日本国憲法は 誰が、何のために作ったのか? ~松本政経塾 5月第1回勉強会~ 平成23年5月13日 はじめに ~日本国憲法の勉強のすすめ~ Q1 何故、会計士が講師をするのか? ⇒誰もが語り合えること。ライフワーク化のすすめ・・・ ► Q2 憲法を勉強することは難しいのか? ⇒憲法の文言は難しい。簡単に解決できる課題でも無い。 でも、議論は大切。論点は難しくないかもしれない。 ► Q3 今日は何を知ることができるのか? ⇒①もし、日本株式会社であれば憲法はこうなる。(ビ ジネスから見た憲法の位置づけ) ②憲法とは何か?(苦手ですが法学的に) ③誰が作ったのか?(日本国憲法の制定過程) ④東日本大震災で見える論点。 ⑤松本政経塾として取り上げて欲しい論点。 ► Page 2 コンプライアンスの一般的な定義 企業活動を行うにあたり、法令(法規範)、社内ルール(社内規範)、企業倫理(社会規範)を遵守 すること コンプライアンスの対象を法令のみに限定し、「法令さえ守っていればよい」というものではない。 社会の一員として守るべき最低限の ルールが「法律」 企業倫理を根付かせることは、法律が 求めている基本的な考え方を含め、 社会の要請に応えていくこと。 ⇒結果として法令に違反することは な くなる Page 3 企業倫理 企業が社会の一員として 守るべき道徳観 法令・規則 社内ルール 業務に関連する 法律・政省令等 業務規程 業務マニュアル等 遵守ということで、法令や規制を 守るためのルールがやたらに作ら れる。 全てを理解することは不可能。 ⇒ルールの形骸化 ステークホルダー(利害関係者)からの期待 透明で公正な関係の構築・維持 顧客満足重視 リスク・コストの十分な説明 共存共栄 (個人)情報保護 提携先・外注先 ・仕入先 顧客・売上先 正確かつ迅速な会計処理 タイムリーで適正な情報開示 “■■株式会社様” 株主・債権者等 企業価値の向上・ 他社との差別化 会社の一員 として守ること ↑ 法令や社内規程・規則等の遵守 資産の管理・保護 公私混同の禁止 基本的人権の尊重 機会均等 個人情報保護 安全・衛生 Page 4 コンプライアンス の実践 役職員 官公庁 (地方公共団体) 法律・政令・省令 条例・規則 環境・社会 地域社会の発展への貢献 省エネ活動 廃棄物の削減 地域社会との良好な関係 の構築・維持 反社会的勢力の排除 (参考)TIエシックス(表面) 「行動規範-TIの価値と倫理」 「誠実」Integrity 私たちはお互いを尊敬し、認め合います 私たちはいつも正直であります 「革新」Innovation 私たちは学びそして創造します 私たちは果敢に行動します 「コミットメント」Commitment 私たちは責任を全うします 私たちは競争に勝つことを誓います 正しいことを知ろう 正しいことをしよう Page 5 (参考)TIエシックス(裏面) エシックス・テスト もし判断に迷ったら 「それ」は法律に触れないだろうか 「それ」はTIの価値基準にあっているだろうか 「それ」をするとよくないと感じないだろうか 「それ」が新聞に載ったらどう映るだろうか 「それ」正しくないと分かっているのにやっていないだろうか 不明な点がありましたら、納得がいくまで上司そのほか関係者に 確かめてください。 エシックス・コンタクト 1.Ethics Message(匿名電子メールの送付方法) 2.Dallasのエシックス・オフィスに手紙を出す方法(送付先) 3.エシックス・コンタクト(内線電話) 4.法務関連(内線番号) 5.人事関連(内線番号) Page 6 経営理念、コンプライアンス基本方針 ~例:不二家のケース~ 社是:経営理念 メッセージ 「愛と誠心と感謝をこめて お客様に愛される不二家になります」 ◎カスタマーメッセージ お客様の立場で満足を追求する 常により良い商品と最善のサービス (ベストクオリティ。ベストサービス) を通じて、お客様ご家族に、 おいしさ、楽しさ、満足を提供する ◎ソーシャルメッセージ 社会的責任を果たす企業になる ◎インナーメッセージ 企業基盤の強化 不二家ブランドを確立する (下支えする思想)すべてを「おかあさんの気持ち」で 行動規範 お客様に安全な商品を提供し、安心と満足をお届します。 法令・ルールを守り、社会の良識に沿って行動します。 社会との絆を大切にし、地域社会の発展と環境の保全に努めます。 積極的なコミュニケーションを図り、風通しの良い企業文化を作ります。 自ら考え、迅速に行動し、よい成果を出します。 Page 7 理 念 を 明 示 し 、 求 め ら れ る 行 動 を 示 し た 上 で 、 計 画 実 行 へ 経 営 計 画 ・ 業 務 施 策 経営理念、コンプライアンス基本方針 ~日本株式会社のケース~ 日本の理念とは? メッセージ (皆様の想像で 考えてください) (皆様の想像で 考えてください) (下支えする思想)過去から受継がれ、将来に伝える日本人の精神 日本国憲法 天皇陛下は国民の象徴です。 主権は国民にあります。 国会は衆議院と参議院を置き、国民には参政権があります。 国民は法の下に平等であり、国民の基本的人権は尊重されます。 国民は精神的、経済的に自由です。 Page 8 理 念 を 明 示 し 、 求 め ら れ る 行 動 を 示 し た 上 で 、 歴 史 を つ な ぐ 日 本 国 ・ 日 本 国 民 の 行 動 へ 憲法とは? ~日本国憲法を知るためのキーワード①~ 1 憲法を巡る世界的な歴史、流れ ✓高次の法(higher law)、根本法(fundamental law) ⇒国王も従うべきもの、中世は貴族の特権保護の色彩 ⇒「社会契約説」の進展 ①人間は生まれながらにして自由かつ平等で、生来の権利(自然権)を持っている ②自然権を確実なものとするために社会契約(social contract)を結び、政府に権力の行使を委任する ③人民は政府に抵抗する権利を有する ⇒憲法の特色の確立 「社会契約説」⇒文章化(成文憲法) 硬性憲法(cf.英国) Page 9 憲法とは? ~日本国憲法を知るためのキーワード②~ 2 近代憲法の特質 ①自由の基礎法 ・自由の法秩序、自由主義 ・国家権力(組織の規範・授権規範)は、自由の規範であ る人権規範に奉仕するものとして存在 ②制限規範 ・国家権力を制限する基礎法 ・近代憲法の2つの構成要素=権利章典、統治機構 ・憲法の実定化の主体者は国民、「国民主権」の制度化 ③最高法規 ・硬性憲法 ・自由の基礎を保証する規範であること Page 10 憲法とは? ~日本国憲法を知るためのキーワード③~ 3 法治国家の進展 ①自由国家・夜警国家 ・自由・平等な個人の競争を通じて調和が実現されると考 え、権力を独占する強大な国家は経済的干渉も政治的干 渉も行わずに、社会の最小限度の秩序の維持と治安の確 保という警察的任務の身の負うべきもの。 ②社会国家・福祉国家 ・資本主義の高度化で、富の偏在へ。 ・社会的・経済的弱者の救済のため、市民生活に対する国 家の積極的介入へ。 Page 11 日本国憲法の制定過程 ~大日本帝国憲法~ ◎大日本帝国憲法の特色 (一般論:あくまで権威ある書籍に基づくもの) ✓神権主義的な君主制の色彩 ✓反民主的要素 ✓特に、統帥権の独立 ✓民主的な要素、ただし、天皇が臣民に恩恵として与えた もの(臣民権) ✓公選に基づかない貴族院の設置 など (講師注釈) これらは本当の意味での欠陥なのか? 日本の歴史を踏まえると、理解できる点も数多く、すべてが欠点とい う訳ではない。逆に、視点を変えてみると今の日本の秩序に必要なも のが見えてくる。(権威ある書籍の文言ほど危ないものは無い。) Page 12 日本国憲法の制定過程 ~誰が作ったのか?①~ 昭和20年(1945年) 8月14日 日本国政府が「ポツダム宣言」を受諾 10月4日 マッカーサー連合国軍最高司令官が東久邇宮内閣の近衛文麿公爵に大日本帝国憲法の改正を示唆 10月9日 東久邇宮内閣退陣、幣原内閣誕生 10月11日 マッカーサー司令官が幣原首相に大日本帝国憲法の改正を示唆 10月13日 憲法問題調査会(いわゆる松本委員会)の設置を閣議決定 10月27日 松本委員会第1回総会 12月27日 米英ソ3国外相会議で、極東委員会(FEC)の設置決定を発表 昭和21年(1946年) 1月7日 国務・陸軍・海軍三省調整委員会(SWNCC)が総司令部の憲法草案作成の指針となったSWNCC-228文書「日本の統治体制 の改革」を承認 2月1日 毎日新聞が松本委員会私案をスクープ 2月3日 マッカーサー司令官が総司令部(GHQ)民政局に日本国憲法草案の作成を命令、同時に「マッカーサーノート」を手交 2月8日 松本委員会案 GHQへ提出 2月13日 民政局長・ホイットニー准将らが外務大臣公邸を訪問、吉田外務大臣・松本国務大臣に総司令部案を提示 2月26日 FEC ワシントンで第1回会合 3月4日 松本国務大臣が総司令部案を基礎にして作成した「3月2日」案をGHQへ持参 3月6日 「憲法改正草案要綱」を発表 4月10日 はじめて女性の選挙権を認めた普通選挙による総選挙の実施 4月17日 政府が「憲法改正草案」(ひらがなまじり、口語体)を公表 5月22日 第1次吉田内閣誕生 6月20日 第90回帝国議会開会、帝国憲法改正案として提出 8月24日 衆議院修正可決、8月26日貴族院の審議へ 9月24日 マッカーサー司令官の指示により、ホイットニー局長が、吉田週総に対して、シビリアン条項などの修正を申し入れ 10月6日 貴族院にて修正可決 11月3日 「日本国憲法」として公布 昭和22年(1947年) 5月3日 「日本国憲法」施行 Page 13 日本国憲法の成立過程 ~誰が作ったのか?②~ 1 松本試案の4原則 ①天皇が統治権を総攬せられるという大原則に変更を加えない ②議会の議決を要する事項を拡充し、天皇の大権事項を削減する ③国務大臣の責任を国務の全般にわたるものたらしめるとともに、国務 大臣は議会に対して責任を負うものとする ④国民の権利・自由の保障を強化するとともに、その侵害に対する救済 方法を完全なものとする Page 14 日本国憲法の成立過程 ~誰が作ったのか?③~ 2 マッカーサーノート ①天皇は、国の元首の地位にある。皇位の継承は、世襲である。天皇の 職務および機能は、憲法に基づき行使され、憲法の定めるところにより、 国民の基本的思想に対して責任を負う。 ②国家の主権的権利としての戦争を廃棄する。日本は、紛争解決のため の手段としての戦争、および自己の安全を保持するための手段としての それをも、放棄する。日本はその防衛と保護を、今や世界を動かしつつ ある崇高な理念に委ねる。いかなる日本の陸海空軍も決して許されない し、いかなる交戦権も日本軍には決して与えられない。 ③日本の封建制度は、廃止される。皇族を除いて華族の権利は、現在生 存するもの一代以上に及ばない。華族の授与は、爾後どのような国民的 または公民的な政治的権力を含むものではない。予算の型は、英国制度 に倣うこと。 Page 15 日本国憲法の成立過程 ~誰が作ったのか?④~ 3 芦部教授による見解 ①日本国憲法の自律性は、もともとポツダム宣言による条件付きのもの であったこと ②ポツダム宣言は、日本国民による民主的で平和的な政治形態の樹立、 つまり国民主権や基本的人権の尊重を求めるものであったから、この原 理に基づいて憲法を制定することは、必要不可欠であったこと ③当時の日本国政府は、ポツダム宣言の歴史的な意味を十分に理解する ことができず、自分の手で近代憲法を作ることができなかった ④一方で、当時公表された民間の憲法草案や世論調査から判断すると、 かなり多くの国民がマッカーサー草案の価値観に近い憲法意識を持って いたといえること ⑤完全な普通選挙によって、憲法改正案を審議するための特別議会が国 民によって直接選挙され、「審議の自由に対する法的な拘束のない状況 の下で草案が審議され可決された」こと。 など ⇒総合的な判断:不十分ながらも自律性の原則に反しない Page 16 日本国憲法の成立過程 ~誰が作ったのか?⑤~ 4 八月革命説、日本国憲法無効論 など ※ハーグ陸戦法規(1907年) 他国を占領した者は、「占領地の現行法律を尊重」すべきことを要求している。 ⇒援用し日本国憲法の制定は国際法に反するという説と、 陸戦法規は交戦中の占領に適用されるものであるから、休戦条約が優先されると し、ポツダム宣言の受諾によって、憲法改正までもが、含まれる要求を認めて いるものであるとする説がある。 【日本国憲法は誰が作ったのか?】 ◎憲法制定過程に見る課題◎ ・日本に社会契約説が本格的に持ち込まれた点 →行き過ぎた人権主義、日本の伝統・慣習の風化 ・日本人の手によるものではない →必ずしも日本人としての理念が描かれていない →解釈改憲の余地を大きく残してしまった Page 17 東日本大震災にみる憲法の論点 東日本大震災は、「日本人の誇り」を 再認識する機会となった。 憲法の精神に、世界に誇るべき、 日本人の美徳は表現されているか? Page 18 松本政経塾で検討頂きたい論点 ~①地方自治の在り方~ 第92条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基い て、法律でこれを定める。 ◎地方自治の本旨は憲法・法律に記載は無い。以下の2点からなると考えられ ている。 住民自治-住民自らが地域のことを考え、自らの手で治めること (民主主義的要素=地方参政権) 団体自治-地域のことは地方公共団体が自主性・自立性をもって、 国の干渉を受けることなく自らの判断と責任の下に地域の実情に沿った 行政を行っていくこと (自由主義的要素=地方政府の地方統治権) ◎憲法制定時から現在までの変化と地方自治への影響 ・戦前は中央集権的であって、都道府県・市町村は中央政府の末端機関 ・2000年の地方分権一括法で、中央政府と地方自治体は対等な関係(名目) ・IT技術の進展、自治体の出張所化、地方の合理化の必要性 ・地方への財源と権限の保証をどのように行うのか ・「補完性の原理」の考え方 Page 19 松本政経塾で検討頂きたい論点 ~②国会の在り方~ 第42条 国会は、衆議院と参議院によって構成される。 ◎論点◎ ①二院制か一院制か。 ・マッカーサー草案では一院制であったが、西欧型民主政の主流にならい、 かつ、明治憲法の伝統を受け継いで二院制を採用。 ②二院制のうち、上院(日本の参議院)の構成 ・貴族院型(例:大日本帝国憲法) ・連邦型(例:アメリカ上院) ・民主的第二次院型 → 日本の参議院 ③第二院の存在理由 ◎現在聞かれる日本の国会の弊害◎ ・参議院の衆議院のカーボンコピー化、参議院の独自性の希薄化 ・ねじれ国会による国政の停滞 など Page 20 日本国憲法は何のためにあるのか? ~私たちは何を考えるべきなのか~ 日本国・日本人の理念とは? (皆様の想像で 考えてください) 日本人のメッセージとは? (皆様の想像で 考えてください) 日本国憲法 天皇陛下は・・・・・・・です。 主権は・・・・・にあります。 国会は・・・・・・を置き、国民には、◎◎権があります。 国民は法の下に◎◎であり、国民の・・・・・・・は尊重されます。 国民は◎◎的、◎◎的に自由です。 Page 21 理 念 を 明 示 し 、 求 め ら れ る 行 動 を 示 し た 上 で 、 歴 史 を つ な ぐ 日 本 国 ・ 日 本 国 民 の 行 動 へ (仮想)日本人のエシックス・テスト エシックス・テスト もし判断に迷ったら 「それ」は憲法に触れないだろうか 「それ」は日本人の価値基準にあっているだろうか 「それ」をするとよくないと感じないだろうか 「それ」が新聞に載ったらどう映るだろうか 「それ」が正しくないと分かっているのにやっていないだろうか 不明な点がありましたら、納得がいくまで周りの日本人に確かめ てください。そこに日本の答えがあります。 Page 22 松本政経塾の皆様への質問 ~将来に受け継ぐ「この国のかたち」とは?~ Q1 あなたが考える日本人として、日本国憲法の理念とし てとらえるべき、「日本人らしさ」「日本人の誇り」は何 でしょうか? <ヒント>出身高校の「◎◎高校らしさ」はどこにありまし たか? Q2 では、その「らしさ」や「誇り」を、未来の子どもた ちに伝えるために、憲法に記載すべきことは何でしょう。 A Page 23
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