民法の体系と推論

民法(財産法)の体系と
法的推論の基礎
明治学院大学法学部教授 加賀山 茂
目次

憲法と民法との関係

刑法と民法との違い

民法条文適用頻度ベスト20

民法典の構成

民法通則の現状・改革・未来

民法総則の構成


意思表示
代理
無効・取消し1,2,3,4
条件・期限
物権の構成



不動産所有権の二重譲渡と対抗問題
物権と債権と担保物権との関係
人的担保・物的担保物権の構成
債権の構成

債権各論の構成




債権総論の構成




債務不履行の過去,現在,未来
因果関係とは何か❓
ベイズの定理を用いた部分的因果関係の計算方法
損害とは何か❓
契約の流れ図
契約の類型(典型契約)
事務管理
不当利得




不法行為の流れ図
一般不法行為の成立,障害要件
特別不法行為,消滅要件
家族法の展望



不当利得法の構造
不当利得と支出不当裏の組み合わせとしての民法707条
不法行為



法律行為






家制度(中央集権・家父長制)の幻影と残滓
新しい家族制度(分散型ネットワーク社会)の展望
法的推論


判決三段論法とその破綻
アイラック(IRAC)





事実とルールとの関係
タール事件の事実とルール
トゥールミン図式 原型,完成型,発展
解釈方法論1,2
ヴェン図による解釈論の明確化と発展



民法770条の条文,離婚原因の統計,解釈,改正案
民法612条の条文,解釈1,2,3,4,背景
民法612条の改正案
憲法と民法との関係
憲法29条
②財産権の内容は,公共の福祉に適合す
るやうに,法律でこれを定める。
財
産
法
民法1条1項
①私権は,公共の福祉に適合しな
ければならない。
民法742条(婚姻の無効)
憲法24条
憲
法
①婚姻は,両性の合意のみに基いて成立
し,夫婦が同等の権利を有することを基本
として,相互の協力により,維持されなけ
ればならない。
②配偶者の選択,財産権,相続,住居の
選定,離婚並びに婚姻及び家族に関する
その他の事項に関しては,法律は,個人
の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,
制定されなければならない。
家
族
法
婚姻は,次に掲げる場合に限り,
無効とする。
二 当事者が婚姻の届出をしな
いとき。
第733条(再婚禁止期間)
①女は,前婚の解消又は取消しの
日から6箇月を経過した後でなけ
れば,再婚をすることができない。
刑法と民法との対比
 刑法(罪刑法定主義)
 民法(被害の救済)
犯罪類型
暴行
その他
類型外
特別類型
暴行
無罪
刑罰
犯罪類型
傷害
人権擁護のために類型論を保持
一
般
不
法
行
為
その他
の類型
救済
特別類型
傷害
被害者救済のために一般法を承認
民法条文の適用頻度ベスト20
541 601
2% 1%
703
2%
612
2%
177
2%
90
2%
719
4%
95 110 711 416
1% 1% 1% 1%
723
1%
656 770
1% 1%
709
32%
1
5%
415
6%
715
8%
722
9%
710
18%
民法典の編成
第1編 総則
財産法
第2編 物権
第3編 債権
民法
第4編 親族
家族法
第5編 相続
民法典の編別と総則の位置づけ(1)
第2編 物権
財産法
民
法
第3編 債権
第1編
総則
第4編 親族
家族法
第5編 相続
民法典の編別と総則の位置づけ(2)
第1編 総則
財産法
第2編 物権
第3編 債権
民法 通則
家族法
第4編 親族
第5編 相続
民法通則(現行法)
私権の
公共の福祉適合性
第1条
(基本原則)
民
法
第1編
第1章
通則
契約自由の
信義則による制限
権利濫用の禁止
第2条
(解釈の基準)
個人の尊厳
両性の本質的平等
民法通則(改正案1)
私権の
公共の福祉適合性
第1条
(私権の制限)
民
法
第1編
第1章
通則
契約自由の
信義則による制限
権利濫用の禁止
第2条
(私権の目的)
個人の尊厳
両性の本質的平等
民法通則(改正案2)
民法の目的
個人の尊厳と平等の実現
民
法
第1編
第1章
通則
第1条
(民法の目的並びに
私権の行使及び
その制限)
私権の
公共の福祉適合性
契約の自由及び
信義則による制限
権利濫用の禁止
第2条
(解釈の基準)
個人の尊厳と
両性の本質的平等
民法総則の編成
第2章 人(自然人)
権利の主体
第3章 法人
第1編
総則
権利の客体
第4章 物
第5章 法律行為
権利の変動
第6章 期間の計算
第7章 時効
民法総則 第5章 法律行為 の編成
法律行為と
法規定との関係
第5章
法律行為
第1節 総則
法律行為の
構成要素
第2節 意思表示
法律行為の
三面関係
第3節 代理
法律行為の
無効
第4節 無効及び取消し
法律行為の
付款
第5節 条件及び期限
民法総則 第5章 法律行為 第1節 総則 の編成
第1節 総則
第2節 意思表示
第5章
法律
行為
公序に関する法
律行為
(民法90条)
第3節 代理
第4節 無効及び
取消し
第5節 条件及び
期限
公序に関しない
法律行為(民法
91条,92条)
公序良俗違反
1. 当事者の合意
2. 事実たる慣習
3. 任意規定
契約自由の下での
任意規定の位置づけ(1/5)
公序に関しない事項
当事者意思
あり
(1)?
当事者意思不明・意思なし
事実たる慣習
あり
事実たる慣習
なし
(2)?
(3)?
契約自由の下での
任意規定の位置づけ(2/5)
公序に関しない事項
当事者意思
あり
当事者の意思と
民法の条文(任意
規定)とで,どちら
が優先されるの
か?
当事者意思不明・意思なし
契約自由の下での
任意規定の位置づけ(3/5)
公序に関しない事項
当事者意思
あり
当事者意思に
従う
(民法91条)
当事者意思不明・意思なし
事実たる慣習
あり
慣習と民法の規定と
どちらが優先?
契約自由の下での
任意規定の位置づけ(4/5)
公序に関しない事項
当事者意思
あり
当事者意思に
従う
(民法91条)
当事者意思不明・意思なし
事実たる慣習
あり
事実たる慣習に
従う(民法92条)
事実たる慣習
なし
何が適用される
のか?
契約自由の下での
任意規定の位置づけ(5/5)
公序に関しない事項
当事者意思あ
り
当事者意思に
従う
(民法91条)
当事者意思不明・意思なし
事実たる慣習
あり
事実たる慣習
なし
事実たる慣習に
従う(民法92条)
任意規定が適用
される
民法総則第5章法律行為第2節 意思表示の編成
心裡留保
表意者悪意
第1節 総則
意思の
不存在
通謀虚偽表示
表意者善意
第2節 意思表示
第5章
法律
行為
第3節 代理
第4節 無効及び
取消し
第5節 条件及び
期限
瑕疵ある
意思表示
意思表示
の効力発生
錯誤
詐欺
強迫
所在あり
表示の到達時
所在不明
公示送達の時
民法総則 第5章 法律行為 第3節 代理 の編成
第1節 総則
顕名代理
第2節 意思表示
第5章
法律
行為
復代理
代理権授与行為
第3節 代理
第4節 無効及び
取消し
第5節 条件及び
期限
表見代理
権限外の行為
無権代理
代理権消滅後
法律行為 第4節 無効・取消し 構造(1/4)
契約の
無効・
取消
原因
意思無能力
(条文なし)
制限行為能力
(民法5条~21条)
成年被後見人
公序良俗違反
(民法90条)
被補助人
意思の不存在
(民法93条~95条)
表意者悪意
通謀虚偽表示
表意者善意
要素の錯誤
表意者善意
動機の錯誤
瑕疵ある意思表示
(民法96条)
未成年
被保佐人
心裡留保
詐欺
代理権の不存在
(民法99条~118条)
無権代理
強迫
法律行為 第4節 無効・取消し 構造(2/4)
意思無能力
制限行為能力
契約の
無効・
取消
原因
当事者
の能力
意思の不存在
瑕疵ある意思表示
契約の
方法・
内容
成年被後見人
被保佐人
被補助人
代理権の不存在
当事者
の意思
未成年
無権代理
心裡留保
表意者悪意
通謀虚偽表示
表意者善意
要素の錯誤
表意者善意
動機の錯誤
詐欺
公序良俗違反
強迫
法律行為 第4節 無効・取消し 構造(3/4)
絶対的無効
(誰でも何時までも)
第三者に
対抗できる
公序良俗違反
意思無能力
相対的無効
(特定者のみ一定期間)
無効・
取消
原因
制限能力者の取消し
要素の錯誤
強迫の取消し
心裡留保
善意・無過失の
第三者に対抗できない
第三者に
対抗できない
場合がある
動機の錯誤
無権代理→表見代理
善意の
第三者に対抗できない
通謀虚偽表示
詐欺の取消し
法律行為 第4節 無効・取消し 構造(4/4)
民法90条(公序良俗違反)
権利外観法理
の適用除外
(公序の問題)
意思無能力
民法5条以下(制限行為能力による取消し)
民法95条(要素の錯誤),96条(強迫取消し)
本人が相手方の悪意又は有過失を立証
権利外観法理
の適用
(取引の安全)
民法93条(心裡留保)
民法109条の表見代理
民法94条(虚偽表示)
相手方が善意,本人が有過失を立証
民法96条(詐欺取消)
民法112条の表見代理
相手方が善意・無過失を立証
民法110条の表見代理
民法総則 第5章 法律行為 第5節 付款 の編成
第1節 総則
第2節 意思表示
第5章
法律
行為
停止条件
第3節 代理
第4節 無効及び
取消し
第5節 条件及び
期限
条件
解除条件
不確定期限
期限
確定期限
民法 第2編 物権 の編成
第2編
物権
第1章
総則
第4章 地上権
第2章
占有権
本権
第3章
所有権
用益
物権
第5章 永小作権
第6章 地役権
第7章 留置権
制限物権
担保
物権
第8章 先取特権
第9章 質権
第10章 抵当権
不動産所有権の二重譲渡における対抗問題
物
権
第1買主
第一売買
第176条(物権の設定及び移転)
物権の設定及び移転は,当事者の意思表示
のみによって,その効力を生ずる。
第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
不動産に関する物権の得喪及び変更は,不動産
登記法その他の登記に関する法律の定めるところ
に従いその登記をしなければ,第三者に対抗する
ことができない。
売主
第
二
売
買
第2買主
登記
物権と債権と担保物権との関係
債権
物権
人
債権者
支 使用・収益
配 換価・処分
有体物
請求
担保物権
債務者
支
配
財産
請求
担保
債権者
担保法(人的担保・物的担保)の体系
担保法:
量的強化
(人的
担保)
掴取力
の強化
質的強化
(物的
担保)
責任主体を
増やす
保証
債務と保証
との結合
連帯債務
事実上の
優先弁済権
履行拒絶の
抗弁権
留置権
優先弁済権
先取特権
優先弁済権
+留置効
質権
優先弁済権
+追及効
抵当権
法律上の
優先弁済権
民法第3編 債権の編成(債権の発生原因)
第1編 総則
民法
第1章 総則(債権総論)
第2編 物権
第2章 契
約
第3編 債権
第3章 事務管理
第4編 親族
第4章 不当利得
第5編 相続
第5章 不法行為
債権総論の構成
債
権
総
論
債権の目的
対内的効力
債権の効力
対外的効力
可分・不可分の
債権・債務
多数当事者関係
債権の譲渡
債権の消滅
連帯債務
保証
弁済
相殺
更改
免除
混同
履行強制
損害賠償
債権者代位権
詐害行為取消権
債務不履行の現在(三分類説とその破綻)
通常の場合
催告解除
定期行為
無催告解除
帰責事由
あり
無催告解除
帰責事由
なし
危険負担
契約目的を達成
できない
解除可能
契約目的を達成
できる
解除不可
損害賠償のみ
Ⅰ履行遅滞
債
務
不
履
行
履行期
に履行
がないこ
と
債務の本
旨に従っ
た履行が
ないこと
履行期
に履行
がある
が瑕疵
があるこ
と
Ⅱ履行不能
Ⅲ不完全履行
(瑕疵担保責任)
原則:債務者主義
(解除と同じ)
例外:債権者主義
(解除不可)
債務不履行の近未来(履行拒絶の追加)
通常の場合
催告解除
定期行為
無催告解除
帰責事由
あり
無催告解除
帰責事由
なし
危険負担
Ⅰ履行遅滞
債
務
不
履
行
債務の
本旨に
従った履
行がない
こと
履行期
に履行
がない
こと
Ⅱ-1 履行不能
無催告解除
Ⅱ-2 履行拒絶
履行期
に履行
がある
が瑕疵
がある
こと
Ⅲ不完全履行
(瑕疵担保責任)
契約目的を達
成できない
解除可能
代品請求も可能
契約目的を達
成できる
解除不可
損害賠償,修補
原則:債務者主義
(解除と同じ)
例外:債権者主義
(解除不可)
債務不履行の未来(不能概念の遅滞・拒絶への吸収)
通常の場合
催告解除
定期行為
無催告解除
Ⅰ履行遅滞
(履行の意思あり)
履行期に履行
がないこと
債
務
不
履
行
Ⅱ履行拒絶
(履行の意思なし)
債務の本
旨に従っ
た履行が
ないこと
履行期に履行
があるが瑕疵
があること
Ⅲ不完全履行
(瑕疵担保責任)
無催告解除
契約目的を
達成できない
解除可能,
代品請求も可能
契約目的を
達成できる
解除不可
損害賠償,修補のみ
因果関係とは何か❓
事実的因果関係と相当因果関係
前提
Y1∩Y2∩Y3→R
cine qua non
Y1∪Y2∪Y3→R
Y1
Y2
Y3
関
連
共
同
共
同
行
為
事実的因果関係
不
真
正
連
帯
Y1
部分的因果関係(相当因果関係)
Y1
Y2
部分的因果関係(相当因果関係)
Y2
Y3
部分的因果関係(相当因果関係)
Y3
連
帯
債
務
一
つ
の
結
果
一
つ
の
結
果
ベイズの定理を用いた
部分的因果関係の計算方法
事前確率
p(Cn)
条件付確率
p(R|Cn)
原因(C1)
0.5
R
(結果)
原因(C2)
0.5
事後確率
p(Cn|R)
p(C1|R)
≒0.86
p(C2|R)
≒0.14
損害とは何か(差額説)
差額 = 仮定的(事故前の)財産状態 - 現実(事故後)の財産状態
差額=事故前の財産状態(収入)-(事故後の収入-支出(費用))
差額=(事故前の収入-事故後の収入(逸失利益))+支出(費用)
(差額=消 極 的 損 害 + 積 極 的 損 害)…法律家は足し算がお好き)
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
事故前の収入(a)
事故後の収入(b)
治療費等の費用(c)
差額(d=a-(b-c))
30
35
35
1ヶ月目
2ヶ月目
3ヶ月目
4ヶ月目
30
20
-20
30
30
10
-15
35
30
5
-10
35
30
10
-5
25
25
債権各論 第2章 契約 第1節 総論の構成
成立
Ⅲ
債
権
債権
総論
債権
各論
契約
事務管理
不当利得
不法行為
契約
総論
契約
各論
効力
解除
契約の流れ図
Start
No(不成立)
成立
不当利得
Yes
No(取消し・無効)
有効
(停止条件・始期が未到来)
No(条件・期限)
効力発生
Yes
(解除条件・終期が到来)
未発生
Yes
履行
No(不履行)
免責
Yes
End
No(救済)
履行強制
契約解除
損害賠償
START
契約成立の流れ図
申込発信
能力
不喪失
能力喪失
反対の
意思なし
能力喪失
不知
申込到達
承諾期間
定めあり
承諾期間の定めなし
承諾発信
期間
内到達
申込撤回
承諾延着
撤回到達前
承諾発信
撤回
延着なし
承諾発信
延着
通知なし
契約成立
申込
撤回なし
承諾到達
撤回延着
通知あり
典型契約(契約類型)の体系
無償
財産権を
移転する
典
型
契
約
(返還不要)
有償
1. 贈与
対価が金銭
2. 売買
対価が物
3. 交換
返還必要
4. 消費貸借
返還必要
物の利用
無償
5. 使用貸借
有償
6. 賃貸借
従属的
(時間決めで)
7. 雇用
役務の提供
財産権を
独立的
移転しない
事業を営む
紛争の解決
仕事の完成
8. 請負
事務の処理
9. 委任
物を預かる
10. 寄託
団体形成
11. 組合
年金事業
12. 終身定期金
13. 和解
不当利得法(債権の受け皿)の構造
一般
不当
利得
不
当
利
得
民法703条,704条
給付
不当利得
特別
不当
利得
肯定
民法703条,704条,
121条但し書き
否定
民法705条,706条,
707条1項,708条
侵害
不当利得
民法189~191条,
民法248条
支出
不当利得
民法707条2項
民法707条(錯誤弁済)の構造
第707条(他人の債務の弁
済)
①債務者でない者が錯誤
によって債務の弁済をした
場合において,
債権者が善意で証書を滅
失させ若しくは損傷し,担保
を放棄し,又は時効によっ
てその債権を失ったとき
は,
その弁済をした者は,返還
の請求をすることができな
い。
②前項の規定は,弁済をし
た者から債務者に対する求
償権の行使を妨げない。
証書滅失・損傷,担保放棄,時効消滅
債権者
債権
債権(行使不能)
債務者
支出
不当
利得
第三者
不法行為法の構成
単独不法行為(709条)
一般不法行為
共同不法行為(719条)
監督者責任(714条)
使用者責任(715条)
第5章
不法行為
注文者責任(716条)
特別不法行為
土地工作物責任(717条)
動物占有者責任(718条)
名誉毀損(723条)
Start
責任能力
Yes
故意
不法行為の流れ図
No
過失
Yes
因果関係
損害発生
時効期間内
損害賠償
End
一般不法行為法の電気回路図による表現(1/4)
故意又は
過失
因果関係
損害発生
責任無能力
免責事由
損害賠償
過失相殺
消滅時効
加害者を知って
から3年経過
事故から20年経過
一般不法行為法の電気回路図による表現(2/4)
故意又は
過失
因果関係
損害発生
責任無能力
免責事由
損害賠償
過失相殺
一般不法行為法の電気回路図による表現(3/4)
故意又は
過失
因果関係
損害発生
無過失
損害賠償
責任無能力
免責事由
過失相殺
一般不法行為法の電気回路図による表現(4/4)
故意又は
過失
因果関係
損害
責任無能力
免責
損害賠償
過失相殺 3年経過
消滅時効
20年経過
幻影・残滓としての中央集権的な家制度
(民法旧規定)
氏
戸主
(家長)
家族
父(母)
後継者:長男
スペア(その他の子)
 家の名を氏といい,戸主および家族は,すべて
同一の氏を称する(旧746条)。
 家は,戸主(家長)とその家族によって構成され
る(旧732条)
 婚姻は,家と家との契約であった。したがって,
婚姻には,常に,家長である戸主の同意が必
要とされた(旧750条)。
 婚姻によって妻は夫の家に入る(旧788条)。そ
の結果,妻は氏を夫の家の氏に変更し,戸主と
夫の支配と庇護の下に入る(嫁の意味,妻の無
能力)。
 戸主の地位は,家督相続によって,後継ぎ(長
男)に継承される(旧970条)。
新しい家族法への展望
(分散型ネットワークとしての横の社会)
夫婦財産
A
B
配偶者
財産
A
B
財産
Cn
財産
家族会議
財産
C1
家族
家族財産
C
A
B
1...n
法的推論の基礎
明治学院大学法学部教授
加賀山茂
判決三段論法
大前提:人間は死ぬ
小前提:ソクラテスは人間である
大前提
小前提
結論:ソクラテスは死ぬ
結論
実体法のルール:故意または過失によって他人の権利を侵害した者は,
発生した損害について,損害賠償責任を負う(民法709条)。
訴訟における事実認定と当てはめ:Yは、過失によって(脇見運転をしていて)
Xに衝突して,Xに全治3ヶ月の傷害(損害額100万円)を負わせた。
裁判による判決:YはXに対して100万円支払え。
実体法
事実認定
実体法の適用
不法行為法が適用される典型例
D:データ
YがXを殴ってけ
がをさせた。
C:請求
YはXに損害賠
償金を支払え。
Q:様相限定詞
(法律上の推定)
請求原因
W:推論保証(論拠)
故意又は過失によって損害を発生させ
た者は,それによって生じた損害を
賠償する責任を負う。
抗弁
R:反論
Yは酩酊し,配慮できる状態になかった。
先に殴ったのはXで,防衛が必要だった。
XがYを知ってから,3年が経過している。
B:裏づけ
必要なことは認められる。ただし
損害を最小するような配慮が必要。
法律家の思考方法としてのアイラック(IRAC)
IRAC(アイラック)で考え,論証する
Issue
法的分析 Rules
能力
Application
A
Argument
法的議論
の能力 Conclusion
論点・事実の発見
ルールの発見
ルールの適用
原告・被告の議論
具体的な結論
事実とルールとの相互関係
ルール 2
ルール 1
事実の発見 ルールの発見
事実 1
事実 2
他のルールの発見
と他の事実の発見
事実 3
漁網用タール事件(最三判昭30・10・18 )
差戻審(否定)
控訴審判決(肯定)
少数説
債権法改正
調査官解説
最高裁判決
543条
(解除)
536条1
項(債務
者主義)
536条2
項(債権
者主義)
債権者だけに
帰責事由あり
債務者に
帰責事由あり
債務者に帰責事由なし
履行不能
トゥールミン図式(1/3)原型
D:データ
(根拠)
C:主張
(結論)
W:推論保証
(論拠)
トゥールミン図式(2/3)完成型
D:データ
(事実関係)
Q:様相限定詞
(推定:おそらく)
なので
W:推論保証
(論拠)
(仮言的言明)
B:裏づけ
(定言的言明)
(定義,条文,統計)
(
R:反論
でない限り)
C:主張
(結論)
トゥールミン図式(3/3)法的議論の図式
D:データ
(事実関係)
Q:様相限定詞
(法律上の推定)
×
請求原因
W:推論保証
条文(要件 効果)
R:反論
条文(但し書き)
B:裏づけ
(定義又は原理)
C:請求
(結論)
「車馬通行止め」の解釈(1/2)
拡大解釈
縮小解釈
牛
車
馬
類推解釈
車
馬
おもちゃ
木馬
反対解釈
人間
飛行船
車
馬
車
馬
「車馬通行止め」の解釈(2/2)車椅子の事例
D:データ
(車イスに乗った
子が公園に登場)
Q:様相限定詞
(おそらく)
×
R:反論
(自転車を押して
いるのと同じ)
W:推論保証
(車馬通行止め)
B:裏づけ
(大型乗り物は危
険・通行止め)
C:請求
(通行止め)
裁判上の離婚原因(現行法)
 第770条(裁判上の離婚)
 ①夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起す
ることができる。





一
二
三
四
五
配偶者に不貞な行為があったとき。
配偶者から悪意で遺棄されたとき。
配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき。
その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
 ②裁判所は,前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合
であっても,一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めると
きは,離婚の請求を棄却することができる。
離婚申し立ての原因
司法統計年報:離婚の申し立ての動機別割合 -平成10年-
夫の言い分
順位 夫からの離婚申立て
妻の言い分
当てはめ
順位 妻からの離婚申立て
当てはめ
1 性格の不一致
-
1 性格の不一致
-
2 親族との折り合いが悪い
-
2 暴力をふるう
-
3 異性関係
1号
3 異性関係
1号
4 浪費
-
4 生活費を渡さない
-
5 異常性格
-
5 精神的虐待
-
6 同居に応じない
-
6 浪費
-
7 精神的虐待
-
7 家族を捨てて省みない
2号
8 性的不満
-
8 親族との折り合いが悪い
-
9 家族を捨てて省みない
2号
9 酒を飲みすぎる
-
10 暴力をふるう
-
10 異常性格
-
民法770条(裁判上の離婚原因)の分析
真の離婚原因
婚姻を継続しが
たい重大な事由
(民法770条1項5
号)
離婚原因ではない
(推定の前提)
・不貞行為
・悪意の遺棄
・生死不明
・強度の精神病
(民法770条1項1
~4号)
 民法770条(裁判上の離婚)
 ②裁判所は,前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合で
あっても,一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは,
離婚の請求を棄却することができる。
裁判上の離婚原因(改正私案)
 民法第770条の改正私案(構造化)
①:要件,②:例示(推定の前提)
 ①夫婦の一方は,婚姻を継続し難い重大な事由があるときに限り,離婚の
訴えを提起することができる。
 ②以下の各号に該当する場合には,婚姻を継続し難い重大な事由がある
ものと推定する。





一 配偶者に不貞な行為があつたとき。
一の二 配偶者から虐待を受けたとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
二の二 配偶者が,第752条の規定に違反して,協力義務を履行しないとき。
二の三 配偶者が,第760条の規定に違反して,婚姻費用の分担義務を履行しないと
き。
 三 配偶者の生死が3年以上明かでないとき。
 三の二 夫婦が5年以上別居しているとき。(←民法改正要綱案参照)
 四 配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込がないとき。
民法612条(無断譲渡・転貸と契約解除)
第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
①賃借人は,賃貸人の承諾を得なければ,その賃
借権を譲り渡し,又は賃借物を転貸することがで
きない。
②賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借
物の使用又は収益をさせたときは,賃貸人は,契
約の解除をすることができる。
民法612条のトゥールミン図式
賃借人が無断で
賃借物を転貸した。
賃借人は,民法
612条1項に違
反しており,2項
に基づいて契約
を解除できる。
おそらく
誤り
賃貸人は,賃貸借
契約を解除する。
背信行為と認め
るに足りない特
段の事由がある。
無断譲渡・転貸の場合に賃貸借契約を解除できるかどうか:
1. 継続的契約関係の当事者が,信頼関係を破壊したときは,契約を解除できる(原則)。
2. 賃借人が無断譲渡・転貸を行ったときは,信頼関係の破壊が推定される(推定規定)。
3. 信頼関係を破壊したと認められない事由があるときは,契約は解除できない(例外)。
民法612条(無断転貸)の分析
真の解除原因
信頼関係破壊
(法理)
解除原因でない
(推定の前提)
・無断譲渡
・無断転貸
(民法612条)
 第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
 ①賃借人は,賃貸人の承諾を得なければ,その賃借権を譲り渡し,又
は賃借物を転貸することができない。
 ②賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益
をさせたときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる。
民法612条(無断転貸)の分析
真の解除原因
信頼関係破壊
(法理)
解除原因でない
(推定の前提)
・無断譲渡
・無断転貸
(民法612条)
 最一判昭41・1・27民集20巻1号136頁
 土地の賃借人が賃貸人の承諾を得ることなくその賃借地を他に転貸し
た場合においても,賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行為と認
めるに足りない特段の事情があるときは,賃貸人は民法612条2項に
よる解除権を行使し得ない。
「信頼関係破壊の法理」はいかにして発見されたのか
賃借人保護の
必要性
背信行為に当たら
ない場合に解除を
制限
「信頼関係破壊
の法理」の確立
住宅事情
の悪化
信義則・権利濫用
の活用
事実認定の工夫
解雇権濫用禁止の
法理の類推
末弘・川島・戒能
社会的背景
判例
学説
広中俊雄『債権各論講義』有斐閣(1979)173-180頁参照。
民法612条(改正私案)
 第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)(民法改正私案)
 ①賃借人が契約の目的に違反して使用又は収益をしたため,賃
貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されるに至ったときは,
賃貸人は,契約の解除をすることができる。
 ②賃借人が,賃貸人の承諾を得ないで,その賃借権を譲り渡し,
又は賃借物を転貸したときは,信頼関係が破壊されたものと推
定し,賃貸人は,契約の解除をすることができる。
 ただし,賃借人の行為が,賃貸人に対する背信行為と認めるに
足りない特段の事情があることを賃借人が証明したときは,賃貸
人は,契約の解除をすることができない。
民法適用頻度 Best20
541 601
2% 1%
703
2%
612
2%
177
2%
90
2%
719
4%
95 110 711 416
1% 1% 1% 1%
723
1%
656 770
1% 1%
709
32%
1
5%
415
6%
715
8%
722
9%
710
18%