マルチレベルモデルで 何ができるのか 清水裕士 広島大学大学院総合科学研究科 マルチレベルモデル Multilevel modeling • データに階層性がある場合の統計手法 – 個人‐集団、測定‐個人、など • さまざまなバージョンがある – 階層的線形モデリング HLM – マルチレベル構造方程式モデリング ML-SEM • 後者は前者を包括している • 今回は主にML-SEMに焦点を当てて話をする 社会心理学とマルチレベルモデル • よく見かける研究 – 社会調査のような大規模データ • 都道府県でクラスタリング – 個人に対して反復測定するデータ • 日誌法とか – 個人‐集団の階層性はあまり見ない • もちろん皆無ではないが・・・ • 本発表のテーマ – 社会心理学における重要な関心:個人と集団の相互関係 • マルチレベルモデルでは集団をどう扱っているのか? • 個人‐集団の階層性をどのようにモデリングできるか? – マルチレベルモデルが社会心理学理論に対して、どういう可能 性を持つのか議論したい データ • 4人家族を対象に調査 – 首都圏と関西地区からランダムサンプリング – 110世帯から欠損値のない回答を得た – 家族構成は、父・母・第一子・第二子 • 測定変数 – 家族のまとまりの程度(凝集性)の認知 – 主観的幸福感 「あなたは幸せですか」 – 世帯収入 8段階で世帯収入を測定 • 家族の凝集性は幸福感と関連するか? – 家族システム論などの理論的仮定 変数間の相関係数 corr 凝集性 幸福感 収入 凝集性 1.000 .515 .048 ** 幸福感 ** 1.000 .092 収入 + 1.000 p < .01, * p < .05, + p < .10 • 世帯収入と幸福感に弱い有意傾向の相関 – しかしN=440で計算された有意性検定の結果は怪しい • 測定された凝集性と幸福感には高い相関 – しかしそれが家族レベルの関連なのか – 個人レベルの関連なのかわからない マルチレベルモデルの仮定 • モデルの仮定は因子分析と同じ – 因子分析:行動傾向から、個人の態度を推定 – MLモデル:個人の得点から、集団の得点を推定 Betweenレベル 各個人のデータ Withinレベル 集団間変動 集団で共有された分散 BetweenとWithinの分散をわけて、 それぞれの相関関係を推定する 集団内変動 個人独自の分散 世帯収入と主観的幸福感 相関は非有意 家族凝集性の推定 • 4人家族のデータ – 凝集性の認知を測定 – 因子=Betweenレベル – 誤差項=Withinレベル • 因子の寄与率 – 集団の効果の割合 – →級内相関係数 集団(家族)の効果を潜在変数として推定する 級内相関係数 • 集団内の類似性を表す指標 – ‐1~1の間をとる • 正の場合は類似性、負の場合は相補性を表す • 集団の効果の程度は、級内相関係数で推定 – 級内相関が高いと集団の効果の分散は大きい • 級内相関係数が0の場合、集団の効果はないと判断 • 有意性検定だけが判断材料ではない – 1+(average group size-1)*ICC > 2 という判断基準も • Design effectと呼ぶらしい 級内相関係数をチェック 変数名 凝集性 幸福感 世帯収入 平均値 標準偏差 級内相関 有意確率 3.441 0.752 .391 .000 4.289 0.857 .342 .000 5.477 1.115 1.000 .000 α係数 .719 .675 1.000 • 両方の変数とも、級内相関が有意 – 家族成員に30~40%が共有されている – 両方の変数に、家族の影響があると考えられる • 別の言い方をすれば・・・・ – 家族という因子が40%程度の寄与率を持っている – 合計得点の信頼性は.70程度 • 集団レベルの得点に合計得点を使っても大きな問題はない Between・Withinレベルの相関 • Betweenレベルの相関とは? – 個人の得点に含まれる集団の効果(分散)の間 の相関係数 – 解釈の単位は、集団 • e.g.凝集性の高い家族は、みんな幸福感が高い • Withinレベルの相関とは? – 集団の効果を統制した、個人独自の効果(分散) の間の相関係数 – 解釈の単位は、個人 • e.g.家族にまとまりを感じる個人は、幸福感が高い Amosを使った分析例 両レベルとも有意 Amosを使った分析例2 Muthen最尤法に よるモデリング 結果の解釈 • 集団レベルの相関は非常に高い – 家族の凝集性は、家族成員の幸福感と強く関連 – 家族システム論の理論的仮定は妥当である • 個人レベルの相関も十分高い – 「家族がまとまっている」と認知しやすい傾向の人 • 家族への関心の高さ、愛着タイプ、楽観主義傾向 etc – 他の成員と比べて比較的幸福感が高い 考察1:集団の効果を推定する? • 集団の効果って何? – 集団心錯誤(Group fallacy)に陥るのではないか? • 集団の実在を仮定してもいいし、しなくてもよい • 集団の効果を、「集団レベルの概念」と呼ぶかは、理論しだい • 個人の総和(線形結合)が集団なのか? – e.g. 個人の知能を足し合わせたら集団知になるのか? • →類似性がなければ、ならないと考えるべき – 集団内に類似性があれば、個人の得点から、集団の効果 を取り出すことができる 足し算によって集団を作るのではなく、 すでにある集団の影響を取り出してやるという発想 考察2:分析と理論の「レベル」 • 分析のレベルと理論のレベルは別である – 「Between・Withinレベル」と「集団・個人レベル」 • 分析レベル:集団間変動と集団内変動 • 理論レベル:その概念が集団の特性なのか、どうか • レベル間の影響は見れないの? – 分析のレベルでは、見れない • BetweenとWithinは無相関が仮定されている – 理論のレベルでは、可能 • 主観的幸福感はあくまで、個人の概念である – 「家族の幸福」という概念は不要(あってもいいけど) • Betweenレベルの凝集性→幸福感のモデルは、集団レベルの概 念である凝集性が個人レベルの幸福感に影響しているといえる 集団レベルと個人レベルの関連 Between レベル 家族の 凝集性 測定された 凝集性認知 Within レベル ? 家族で 説明される 幸福感 測定された 幸福感 個人の 凝集性 認知 個人独自の 幸福感 集団レベルの概念 個人レベルの概念 個人レベルの概念のBetweenレベルが、 集団レベルの概念とつながる橋渡しになる! マルチレベルモデルは何ができる? • 広義には・・・ – 集団内・間の変動の相関関係をモデリングできる – これは従来の統計手法ではできなかったこと • 社会心理学的には・・・ – 集団の影響を個人の得点から推定することができる – 集団レベルの概念と個人レベルの概念の関連を検 討できる • 集団の特性が成員全員の行動に及ぼす影響 • 逆に、共有された個人の行動が集団に及ぼす影響 とりあえずやってみるために • マルチレベル相関係数を算出するソフト – HAD エクセルのVBAを使ったマクロ • 現バージョン8.32 – 級内相関係数や集団・個人レベルの相関係数を 算出 清水のHP • Googleで清水裕士で検索 • Sunny Side Up!というブログ – 「資料」にアップしてます – その他マルチレベルモデル の発表資料もあります ご清聴ありがとうございました 清水裕士 [email protected] http://norimune.blog15.fc2.com/ たぶんこういうモデルはわかりやすい HLMなどはこういうモデリングを 行っている(回帰モデルだが) しかし、推定の精度は平均値を 用いるより、内部で因子分析モ デルを利用したほうがよい HADを使った分析例 マルチレベル相関分析 corr 凝集 幸福感 凝集 .402 .822 ** ** 幸福感 .460 .392 ** ** • エクセルのマクロで作ったプログラム – 級内相関やBetwee・Withinレベル相関を出力 • 有意性検定結果(Wald検定) – 上三角がWithin,下三角がBetween, 対角が級内相関 – Amosの結果と一致 Betweenの分散=集団の効果? • ここでは「そうだ」と言っておきたい – Betweenレベルの分散は、測定された個人の得点の 中の、集団からの影響を意味している – Kenny & Lavoie(1985)やGriffin & Gonzalez(1995) 集団の効果 個人独自の効果 集団間の効果 集団内の効果 データの分散 Between group Within group Group effect Individual effect 誤差 Error • Betweenレベル=「集団レベルの概念」ではない – 「分析のレベル」と「理論のレベル」は厳密には違う • Betweenレベルが常に「集団の概念」を意味するわけでは ない→後述する • 仮定すること当然できる マルチレベルモデルの仮定 • 個人は集団の影響を受けている – 得点の分散=集団間の効果+集団内の効果 • それぞれの効果の間は無相関が仮定される 集団間の効果 集団内の効果 データの分散 Between group Within group • 集団間の効果(Between)=集団で類似した効果 – 集団内の共通変動 • 集団内の効果(Within)=個人独自の効果 – 各個人の 集団レベルの変数って何? • わかりやすい例 – 都道府県別の人口密度・犯罪率 – 企業だったら、営業成績・株価etc – 家族だったら、世帯収入など – どれもこれも、個人レベルに還元できる・・・? • 何が「集団レベルの変数」になるのか – おそらく研究者が何に注目して、どういう単位で理論 を考えるかに依存する
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