離、州を越えた支店の禁止
などの規制が行われてきた。しかし預金金利の完全自由化
が70~80年代に成し遂げられた他、銀行証券の分離なども、
法の網をかいくぐる形で有名無実化され、実質的に自由化
が進んだ。
なお経済のグローバル化が進展するなかで、日本を含め
た世界の金融システムはこの米英型に収束していくという
指摘がある。
2-2.日本における金融の自由化
日本の戦後金融制度としては
1. 業務分野規制(長期金融と短期金融の分離、銀行と証券の兼業禁止、
銀行と信託の分離)
2. 金利規制(預金金利等の上限規制)
3. 内外市場分断規制(為替管理、対外資本取引原則禁止)
4. 間接金融の優位(銀行保護育成)
などが挙げられる。これらは戦後の資金不足の時代に資金の効率的
活用に役 立ち、設備投資主導の成長を促し高度成長に寄与してきた。
しかし(1)70 年代半ばの石油危機の不況対策として国債が大量発行さ
れ、その円滑な市中 消化を図るために各種の規制緩和が行われたこ
と、(2)80 年の法改正で対 外資本取引を原則自由化したことから金
融の自由化・国際化が促されること となり自由化が本格的にスター
トした。
2-3.金利の自由化
日本では戦後、経済の成長を図るために企業の低金利の資
金を供給する必要があったこと、また安定的な金融システ
ムを構築するために資金調達コストを低く抑える必要が
あったことから預金金利の規制が続けられてきた。しかし
79年の譲渡性預金導入以降、預金金利の自由化が始まり、
94年10月にすべての預金金利が自由化された。
2-4.金融の証券化
金融の証券化は一般に資金の運用・調達の局面において従
来よりも幅広く証券が利用されるようになることをいう。
日本ではこのうち企業に資金調達において債権やCPの比重
が高まる「企業の金融化」が急速に進んでおり、アメリカ
等で発展している住宅邸当証券のような「資金の証券化(企
業の保有資産の一部を証券化することで流動化しリスクを
分離、分散させつつ投資家に売却して資金を調達するこ
と)」についても近年活発化しつつある。
2-5.業務分野規制の緩和
金融機関の経営の安定化利益相反防止の見地から、業務分野規制
が行われてきたが、金融の自由化が進むなかで、次第に実態にそ
ぐわなくなり、81年の銀行法、証券取引法の改正を機に段階的に
業態間の垣根の解消が進められてきた。
93 年4月に施行された金融制度改革法では、銀行・信託・証券の
各業態が子会社方式により他業態の業務に相互参入できるように
なった。しかし、激変緩和措置として、証券子会社には株式及び
関連商品の発行・流通業 務は行えない、信託子会社は貸付信託、
年金信託などが取り扱えない等の制限を設けたため、本格的な相
互参入には至らなかった。
このように、日本では金融の自由化が進められたものの、欧米諸
国に比べると大きく立ち遅れることとなった。また、バブルの崩
壊により、金融機関の経営体質は著しく悪化し、その間、東京金
融市場は、残存する参入障壁や業務規制等から魅力を減じ、国際
的な比重低下を余儀なくされてしまった。
3.金融システムの改革
(日本版ビックバンについて)
(1)改革の3原則
(2)改革の概要
3-1.改革の3原則
96年の橋本内閣時に打ち出された3原則
・Free(市場原理が働く自由な市場)
・Fair(透明であり、信頼できる市場)
・Global(国際基準に則した、開かれた市場)
3-2.改革の概要
・外国為替及び外国貿易管理法の改正(98年)
98年4月、通貨の交換を外国為替公認銀行に限定するいわ
ゆる為銀(ためぎん)制度が廃止され、銀行以外でも外国
為替の売買ができるようになり、個人が外貨建て海外預金
を自由に開設できるようになった。
・参入の促進
 証券子会社、信託子会社の業務制限が99年10月から撤廃
され、銀行・信託・証券における完全な相互参入が実現
した。また、保険業務と金融他業務との相互参入も進め
られ、2001 年4月には銀行窓口での保険商品の販売が一
部解禁される。また、独占禁止法の改正により、持ち株
会社の設立が認められるようになったことを踏まえ、98
年3月、銀行業、証券業、保険業を営む会社を子会社と
する金融持ち株会社設立が認められるようになった。
・ルール整備と市場監視体制
市場原理を十分に機能させるための前提として公正・透明
なルールを設定し、その遵守状況の監視に徹するとしてい
る。具体的には、
・連結決算ベースの情報開示
・インサイダー取引など不公正取引に対する罰則の強化
・検査、監視部門の人員、ノウハウなどの面での強化
などがあげられている。
4.金融界の再編
民間金融機関では国際競争力の回復にむけた再編を進めて
いる。その方向性としては、
(1)規模の経済
(2)範囲の経済を追求した大手都銀、信託、証券、保険によ
る統合、合併、あるいは連携
(3)業務分野の集約、統廃合による合理化の徹底と、比較優
位部門への集中による利益を狙った、大手 都銀や地銀によ
る特化戦略
があげられる。
また、金融再編の動きは、公的金融にも及んでおり、
(1) 資金運用部預託制度の廃止による市場評価制と財政規
律の導入(財投機関の肥大化・非効率化の防止)、
(2) 政府金融機関の集約と公団・事業団の統廃合(財投実施
機関の機能・役割の見直し)
が行われている。(2)については、既に99年10月に、日本政
策投資銀行(日本開発銀行と北海道・東北開発公庫の統合)、
国際協力銀行(日本輸出入銀行と海外経済協力基金の統合)、
国民生活金融公庫(国民金融公庫と環境衛生金融公庫の統
合)が設立されたほか、2003 年には郵政三事業が公社化さ
れた。